全個室にナースコールとマットセンサーを設置、IPカメラでの確認で職員の負担を軽減、家族も安心 おぢや福祉会(新潟県)

目次

  1. 「人にやさしく信頼される福祉サービスの実践」を基本理念に4施設を運営
  2. 「地域密着型介護老人福祉施設」は入居者の自宅に近く、きめ細やかなケアが可能
  3. 職員の負担軽減を狙いにカメラ連携型の無線ナースコールシステムを導入
  4. カメラの設置について、入居者全員と家族から同意書にサインをもらう
  5. 呼び出しコールが鳴るとスマートフォンで入居者の状況を把握
  6. 今後は入居者の生活記録のデジタル化が課題
  7. 人間尊重の精神とやさしさに満ちた職員が運営するおぢや福祉会
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
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社会福祉法人おぢや福祉会は新潟県のほぼ中央に位置する小千谷市で、入居者一人ひとりに個室が用意されているユニットケア型の介護老人福祉施設を運営している。施設内のWi-Fi環境を整備するのを機に、無線型ナースコールとIP(ネットワーク)カメラを各個室に設置し、介護職員が携帯するスマートフォンで呼び出しコールや映像を確認できるシステムを導入。職員の精神的な負担を大幅に削減するとともに、入居者を預けている家族らの信頼向上につなげている。(TOP写真:おぢや福祉会が運営する各施設)

「人にやさしく信頼される福祉サービスの実践」を基本理念に4施設を運営

社会福祉法人おぢや福祉会は2007年8月、明治から続いた地域の中核病院「小千谷総合病院」を設立母体に発足。翌2008年5月に濃いグレーと白のツートンカラーの外観がモダンな地域密着型介護老人福祉施設「ときみずの家」を開設したのを手始めに、2011年4月には同じデザインの外観を持つ同「千谷島(ちやじま)の家」を開設し、さらに2017年4月には居宅介護支援サービスを提供する「おぢやケアプランステーション」と小規模多機能型居宅介護事業所「ひよしの家」もそれぞれ運営開始と、現在、小千谷市内に4つの福祉施設を構えている。

全個室にナースコールとマットセンサーを設置、IPカメラでの確認で職員の負担を軽減、家族も安心 おぢや福祉会(新潟県)
地域密着型介護老人福祉施設「ときみずの家」

設立母体の小千谷総合病院は2017年3月に125年の歴史に幕を下ろし、翌月に別の病院と統合して「JA新潟厚生連小千谷総合病院」として再出発した。おぢや福祉会の理事長は現在、同病院健診センター長の横森忠紘氏が務める。

おぢや福祉会の事業運営の基本理念は「人にやさしく信頼される福祉サービスの実践」。旧小千谷総合病院が財団法人として掲げた理念「人にやさしく、信頼される保健・医療・福祉サービスの実践」の一部を引き継いだ。4施設を統括する田中武弘統括施設長は「福祉という分野で、私たちが125年の歴史を受け継いで、地域に貢献していきたいと考えています」と話す。

「地域密着型介護老人福祉施設」は入居者の自宅に近く、きめ細やかなケアが可能

厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるように、医療や介護、住まいなどが一つの地域に包括的に確保される「地域包括ケアシステム」を全国に構築しようとしている。おぢや福祉会のメイン事業として、「ときみずの家」と「千谷島の家」で行っている地域密着型介護老人福祉施設事業も、この構想に沿ったもので、入居者は小千谷市民に限り、定員もそれぞれ29人と小規模だ。全員に個室が用意されるほか、10人程度の少人数の入居者を一つのユニットとして、ユニットごとに共同生活室が設けられ、固定した職員が介護するユニットケア型の施設だ。「ときみずの家」「千谷島の家」ともに3ユニットで構成している。

全個室にナースコールとマットセンサーを設置、IPカメラでの確認で職員の負担を軽減、家族も安心 おぢや福祉会(新潟県)
千谷島の家」の一般浴槽の写真

「千谷島の家」の反町圭介施設長は「大きな施設と違って、(入居者の)ご自宅に近くてアットホームな関係性が保てる上に、職員が少人数の方を担当するので、声掛けの回数などさまざまなケアの部分をきめ細やかにできていると思います」と“地域密着型”の利点を強調する。

ただ、小千谷市の総人口(約3万4000人)が年々減少するのに伴い、約1万2000人いる65歳以上の高齢者が占める割合は増加傾向にあるものの、要支援・要介護認定者数は近年、減少傾向にある。このため、田中統括施設長は、「ベッド数をはじめとして、小千谷市内では高齢者福祉サービスはもう十分に充足されていると考えています。その中で、いかにサービスの質を上げ、より良いケアを提供し、選ばれる施設になるか、ということが大事だと考えています」と、今後の課題に言及する。

職員の負担軽減を狙いにカメラ連携型の無線ナースコールシステムを導入

サービスの質向上の一環として2022年3月、「ときみずの家」「千谷島の家」両施設のWi-Fi環境を整備するための大がかりな工事を行う機会に、それまでの有線型ナースコールをカメラ連携型の無線ナースコールシステムに入れ替えることにした。導入にあたっては市のIT補助金を活用した。

「ときみずの家」の中島善隆施設長は「全国的に人材不足が課題となっている中、直接的な介護の部分はどうしてもマンパワーに頼らざるを得ないと思います。ICT化によって少しでも間接的な業務の負担を減らせれば、職員はより直接的な業務のほうに力を注げると考えました」と、職員の負担軽減が大きな狙いだったと明かす。

無線型ナースコールが本格的に稼働を始めたのは2022年8月頃。「ときみずの家」「千谷島の家」のそれぞれに29ずつある個室のベッドに無線コールボタン、壁にIPカメラが取り付けられた。入居者がコールボタンを押すと、職員が持つシステム専用のスマートフォンに入居者の氏名と部屋番号が一斉通知され、映像も確認できる仕組みだ。ベッドの脇の床に敷いてあるマットのセンサーとも連携しているので、入居者がベッドから下りた時も一斉通知される。コールボタンはトイレと浴室にも設置された。

スマートフォンは両施設とも介護職員5人と看護師、生活相談員、事務職各1人の計8人が携帯。コールボタンに対応するだけでなく、職員同士で内線電話をしたり、固定電話で受けた外線を内線に転送したりできる。

カメラの設置について、入居者全員と家族から同意書にサインをもらう

カメラを各個室に設置するにあたっては、入居者全員とその家族に同意書にサインしてもらった。プライバシー保護の観点からも、理解を得るためだ。「入居者の方もご家族からも、意外と質問などもなく、スムーズに承諾していただくことができました」(中島施設長)という。家族にとっては、プライバシー以上に、カメラを通して職員に見守られていることによる安心感のほうが優先するようだ。それも、開設以来、基本理念に則って培ってきた施設に対する信頼があればこそのことだろう。

全個室にナースコールとマットセンサーを設置、IPカメラでの確認で職員の負担を軽減、家族も安心 おぢや福祉会(新潟県)
ときみずの家 居室

呼び出しコールが鳴るとスマートフォンで入居者の状況を把握

中島施設長も反町施設長も、無線ナースコールシステムを導入したことにより、「職員が精神的に非常に助かっている」と口を揃える。例えば、入居者Aさんの介護をしている最中に別の入居者Bさんの呼び出しコールが鳴った場合、かつてはBさんの部屋に駆けつけられる状況になるまで気が気ではなかった。今はBさんの状態をすぐにスマートフォンの画面で確認できるので、余裕をもって対応できる。マットセンサーに連携したコールについても、かつてはその都度、部屋に行く必要があったが、今は行くべきか否かをスマートフォンで判断できるようになった。

日中は主にスマートフォンでコールに対応し、夜間はパソコン画面でモニターしていることが多いという。両施設とも夜勤の職員は2人になるためだ。「夜間にトイレが近い人はマットセンサーのコールが頻繁に鳴ります。かつては、マットセンサーがなぜ鳴ったのかわからなかったのですが、今はカメラで判別できるので、本当に役立っています」と中島施設長。もっとも、モニターだけでは入居者の状態が把握できない部分もあるので、夜間の巡回頻度は1時間に1回と従来と同じにしているという。

カメラの効用の一つとして、反町施設長が例に挙げるのは、入居者が夜間に骨折する事故が起きた時、その原因を録画映像によって解明できたことだ。その入居者は布団で寝ていたのだが、夜間に近くのタンスに手をかけて起き上がった際に、なぜか振り返ろうとして転倒した。タンスを遠ざけるなど再発防止策を施す一方、家族には映像を見てもらうことで納得してもらえたという。

今後は入居者の生活記録のデジタル化が課題

田中統括施設長らは、おぢや福祉会にとっての今後の課題の一つは、介護記録のデジタル化だとみている。現在は手書きで作成している食事、入浴、排泄など入居者の生活記録をパソコンで管理できるようにすることだ。開設以来使っている介護報酬請求システムの拡張機能を活用するか、あるいは別の新しいシステムを導入するのか。厚労省が推進しようとしている「科学的介護情報システム(LIFE)」の動向をにらみながら、最適なシステムを探っていくことになるという。いずれにしろ、田中統括施設長は「デジタルは数字に強いが日本語には弱い」が持論。流行には流されず、職員にとっての使いやすさを最優先し、本当に投資対効果の大きいものを選択していく考えだ。

人間尊重の精神とやさしさに満ちた職員が運営するおぢや福祉会

取材の最後に、介護という仕事の喜び、やりがいは何かと質問した。

田中統括施設長
「ここで出会い、最後はお別れする方々が現役時代に一生懸命に支えてくれたおかげで、今の私たちの豊かな生活があります。その人たちに感謝しつつ仕事をさせてもらえる場にいさせてもらえることが本当にありがたいです」

中島施設長
「入居者の方や家族の方、それに職員も含めて“ありがとう”と言ってもらえることが喜びです。この仕事に就いて20年になりますが、その気持ちは変わりません。人と人とのつながりを大事にし、楽しみながら仕事をしています」

反町施設長
「栄養士として就職したのですが、入居者の方が亡くなる直前まで食事されている場面に立ち会えた時は、この仕事に携わることができて幸せだなと思いました。今は管理職としての大変さとともに、やりがいも感じています」

それぞれのコメントに共通するのは、人間尊重の精神と心底からのやさしさだと感じた。

法人概要

法人名社会福祉法人おぢや福祉会
本部住所新潟県小千谷市城内1-10-19 DB おだじま2F
電話0258-86-8537
HPhttp://www.ojiyafukushi.com/
設立2007年8月
従業員数約80名
事業内容 地域密着型介護老人福祉施設、老人デイサービス事業所、小規模多機能型居宅介護事業、居宅介護支援事業など