2024年1月にサービスが終了するISDN。あなたの会社は対応済みでしょうか?確認しないと、とんでもない落とし穴があるかもしれません。 というのも実は、経営上のリスクが生じる可能性もあることが、後継切り替えをサポートしているNTTデータへの多くの問い合わせや対応から分かってきています。 この記事では、ISDNの概要やサービス終了までに契約者が行うべき手続き、後継サービスなどについて解説していきます。
目次
「Now in vogue」は、ちょっと気になる世の中のトレンドや、話題の流行語などについて、少しライトな内容でお届けする企画です。
ISDNとは?
ISDNとは、1988年にサービスが開始された、それまでの電話回線をそのまま利用したデジタル通信サービスです。
当時の電話回線の多くは金属を材料としたメタルケーブルが使われていましたが、電圧をかけて信号を送るという特性を利用して音声を伝える、アナログなサービスでした。ISDNはこの回線を活用し、デジタル信号で通信することを可能にした、正にデジタル通信の祖先ともいえる画期的なサービスだったのです。
ポイント1:デジタル通信をしながら通話もできる通話モード
ISDNは1つの契約で2回線同時に利用でき、料金的にもお得という特徴があります。
しかもISDNでは、音声を0と1のデジタル信号に置き換えて届けるので、メタルケーブルを使っていても盗聴が難しく、また遠くても弱まらないので音声もクリアに伝わります。
しかし、普通の電話をするのに回線は2つも必要ありません。もう1つの回線は何に使うのでしょうか?
ポイント2:パソコンや専用端末などのデータ通信を可能としたデジタル通信モード
ISDNが使われるようになったもう1つの理由は、コンピューターの普及と、電話回線を使ってコンピューターを相互に接続する、いわゆるネット接続の需要ができたことです。1980年代末には、一般家庭やビジネスでもインターネットが使えるようになりつつありました。
当時のメタルケーブルで今のような高速通信を行うのは難しく、ISDNの64kbps、さらに2回線を束ねて使うと128kbpsという保証された通信スピード(帯域)はとても魅力的だったのです。
しかも回線1本で電話をしながらFAXを送ることができ、クレジットカードの決済端末やパソコンを繋げることもできる。家庭での個人利用のみならず、多くのビジネスユーザーがこぞってISDNを使うようになったのは、これが大きな理由でしょう。
<ISDNとINS>
ISDNとはIntegrated Services Digital Networkの頭文字を並べた名称で、世界共通の国際規格として標準化されています。日本でISDNと呼ばれているように、世界中どこに行ってもISDNで通用します。KDDIのサービスも「国際ISDNサービス」ですね。
INS(Information Network System)は日本でISDNのサービスを提供しているNTTの登録商標で、INSネット64やINSネット1500という名称で使われています。
日本で終了する、という文脈ではどちらも同じです。
ISDN(INSネット)について、詳しくは以下の記事も参考にしてください。
ISDNはなぜ終了するの?
しかし、その後デジタル通信技術はとんでもないスピードで進化していきます。
2000年代にはメタルケーブルが光ファイバーに置き換わっていきました。2021年度末の光ファイバーの世帯カバー率はなんと99.3%にも上っています。
また、3.9-4世代携帯電話(LTE)の契約者数は1億3,905万、5G(第5世代携帯電話)は4,502万。多くの方にとっては、有線よりも無線がメインの通信手段になっているでしょう。
日本の初期の電気通信技術を支えたメタルケーブルは、こうした時代の流れを受けて利用者が減少しています。
<ポイント>
・光ファイバーの普及:速度の遅いアナログ回線の有用性が減少した
・固定電話需要の減少:携帯電話の普及により固定電話の需要が減少した
・設備の老朽化:アナログの公衆交換電話用の設備が2025年頃に維持限界を迎える
ISDNはデジタルサービスにもかからず、アナログのメタルケーブルを活用したサービスでした。そのため、アナログ回線と共に役目を終えつつあるのです。
固定電話と呼ばれるメタルケーブルを使った音声通話は厳しい状況に置かれていますが、同時に多くの人を支えるインフラでもあります。そのため、ISDN終了の影響は非常に大きいと言えるでしょう。
ISDNが終了すると何がどうなる?
ISDNのサービスが終了するとはどのようなことを意味するのでしょうか?通話モードとデジタル通信モードに分けて解説します。
ポイント1:ISDNの通話モードによる音声通話はそのまま利用できる
メタルケーブルと交換網の利用者が減少している一方、現在は光ファイバーが広く普及し、IP網と呼ばれる新しいインフラ設備が出来上がっています。そこで音声をデジタル信号に変換した通信パケットをIP網で中継・交換できるよう切り替えています。これは設備側で行うので、メタルケーブルを使っている電話機でもそのまま利用ができます。
ポイント2:ISDNのデジタル通信モードは2024年1月に地域ごとにサービスが終了する
ISDNを支えていたアナログの公衆交換電話網は役目を終え、特徴だった2回線同時利用や帯域保障はできなくなり、デジタル通信モードは終了します。
地域ごとの移行時期はこちら
東日本:固定電話のIP網への移行時期について
西日本:固定電話のIP網への移行時期について
デジタル通信モードの終了する2024年1月までに、代替サービスへの切り替えが難しい方のため、2027年頃までを目途に補完策が提供されます。
しかし、この補完策では伝送遅延が生じ処理時間が増大するなど、利用する機器によっては通信に影響が発生する懸念があるため、おすすめできません。
ISDNからの切り替えを検討すべき理由
第一の理由として、ISDNのデジタル通信モードのサービス終了にあたって補完策が用意されているものの、「2027年頃までを目途」とされている通り、その後継続的に使い続けられる保証はどこにもありません。あくまで代替サービスへの切り替えが間に合わなかった場合の最後の砦だと考える方がよいでしょう。
第二の理由はもっと深刻です。この補完策の仕組みは、IP網を使うという点で音声通話と同じですが、メタルケーブルで伝送されるデジタル信号を、IP網で扱うことのできるデジタル信号に変換して中継しなければならないため、結果として通信処理時間が増え、伝送遅延となって現れます。
NTTは検証環境を用意し、その検証結果を公表しています。すべて通信は可能だったようですが、テレビ電話や放送用の音声などでは実際に遅延が生じていたようです。何より補完策の利用にあたり、通信品質は保証されていません。
ISDNの大きな特徴だった通信品質の保証はされなくなります。ビジネス利用において、伝送遅延は無視できないリスクです。
金融分野に関連すれば、補完策を利用すると「給与が振り込まれない」「期日までに入金が間に合わない」など、不渡りといった経営リスクとなって現れる可能性もあります。
伝送遅延により、仮にこれまで1分要していた手続きが倍の2分に遅延する程度であれば、「大きな影響はないのでは?」と思うかもしれません。
しかし、これまで銀行への送金手続きにかかる通信時間が30分だった場合、2倍の遅延であれば1時間かかることになります。15時が期限の手続きの場合、いつも通り14時30分過ぎから手続きをしてしまうと間に合わなくなってしまいます。
ISDN終了までに必要となる手続き
2024年1月のISDN終了に伴い、必要となる手続きを解説していきます。
ISDN終了までの手続き
ISDN終了までに何をどのような順番で行う必要があるのでしょうか。以下に手続きリストをまとめてみました。
- 取引先銀行との契約状況の確認
- 後継回線およびサービスの検討・申し込み
- ソフト購入やマニュアル整備など、申し込み内容に応じた各種導入対応
- 回線・サービスのテスト
- 切り替え
上記の手続きに半年はかかると認識しておきましょう。なぜなら、NTTデータがサポートしてきたお客様は実際にそのくらい時間がかかっているからです。
2000年代に登場したブロードバンドよりも通信速度が遅いのに、まだ使われているということは、最初に契約したのは20年以上も前になります。どのような契約になっているか、まずそこから調べないといけないケースが多くありました。
エレクトロニックバンキングやファームバンキングの場合は、バンキングサービスの提供事業者経由でISDNを契約しているため、ISDNを使っていることに気が付かないケースもあります。
サービスの切り替え以前に、そもそもの契約の確認に多くの時間を要している現状があるのです。
<ISDNを利用しているか分からないときに>
1. 電話料金の明細書で確認
もしお手元に毎月の電話料金の明細書が届いていれば、そこに記載されている内容を確認してください。明細書にINSという表記があればISDNを使っています。
2. 114に電話して確認
114番はNTTが提供している案内サービスで、相手先の電話がお話し中かどうかをコンピューターが自動で調べてくれます。
このサービスを利用し、案内に従って調べたい電話番号(自身の電話番号)を押します。その後流れるアナウンスで、「お調べしましたが確認できません。」と流れたらデジタル回線、「お待たせしました。お調べの番号…」と流れたらアナログ回線と判断できます。また、114にかけて「おかけになった電話からは、この番号はご利用になれません。」とすぐに流れた場合は、IP電話・光回線です。
<主体的に銀行に問い合わせよう>
既にほとんどの銀行から各企業へ、ISDNの終了および回線切り替えの案内がなされています。
しかし、契約時と現在の企業の住所が異なるために案内が届かなかったり、案内が届いたとしても企業内部での連携が取られなかったりと、さまざまな理由でISDN終了および回線切り替えの周知が徹底されていません。
この記事を読んだご担当者で「案内を見たことがない」と思った方は、一度取引銀行にも問い合わせをしておきましょう。
ISDNに代わる通信回線
ISDNに代わる通信回線には、主に以下の2つが挙げられます。
・光回線:通信速度が速く、業務効率化も図れる
・セルラー回線:回線工事不要で移行が可能
特に光回線は移行先として主流であり、スムーズに進められるでしょう。
切り替えが必要なシステム・サービス
ISDN終了により、切り替えが必要なシステム・サービスには何があるのでしょうか。
金融分野に絞って考えると、例えば以下の切り替えが必要です。
・POS(販売情報管理システム):企業の本部↔店舗間のPOS端末通信で使用される
・CCT/CAT(信用照会端末):クレジットカード会社↔店舗間のCAT端末通信で利用される
・EB(エレクトロニックバンキング)、FB(ファームバンキング):銀行↔企業間のEB(振込・口座照会)で使用される
そのほか、金融機関以外の事業者が利用している切り替えが必要なシステム・サービスは、以下NTT西日本のサイトでも一覧化しています。こちらも併せてご一読ください。
ファームバンキング移行のポイント
ファームバンキングとは、専用回線や専用端末、ソフトウェアなどで金融機関と企業のシステムを直接つなぐことにより、銀行に足を運ぶことなく振込・振替・取引情報照会等の銀行取引ができるサービスです。
ファームバンキングを移行するにあたり、押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
・現在、パソコン操作で銀行取引を行っているかどうか
・複数銀行との取引を1つのソフトウェアでまとめて行いたいかどうか
・インストールおよびアップデート不要のクラウド型にするかどうか
・インターネット接続は避けたいかどうか
ファームバンキングから代替サービスへ移行する際には、上記ポイントを明確にすることで、適切なサービスを選ぶことができるでしょう。
NTTデータがサポートするISDN後継金融接続サービス
多くの金融機関や金融サービスへの接続を提供しているNTTデータでは、これまでも多くのお客様のISDNからの移行をサポートしてきました。
2024年1月のISDN終了に向けて、ビジネス利用のお客様からの問い合わせも増えており、その経験を基に、さらにサポートを充実させるために全般的な問い合わせ窓口を設置しています。
<問い合わせが増加中>
月に2,000件以上の問い合わせを受け付けており、ISDN終了がアナウンスされる前と比べて3倍以上の数になっています(2023年2月現在)。大変混み合っていますので、お早目にお問い合わせください。
代替サービスをさがすための判断の助けになるフローチャートもありますので、ぜひご活用ください。
ここからは、ISDNからのファームバンキング移行のポイントを、NTTデータがサポートしているファームバンキングと接続サービスを例にご紹介します。
AnserDATAPORT(アンサーデータポート)
AnserDATAPORT(アンサーデータポート)は、銀行との安全な取引を実現するファイル伝送サービスです。銀行毎に個別にネットワーク回線を引く必要がなく、複数の銀行との伝送が実現できます。
Connecureという閉域ネットワークサービスに移行することで、早い・安全といったISDNより、さらに新しいデジタルサービスの恩恵を受けることができます。
パソコンではなく、ホストコンピュータ経由で銀行と接続されている比較的規模の大きい企業の場合は、検討する価値があるでしょう。
BizHawkEye(ビズホークアイ)
BizHawkEye(ビズホークアイ)は、パソコンを使って複数の銀行への振込や残高確認等を可能にするサービスです。
複数の銀行のインターネットサービスに対し、ISDNを利用して個別に繋げる形でも、企業の経理処理はもちろん可能でした。 ISDN終了を契機に、一度で複数の銀行の処理が可能になる。これも経理担当者にとっては新しい金融×デジタルの世界でしょう。
BizHawkEyeでは、気になるインターネットのセキュリティ向上のために、VALUXという回線接続ソリューションを使います。また、インターネット回線の利用がNGという方向けに、オプションとして閉域ネットワークでの接続も用意されています。
VALUX(バリュックス)
銀行が提供しているEB・FBを使っていて、ISDN終了に伴い回線は別の契約に移行する。でもインターネットのセキュリティは不安だ。
そんな方は、専用のEB・FBソフトウェアに加えて、セキュアな回線接続サービスを検討する余地があるでしょう。
VALUXとはインターネットを介した銀行接続サービスで、銀行取引に必要なセキュリティを備えているという特徴があります。 VALUXが発行する証明書を一度インストールすれば、国内の「ほとんどの金融機関」に接続することが可能になります。
まとめ
25年以上に渡り金融機関をはじめ多くの企業のシステム・サービスを支え続け、2024年1月に終了するISDNサービスはデジタルの先駆けとして使われてきました。
その使い勝手のよさのあまり、今なお現役で使われ続けているのかもしれません。しかし時代の流れとともにその役目を終えようとしています。今こそ新しいデジタルサービスを活用して次の時代に進むべき時です。
「ISDNを使っているかどうか、意識したことがない」「誰に何を確認し、どう進めればいいのか分からない」というご担当者様もいるでしょう。そのような疑問を持つ方は、まずはISDNを利用しているサービスの相談窓口へお問い合わせください。
※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。