生産性が15%アップ? オフィスに緑を置くことのすごい効果
(画像=Yury/stock.adobe.com)

(本記事は、澤口 俊之氏の著書『仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」』=ぱる出版、2022年6月27日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

仕事場やデスクに観葉植物を

知能の脳内中枢は前頭前野で、知能や前頭前野系の認知機能・精神健康は仕事をする上では最重要ですから、前頭前野への緑効果によって仕事や生産性が向上することは十分に予測できることです。具体的には、オフィス・仕事場に観葉植物を多数置くという緑環境による生産性向上、という仮説です。

「いや、そんなことはない。無駄を省いたオフィス、つまりリーンオフィス(lean office)こそが生産性を高める。観葉植物みたいな無駄なものを多数置くなんてとんでもない」という反論・コメントが返ってくると思いますし、今述べた仮説による初期の研究でも、その辺のことを念頭に置いて、あえてフィールド実験をしました。実験室でいくら緑効果が証明されてきていても、実際の仕事場・オフィスではそんな効果はなく、むしろ逆効果である可能性もありますから。

ネガティブな効果・結果があるかもしれない介入実験に被験者が参加してくれることは滅多にないことで、しかもこの場合は「被験者」ではなく「被験オフィス」ですから、なおさら珍しいですが、緑効果の研究は多くてポジティブな結果ばかりだったせいか、実験に協力してくれたようです。

結果は仮説通りで、長期試験(数週間〜数か月)によって緑豊かなオフィスでは生産性が15%も向上することが実証されました。この生産性向上には職場で緑が豊富だと協調性や集中力が高まることが相当に寄与しているようです。実際、豊富な緑によって職場満足度や集中力が大幅に高くなったと社員たちは自己報告していました。

緑環境には「緑の景観」の他に「植物によって浄化される空気」という要素もあります。特に、オフィスなどでの密閉された部屋では、いわゆる「シックハウス症候群」に代表されるような空気の質の悪さがありますが、緑環境は空気の質を改善します。この改善も相当に重要で、今述べた実験でも社員たちは「空気の質がよくなった」と感じていました。

オフィスを植物で満たすというのは実際問題として難しい、というか、 躊躇(ちゅうちょ) されそうですから、「植物で満たした空気環境と同等な空気環境」にしたらどうか、というフィールド実験も行なわれています(次項で述べるような「緑香り」ではなく、オフィスの一般的な材料から放出される揮発性有機化合物量や二酸化炭素量などを緑環境と同等にした空気環境です)。

この実験は相当に面白いんですが、実験手順などはかなり複雑なので、ざっくり述べると、「緑環境的な空気環境」によって仕事に必要な認知機能が大幅に向上した、というのが実験結果です。

調べた認知機能も面白く(9種類あり)、心理学系というよりもまさに仕事系で、例えば、目標志向的決断力や攻略力、危機対応力、情報活用力などでしたが、これらは全て前頭前野系の認知機能、あるいは、知能の要素です。しかもこれらの向上率はどれも相当に高かったです(最低でも2倍〜3倍、条件によっては4倍ほど)。

「もっと手軽に」という章のわりには、かなり大がかりな方法を挙げましたが、緑効果は現代のビジネス環境・オフィス環境でも大きく働くということを強調したかったんです。

で、もっと手軽になら、デスク上に小型の植物1個でOKです。

仕事用のPCモニターの横に、高さ15から20㎝程度(幅は7〜10㎝ほど)のヒノキやクロマツの盆栽、テーブルヤシ、幸福の木の 苔玉(こけだま) などを一つ置き(6種類から選択)、仕事で疲れたら3分間その植物を見たり世話をしたりするというフィールド実験があります。その結果、植物の種類や年齢層とは無関係に、不安感などのストレスがかなり軽減しました。

ストレスは前頭前野の認知機能を低下させますから、この実験は何気に重要で、前頭前野への緑効果を実際の仕事場面・オフィス環境で手軽に得ることができる方法を示しています。しかも、この方法なら、オフィスのみならず家でのデスクワークでも簡単に使えて、まさに手軽です(私自身も、多少の変更を脳科学的に加えて以前から使っています)。

POINT

○緑豊かなオフィスでは生産性が15%も向上
○デスクのそばに植物を置くとストレスが大きく軽減する

仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」
澤口 俊之(さわぐち としゆき)
1959年東京都葛飾区生まれ。1982年北海道大学理学部生物学科卒業。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1988年米国エール大学医学部神経生物学科にリサーチフェローとして赴任。京都大学霊長類研究所助手、北海道大学文学部心理システム科学講座助教授を経て、1999年北海道大学大学院医学研究科教授。2006年人間性脳科学研究所・所長。2011年武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部教授兼任。2012年同大学院教授兼任。専門は神経科学、認知神経科学、社会心理学、進化生態学。理学博士。近年は乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層の脳の育成を目指す新学問分野「脳育成学」を創設・発展させている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」、NHK「所さん! 大変ですよ」等、TV番組にも出演。
著書は『脳を鍛えれば仕事はうまくいく』『夢をかなえる脳』『幸せになる成功知能HQ』など多数ある。

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