脳機能・認知機能に良いどこでも簡単できる運動とは
(画像=AndreyPopov/stock.adobe.com)

(本記事は、澤口 俊之氏の著書『仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」』=ぱる出版、2022年6月27日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

認知機能向上にはスクワット

フレイルの解消(筋力増強)が健康増進によいことは間違いありませんが、脳機能はどうでしょう?

フレイルは認知症のリスク要因になるので、筋力増強運動が脳にもよいことは十分に予測できることです。

こうした仮説に基づく研究は以前からあって、比較的初期の研究としてラットを使った動物実験があります(ヒトを使って実験をして、万一悪影響だと社会的・倫理的に問題になるので、まずは動物実験から、という研究テーマはかなりあります)。その結果、筋力増強によって、BDNFが増え、海馬が大きくなり、記憶が改善することが示されました。動物(ラット)実験とはいえ、ヒトでの有酸素運動とほとんど同じ効果ですね。

「むむ、ちょっと待ってくれ、上半身の運動は脳にはほとんど無益と言っていたじゃないか。腕立て伏せなんか典型的な上半身運動で、ハーハーってなって、酸素も消費するよ。オカシイだろう」といったかなり鋭いコメントが出てくるかもしれません。

この実験は「足(後脚)から脳への特別な信号伝達」が分かる前のことで、ラットは後脚を自由に使って筋力増強運動をしました。また、ヒトでの調査でも、例えば握力は身体の健康に関係するけれど脳機能とは無関係の一方で、足を含めた下半身の筋力は認知機能と深く関係する、といった結果が得られています。筋肉増強運動でも、やはり下半身の運動が脳にはよいようです。

そこで浮かび上がってくるのがスクワットです。

スクワットは足を使った自重運動で、筋力増強につながり、有酸素運動の一種でもあります。そもそも、これまで述べてきた「歩く・走る」にしても、足を使った自重運動の一種なので、スクワットが脳に悪いわけがありません。スクワット関係の研究は「歩く・走る」に比べてまだ少ないですが、効果は予測通りで、認知機能を相当に高めることが実証されています。前頭前野を広範に活性化させ、前頭前野の神経システムを短期間で改善するらしいことも示唆されています。

通常の有酸素運動(歩く・走る)が非常によいことは確立していますから、「多すぎる運動は脳にはかえって逆効果」という点を意識してスクワットを生活習慣として取り入れることは相当によいことだと言えます(ジムに通う必要もありませんし)。具体的には、週に3回、1回3分~5分のスクワットで十分、という研究データがあるので、参考にしてみて下さい

ちなみに、この種の日常生活に関係する科学的データは米国などでは(メディアできちんと報道されるせいもあって)一般の方が比較的早く取り入れることが多く、スクワット系のデータもそうです。

そうした研究データは2010年代後半からそれなりに出て来たせいで(2017年や2019年など)、オフィスなどでのデスクワークの合間に軽くスクワットをするビジネスパーソンは米国などではかなりいるようです

腕立て伏せや腹筋運動をオフィスですると目立つでしょうし、スクワットの方が脳機能的にはベターなので、仕事の合間に試してみる意味はあると思います。

仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」
澤口 俊之(さわぐち としゆき)
1959年東京都葛飾区生まれ。1982年北海道大学理学部生物学科卒業。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1988年米国エール大学医学部神経生物学科にリサーチフェローとして赴任。京都大学霊長類研究所助手、北海道大学文学部心理システム科学講座助教授を経て、1999年北海道大学大学院医学研究科教授。2006年人間性脳科学研究所・所長。2011年武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部教授兼任。2012年同大学院教授兼任。専門は神経科学、認知神経科学、社会心理学、進化生態学。理学博士。近年は乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層の脳の育成を目指す新学問分野「脳育成学」を創設・発展させている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」、NHK「所さん! 大変ですよ」等、TV番組にも出演。
著書は『脳を鍛えれば仕事はうまくいく』『夢をかなえる脳』『幸せになる成功知能HQ』など多数ある。

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