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産経ニュース エディトリアルチーム
事務所の席に座っている女性社員たちに、何をしているのかをインタビュアーが聞く。パソコンとにらめっこをしている女性は「お客さまへの提案内容を考え込んでいるんです」と答え、「どうしてツナギ姿をしているのか」を聞かれた女性は「これからお客さまのところへドラム缶を納めに行くんです」と答えて、自分たちがどのような仕事に就いているのかを紹介していく。群馬県前橋市で産業廃棄物の収集やリサイクルを行っている株式会社エスティビーが、インターネット上にアップしているYouTubeの動画だ。 (TOP写真:エスティビーの登録チャンネルの映像https://www.youtube.com/@stb_growtogether)
溶剤の販売から回収業務を引き受けることで事業が拡大
数ある産廃事業者にあって同社は、取り扱いに注意が必要な引火性の廃油や、危険物として使用や製造が禁止され、厳重な管理が必要なPCBが含まれる産廃を扱える事業者として知られている。「もともとは、私の母が50歳を越えて銀行員を辞めて独立し、印刷会社などに向けて溶剤の販売を行うために始めた会社でした」と語る株式会社エスティビーの杉﨑由里代表取締役。事業を通じて誰かの役に立ちたいという思いが独立へと向かわせたようだが、当初は取引先も広がらず大変だったという。それが、取引先で余った溶剤を処分する必要が出て、回収を引き受けたことをきっかけに、産廃を回収して処分場へと送る仕事を中心に行う現在の業態へと変わっていった。
循環型社会が提唱される時代にマッチしたリサイクル事業の強化
環境保護の観点からリサイクルが重要視されるようになると、回収したものを再生して販売するリサイクル事業にも参入した。使用済みのシンナーを回収して再生した製品や、廃棄物をプラスチック製品に再利用できるようした原料、燃料に変えたものを取り扱っている。現在、企業活動の中で、どれだけ環境負荷を減らせるかが重要になっており、リサイクル品の需要も増している。「当社で引き受けてリサイクルしたものは、すべてトレーサビリティが可能です。環境への意識が高い企業にも使ってもらえます」と杉﨑社長。これからの時代に必要なサービスをいち早く察知して参入する。産廃事業者が数ある中で、そこに活路を見いだしている。
コミュニケーションを重視する社風と社会的意義が大きい会社ということもあって女性が生き生きと働いている
「こちらは、バックオフィスで働いているチームの女性と、現場で働いている男性が打ち合わせをしているところです」と、動画に映し出されている状況を説明する杉﨑社長。「仕事がスムーズに進むよう、グループの垣根を越えてコミュニケーションをとることを推奨しているんです」。この動画から感じ取れる同社の特色が幾つかある。一つは、産廃の収集やリサイクルといった危険でキツそうな職場であるにも関わらず、杉﨑社長をはじめとして女性社員が多いことだ。
社長や会長を含めて13人いるうちの7人が女性というから、半数を超える。その全員が現場に出ているわけではないが、YouTubeの動画にも登場した女性のように、トラックにドラム缶を積み込んで取引先に向かう仕事をしている社員もいる。「女性の方が粘り強くて忍耐力もあるように思います」とも。事務職として採用しても、希望や適性があれば現場に出すことも行っているという。
メンター制度を導入して若手社員を育成
もう一つは、社員同士のコミュニケーションを密にして、仕事に関する知識や経験、顧客に提供するサービスを共有化し、全員で成長していこうとするスタンスだ。YouTubeの動画の中には、「メンター」という肩書を持った社員が登場する。助言者や指導者を意味する言葉で、大企業などで若い社員の成長を促しつつ離職を防ぐ制度として導入されている。同社ではそのメンターが若い社員から仕事のわからないところや悩みなどを聞き、指導や改善につなげている。
コロナ禍の中でWeb会議のため、1人1台のパソコンを導入したら、日々の業務の記録への積極的活用が始まった
パソコンを全社員に1台ずつ導入したのも、こうした社内におけるコミュニケーションの促進や、業務に関する情報の一元化を目指したからだ。「最初は、コロナ禍の中でWeb会議に移行できないかといった考えからの導入でした」。それが、実際に導入してみて社員たちが日々の業務を記録するのに大いに役立ったことから、積極的に活用することにした。「それまでは、作業の報告書を必要に応じて手書きで作成してもらっていました。それをパソコンで作成するようにしたことで、記録として残していつでも閲覧できるようになりました」。
グループウェア導入による顧客情報の共有で、顧客への対応力強化や提案力強化へ
1人1台のパソコンにすることが情報の共有化や活用に効果的だとわかって、同社ではMicrosoft365を導入(メモやタスク管理、ドキュメント管理、データベースといったツールを使える)。これに、仕事の進捗状況や顧客へのアクションの内容などを記録して管理できるようにした。「1人が複数の案件をかかえていることが多いため、情報の整理に役立ち、業務のスピードアップにもつながりました」。管理している顧客のリストに、どのようなことに困っているかをリストアップして付記して共有化することで、相手から言ってくる前に作業の提案を行って、次の仕事につなげることもできるようになった。
知識の底上げにもつながっている。「わが社では社外に研修に行った社員たちが、そこで見聞きしたことを文書にまとめて発表する"寺子屋"というものを行っているんです」。言葉で話すよりも文書によって可視化することで、より伝わりやすい上に記録としても残って次に引き継げる。こうした作業を通して、パソコンの扱いに慣れていくという効果も得られるという。
パソコンを使う動機付けを行うマネジメントを実施
「新しく入社してくる若い人たちは学校で習ってきているため、WordやExcelといったアプリケーションを使いこなせますが、年配の社員には使えないという人もいました」。もっとも、「それは、自分は使えないと思い込んでいるだけなんです」。そこで同社では、月に1回の全体会議で議長を務めた人が翌月には書記となって議事録を作成するルールを定め、その議事録を必ずパソコンで作成するように決めた。全員がいやが応でもパソコンを使わなければいけなくなった。
パソコンとシステムで業務のスピード化と共有をすることにより今まで見えなかったことが見えるようになったのに、1人でも使いこなせない人がいると、誰かが肩代わりする必要が出てロスが生じる。逆に全員がシステムを使いこなせるようになれば、情報の共有化がさらに進み、顧客サービスの向上にもつながる。やらない手はないが、そこで議事録の作成といった理由を設けて使わせるところは、やる気を持たせる上でなかなかうまい手だ。心理学に根ざしたNLPメソッドに沿った社員研修を6年前から実施し、マネジメントに力を入れている杉﨑社長ならではの手法と言えそうだ。
ホームページのリニューアルとYouTubeやInstagramの積極活用
杉﨑社長は、事業内容を詳細かつデザイン化したホームページを構築し、YouTubeやInstagramを活用した情報発信も積極的に行って、取引先に業務の内容を理解してもらったり、就職先を探している若い人に会社の雰囲気を伝えたりしている。「若い女性ならたいていInstagramをやっていますから、そこに情報を発信する効果は大きいですね」。もちろんそれだけで若い女性が志望してくれるほど甘い業界ではないが、結果として女性が多くなっているのは、ここなら何か自己実現が可能だと思わせるものが、同社にあるからだろう。
新入社員は、3年かけて育てる
「社会人として生きていくために必要なものは、5年先、10年先が想像できる気づきの能力です」。そうした能力を持ってもらうために、同社では1年目は仕事に慣れること、2年目は仕事の内容を理解すること、そして3年目は仕事の腕を磨くことを目標として設定し、3年計画で人を育てている。母親の後を継ぎ、産廃業界の中で独自のポジションを築いたノウハウが、さまざまな教育制度によって若い世代へと受け継がれている。これによって成長した人材から、次につながる事業のアイデアが生まれ、会社をさらに大きくしていく。
企業概要
会社名 | 株式会社エスティビー |
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住所 | 群馬県前橋市山王町1-19-14 |
電話 | 027-212-3312 |
HP | https://s-t-b.jp/ |
YouTubeチャンネル | https://www.youtube.com/@stb_growtogether |
創業 | 1998年1月22日 |
従業員数 | 13人 |
事業内容 | 産業廃棄物(特別管理産業廃棄物を含む)収集運搬/毒物・劇物等化学工業薬品仕入れ販売/塗装ブース清掃/一般貨物自動車運送事業 |