2018年度のホテルの国内市場規模は前期比5.6%増の2兆291億円
訪日外国人旅行者の急増などを追い風に、7年連続のプラス成長
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、ホテルの国内市場を調査し、ホテル市場の国内市場規模、部門別の市場規模、参入企業動向、将来展望を明らかにした。
1.市場概況
2018年度のホテルの国内市場規模(事業者売上高ベース)は前期比5.6%増の2兆291億円となり、7年連続のプラス成長で過去最高の水準となった。国内旅行の堅調や企業の出張需要の増加に加え、訪日外国人旅行者の急増が好調な宿泊需要を大きくけん引している。
ホテルの国内市場規模は、2008年9月のリーマン・ショックをきっかけとして大きく落ち込み、2011年3月に発生した東日本大震災がそれに追い打ちをかけた形となり低迷が続いていた。しかし、2012年度以降は経済環境が好転したことに加え、長らく低迷が続いていた国内観光が復調。さらに、国をあげての誘致活動などで外国人観光客が大幅に増加した。また、人々の消費が耐久財などのモノ消費から、旅行や観光などのコト消費へと移ったこともホテル業界にとっては追い風となった。
2.注目トピック
インバウンド取り込みに動くホテル業界
現在、ホテル業界が最も注力している集客策は、インバウンドに向けた取り組みだ。特に、2020年の東京五輪開催に向けて、今以上の増加が期待される訪日客を取り込むために、新規出店や大型改修など、投資を拡大させる動きが目立つようになっている。東京都心部を中心として、外国人客の増加を見越した外資系高級ホテルの出店が続いており、国内の事業者側にも、海外の有力ブランドを誘致して出店したいとするニーズもある。一方、国内ホテルでも、訪日客が多く訪れるエリアを主体として、新規出店を加速させている。
ホテル事業者では、単価の高い上層階の改修や、訪日客を意識して複数人数で利用できる客室へのリニューアルなどを積極化させている。日本の魅力を感じてもらえるように、和風の要素を取り入れた改装も目立つ。外国人旅行客はファミリーでの利用が多いため、2人以上で利用できる客室を増やしている。客室の改装とともに、外国人客などから要望の多い無料のWi-Fiサービスの導入なども進められている。ベッド脇に多言語対応のタブレット端末を配置し、照明や空調の調整からカーテンの上げ下げ、ルームサービスの注文などができるサービスなどを導入するホテルもある。
また、訪日客を呼び込もうと、海外でのマーケティング活動も活発化している。セールス拠点として海外営業所を開設したり、海外ホテルと提携して相互送客する動きなども目立つ。海外で開催される旅行博や商談会などへの参加も増えており、アジアの新興国などにグループホテルを出店し、急拡大するアジア諸国の旅行需要を取り込むとともに、海外での知名度を上げ、訪日時に利用してもらおうという戦略をとるチェーンもある。
3.将来展望
2017年度には宿泊単価の高騰によるホテル離れが一部では見受けられたり、カプセルホテルやゲストハウス、民泊などといったホテル以外の宿泊施設の整備が進み、宿泊需要の多様化が進んだことにより、ホテル市場にも一時的な伸び悩みの状況もみられた。また、2018年度には地震や台風などの自然災害が相次ぎ、関西や北海道などのホテルでは集客に影響を受けたホテルが少なくなかった。
ただ、それらのマイナス要因はあったものの、市場全体でみるとホテルへの需要は引き続き堅調に推移している。東京都心部をはじめ、全国の主要都市や有力観光地などではホテルの客室稼働率は高水準の推移を続け、客室単価も高止まりの状況にある。特に、新規ホテルの開業が相次いだことに加え、既存ホテルもリニューアルを積極化させたことにより市場のキャパシティが拡大、客単価の底上げにも結び付いていることが市場拡大の背景となっている。2019年度以降についても各種の国際的な大型イベントが続くこともあり、今後も訪日客を中心とした宿泊需要の増加が見込まれるほか、国際会議や学会などMICEの拡大も期待できる。そのため、ホテル市場は今後についても、当面はプラス成長を続けていくものとみられる。2019年度の市場規模についても、前期比5.8%増の2兆1,468億円まで拡大するものと推測される。