資産家,創業家
(写真=ElenaR/Shutterstock.com)

「会社の社長」と一口に言っても、雇われ社長とオーナー社長では資産の多寡に天地ほどの違いがある。雇われ社長はいくら高給をもらえるとしてもサラリーマンでしかない。しかし、オーナー社長は違う。ビジネスが拡大すれば、それだけ自社株の評価が上がり、一気に資産額を伸ばすことができる。

上場企業であればなおさらだ。今回は、必ずしも社長ではないものの、設立から50年以上経っている名門上場企業7社の創業家一族の資産額を調べてみた。なお資産額は『会社四季報2020年新春号』の大株主一覧(上位10名)の保有額に、1月20日(月)終値をかけた概算金額であることにはご留意頂きたい。(文中、敬称略)

大林組 <1802> 大林一族:211億円

建設業界最大手の一角で1936年12月に設立された大林組 <1802> は、大林芳五郎が創業者だ。大株主一覧を見ると、現会長の大林剛郎が1,694万株(発行株数の2.3%)を保有している。同社の1月20日(月)終値が1,245円なので、約211億円が時価となる。

永谷園 <2899> 永谷一族:31億円

和風即席食品国内首位で1953年4月に設立された永谷園ホールディングス <2899> は、江戸時代から製茶業を営んでいた永谷家10代目にあたる永谷嘉男によって創業された。大株主一覧を見ると、現会長の永谷栄一郎が71万株(3.7%)、現社長の永谷泰次郎も71万株(3.7%)を保有しており、同社の1月20日(月)終値が2,167円なので、約31億円が時価となる。

持田製薬 <4534> 持田一族:352億円

医薬中堅で1945年4月に設立された持田製薬 <4534> は、持田良吉が1913年2月に持田商会薬局を開業したことが始まりだ。大株主一覧を見ると、持田記念医学薬学振興財団が568万株(14.0%)、現社長の持田直幸が118万株(2.9%)、その他に持田和枝が107万株(2.6%)となっている。財団法人の資産は個人の所有物ではないが、広義の「創業家一族の資産」と考えれば、合計で793万株を保有しており、同社の1月20日(月)終値が4,440円なので、約352億円が時価となる。

カシオ計算機 <6952> 樫尾一族:226億円

1957年6月に樫尾4兄弟によって設立され、腕時計や電子辞書などで高シェアを誇るカシオ計算機 <6952> 。大株主一覧を見ると、有限会社カシオブロスが1,000万株(3.8%)となっている。これを樫尾一族の資産管理会社と仮定すれば、同社の1月20日(月)終値が2,258円なので、約226億円が時価となる。

セイコーホールディングス <8050> 服部一族:687億円

腕時計国内首位級で1917年10月に設立されたセイコーホールディングス <8050> の創業者は服部金太郎だ。大株主一覧を見ると、三光起業が443万株(10.7%)、服部悦子が361万株(8.7%)、現会長の服部真二が227万株(5.5%)、服部秀生が162万株(3.9%)となっている。三光起業を服部一族の資産管理会社と仮定すれば、合計1,193万株を保有しており、同社の1月20日(月)終値が2,910円なので、約347億円が時価となる。なお三光起業はセイコーエプソン <6724> も2,000万株(5.0%)、時価にして340億円を保有しているため、三光起業が服部一族の資産管理会社であるのであれば、保有資産は687億円となる。また、セイコーエプソンの大株主一覧には、セイコーホールディングスと服部姓1名も確認できる。

セイノーホールディングス <9076> 田口一族:377億円

岐阜県大垣市に本社を置くセイノーホールディングス <9076> は、カンガルー便の愛称で親しまれ、トラック輸送の業界最大手だ。1930年2月に、田口利八が岐阜県益田郡萩原町において田口自動車を創業したことが沿革の始まりで、設立は1946年11月である。大株主一覧を見ると、公益財団法人田口福寿会が2,581万株(12.4%)を保有している。財団法人を広義の「創業家一族の資産」と考えれば、同社の1月20日(月)終値が1,461円なので、約377億円が時価となる。

セコム <9735> 飯田一族:800億円

警備業国内首位で1962年7月に設立されたのがセコム <9735> だ。創業者は現最高顧問の飯田亮で、大株主一覧を見ると、424万株(1.8%)を保有している。また、公益財団法人セコム科学振興財団も402万株(1.7%)を保有しており、財団法人を広義の「創業家一族の資産」と考えれば合計826万株、同社の1月20日(月)終値が9,690円なので、約800億円が時価となる。

創業家一族の資産を確認するときの注意点

以上、設立から50年以上経っている名門上場企業7社の創業家一族の資産額を見てきた。創業家一族の資産を確認するときは、以下のような注意点が挙げられる。

(1)名前が表に出ていない可能性がある

大株主一覧には、創業家一族の氏名ではなく、彼らの代理として信託銀行や金融機関、プライベートバンクの名前が記載されることもある。実際、本稿の集計時にも以下のような名義が見受けられた。

・日本トラスティ信託口 ・日本マスター信託口
・ステートストリートBウエストトリーティ505234
・資産管理信信託口(みずほ銀)
・ステートストリートロンドン
・SSBTCボストンUK
・ノーザン・トラスト(AVFC)シルチェスターVET

なかには機関投資家の代理であるケースもあるだろうが、創業家一族の代理である可能性も否定できない。また、四季報の大株主一覧は10位までしか公開されないので、11位以下に創業家の株主がいる可能性もある。

(2)資産管理会社の存在

資産管理会社とは、富裕層が税制対策のために立ち上げる会社の総称だ。特に、上場企業の創業家クラスになれば、その多くが資産管理会社を設立していることだろう。資産管理会社が自社株を保有している場合、大株主一覧には当然、資産管理会社の名前が載ることになる。創業家一族にゆかりのある会社名であれば、識別するのはさほど難しいことではないが、一見、相関性を見いだせない会社名の場合は、見落としてしまう可能性がある。

(3)財団法人の存在

上場企業オーナーのような超富裕層のなかには、財団法人を設立して、資産の一部を移している場合もある。一部の識者によると、財団法人は「ミニチュア・タックスヘイブン」としての側面もあるという。本稿では、財団法人を広義の「創業家一族の資産」として資産額を計算しているが、詳細な税制については、税理士などの専門家に確認して頂きたい。

文・THE OWNER編集部

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