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産経ニュース エディトリアルチーム
「自動車業界向けの需要は減っているが、技術力では負けない。なりふり構わず、自動車以外の需要を開拓していく」。こう語気を強めるのは、株式会社清榮工業所(群馬県太田市)の清水榮一代表取締役だ。鈑金加工技術で優位性を持つ同社は、ICT技術で情報セキュリティ対策や自社技術の情報発信も強化して、経営基盤の強化を図ろうとしている。(TOP写真:清水榮一代表取締役)
試作鈑金に強み。「技術力ではどこにも負けない」
株式会社清榮工業所は、「人に使われるのはいや」という清水榮一代表取締役が1981年、29歳の時に1人で創業して、「ゼロから始めた」。当初は、それまで経験してきた溶接や設備部品などの製造から始めたが、「取引先などにも恵まれた」ことで、清水氏自身が鈑金製造の技術を教えてもらい、それを磨いていった。現在では、約1万3,500平方メートルの工場敷地に、プレス機、レーザー加工機、産業用ロボット、溶接機などの加工設備を保有する。
最大の事業分野は、試作鈑金だ。試作鈑金とは、例えば新車開発の際に新しい部品が必要となった場合に、金属を加工してその試作品の開発を担う。自動車メーカーは新車開発にあたり、衝突や破壊試験などを行うが、それらの試験に耐えられる部品の開発が多いという。開発に成功すれば量産は他社が行うが、それだけ試作品の開発が難しいということを物語っている。仕事量が一定せず、資金計画も立てづらいことなどから、「試作鈑金を手掛ける企業は少ない」という。工場内には「特急の仕事に対応する」ため、亜鉛合金の溶融炉も備え、素材から製造して加工まで行うなど、さまざまな要求に応える体制を取っている。
試作鈑金が軌道に乗ると、従業員や仲間の紹介により中途入社などで加工技術者が集まり、現在では従業員34人のうち、約3分の2が試作品開発者という「熟練した技術者集団」(清水氏)だ。試作品だけに新しい加工方法なども必要となるため、技術者が一つひとつハンドワークで製作。「今では競合相手も多くなったが、技術力ではどこにも負けない」と自負している。
部品メーカーに技術者を派遣して製品加工。タイにも工場展開
その技術力を表す事例が、「当社の技術者を指名して派遣要請があり、部品メーカーに常駐して新しい部品の製造に携わり、製品加工するケースが多いことだ。しかも国内だけでなく、海外進出した日系企業からの要請により海外各所にも派遣しており、「ほとんどの技術者が海外での仕事を経験している」ほど。現在では、国内のほぼ全ての自動車メーカーと取引があり、自動車関連事業の売上高が全社の約9割を占めるほどに育った。
2015年には、現地の日系企業からの要請があり、タイに工場を設けた。タイ進出にあたっては、こんなエピソードがある。日系企業から進出要請があった時は、清水氏が米国に出張し、現地で技術支援などを行っていた。しかし、米国駐在が長引いたことでなかなか帰国できない。それでも要請があった企業はタイでの取引を急いでいたことから、清水氏は米国から帰国後、直ちにタイ進出を決意。タイ政府やJETRO(日本貿易振興機構)などの協力もあって、「4ヶ月で現地法人を設立した」という。
その後は、日本から技術者を2度にわたって派遣して、現地従業員に技術指導。現在では20人以上が現地で働き、「金属パネルなどの仕上げを行っている。タイの人は真面目で、技術力も付いている。日系企業だけでなく、現地企業とも取引がある」。タイでの仕事をきっかけとして、現地の日系企業の日本本社を紹介してもらって受注につなげたこともあるという副次的効果も表れた。
特殊建築で実績。大型のプレス機も導入
ただ、自動車向け事業は部品点数の減少に加え、コロナ禍の影響により新車開発もスローダウンし、足元は厳しい状態だ。そこで清水氏は、自動車以外の需要開拓を進める。すでに、特殊建設分野で成果が表れている。中でも、公共の建造物では、銅製の屋根部分の加工を担った。銅はさびると緑青となるが、客先特許による当初から緑青の色合いを出し、その色を保つため、複雑な形状の銅板を加工できる同社の技術が認められ、受注につなげた。
2018年には、自動車の軽量化ニーズに応えるため、大型の自動車部品加工に対応する最大2メートル程度の部品加工ができる1,500トンの大型プレス機を増設した。このプレス機では、建築用部材を加工するなどの成果も出てきた。建築分野だけでなく、建造物の内装や家電製品などでも取引先が増えており、「短納期でもコストは安く、いい物を買いたいユーザーをもっと開拓していきたい」(清水氏)と意気込む。
情報セキュリティ対策を強化。ホームページを更新して情報発信に期待
同社は新車関連の業務を行っていることから、セキュリティ対策は欠かせない。機密保持のため、「(設計データなどの)大容量データをCDに記録して渡す時代ではなくなった」。そこで、2016年には社内通信システムに、ファイヤーウォールや不正侵入検知システム、アンチウイルスなど複数のセキュリティ対策を一元化したUTM(統合脅威管理システム)を導入。2021年にはサーバーやネットワーク機器を合わせたシステムにリプレースし、24時間365日ネットワークを監視できる体制とした。
新規需要開拓では、「ホームページを見て、仕事を依頼してくるケースもある」ことから、2021年8月にはリニューアル。更新したホームページでは特に設備面での魅力を感じてもらうように工夫し、受注拡大に期待している。ただ、客先によっては3次元の大容量データを送ってくるケースもあるが、同社のシステムでは読み込めないこともあり、これを解消するシステム導入も検討している。
EVバッテリーケースなどEV関係の試作品も受注。自動車以外を「20~30%に高めたい」
主力の自動車向け需要が減少しているとはいえ、「一つの光も見えてきた」という。それは、EU(欧州連合)の自動車規制の方針転換だ。EUは二酸化炭素排出(CO2)削減のため、2035年までにエンジン車の新車販売を禁止する方針だったが、加盟国の反対もあり、CO2と水素を合成した液体燃料を使用したエンジン車を容認する方向だ。この方針転換は他の国や地域へも影響する可能性もあり、エンジン車の禁止は先延ばしされることとなりそうだ。
清榮工業所はすでに、電気自動車(EV)向け試作品も受注しているが、「エンジン向け部品の需要は変わらず、仕事がなくなることはない」と読む。一方で、車体の軽量化のために部品に樹脂を使う例も出ており、「これがもっと進むかもしれないが、自動車の足回りは樹脂製部品では無理」だから、鈑金加工の必要性はなくならないとしている。
同社には清水氏の後継者候補として、長男も入社している。「自動車以外の比率を20~30%に引き上げたい。技能伝承も課題だが、これらを解決して後継者に譲りたい」と将来の方針を語った。
企業概要
会社名 | 株式会社清榮工業所 |
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本社 | 群馬県太田市山之神町623-5 |
HP | https://kk-seiei.com |
電話 | 0277-78-7311 |
設立 | 1981年5月 |
従業員数 | 34人 |
事業内容 | 試作・鈑金、治具設計・製作・製缶加工、設備工事一式、特殊建築銅板加工 |