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ミッションを伝えるのはリーダーの役目
リーダーには、「ミッション」「ビジョン」「パッション」が必要だとよくいわれます。組織が目指すべき方向を示すビジョンやチームを牽引する熱いパッションはもちろん欠かせませんが、いちばん大切なのはミッションだと思います。使命感(ミッション)があればこそ、熱いパッションが持て、将来に対するビジョンも描けるのだと思います。
組織のミッションとは、自分たちの組織の存在理由です。何のために自分たちは存在するのか?全ての企業や組織は、その事業や活動を通じて世の中を良くするために存在します。
もし社長(リーダー)として会社(組織)を率いることになったら、真っ先に確認すべきは、自分たちのミッションは何か、ということです。売り上げを増やす、利益を最大化するといった短絡的なものだけでは無いのです。企業の目的は利益を挙げることではありません。利益は企業が存続するため手段であり、ミッションを掲げて活動した結果としてついてくるものです。
リーダーは、会社のミッションをしっかりメンバー一人一人に浸透させる役割を担っています。自分たちは何のために事業を行っているのか。そのために何をするべきなのか、何をしてはいけないのか。社長(リーダー)として、ミッションをメンバーの心に届く言葉に翻訳して繰り返し伝え、メンバーの士気を鼓舞することが大切です。
お店にミッションを浸透させる
ザ・ボディショップでもスターバックスでも、私はできるだけ多くのお店を回るようにしていました。なぜなら、ミッションはお店でこそ実現されるからです。ザ・ボディショップは、イギリス人女性アニータ・ロディックが創業した化粧品会社です。ミッションの一つに「環境保護」を掲げ、それを実行するために、お店ではシールを貼るだけの簡易包装を、お客さまにお願いしていました。
ある時マネジャーの日誌に、「今月は出た袋の枚数が多い。コスト削減のためには簡易包装をお願いしなければ」という記述を見つけたのです。このお店のマネージャーは「簡易包装はコスト削減のため」と誤解していることに驚きました。
他の店舗でも、このような誤解があるかもしれないと考え、営業責任者に全店舗に簡易包装の意味を再徹底するようにお願いしました。簡易包装はコスト削減のためでなく、環境保護(Protect our planet)というボディ・ショップのバリューズ(価値観)を実行するためなのです。
またお店を回っていて、お客さまからのクレームをいただいたことがあります。「雨の日、袋を持っていない時に、簡易包装を勧められた」そうです。これではお客さまが不満に思うのも無理はありません。状況を見定めず、杓子定規に簡易包装を押しつけるのも、よくありません。
お店から遠い本社で、声高にミッションを唱え、指示を出すだけでは、ミッションの真意はお店に伝わりません。リーダーができるだけ多くのお店を回り、たくさんの人と言葉を交わす中で共通の認識がつくられ、ミッションが浸透していくのです。
リーダーに求められる「徳」
リーダーは、繰り返しミッションの重要性をメッセージとして伝えなければなりません。しかし人望のないリーダーがいくら言っても、それは伝わらないでしょう。何を言うかも大切ですが、「誰が言うか」はもっと大切です。リーダーに欠かせない要素はその人の「人間性」です。
時々見受けられるのは、リーダーになったことで、「自分は偉い」と勘違いし、傲慢に振る舞う人がいることです。リーダーとは役職であって、リーダーになったからと言って人として「偉く」なったわけではありません。リーダーには、組織のミッションを達成するという強い「使命感」とともに「人間性」が伴わなければ、誰もついていきません。
リーダーとして、すべきことをすべてやっても失敗することがあります。しかし、10すべきことのうち6つ7つでお茶を濁すようでは、そもそもリーダーの資格はありません。リーダーは「常に最善を尽くす姿勢」が大切です。
そして、うまくいけば皆のおかげ、ダメなら自分のせいだと自省する謙虚さと最善を尽くす強い意志を持つ、「徳」を備えた人間であることがリーダーには不可欠なのです。
「ノブリス・オブリージュ」(高貴な人には高貴な責任が伴う)。
ポジションが上がれば上がるほど、リーダーにはより大きな責任が伴うことを自覚する必要があります。リーダーシップとは責任のことです。
人間性こそ一番大切
経済学者ジョン・ケインズは 「いかに善を為すか(to do good)より、いかに善く在るか(to be good)が、より大事である」という意味のことを言っています。実は、私はto do goodで十分ではないかと長年思っていました。
例えば、満員電車におばあさんが乗ってきたとします。席を譲ろうかと思ったけれど声をかける勇気がない。一方、別の人は、おばあさんを想う気持ちからではなく、皆の前でいいカッコをするために席を譲った。
どちらの人が良いのか?いくら善いことを思っていても行動を起こさなければ意味がない。逆にいくら動機が不純でも善い行いをしたほうがいいのではないか。そう思っていたのです。
ある日、『論語』の中に「七十にして心の欲する所に従いて矩(のり)をこえず」(70歳にして心の思うままに行動しても人としての道を踏みはずさない)という言葉を見つけて、ようやく理解できたのです。つまり、人が見ていようがいまいが、無意識にした自分の行為が道理をはずれていない。その境地がto be goodなのだと。
つまりどんな状況であろうが、すっと席を立てる人間性を身につけることが大切なのです。人がいないところでも、落ちているゴミはすっと拾ってポケット入れる、公衆トイレの洗面台が汚れていれば、布巾でさっと綺麗にする。これはまさしく昔から言われている「徳を積む」と言うことなのです。
世の中を見渡せば、good と言えない人が、高い地位に就いているケースがあります。ただ、長い目で見れば、どこかの段階で必ず失速しています。やはり長く続く良きリーダーは、to be goodつまり人間性そのものがgoodなのです。
今はVUCA、つまりVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の時代だと言われています。今まで経験したことのない加速スピードで、世の中が変化しています。
しかしこういう時代だからこそ、企業にとって「ミッション」、リーダーにとって「人間性」という本質がますます問われている時代になってきていると私は思います。