ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン
『モダン・タイムス』Modern Times(1936年)
©Roy Export SAS

(本記事は、大野 裕之氏の著書『ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン』=大和書房、2022年11月4日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

笑いを求めた先のヒューマニズム

「笑いと涙とヒューマニズムの映画作家」と言われるチャールズ・チャップリン。しかし、その本質には、何度も撮影を繰り返し、徹底的に無駄をそぎ落として「笑い」を求めた完璧主義がありました。

チャップリンが修業を積んだイギリスの軽演劇ミュージック・ホールは、帝国主義を反映した人種差別的なギャグであふれていました。性的にきわどいネタもたくさんありました。しかし、チャップリンの代表作には、そのような要素は見当たりません。

ただし、NGフィルムの中には、意外なことに民族のステレオタイプをネタにしたギャグや、いわゆる下ネタも登場します。しかし、これはある意味当然のことで、今も昔もパッと思いつく笑いとは、他人を小馬鹿にするギャグや下ネタなわけです。

ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン
(写真提供:大野裕之)

しかし、何度も撮り直すうちに、人種や性的な題材を扱ったギャグはカットされていきます。演技を繰り返すうちに、かつてユダヤ人地区でユダヤのネタをやってしまって失敗したことを思い出したのかもしれません。チャップリンは、世界中の人が心から笑えるユーモアだけを求めていたのです。

チャップリンは「笑いと涙とヒューマニズムの映画作家」であるとしばしば言われ、それゆえに「安全な笑い」を嫌って敬遠する向きもありました。しかし、チャップリンの「ヒューマニズム」は、頭でっかちに思いついたものではなく、あくまで笑いや芸にこだわって、撮り直しにつぐ撮り直しの末に体得されたものであることは強調しておきたいと思います。彼の映画の中の笑いと涙は、「安全な笑い」とは程遠い、世界中の人を笑わせたいという一人の芸人による、果てしない苦闘の賜物です。時代や国境を越えて響く彼の「メッセージ」も、磨き抜かれた身体芸に裏打ちされているからこそ、いまだ残酷なまでの強度と説得力を持つのです。

ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン
大野 裕之
1974年大阪生まれ。脚本家・演出家・映画プロデューサー・日本 チャップリン協会会長。大阪府立茨木高校卒。京都大学総合人 間学部卒、同大学院人間・環境学研究科博士課程所定単位取 得。国内外のチャップリン関連企画やブルーレイ等を監修するな ど日本でのチャップリンの権利の代理店も務める。著書に『チャッ プリン作品とその生涯』(中公文庫)、『チャップリンとヒトラーメ ディアとイメージの世界大戦』(岩波書店、第37回サントリー学芸賞)、 『ディズニーとチャップリンエンタメビジネスを生んだ巨人』(光文 社新書)他多数。映画『太秦ライムライト』(第18回ファンタジア国際 映画祭最優秀作品賞)、『葬式の名人』『ミュジコフィリア』他でプロ デューサー・脚本を担当。2006年ポルデノーネ無声映画祭特別 メダル、14年京都市文化芸術産業観光表彰「きらめき賞」受賞。

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