矢野経済研究所
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タクシー行政が転換点にある。国土交通省は公共交通の利用者が少なく、将来的にその維持が困難な地域におけるタクシー会社の事業継続と新規参入を促すべく、規制緩和に踏み切る。これまでタクシー会社は営業所の開設に際して原則5台以上の車両を保有することが義務付けられてきたが、今回の方針転換により5台未満でも営業所の維持が可能となる。また、個人タクシーについても「人口30万人以上」との営業条件を緩和、過疎地域でも営業が可能となる。

従来、タクシー行政の基本は「規制の再強化」にあった。2002年の規制緩和後、業界は供給過剰状態に陥った。これを是正すべく、2009年、タクシー業界の適正化と活性化に関する特別措置法が成立する。事業者は適正化に向けての計画策定が求められ、増車は届出から許可制へ、新規参入要件も厳格化された。結果、事業者数は特措法前年の2008年度末の7,106社から2019年度末には5,980社へ、輸送人員も同期間に2,025百万人から1,268百万人へ減少する。そこへ新型コロナだ。

コロナ禍初年度、2020年度の輸送人員は前年比4割減。国土交通省は未稼働車両の維持コストを抑えるため「臨時的に休車を認める特例制度」を創設、休車数は1万台を越えた。現在、2024年3月末を臨時休車されてきた車両数の復活期限としているが、業界は期限の延長を要望する。背景には車両の調達計画の遅れ、加えてドライバー不足がある。コロナ禍における離職者の増加、高齢化、そして、「2024年問題」だ。ドライバーの時間外労働に上限を設定するこの問題は “物流業界の2024年問題” としてクローズアップされているが、タクシー業界も例外ではない。

ドライバーの時間外労働規制は一人当たり稼働時間の減少を意味する。もちろん、ドライバーの健康と利用者の安全が担保されるという意味では歓迎すべきである。とは言え、コスト増を運賃に転嫁できなければ、事業者はもちろん、歩合に支えられたドライバーへの影響は小さくない。コロナ禍の収束に伴い都市部や観光地の需給はタイトになっており、人手不足が解消されなければ「タクシーがつかまらない」状況の悪化も避けられない。一方、地方の需要減は構造的である。地域の需要に応じたきめ細かな施策が不可欠であり、とりわけ、地方においては官民、業種業態を越えての交通弱者対策が求められよう。

今週の“ひらめき”視点 6.11 – 6.15
代表取締役社長 水越 孝