スマホアプリで金融サービスを提供するチャレンジャーバンクは、欧州を皮切りに世界中へと広まりつつあります。しかし、言葉は聞いたことがあっても、一般の銀行とどう違うのか分かりづらいですよね。そこで編集部では、チャレンジャーバンクの仕組みや共通する主要なサービス、他の銀行との違い、メリット・デメリットについて改めて整理してみました。また、チャレンジャーバンクを取り巻く世界の動向についても見ていきます。
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目次
チャレンジャーバンクとは何か
世界中で色々な事業者が参入しているチャレンジャーバンクとは、どのような事業体なのでしょうか。まずは、その仕組みや特徴、主なサービスについて見ていきましょう。
チャレンジャーバンクの仕組みとビジネスモデル例
チャレンジャーバンクは、銀行免許を取得して銀行サービスを提供する事業者を指すことが多いようです。ただし、法律や辞書などで明確に定義された言葉ではありません。既存の銀行のように店舗は持たず、スマホアプリなどのデジタルチャネルを通して、顧客に細やかな金融サービスを提供していることが特徴です。また、銀行サービスだけでなく、年金・投資・保険などのさまざまなサービスをスマホアプリ内で提供しているケースもあります。
欧州では先行して銀行免許取得のプロセスが緩和され、オープンAPIを活用してフィンテック企業と連携した形での金融サービスが広がりました。ドイツのN26やイギリスのMonzoなどのように、銀行免許を取得しスタートアップとして展開する企業や、ドイツのsolaris Bankなどのように銀行免許を持ち、フィンテック企業や事業法人に銀行のサービスや機能をプラットフォームとして提供するビジネスモデルなどが見られます。
チャレンジャーバンクの共通するサービスと主な収益源
チャレンジャーバンクのサービス内容は事業者によって異なりますが、次のようなサービスが共通して見られます。
- 預金口座による預入と出金
- デビットカードの発行と利用
- 他口座への送金・振込・利用者同士の送金
- 海外送金・両替サービス
- 融資:当座貸越・カードローンの貸付など
主な収益源としては、各サービスの手数料や利息などが挙げられます。その他にも投資商品や保険の販売、各サービスをサブスクリプション提供することでの手数料で収益を上げている事業者も存在しているようです。また、サービスそのものではありませんが、表示されている料金以外のコストがかからない「No hidden fees」と言われるコストの透明性も、チャレンジャーバンクのサービスの特徴としてよく挙げられます。
チャレンジャーバンクと他銀行との共通点・相違点
既存の銀行やネット銀行、ネオバンクとチャレンジャーバンクはどのような違いがあるのでしょうか。次にチャレンジャーバンクと他の銀行との共通点・相違点を見ていきましょう。
既存の銀行との共通点・相違点
【共通点】
チャレンジャーバンクも銀行免許を持っているため、「入金・引出・送金・口座開設・預金(普通・定期・当座)・両替・デビッドカード発行」など、既存の銀行と同じようなサービスを提供しています。
【相違点】
利用履歴:カード利用などの取引種別によっては、既存の銀行では反映されるまで数日かかることもあるようですが、チャレンジャーバンクでは、スマホアプリですぐに確認できるのが一般的です。
カードの紛失時:既存の銀行では電話での連絡が必要なケースもまだ多いようです。チャレンジャーバンクは、基本的にスマホアプリ内で手続きが可能とされています。
収益源:既存の銀行は預金を集め、貸出の利息で収益を得る、いわゆる預貸ビジネスが今もなお主流だと言われています。一方で、チャレンジャーバンクは各顧客のニーズに対応した多彩なサービスの提供から収益を得ており、その内容は事業者によって異なります。
ネット銀行・インターネットバンキングとの共通点・相違点
ネット銀行・インターネットバンキングとチャレンジャーバンクは、デジタルチャネルによる銀行サービスの提供という点で似ている点も多く違いが分かりづらいですよね。次にこれらを比較して見てみましょう。
【共通点】
ネット銀行・インターネットバンキングとの共通点は、インターネットを介してオンラインで運営していることです。ネット銀行とは、実店舗を持たない点でも共通しています。インターネットバンキングは、既存の銀行がインターネット上で提供しているサービスのことです。
【相違点】
無店舗型のネット銀行と従来の銀行が提供するインターネットバンキングは、パソコンやスマホなどからウェブブラウザを介して銀行サービスの提供をしている点が1つの特徴です。一方で、チャレンジャーバンクでは、スマホアプリ内で一通りのサービスが完結するという点で違いがあると言われています。ただ、最近では、ネット銀行やインターネットバンキングでもスマホアプリ完結型のサービスが登場してきており、明確な線引きは難しくなりつつあります。どちらに軸足を置いているかが1つのポイントになるのかもしれません。
ネオバンクとの共通点・相違点
次にチャレンジャーバンクと混同されがちなネオバンクについても見てみましょう。
【共通点】
いずれも実店舗を持たず、主にスマホアプリでサービスを提供している点が共通しています。
【相違点】
チャレンジャーバンクは、一般的に銀行免許を取得しており、BaaS(Banking as a Service:銀行機能やサービスをAPI*を介して提供する)機能を自社で開発しているところもあります。それに対して、ネオバンクは銀行免許とBaaS機能を持たない事業形態であることが多いようです。既存の銀行から免許とBaaS機能を提供してもらい、サービスのみを行う事業者が多く見られます。ただし、利用者側からすると両者の大きな違いは感じられないでしょう。
※ API:アプリケーション・プログラミング・インターフェースの略で、あるアプリケーションの機能や管理するデータ等を他のアプリケーションから呼び出して利用するための接続仕様・仕組みを指します。
【出典】一般社団法人全国銀行協会
チャレンジャーバンクを利用するメリット・デメリット
既存の銀行が提供していないようなサービスが魅力のチャレンジャーバンク。次に、利用者側のメリットとデメリットを見ていきましょう。
チャレンジャーバンクを利用するメリット
あくまで一般論ですが、デジタルチャネルに特化することで、既存の銀行よりも手数料が安いことが多いとされているようです。窓口へ行く必要がなく、スマホで完結するので、便利でストレスフリーなのもメリットの1つ。若者向けや顧客のニーズに合わせた独自性の高いサービスが期待できます。
チャレンジャーバンクを利用するデメリット
チャレンジャーバンクの利用者数がまだ少ないため、自身で情報収集する必要があり、商品・サービスの仕組みがいまいち分かりづらい点が挙げられるかもしれません。また、既存の銀行より数が少ないため、選択肢も限られます。コールセンターを持たない事業者もあり、トラブル時の対応に不安が残るのもデメリットに挙げられるでしょう。
世界のチャレンジャーバンクの動向
世界中で参入が進むチャレンジャーバンクですが、今後日本で広がる可能性もあると言われています。最後に、日本を含めた世界のチャレンジャーバンクの動向を見ていきましょう。
欧州:競争激化から淘汰の時代へ
チャレンジャーバンクが始めに拡大していったのが欧州と考えられます。イギリスでは、リーマンショック後の大手銀行の市場独占に対して、競争促進を図るために銀行参入への規制緩和が行われ、フィンテック企業にも積極的に銀行免許が与えられました。政府のバックアップもあり、2015年ごろからRevolutやMonzoなどのチャレンジャーバンクが次々と誕生したのです。
ドイツ発のN26は、EU共通の銀行免許制度を活用し、EU内で事業を拡大してきたチャレンジャーバンクの1つです。ただし、イギリスによるEU離脱を機に、2020年にはイギリスから撤退しています。
イギリスでは、チャレンジャーバンクと大手銀行との競争が激化。ニューヨークに本社を置くJP Morganが2021年にデジタルバンクへ参入する一方で、Nat West Group(旧RBS)はスマホアプリのリリース後半年で撤退を表明するなど、欧州では既にデジタルを活用した銀行の淘汰の時代に突入しつつあります。
アメリカ:銀行免許取得で事業拡大
アメリカでは、ChimeやSimpleに代表されるネオバンクが主流でしたが、2020年にVaro Moneyが銀行免許を取得した後、Chimeなどもそれに続いています。銀行免許取得による送金や資金調達のコスト削減、または銀行免許保有企業の買収による投資サービス事業拡大などを見込み、フィンテック企業のチャレンジャーバンク化が進んでいるようです。
アジア:スーパーアプリを意識した銀行業参入の増加
アジアでは、WeChatやAliPay、Grabなどの金融サービス機能を持つスーパーアプリのユーザー数の増加により、これらのスーパーアプリを意識したチャレンジャーバンク設立が増えています。先行しているのは香港で、続いてシンガポールでの銀行免許取得への動きも活発化しているようです。
日本:給与のデジタル払いが転機になる可能性
日本では、既存銀行のインターネットバンキングや銀行免許を取得したネット銀行などで、早くからデジタルを活用した金融取引が行われてきました。これらの銀行のなかには、既にスマホアプリで一部のサービスを提供する銀行も登場していますが、必ずしも全ての銀行の全てのサービスが、チャレンジャーバンクのようにスマホのみで完結できるというわけではありません。
また、デジタルウォレットアプリを提供しているKyashや日本でも事業を開始したRevolutのように、銀行免許そのものは取得していないものの、資金移動業の登録を受けてチャレンジャーバンクのようなサービスを展開している企業もあります。
現在、厚生労働省で「デジタルマネーよる賃金払いの解禁」の審議が進んでおり、その解禁が転機になる可能性も考えられます。日本でも近い将来、支払い・借り入れ・資金運用などをスマホアプリのみで提供する事業者が次々と登場してくるかもしれませんね。
今後のチャレンジャーバンクの可能性に注目
日本で見ればまだ利用者は少ないですが、加速するキャッシュレス時代の到来を間近にして、利用者のニーズに対応したサービスを提供するチャレンジャーバンクは発展していくでしょう。世界を見ても、既存の銀行とチャレンジャーバンクとのさらなる競争激化が予想されます。今後のチャレンジャーバンクの動向や可能性からは、引き続き目が離せません。
※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。