幾代もの繁栄を築く
牟田 太陽(むた・たいよう)
日本経営合理化協会理事長。事業経営の奥義を一子相伝で“社長業指導の教祖”牟田學より伝授された、手腕と感性と理性をバランス良く備えた次代のリーダー。大学卒業と同時に、単独、日本人が一人もいないアイルランドの寒村に飛び込み、和食レストランを立ち上げる。異郷の厳しさ、小さな親切が身に染み、多様な考え方の人々に会って、世界観を広げる。忍耐や、勇気や、強さや、優しさや、痛さを会得しながら、アイルランドで事業の大成功を収めた。帰国後、日本経営合理化協会に入協。以来、経営ノウハウ、思想哲学を伝える社長実務セミナー「実学の門」、少人数の私塾「無門塾」「地球の会」、後継者育成の「後継社長塾」など、数多くの勉強会を企画・運営する。20歳代から触れ合うほとんどの方が経営者や一流コンサルタント、著名人という環境の中で、経営の手腕を磨き、企画部長、事務局長、専務理事を経て、2017年7月より現職に。オーナー企業の経営者、後継者との交流が非常に広く、事業継承特有の問題に関しても、多岐に亘る経験を持つ。

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古参社員との付き合い方、活かし方

後継社長にとって古参社員との付き合い方は課題の一つでもある。

先代から会社を引き継いだときに、年上の社員というものが必ず出てくる。その年上の社員との付き合い方を他の部下は見ているものだ。ぞんざいな扱い方は問題外であるし、腫れ物に触れるようなギクシャクした関係でもいけない。古参社員からの信頼を勝ち取ることが、会社全体をスムーズに統括する近道と思ってほしい。

かくいう私にも双肩となる二人の古参社員がいる。熊谷聖一と作間信司だ。

熊谷聖一は、企画部長、事務局長、専務理事まで勤め上げ、昨年、定年退職となった。熊谷の凄いところは、私を非常に立ててくれたことである。後継者自身では言えないことを理事長に進言してくれたものだ。

定年退職となる五年も前のことだ。「年齢からいって、そろそろ太陽に専務理事のポジションを明け渡したいのですが」そう理事長と私の前で堂々と言ったときには驚いた。そういう関係があるからだろうか、人事の決め事があるときなどは、何よりもまず熊谷に報告するようにしている。

ここで重要なのは、古参社員には、「相談」ではなく、「報告」をすること。あくまでも決めるのは自分でなくてはいけない。後継社長は、ここを間違えてはいけない。やはり熊谷もそのへんはわかっている。たいていはニヤリと笑い、「いいじゃないか」としか言わない。しかし、顔を見れば大体何を言いたいかわかるものだ。

もう一人の片腕の作間信司も、幅広い知識と人脈でカバーをしてくれる。作間は教育部長、常務理事と上がってきたが、私が入協してからセミナーの企画・運営までを手取り足取り教育してくれた。作間に、「〇〇県にこんな凄い社長がいる」という話をすると、まず知らないということはない。それどころか、実際に足を運んでその会社を訪問していたり、社長に直接会ったりしたことがあるという。作間のその人脈の広さ、行動力にはいつも頭が下がる。

来年からは、この私と作間で、本を出版していったり、セミナーを開催していくこととなっている。そして第一章にも出てきた事務局長の成田が全部門の統括をしていく。この作間と成田が、次の私の双肩となっていくのだ。

こういうことは、事業発展計画書に文字にして書き込み、事業発展計画発表会で声に出して発表し、何年も前から徐々にそういう体勢をつくっていかなくてはいけない。今日発表して、「明日からやりなさい」と言ってできるものではないからだ。

先日、とある会社の二代目社長からこのような相談を受けた。

「いま弊社で、課題に直面している幹部社員がおります。
 年齢は五十五歳、入社して三十四年が経過しております。
 役職は部長です。二部門を統括しています。

 いま、『本人が自覚している課題』と『私が、彼に対して思っている課題』の擦り合わせをしております。

 しかしながら、『本人が自覚している課題』と『私が、彼に対して思っている課題』の認識に幾分のギャップがあるように感じます。
 そこで……

 一、上手くいかない問題点の項目出しと、過去の実例
 二、その実例で、どのような問題が誘発されたのか
 三、どうしていけないのか、原因の追及
 四、いま何が必要なのか

 ……をまとめております。

 その課題がまとまりましたら、自分は今後どうしたいのか、あるべき方向性を自分で設定させたいと考えています。

 私だけの意見ではなく、本人に、第三者の方の意見も聞かせたいと思っております。一度、お時間をいただき、三人で面談していただけないでしょうか」

というものだった。私は、この相談を受けたときに違和感を持った。五十五歳の部長職だ。しかも、入社歴三十四年といえば、間違いなく先代が雇い、この二代目社長が入社する前から働いているベテラン中のベテランと言っていいだろう。

そのような幹部社員に、いまさら「課題の洗い出しと、あるべき方向性の設定を自分でやりなさい」というのはないだろう。

それができるのであれば、とっくに自分でやっているだろうし、できないのであれば、そもそも幹部としての適性に欠けるのではないか。これは、本人の問題ではなく経営者サイドの問題だろう。それを本人に考えさせるのは酷なことだ。

かつて、日本経営合理化協会の看板講師であった故一倉定先生は、「郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのも、全ては社長の責任である」と言っていた。まさにその通りだ。

雇用も、昇給も、昇進も、全ては社長が決裁をしていることである。期待以上の働きをしてくれる人もいるし、残念だが期待した働きが見られない人もいるかもしれない。しかし、全ては社長の責任である。

その五十五歳の部長は、昔からそうなのだろうか。そうであれば、頑張っている二部門の部下が可哀想だ。早いうちになんとかしなければならない。辞めていただくというのも一つの選択肢ではある。

しかし、雇用した責任も当然ある。まずその人が真に輝ける場所を探すのが社長の責任だと私は思う。長年働いてくれている古参社員の扱いを間違えると、全社員からの信頼を失うこともある。後継社長として肝に銘じてほしい。