少子高齢化による人手不足によって、中小企業の人材採用の難易度は高まり続けているが、事業の存続には継続的な人材採用が欠かせない。
本記事では、中小企業の人材採用で経営者が意識すべきポイントやおすすめの採用方法などを解説する。人材採用を効果的に行うための具体的な活動方法も紹介するので、参考にしてほしい。
目次
中小企業にとっての採用の意味
中小企業にとって採用はどういった意味を持つのだろうか。位置付けと合わせて改めて認識を深めておこう。
採用は人材戦略の欠かせない1ピース
人材採用は、人材の配置や育成と同様に人材戦略の中で欠かせない要素の一つだ。
人材戦略は、経営理念に基づいて策定された経営目標を達成するために、人材をどのように活用するかを中長期目線で定めたものである。経営戦略と同様に企業経営には必要不可欠で、人手不足が続く環境下では人材戦略上の課題がそのまま経営の存続に直結する恐れがある。
採用段階で明確な指針に沿った活動ができなければ、その後の配置や育成などにも多大な負担がかかるため、人材戦略の中でも重要な1ピースだ。
中小企業の採用はシビアな状況が続く
少子高齢化による生産年齢人口の減少については誰もが知ることであるが、中小企業の経営上の課題でも「求人難」を挙げる企業の割合が増え、バブル崩壊直後と同じ水準まで高まっている。
また、業種別に人手が不足する度合いの差も大きい。「中小企業白書(2022年版)」によると、2013年四半期以降は全ての業種が人手不足を実感している状況だが、特に建設業はコロナ禍以前から他業種に比べて人手不足を強く感じている企業が多い。
また、製造業に比べて非製造業の方が人材の未充足率が高いとされている。
中小企業が人材採用で意識すべきポイント3つ
人手不足ながら採用に苦しんでいる中小企業にとって、限られたチャンスの中で少しでも採用目標の達成に近づくには、大きく3つのポイントを意識する必要がある。
(1)経営者と人事部の連動は特に重要
人材採用では、経営者と人事部のどちらもが参加して連動することが重要だ。
求人への応募者数が少なく工数も限られる中で、人事部に採用計画や選考試験の実施を任せ、経営者が最終面接にだけ参加して人材を見極めるという進め方では採用活動の効率が悪過ぎる。
逆に、経営者が前面に出過ぎて人事部の活動を制限するのも望ましくない。小規模企業にありがちだが、トップダウン色が強すぎる人材採用活動では経営者の意向のみが反映され、組織のバランスを崩す恐れがある。
(2)募集の目的、自社に必要な人材を明文化する
自社が人材募集をする目的や必要とする人材のイメージを具体的に言葉にして伝えることも大切だ。
求人票に業務内容や待遇、採用方針だけを記入しても、読み手には採用に対する熱意が伝わらず、ただの働き先として考える応募者が増えるだけだ。自社が欲しい人材の応募を促したいなら、経営者の思いを明文化して示す必要がある。
人材採用に困りにくい大企業ですら、経営者の言葉とともに人材採用や人材マネジメント方針についてアピールしていることを忘れてはならない。
自社のコーポレートサイトでは、事業紹介だけでなく新たに採用ページを設けて情報を発信していこう。採用ページがあっても応募方法や選考方法、人事部への連絡先だけを記載している会社は少なくないので、差別化にもつながるだろう。
経営者と社員のつながりが強い中小企業は、人材採用活動において強力なライバルである大企業に負けないためにも、採用に対する思いを言葉にするべきだ。
(3)採用では人柄を重要視する
中小企業の人材採用では、人柄を重要視して選考することが大切である。
中小企業という小さな組織では、職場の雰囲気を壊すような社員が1人いるだけでも他の社員への影響が大きい。人手不足ですぐにでも人材を採用したい場合でも、自社の経理理念や社風、既存の従業員とのマッチ度などを念頭に置いた上で採用することが重要だ。
優秀なスキルを持った人材が欲しいかもしれないが、スキル面については外部サービスの利用や他社との協業などによって補える。経営者と社員がこれまで築いてきた職場の雰囲気を損ねず、共により良い組織を作る意識を持てるような人材を選ぼう。
中小企業におすすめの採用方法
中小企業には大企業ほどの人材採用のノウハウがなく、リソースも限られているという前提で採用活動を進める意識が大切だ。ここでは、中小企業におすすめの採用活動方法を紹介する。
人事部だけに負担させない
人材採用で意識すべきポイントでも紹介したように、人材採用活動を人事部だけに負担させないようにしよう。
採用活動の計画段階から経営者と人事部が協議を行い、自社に必要な人物像について認識をすり合わせた上で、書類選考や筆記試験など選考試験の初期段階から連動する意識が大切だ。
また、経営者だけでなく採用後に一緒に働くことになる現場の管理職や社員にも、書類選考や採用面接への協力を促そう。
現場の社員は最前線で働いているからこそ課題をよく認識しており、社員目線からのアドバイスを得られることも少なくない。忙しいと断られるかもしれないが、採用して配属されれば育成も含めて最も深く関わっていくのは現場の社員だ。
採用計画や採用方針などの情報を共有し、一丸となって人材採用活動を行っていこう。
人材募集は複数同時に行いリファラル採用も取り入れる
中小企業は、大企業や中堅企業に比べて求人に対する応募者数が少ない傾向にあるため、人材募集は複数同時に行い、社員を通したリファラル採用も取り入れよう。
人材募集の具体的な手法には、以下のようなものがある。
・ハローワークへの求人掲載
・フリーペーパー(無料の求人誌)の利用
・自社の採用募集ページやSNSでの情報発信
・求人サイトへの求人掲載
・ダイレクトリクルーティングサービスによるアプローチ
ダイレクトリクルーティングとは、サービス会社に登録している求職者に企業が自らアプローチする採用手法であり、リクルートダイレクトスカウトなどが有名だ。
応募を待つのではなく、企業側から気になる人材にアプローチできるので、マッチ度の高い人材を採用しやすい。
リファラル採用は、社員に自社が必要とする人材と近い人柄や経験、スキルを持つ友人や知人などを紹介してもらう採用方法だ。
縁故採用は自社が求めるスキルや経験などを有しない人材を採用することになる場合も少なくない。一方、リファラル採用は社員から採用方針に合致する人材を紹介してもらうのが前提なので、選考試験の前段階からある程度信頼性の高い人材を選定できるというメリットがある。
選考試験では筆記試験も行って見極める
中小企業の選考試験では、SPIなどの筆記試験も行うことをおすすめする。
書類選考と採用面接だけで判断すると、人事や面接に参加した管理職や経営者の主観的な視点での評価が強すぎるので、採用した後に思わぬ課題が見つかることもある。
これまで人材を見極めてきた経験は大事だが、客観的評価を入れることで偏った評価による採用判断を防げるだろう。
筆記試験を導入することで、求人に応募してくる人材を厳選できるメリットもある。
書類選考や面接だけの選考試験では、お試し受験といった意味合いで応募してくる求職者が少なくない。筆記試験を行うことで、試験対策のような準備を面倒に思う人の応募を抑止できる。
筆記試験には、SPIを始めとして玉手箱やTG-WEBなどすでに採用現場で活用されている試験が多くあり、人材採用への投資コストとしてはそれほど高くない。基礎的な学力診断や性格適性の把握に役立て、気になる点は面接で確認しよう。
採用活動の結果をフィードバックする
採用活動の結果を分析し、次の採用活動にフィードバックすることも大切だ。
中小企業は大手企業ほどのリソースと予算がないからこそ、自社にあった採用活動を見つけることが大切であり、採用活動結果の振り返りが必要である。
採用活動では競合他社が全国に多数存在しているだけでなく、求職者側の情報収集方法も多様化しており、SNSを利用した求人情報の発信も欠かせない要素だ。人材採用活動も事業活動と同様に変化に対応する必要があるため、採用活動後の分析とフィードバックを忘れてはならない。
自社の採用計画に対する進行具合を確認しつつ、以下のように要素ごとに結果を確認しよう。
・応募者数は予想に比べてどれくらいだったか
・応募者の中でマッチ度が高い人材は何人いたか
・どの媒体を経由して応募した人数が多かったか
・選考試験や内定の辞退者数はどれくらいだったか など
自社データを分析して課題を抽出し、次の採用活動の改善につなげよう。改善活動では外部サービスの利用も検討しつつ、競合他社の採用活動をウォッチして自社の参考になるものは積極的に取り入れていくとよい。
新卒採用は早期から学生に接触
人材採用活動では大手企業が特に強大なライバルになるからこそ、新卒採用では学生への早めの接触を心がけよう。
新卒採用では政府から早期採用活動の自粛要請が出されている。あまりにも足並みが外れた行動を取るとSNS等の情報拡散で信用を著しく低下させる恐れがあるため、選考自体の前倒しは好ましくない。
しかし広報活動について、個人情報を活用しない不特定多数へのアプローチは許可されている。自社の職場見学や短期インターンによる職場体験、学校訪問などを通して、学生に自社の存在を知ってもらう活動は積極的に行った方がいいだろう。
中小企業の人材採用には会社が一丸となって取り組もう
中小企業にとって人材採用は人材戦略の重要な1ピースであり、採用活動も戦略的に行う必要がある。
人手不足だからこそ人事部に任せきりにするのではなく、人材採用に経営者も積極的に関わり、配置や育成にバトンをつないでいかねばならない。会社が一丸となって企業経営に取り組めるような環境を作り上げよう。
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文・隈本稔(経営・キャリアコンサルタント)