企業が成長し、競争力を保つためには、常に新しい市場を開拓する必要があります。そのためには、事業展開が不可欠です。そして事業展開に向けた戦略の立案や実行には、綿密なプランニングとリスクマネジメントの能力が求められます。
事業展開の成功が、企業の成長や収益の増加につながります。本記事では事業展開の目的や流れ、注意すべき点などをご紹介します。
事業展開とは
事業展開は、企業が新しい市場や地域、顧客層、または製品領域への進出を計画し、それを実行する一連の行動を指します。
具体的には本業以外の領域で新たに事業を立ち上げたり、外部企業との提携など様々な方法が挙げられますが、近年は事業展開を目指す企業が、M&Aを活用するケースが増えています。
事業展開を行う目的
成長戦略
企業の事業活動は、市場の変化や競合の存在が大きな影響を及ぼします。
既存事業の市場が縮小、あるいは衰退傾向にある場合、新たな領域への事業展開が有効な手段として考えられます。
既存事業とは異なる市場で新たな顧客層を獲得できれば、事業の収益源を多角化、リスク分散につなげられます。また既存事業にはない技術やノウハウを獲得すれば、既存事業の競争力を高められます。
そのため、市場調査を通じて顧客の需要を理解し、それに対応した製品やサービスを開発することが重要です。
海外市場への進出も、企業にとって新たな成長機会を得るための重要な戦略のひとつです。海外に進出して新しい市場に参入できれば、既存のビジネスに対するリスク分散やグローバルなビジネスネットワークの構築ができるようになります。
また成長著しい海外市場には、国内市場にはない需要や購買力が存在し、新たなビジネスチャンスを生み出すことが期待できるため、海外への事業展開を選択する企業が増えています。
多角化による、事業リスクの低減
事業領域を拡大すれば、企業の事業リスクを分散できます。例えば、同じ業界ならば製品ラインナップの多様化や事業領域の拡大によって、市場の変化に強い企業体を構築できるでしょう。
以上のように、既存事業との連携によるさまざまなメリットが見込めるのです。
事業展開の具体的なプロセス
事業展開は、大きく3つのプロセスで行われます。それぞれについて見ていきます。
市場調査
市場調査は事業展開の初期段階で行う、新たな市場や製品分野を理解する重要な工程です。具体的には、目的地となる市場の規模、成長性、競争状況、顧客のニーズ、規制など、その領域に関する全体像を描くためのデータ収集と分析が含まれます。 市場調査の方法はさまざまですが、主に次のような手段が利用されます。
- オンライン調査
- フィールド調査
- 有識者へのインタビュー
- 市場に関する各種オープンデータ 等
また、これらのデータをもとにSWOT分析(Strengths、Weaknesses、Opportunities、Threats)など各種フレームワークを用いた分析を行い、事業展開の方向性を明確にしていきます。
市場調査は、事業展開が成功するか否かを左右する重要なプロセスであり、展開すべき市場や製品分野を明確に特定し、その市場における自社の位置付けや価値提案を考えるための基盤となります。
戦略策定
市場調査に基づいて得られた洞察をもとに、次に事業展開に関する具体的な戦略を策定します。この戦略は、製品開発、価格設定、マーケティング、販売、パートナーシップなど、事業展開に関するあらゆる決定を導くフレームワークとなります。
戦略策定の際には、市場のニーズに対して自社が提供する価値、競争優位性、目標市場へのアプローチ方法などを明確に定義することが重要です。また、事業展開のビジョンと目標、成果を測定するためのKPI(Key Performance Indicators)も設定します。
戦略策定は複雑なプロセスであり、しっかりとした市場調査とリソースの評価、さらにはリスクの評価に基づくものでなければなりません。適切な戦略を持つことで、企業は市場における自己の位置を確認し、目指すべき方向を明確にすることができます。また、戦略は事業の進行と共に適応的に見直すべきものであり、市場環境の変化や業績の動向に応じて必要に応じて修正を行うことが求められます。
資源確保
次に、事業展開を成功させるために必要な資源を確保します。
資源とは、金融資源(資金)、人的資源(人材)、物的資源(設備や技術など)など、多岐にわたります。
金融資源の確保は、金融機関からの融資、投資家からの資金調達などによって行われます。
人的資源の確保には、新たな人材の採用、既存の人材のスキルアップ、または外部の専門家やパートナー企業との協業が含まれます。
物的資源の確保は、新たな設備の購入、既存の設備の改善、または新たな技術の取得や開発を通じて達成されます。
これら市場調査、戦略策定、資源確保のプロセスは、新たな事業展開を成功させるための基本的なステップです。これらのプロセスは相互に密接に関連しており、一つ一つが事業展開の成功に重要な役割を果たします。
それぞれのプロセスを適切に実施し、それらが一貫性を持つように管理することで、企業は市場での競争力を獲得し、新しい事業を成功させる可能性を高めることができます。
事業展開を行う上での注意点
上記プロセスを経て事業展開を行う上で、特に注意すべき点は以下の3つです。
適切な調査と分析
初期プロセスにある市場調査で、市場やターゲット層について正確に把握することは非常に重要です。
正確に把握することは、すなわち適切なマーケティング戦略やプロモーション戦略の策定につながります。また競合他社との差別化や、新たな市場の創造にもつながります。
表面的に市場調査を実施・分析してしまうと、ニーズや成長性を過大評価してしまうことになりかねません。そのため事業展開の成功には、的確な調査設計と分析が不可欠です。
人材確保・育成
資源確保の中でも、新たな事業展開の体制に大きく影響する「人的資源」の確保は重要です。資金や物的資源が確保できても、実際に運用するために必要なスキルや知識を持った人材がいなければ、事業展開を計画通りに実施することは困難です。
適切な人材の確保、育成によって、新たなアイデアや視点を取り入れられ、新しい商品やサービスの開発や既存事業の改善も期待できます。
リスク対策
新しい分野や市場に挑戦するには、予測不可能なリスクがつきものです。
これらのリスクを予測してリスクマネジメントに努めれば、失敗のリスクを最小限に抑えられるでしょう。そのためには、事前の情報収集や市場調査が欠かせません。またリスクの発生に備えて、事業計画を慎重に立てて計画の見直しや修正を行うことも重要です。
また事業展開を行えば、競合他社との差別化を図り、新たな収益源を生み出すことも期待できます。さらに新規事業展開によって、事業のリスク分散につながります。
事業展開をM&Aで推進するポイント
M&Aは、企業が事業を迅速に拡大するために有効な手段です。新しい市場にゼロから参入する場合、多大な時間とコスト、リソースが必要になりますが、M&Aで買収することによって、相手企業が保有する商品や技術、人材、チャネル、顧客を活用できるため、自社が新しい市場に参入しやすくなります。
ただし、M&Aによる事業拡大には十分な市場分析やリスクマネジメントなどが必要であり、財務や法に関する知識も不可欠です。またM&Aに伴い経営統合に関する課題も生じるため、社員や顧客、株主などステークホルダーの理解や合意形成も必要となります。
企業がM&Aを活用した事業展開を行う場合は、その戦略的意義やリスクを十分に考慮しつつ、財務や法務などの専門家と共に計画を練ることが重要と言えるでしょう。
事業展開を実現した企業事例
最後に、実際の事業展開の企業事例をご紹介します。
事業展開の事例①(Apple)
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・Apple社は1976年の創業来、パーソナルコンピューターの製造・販売を主な事業としていた。
・2000年代に入りデジタル音楽プレーヤーの「iPod」、それに続くオンライン音楽販売サービスの「iTunes Store」を立ち上げ、新たな事業領域へ進出。
・2007年、Appleは事業展開をさらに進化させ、スマートフォン市場に参入することを発表。
iPhoneの登場はスマートフォン業界に大きな革新をもたらし、Appleの事業を大きく拡大させる結果となりました。Appleは新たな市場ニーズを捉え、それに応える製品を開発し、必要な資源を確保することで新たな事業領域を切り開いたのです。
また、AppleはiPhoneだけでなく、iPadやApple Watch、Apple Musicなど、新しい製品やサービスを次々と展開し続けています。これらは全て新しい事業展開の一環であり、Appleの事業を多角化し、成長を続けさせる基盤となっています。
事業展開の事例②(ソニー)
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・1946年、東京通信工業として設立。オーディオ機器、テレビ、ビデオカメラなどの電子製品を中心に事業を展開。
・1980年代から1990年代初頭にかけて「ウォークマン」やCDプレーヤー 等の主力製品を誕生させてきた。
・1994年、初の家庭用ゲーム機「PlayStation」を発表。
1990年代に入り、ソニーが新たな市場として家庭用ゲーム機に注目した背景には、ビデオゲーム市場の成長とともに、テクノロジーの進歩によりゲームの可能性が大きく広がったことが挙げられます。
ソニーはこれをチャンスと捉え、自社の技術力とクリエイティブ力を活かして、新たなゲーム機を開発することを決定しました。
ソニーは市場調査により新たなビジネスチャンスを発見し、戦略策定を通じてそのチャンスを具体的な製品に落とし込み、資源確保により製品開発とマーケティング活動を行うことで、新たな市場への事業展開を成功させました。
事業展開の事例③(本田技研工業)
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・1948年、自転車用補助エンジンの製造からスタートし、オートバイの製造を主な事業としていた。(1958年 スーパーカブ発売)
・1960年代、自動車の開発と生産に取り組む。当初は小型車を中心に生産、後に高級車やスポーツカーに取り組む。 ・その他、航空機事業として小型ジェット機の開発・生産や、燃料電池車の開発など幅広い分野で事業を展開。
これらの事業展開は、ホンダの技術力と創造力、そして市場への洞察に基づいて行われています。ホンダは新たなニーズを先取りし、それに応える製品を提供することで、長期的な事業成長を実現してきました。
終わりに
事業展開には、新しい市場への進出や既存事業の拡大などのさまざまなメリットがあります。また、事業展開によって新しいビジネスチャンスの創出や収益性向上なども十分に期待できます。
しかし、事業展開には市場環境や法規制の変化、競合他社との競争激化など、多くのリスクが伴うことを理解しておかなければなりません。
事業展開の戦略策定やリスクマネジメントを行う上で、便利なのが専門家の知見です。事業展開に詳しい専門家ならば、市場調査や戦略の策定・実行からリスクを最小限に抑える方法までを熟知しています。
彼らの持つ知識をどれだけ活用できるかが、今後の事業展開を成功させる鍵となるでしょう。
日本M&Aセンターでは企業戦略のコンサルティングをはじめ、経営課題の解決に向けて専門チームを組成しサポートを行っています。
著者
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