仲間,仕事
(画像=nd3000/Shutterstock.com)

先進国の経済が成熟期に入り、アジアをはじめとする多くの国々の経済成長が加速している。市場の成長性を見込んでクロスボーダーM&Aを検討する日本企業は増えており、その動きを支援する形で制度改正も行われ、追い風が吹き始めている。

株式会社日本M&Aセンターで海外M&Aを専門的に支援する海外支援室課長の今井氏に、海外M&Aがもつ可能性や、中小企業が行う海外M&Aの意義について伺った。

もはやクロスボーダーM&Aは大企業だけの出来事ではない

──海外進出をしている企業は増えているかと思いますが、大企業だけの話……という印象もあります。

ニュースなどで大きく取り上げられるのはやはり大企業によるM&Aが目立ちます。業界に与える影響も大きいので、それだけ関心を集めますからね。

私たち日本M&Aセンターでは中小企業によるアジアでのM&A案件を中心に扱っていますが、それでも月に3~4社はコンスタントに海外視察へご案内し、実際に売却を希望する企業との面談を行っています。

──中小企業といえども海外進出がまったくの夢物語や現実からかけ離れた考えというわけではないのですね。実際にM&Aをしたいと思った場合、どのようにして相手企業を見つけるのですか?

例えば当社にご相談いただいた場合は、当社のシンガポールオフィスに集約されている売却ニーズからご希望に合う案件をご案内しています。もしも条件に合う案件がなければ一度ご相談をストックしておいて、よい売却案件が出たら順次ご案内をしていきます。

──海外での売却ニーズはどのように集めるのですか?

アジアの主要国にスタッフを配置し、会計事務所との接点を作っています。売却を考えているという相談はその企業の顧問である会計事務所へ持ち込まれることが多く、そこで情報を吸い上げて当社でストックしておくことができます。

これまでは売却ニーズがあっても企業同士をつなぐ役目を果たす人がいないために、相談を受けた会計士の方が知り合いにあたってみるなどしか方法がありませんでした。それでは案件は国境を越えられず、日本企業と出会う可能性はとても低い。

当社に情報が集まるようになったおかげで、日本企業と信頼できる海外企業とのM&Aが成立しやすくなっています。現在シンガポールオフィスはアジア全体で40ほどの会計事務所とネットワークを構築し、多彩な売却ニーズを集めています。

若手や次世代の活躍の場として

──クロスボーダーM&Aを行う際、必ず誰かが管理者として現地へおもむく必要があるということでしたが、中小企業ではなかなかそういった人材が出てきにくいのでは?

すでに海外事業部などがあったり、グローバル展開を進めていたりする大手企業と比べると、中小企業ではやはり国内に根を張って……という考え方の社員も多いでしょうし、現実としてなかなか最適な人材が見つからないという課題はあります。実際に海外進出を妨げるケースで多いのは、実際に担当する人が見つからず計画が進められなくなることですから。

ですが、経営者が「海外進出をやりとげる」と本気で向き合っていると、そこに触発される社員が現れるものです。そういった社員に期待して、成長のチャンスとして海外で活躍してもらってもよいでしょうし、やはり経営者自らが海外でマネジメントをする必要もあるでしょう。

──中小企業の海外進出は、企業そのものだけでなく、社員の成長機会にもなりそうですね。

そうです。最初に「海外進出を検討する経営者は大局を見ている」とお話ししましたが、まさにそれは次世代へのステップのことでもあります。

企業としては国内にまだ事業展開の白地があり、海外進出を急ぐ必要はないかもしれません。ですが、自身が引退して次の世代へと企業を引き継ぎ、長く続けていってもらうことを考えると、次世代の成長という課題は無視できません。

さらにその頃には今よりも企業のグローバル化が進み、海外で働くことも当たり前の時代になっている可能性が高い。となれば、早いうちから社員を海外へ送り出し、経験を積みながら活躍してもらうのが企業の将来にとって重要性を増すはずです。

今はまだ大企業と大手金融機関の連携によるM&Aが大きなニュースとして取り上げられるだけの時代ですが、大手の動きはいずれ必ず中小企業にも伝播してくるものです。そうなったときに海外進出を急ぐと、失敗のリスクも高まります。

──M&Aのような決断をするには慌てて決断をするよりも、市況を見ながらタイミングを選びたいですよね。

そうですね。マーケットの状況が悪くなるとどうしても取引の動きも鈍化しますし、買収する側に立つと多額の資本を動かす決断ができるのは業績が好調なときに限られるはずです。「今は好調だから大丈夫」という考え方よりも、「好調な今のうちに次の手を打っておこう」と、海外での事業展開に向けた意識を高く持っていただけたらと思います。

いきなりのM&Aは不安……という場合も、まずはリサーチのために営業所を設立するとか、比較的安定している国を選んで支店を設立してもよいでしょう。とれるリスクを正確に判断し、海外への足がかりを作っておくことをおすすめします。

現金資本だけでなく株式対価M&Aが可能になり、今後はますます国内外を問わずM&Aが活発化するでしょう。そうした動きをできるだけ早く「自分事」として考え、経営の舵取り役としてアンテナを張っておくこと。

経営者が思い描いた将来像に必要なピースを見つけ、的確に当てはめていく。その過程で“海外”という選択肢が欠かせないものであるならば、そのリスクはテイクすべきだと考えます。

私たち日本M&Aセンターの海外支援室としてもそうしたお客様を全力でフォローしていますので、中小企業にとって海外M&Aがもっと身近になっていけばと思っています。

文・THE OWNER編集部