ビジネスマン
(画像=THE ONWER編集部)

海外進出の選択肢として、クロスボーダー(海外)M&Aを検討する企業も増加傾向にある。単独資本と比べてスピード感があること、すでに営業活動の基盤が整った状態で事業をスタートできるといったメリットがあるが、実際に海外でのM&Aを行った後にはどのようなオペレーションが必要になるのだろうか。

株式会社日本M&Aセンター・海外支援室課長の今井氏に、海外M&Aで経営者が意識しておくべきポイントを聞いた。

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現地でスタッフをコミュニケーションできる管理者を確保する

──海外M&A検討時のハードルについては、正確なリスク把握によって下げられることがわかりました。それでは、実際に海外の企業をM&Aする際に、経営者が気をつけておくべきポイントはどこにあると思われますか?

M&Aには経営者の方の本気度、つまり覚悟が必要だとお伝えしましたが、経営者のみにやる気がある状態でもうまくいきません。海外で実際にマネジメントを行うのは誰なのかを考える必要が出てきます。

例えば実際の企業内での議論でも、誰が現地に行くのかが決まらずに断念されるというケースが見られます。海外での事業展開に関心があり、提携先としてよい国も企業も見つかったけれど、マネジメントできる人材がいないためにあきらめるというのは、珍しくありません。

──日本国内にいながらでは、やはり難しいのでしょうか。

不可能ではありませんが、M&Aによって結ばれた企業同士はいわば親子のような関係です。物理的な距離があると、関係を築くことができません。せっかく縁があってM&Aをしたのですから、現地で企業を成長させて市場に入り込むためにも、まずは経営者自らがきちんと参加して、関わっていくことが重要ではないでしょうか。

こうしたコミュケーションの不足は大手企業では特に起こりやすく、親会社側のオペレーションをそのままM&A先に持ち込んでしまうケースがありますが、どうしてもマニュアル化された日本企業のやり方とは合わない部分も出てきます。

親会社への日々の報告など、元々は必要のなかった業務を現地の企業に負担してもらうことになるので、何のコミュニケーションもない状態だと「日本のやり方を押し付けられた」と感じるスタッフも出てくるかもしれません。

──確かに、ある日やってきた新しいボスに従うというのは、仕事とはいえあまり気持ちのよいものではないかもしれませんね。

管理者も多くの場合は駐在として海外へおもむくので、1~2年もすれば日本へ戻るという認識でやって来るので、現地の社員との目線はそろいにくいかもしれません。管理者を派遣する場合は、現地の社員と同じ目線で考え、一緒に働くという感覚をもった人材を配置するのが理想的だと思います。

私たちは国内でも4000件以上のM&A取引を扱ってきましたが、PMI(Post Merger Integration…M&Aが成立した直後の統合プロセス)においての関係構築は本当に重要なものです。

現地の企業におもむき、そこで活躍している社員と顔を合わせて関係を構築していく。国内でも大切なことだと思いますが、言葉やビジネススタイルの違う海外であればなおさらです。より丁寧なコミュニケーションを心がけることを意識してほしいですね。

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経営者+現場レベルの社員をまじえてビジョンを共有する

──コミュニケーションの重要さはM&Aの場においても変わらないのですね。

そうですね。とはいえ、M&Aをした側の日本企業はもちろん相応の対価を支払っているのですから、現地の企業に過剰に気を遣う必要はありません。まずは経営者やマネージャーが日々のオペレーションを見ながら、双方の落としどころを見つけていくのがよいと思いますよ。

そのためには、M&A成立が見えてきた段階で経営者だけでなく、現場でのキーマンともいうべき管理ポジションの社員もまじえた話し合いの場を設けるのがマストです。日々の仕事はどのように行われているのか、実際にどのような人が働いて企業を支えているのか……。そうした情報をキャッチしていくことが欠かせません。

──現場レベルの社員にもM&Aの話し合いの席についてもらうということですか。

M&Aは基本的に株の売買によるものですから、極端にいえば株主同士の話し合いだけでも成立させることはできます。実際に、上場企業の買収などの場合には情報がもれないように関係者を必要以上に増やさない方策をとるため、経営層だけが情報を握っているという状態が一般的です。

一方で、未上場企業の場合は現場で働いている人のモチベーションを最も大切にすべきです。この人たちがM&A後、親会社に対してポジティブな気持ちになれるかどうかは、そのまま企業の業績に関わるといっても過言ではありません。

元々の経営者の抱いている経営理念や会社への思い、描いている将来のビジョンをしっかりと理解し、ある程度は経営スタイルを引き継ぐような形で現地へ入っていくのが、現地の社員も適応しやすいはずです。

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段階的な譲渡も選択肢に入れておく

──M&A先の企業に大きな変化を強いるのではなく、これまでのスタイルを急変させなくてもよい経営にするために、何かできることはありますか?

M&Aの条件に組み込むというのも一つの手段です。

今までの収益を維持しつつ、プラスにつなげていくために、株主だった社長も含めて今いる経営陣に残ってもらうという方法もあります。実際に、私たちが扱っている案件のほとんどはそのようにして経営を徐々に切り替えていっています。

買収する側の経営者が不安を感じるのと同じように、会社を売却する側のオーナーにももちろん自分が経営してきた会社への思い入れはありますし、これまでとどのように変化するのか不安に感じることも多いはずです。そこで、一度は株主として残ってもらい、一緒に経営をしていくスタイルをとることもできます。

業績目標を設定し、ともに歩みながら少しずつ持ち株の比率を変えていくグラデーション的な方法や、最初に一部の株だけを買い、目標を達成したら残りの株を買い取って経営を切り替える「二段階譲渡」など、期間を定めて経営に残ってもらうことで、元の経営者と新たな経営者が同じ方向を向いてビジネスに取り組めるような仕組みづくりを推奨しています。

中小企業社長が今こそ「海外M&A」を考えるべき理由
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