世界経済が発展するにつれ、経済が成熟期にある日本国内だけでなく、今後の成長が見込まれる海外諸国へ目を向ける動きはますます活発化している。
2019年3月に発表されたJETRO(日本貿易振興機構)の統計によると、3年以内に海外への進出を新たに検討したいとしている企業は、すでに海外進出をしていて拡大を検討している企業と併せると57.1%と半数以上の水準となった。
中小企業に焦点を当てると、「新たに進出したい」としている企業の割合は28.7%で、2013年度の調査以降3割近くの水準を保っている。
海外市場への進出は、もはや企業の継続や成長と切り離せないものになりつつあるといえる。実際に海外展開を検討したとき、どのような方法があるのだろうか?
日本企業のM&Aを支援する株式会社日本M&Aセンター・営業本部海外支援室課長の今井氏に、企業の海外進出の現状や注意点について伺った。
海外進出は当たり前の選択になりつつある
──海外への進出を視野に入れている企業が増えているとのことですが、本当にいわゆる「待ったなし」の状況なのでしょうか?
海外に進出することで企業にもたらされる最大の効果は「成長」や「事業継続」です。海外市場は日本だけの市場と比べれば当然大きなものですし、成熟期にある日本よりも大きな成長性が見込めるでしょう。
経営者の方であれば肌で感じていらっしゃる方が多いと思いますが、企業ができるだけ長く事業を続けるためには“成長”が欠かせません。日本の世界に占める市場規模が小さくなっていくなかで、国内での“現状維持”はほとんど衰退と同じものを意味します。
──国内にいては衰退するだけ、ということですか?
もちろん、今すぐに海外進出をしなければならない!ということではありません。国内でまだやれる事業もあるでしょうし、成長を見込める分野もあるでしょう。ただ、日本の市場で競争しているよりも海外の市場で競争したほうが勝ちやすいかもしれませんね。
例えば日本のものづくりのレベルや行き届いた品質管理、丁寧な仕事ぶりなどはやはり世界でも高く評価されていますから、同じような能力を備えている日本企業同士でしのぎを削るよりも、そうした競合のいない海外市場で戦ってみるというのも選択肢としては大いにあると思います。
また、海外進出について検討していらっしゃるお客様からお話を聞いていて感じるのは、目先の収益だけでなく大局を見ているということです。
世界経済は成長を続けています。その中で、日本が占めるGDPのシェアは確実に下がっていくことが予想できます。2018年の経済産業省の発表では、世界各国の経済成長率はおよそ3%ほどですが、アメリカやヨーロッパ諸国は2%や1%台が多く、日本は1%を下回っています。
それではどこが世界の経済成長をけん引しているのかというと、中国やインド、それからASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国といったアジアの国々で、いずれも5%以上の経済成長率を見せています。
──アジアの影響力が伸びているのですね。
そうです。現在世界に占めるアジアのGDPシェアは20%台後半ですが、長い目で見ると30年後には50%になるともいわれています。アジアはどんどん経済成長をしていくので、労働人口が減少していく日本から外国へと視野を広げるという選択も現実味を帯びてきますね。
海外進出の方法は進出先によって規制のある国も
──海外進出の相談を受けたり、実際に進んでいる案件を見たりするなかで、海外進出が多い業種などはあるのでしょうか?
多少、傾向はあります。具体的には、将来的に日本での仕事が減る=国内市場が衰退すると予想される分野ですが、例えば食品関連などがあげられます。
日本はこれから人口減少が加速していきます。そうすると必要な食事の量も減っていきますよね。いわゆる「胃袋」が小さくなるわけです。そのまま放っておけばパイはどんどん小さくなっていくので、海外市場に活路を見出すべく当社へご相談いただくケースは多いです。
同様に建設業も日本市場の縮小が予想されます。人口が減っていくと今のようなペースで建物をつくる必要もなくなるかもしれませんし、反対に他のアジア諸国では人口がどんどん増え建物の需要が高まっていますから、そちらへの進出を考えるのは自然な流れといえるでしょう。
つまり、人口の減少によって影響を受ける事業展開をしている企業は、海外に目を向けるべきだともいえますね。
──海外進出が企業にとってメリットのあることだと判断した場合、具体的にはどのような方法があるのでしょうか。
大きく分けて二つの方法があります。一つは単独資本でオーガニックに海外へ進出すること。もう一つは海外の企業をM&Aによって買収し、海外で事業を行うことです。
単独資本での海外進出の場合はさらにいくつか方法があって、「出張所」や「営業所」という形で拠点を作るのが最も簡単な方法です。ただし、この方法では現地のお客様を相手に営業業務を行えません。請求書の発行などもできないので、本格的な海外進出に向けた市場調査のために仮の拠点を構える……という認識がよいでしょう。ちなみに、国によっては営業所であっても登記が必要なところもあります。
次に考えられるのが「支店」の設立です。支店の設立には登記が必要ですが、現地での営業が可能になります。本格的に海外へ打って出るのであれば、支店レベルは必要になりますね。
それから、さらに本格的に海外での事業展開を考えるのであれば、法人の設立を検討します。
法人登記には、完全に単独資本で行うか、現地にある外国企業または日系企業と出資しあって法人を設立するかという選択があります。コントロールしやすいという点では、単独資本のほうがおすすめですが、不安があるなら現地でパートナーを見つけ、合資で法人をつくる方法が選ばれます。
その選択肢の一つが、私たちが扱っている「M&A」です。海外にある法人を買収・合併によって子会社化するという方法ですが、現地法人であるアドバンテージを生かして、親会社となる日本企業が海外へ進出できるメリットがあります。
──単独資本で進出するかどうかは、経営者の判断にゆだねられているのですか?
国家には自国の経済を守るための「外資規制」というルールがあり、外国資本の極端な増加や、国内の企業が外国企業の流入によって圧迫されてしまうのを防ぐ目的で設けられています。
外資規制が強い国としては、代表的なところではタイやフィリピン、それからインドネシアやベトナムなどで外資規制があり、中には外国企業の参入を一切禁止している業種もあります。そうした場合には、現地の法人をパートナーとして、協働で事業を行う必要が出てきます。
──自社の事業がその国で営業可能かどうかは、前もって確認しておく必要があるのですね。
そうですね。外資規制だけでなく登記申請に必要な書類や雇用条件なども国によって違いますので、海外進出を検討する際にはその国の法律をしっかりと下調べしておくのがマストです。