M&Aコラム
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M&Aは譲渡企業(売り手)、譲受け企業(買い手)の双方が目的実現のために、M&Aを実行します。しかし、残念ながら中にはM&Aが失敗、交渉途中に破談に終わるケースもあります。本記事では、M&Aが失敗に至ってしまう原因や、対応策についてご紹介します。

M&Aにおける失敗の定義

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はじめに、M&Aが失敗したとみなされる主なケースについて見ていきます。

想定していたシナジー効果が得られない

M&Aの目的の一つとしてシナジー効果の創出が挙げられます。
シナジー効果とは、2つ以上の企業あるいは事業がM&Aによって統合された結果、それぞれの企業が単独で事業を行うよりも、互いに作用することでより大きな効果を生み出すことを指します。

たとえばM&Aによる事業規模拡大によって、企業の信頼性やブランド価値の向上、価格競争力の強化や物流コストの削減など、様々なシナジー効果が期待できます。
一方で、既存事業との方向性の違いや、想定外のコスト発生などさまざまな理由からマイナスの結果が生じてしまい、シナジー効果が得られない場合があります。

のれんの減損損失

M&Aを行う際には、仲介会社などの専門家が中心となり、譲渡企業(売り手)の企業価値を経済合理性に基づき算出します。したがって、ほとんどの場合、実際の企業価値と大幅に乖離した金額で取引が行われることはありません。

しかし、誤った企業価値評価が行われた場合、実際の価値とはかけ離れた金額でM&Aが進んでしまいます。
買収する金額と対象企業の時価純資産額の差額は「のれん」として計上されますが、M&A後の投資回収が上手く進まなければ、のれんの減損処理を行わなければなりません。

想定外なリスクの発覚

M&Aでは、事前に売り手側の財務や法務などに関するリスクを弁護士や公認会計士・税理士など専門家の力を借りて、徹底的に調査することが一般的です。
しかし、コスト削減などを理由にこれらの調査を専門家に依頼せず、調査が不十分なままM&Aを実行してしまう場合があります。

その結果、M&A後に簿外債務や巨額の損害賠償請求、コンプライアンス違反など、カバーしきれないリスクが発覚し、思わぬ負債を背負ってしまうことにつながります。

従業員の離職

特に譲渡企業(売り手)側の従業員は、M&Aによって環境が変わることへ不安を持つことは珍しくありません。不安から離職を検討するケースも考えられます。
もし事業の中核を担うキーパーソンが離職してしまうと、事業の推進にも影響が及び、買い手が想定したような効果が望めなくなります。

また譲受け企業(買い手)側の従業員も同様に、望まない子会社への異動などによってモチベーションが低下し、離職が発生するケースも考えられます。
そうした事態を防ぐためにも、M&A前後の関係者への説明や段取りに細心の注意を払い、不安を取り除くための丁寧なフォローが重要となります。

M&A交渉中の失敗要因と対処法

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M&Aの失敗には必ず理由、要因があります。M&A交渉中、成約後それぞれの状況における主な理由と対処法についてご紹介します。
M&Aの交渉途中で破談、もしくはスムーズに進まなくなる要因は主に次の3つです。

M&Aの目的が曖昧

M&Aを実行すること自体が目的化してしまっている場合は少なくありません。M&Aの目的が明確化されていない状態で走り始めてしまっては、相手選びも難航して長期化してしまい、もし成約しても思うような成果を望むことは難しいでしょう。

こうした事態を防ぐためには、基本的なことですが「何のためにM&Aを行うのか」「M&Aの失敗と成功の基準はどのように考えるのか」を、あらかじめ検討前に明確にしておく必要があります。
客観的なアドバイスを要する場合は、M&A仲介会社など経験豊富な専門家を交えて目的を明確化していくと良いでしょう。

情報の漏洩

「M&Aは秘密保持に始まり、秘密保持に終わる」と言っても過言ではありません。
交渉途中の情報漏洩によってM&Aが破談になるほか、情報漏洩がきっかけとなり、既存の取引先との関係に影響が出る可能性もあります。

情報漏洩を防ぐためには、しっかり情報管理ができるM&A仲介会社を選び、秘密保持契約を締結すること、M&Aに関わる担当者を必要最小限にとどめておくことが必要になります。

必要書類が不十分

主に譲渡企業(売り手)側の要因として挙げられます。中小企業のM&Aの多くは、譲渡企業(売り手)側の株主が保有する株式を、譲受け企業(買い手)側に譲渡する方法によって成立しています。

したがって、M&Aを行うに際しては、誰が株主でそれぞれ何株ずつ保有しているのか、双方が把握しておく必要があります。そのためには、株券や株主名簿などを事前に整備しておかなければなりませんが、書類を紛失している、もしくは作成されていない場合も少なくありません。

また後述のデューデリジェンスでは、税務申告書類や取引先との契約書などの各種書類が必要になるため、書類の不足によって十分に監査を行うことができなくなります。
このように譲渡企業(売り手)側の書類不備によって、M&Aがスムーズに進まず、場合によってはM&Aそのものが不成立に終わってしまう場合もあります。

対処法としては、あらかじめ必要書類やスケジュールの確認をしっかり行っておくこと、普段から必要書類の作成・管理とそのチェックを徹底することが挙げられます。

自社と相性が合わない支援機関を選定してしまう

M&Aを行う際は、仲介会社やFAのような支援機関の協力を得ることが一般的です。
そのためM&Aの成否には、その支援機関の選定もM&Aの成功には重要な要素となってきます。

理想的な相手企業と出会うための候補リストの質と量、マッチングや交渉の段取りなど、支援機関が果たす役割は小さくありません。

自社のことを理解してくれ、ベストなサポーターとなる支援機関を選択できるよう、多くの仲介会社から説明を聞き、納得するまで十分に時間をかけて考えた上で、選定を行うようにすると良いでしょう。

M&A成約後の失敗要因と対処法

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M&Aを行った後、結果的に失敗とみなされるケースの要因と対処法についてご紹介します。

相手企業の選定を誤った

M&Aの実行を急ぐあまり、M&Aの「成功」でなく「成立」に目が行ってしまうと、相手企業の選定を誤ってしまうことがあります。

M&Aは企業同士の結婚に例えられることもあるように、お互いの相性が大切です。双方の求めるものが一致していれば、お互いの努力で溝は埋められます。しかし、望んでいるものが違う者同士が一緒になったとしても、上手く行くことは難しいでしょう。

このような状況を防ぐためには、M&Aを行う前に「何のためにM&Aを行うのか」を十分に整理した上で、その目的を実現するふさわしい相手企業の条件を明確化する必要があります。

デューデリジェンスが不十分だった

主に譲受け企業(買い手)側の要因として挙げられます。
デューデリジェンスは、譲受け企業(買い手)側が、譲渡企業(売り手)側の企業価値の検討とリスクの把握を行うために実施する監査です。

財務、法務などあらゆる角度から適正な企業価値を検討する拠り所とし、リスクの把握と対処法を検討しスムーズにM&Aを進めるために、弁護士や公認会計士・税理士などの専門家たちの協力を得て徹底的に行われます。

しかし監査には費用がかかり、時間の制約もあるため、すべての問題点を確実に抽出することが難しいケースもあります。

対処法としては、譲渡企業の規模に見合った適正なデューデリジェンスの実行を必ず行うことと、最終契約書に「表明保証条項」を設けることが挙げられます。

「表明保証条項」では、譲渡企業(売り手)側は、偶発債務が存在しないことなどを表明するとともに、万が一M&A後に偶発債務が発覚した際には、補償するように定めます。
実施にあたっては、仲介会社のアドバイザーや専門家に相談し、あらゆる資料を徹底的にチェックすることが重要になります。

売却価格が実態とかけ離れていた

譲渡企業の株式評価額が、実態とかけ離れて適正でなかった場合、譲渡側・譲受け側のどちらかにとって、成功とは言いづらいでしょう。

実態より明らかに低い価格で売却した場合、譲渡企業のオーナーは売却利益が大幅に減ってしまいます。

一方で、実態より高い値段で譲渡できたとしても、譲受ける側にとって高額な「のれん」となり、回収は難しくなります。

M&Aにおける適性な評価額を算出するためには、M&A仲介会社や株式評価の専門会社に相談し、適正な評価額をあらかじめ把握しておくことが求められます。

株主・役員・関係者からの同意が得られない

株主や役員などからの同意が得られなければ、M&Aを進めることが難しくなります。たとえば譲受け企業が、譲渡企業に株式100%の譲渡を求める場合、譲渡企業側にM&Aに反対する株主がいれば、進めていくのは困難です。

また、一部役員がM&Aに反対していれば、相手との交渉に支障が生じかねません。その他、M&Aの開示後に、従業員や関係者から賛同が得られなければ離職などの事態が起こりかねません。

これらを防ぐためには、M&Aアドバイザーなどの専門家と綿密に関係者に対する説明の段取り、説明する内容の打ち合わせをし、事前に計画立てておくようにしましょう。

成約後のPMI(経営統合プロセス)の準備が不十分

主に譲受け企業(買い手)側の要因として挙げられます。M&Aのゴールは契約成立ではありません。契約成立後に統合作業を無事完了し、期待通りのシナジー効果が現れてこそ無事にゴールを迎えられます。

PMIは、単に業務の統合だけにとどまらず、経営理念や企業風土のような意識面での統合も行わなければなりません。この工程に失敗してしまうと、両者がバラバラとなって本来の力が発揮できないため、思い描いたシナジー効果を望むのが難しくなります。

こうした事態を避けるためには、M&A交渉の段階からPMIの専門家に入ってもらい、PMIに向けたプランを策定しておくのが良いでしょう。

M&Aの失敗事例

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最後に、M&Aの失敗事例をご紹介します。M&Aが失敗に終わってしまったケースには、ここまでお伝えしてきた要因となる部分が見られます。

譲渡企業の子会社の簿外債務が発覚し、損失を出した事例

A社は、世界規模でのM&Aを行うことで積極的な拡大路線を展開しており、海外メーカーB社も買収した企業の1社でした。
B社の子会社にはメーカーC社がありましたが、B社はA社による買収時に、C社の財務状況を正確に把握できておらず、その事実をA社に報告していませんでした。
C社は以前から莫大な簿外債務を抱えており、そのことが金融機関からの督促状で発覚し、最終的にA社は債務保証損失など含め数百億円を超える損失を出すことになりました。

M&Aの目的が不明瞭なまま、統合に失敗した事例

流通業大手のE社は上場するにあたり、投資家に対して積極的なM&A戦略を打ち出すため、海外物流大手であるF社の買収を行いました。
しかしE社のM&Aは目的が明確でなかったため、買収後もF社との連携は進みませんでした。最終的にE社は、数千億円を超える巨額の減損を計上せざるを得ない事態になりました。

事前の見通しが不十分で、思うようなシナジーを創出できなかった事例

飲食事業を展開するG社は、新たに事業展開する市場を海外に定め、現地で上位シェアを占めるH社の買収を行いました。
しかし、事前の市場調査や見通しが十分でなかったことに加え、景気悪化で現地通貨の値下がりの影響を受け製造コストは跳ね上がり、業績悪化の歯止めが効かなくなってしまいます。
その結果巨額の減損を計上し、上場以来初の赤字となり、最終的に買収価額より低い金額で他社に売却することとなりました。

終わりに

M&Aには、企業が抱えるさまざまな問題を解決し、大きく発展させていくための可能性が備わっています。しかし、M&Aを進めていくプロセスの中で抑えるべきポイントを抑えないことで、最終的にはそれらが原因となってM&Aが失敗に繋がってしまいます。

M&Aの成功確率を上げるためには、M&Aについて数々の経験・実績を保有するM&A仲介会社に相談してみることも解決の1つです。

著者

M&Aコラム
M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
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