人材育成に悩みながらも、具体的にどのように取り組めばいいか分からない中小企業の経営者は多い。本記事では、中小企業で人材育成が進みにくい背景にも触れながら、人材育成を成功させる方法を分かりやすく解説していく。中小企業の人材育成の成功事例や活用できる助成金も紹介するので、ぜひ参考にしてほしい。
目次
8割の経営者が人材育成に悩んでいる
中小企業庁の「中小企業白書(2022年版)」によると、人材を経営課題と認識している経営者は82.7%で、最も多いという結果だった。経営者が従業員に求めるスキルを見ると、チームワーク68.4%、コミュニケーション力64.6%、職種特有の技術力59.5%の順だ。
また、経営者の人材育成に対する姿勢が、従業員の意欲に大きく影響するというデータもある。経営者が従業員の能力開発に非常に積極的な会社と非常に消極的な会社では、意欲的な従業員の割合は、前者は87.6%、後者は42.9%だった。
さらに、人材育成の方針の明文化や、求める人材像の明確化が、売上高に影響することが分かった。
2015年と2020年の売上高増加率をみると、明文化されており従業員の能力開発計画や方針がある企業は11.6%、能力開発計画や方針がない企業は2.0%だった。また、求職者や従業員に求める人材像を公表している企業は10.7%、具体的な人材像を考えていない企業は1.4%だった。
これらの結果から、経営者が人材育成に取り組むことは、従業員の意欲の向上や売上の増加につながる可能性がありそうだ。
中小企業で人材育成が進みにくい背景
データでは人材育成が従業員の意欲向上や売上増加につながる可能性があるとはいえ、中小企業が人材育成に取り組む際にはさまざまなハードルがある。続いては、中小企業で人材育成が進みにくい背景として、4つの要因を解説する。
育成する人材がいない
「指導できる人間がいない」と嘆く経営者は多い。しかし、実はこの問題は意識改革で解決できる可能性がある。育成する人材がいないのではなく、育成する文化が根付いていないというだけのことが多いからだ。
経営者からの働きかけや仕組みづくり、外部セミナーの受講といった施策を通して、育成する文化が根付いていけば、自然と育成できる人材が育ち、好循環サイクルに乗ることができる。
ノウハウがない
ノウハウがないというのもよく聞く声だが、どの企業も最初はノウハウがないところからスタートする。人材育成を始め、試行錯誤するうちに、少しずつ企業独自のノウハウが蓄積されていくことになるだろう。また、必要に応じて外部講師やセミナーを活用するのも1つの選択肢だ。
時間が足りない
人材不足が深刻な今、従業員は本業で手一杯で、人材育成の時間までとれないと考える経営者も多いだろう。しかし、教える文化が根付いていないことで、非効率が生じたり、人材が定着しなかったりして、ますます時間がなくなるという悪循環に陥っている可能性がある。
このような流れは、どこかで断ち切らなければならない。経営者自らが人材育成に本腰を入れて乗り出せば、意外と時間は捻出できるものだ。
予算をかけられない
人材育成には、予算をかけないやり方もたくさんある。むしろ、求める人材像の明文化など、予算を書けない取り組みこそ本質的で、大きな改善にいたるケースも多い。まずは自社にとってどのような人材育成が必要かを考え、施策をピックアップした上で、予算内でできることから取り組むといいだろう。
中小企業が人材育成を進める5ステップ
続いて、中小企業が具体的にどのような手順で人材育成に取り組めばいいのか、5つのステップに分けて分かりやすく解説する。
1.求める人材像を明文化する
人材育成では、まずゴールにあたる求める人材像を掘り下げることが大切だ。どんなマインドやスキルを持った人材に育ってほしいのか、経営者として考えてみよう。社内で実績を残している人材や長く勤めている人材の共通項を洗い出してみるのもいいだろう。
求める人材像というと、つい優秀さを追求してしまいがちだが、大切なのは自社に合う人材かどうかだ。いくら能力が高くてもすぐに離職してしまったり、企業文化になじめなかったりするのであれば、意味がない。
経営者として求める人材像のイメージが固まったら、役員や管理職の意見を募るのもいいだろう。最終的に、求める人材像の特徴を書き出し、明文化することで、求職者や従業員に周知しやすくなる。
2.人材育成について意見を募る
求める人材像が明確になったら、すべての従業員に周知した上で、人材育成の方法について意見を募るステップへと移る。
なぜ意見を募る必要があるのかと思うかもしれないが、人材育成の方法を経営者や役員、管理職だけで決めてしまうと、従業員が主体的に取り組まなくなることがある。
人材育成を浸透させて企業文化として根付かせるためには、従業員が主体的に取り組むことが何より大切だ。そのため、従業員の意見を募り、意見を出した従業員をプロジェクトリーダーに抜擢するなどして、従業員を巻き込みながら進めるようにしたい。
3.具体的な取り組みを実施する
人材育成について意見が集まったら、具体的にどんなことに取り組むかを決めていく。代表的な施策として、OJT研修やOff-JT研修、資格取得やセミナー受講費用の助成などがある。
OJT研修とは、新しく入った従業員に実際の業務を通じて知識や技能を習得させる方法だ。面倒見がよく意欲的な若手がいるなら、育成係に任命し、カリキュラムの作成まで一任するのもいいだろう。
Off-JT研修とは、実務を離れて知識や技能を習得させる方法だ。たとえば、新入社員研修や管理職研修などの階層別研修や、コミュニケーションやITなど特定のスキルを身につけるための研修などがある。
まずは経営者自ら研修を行ってもいいし、役員や管理職から研修講師を募ってもいい。予算次第で外部講師を招くのもいいだろう。
従業員がスキルアップのため自主的に行う資格取得やセミナー受講費用の助成も効果的なやり方だ。効果を高めるため、助成の条件としてレポート提出を義務付けるという方法もある。
4.取り組みを振り返り改善する
具体的な取り組みが決まり、一定期間にわたって実践したら、どんな変化があったか振り返ることが大切だ。振り返りによって、効果を実感したり、改善点が見えてきたりするはずである。
役員や管理職だけでなく、多くの従業員に振り返りと改善策の提案を求めることが望ましい。感想や意見を社内報や社内メールなどで共有するのもいいだろう。
このように実践と効果検証を繰り返す中で、独自の人材育成のノウハウが体系化されていくことになる。
5.人事評価に組み込む
人材育成が企業文化として浸透してきたら、求める人材像と照らし合わせ、社員を評価する仕組みについても導入したいところだ。
管理職が定期的に従業員を評価し、それが昇進や昇給に影響するとなると、自然と従業員は求める人材像を意識して行動するようになる。
まずは求める人材像をもとに、従業員の意見も反映させながら、オリジナルの人事評価シートを作るといいだろう。
評価されることに従業員が抵抗感を抱かないよう、能力次第で昇給につながるといったプラスの側面をしっかり伝えることが大切だ。また、管理職が一方的に評価するだけでなく、評価シートをもとに従業員と面談し、情報を共有しながら働きやすい環境づくりに努めるといったアイデアもある。
中小企業の人材育成の成功事例
続いては、中小企業の人材育成の成功事例を「中小企業白書(2022年版)」より2つ紹介する。
社長面談や独自の社内研修でコロナショックから急回復
宮崎県にある従業員数26名の株式会社ワン・ステップは、イベント事業を営む中小企業だ。
従業員に学びの機会を与えることが会社としての成長にもつながるという方針である。社長自ら従業員と面談し、各従業員の3~5年後を見据えて研修テーマを決め、年1回以上の社外研修の機会を提供している。コロナ禍ではオンライン研修も活用した。
また、毎月40分の独自の社内研修では、仕事に関する書籍を各自が読み、グループに分かれて感想や学んだことなどを発表し、ディスカッションをしている。研修は、インプットとアウトプットの習慣化や、コミュニケーション能力の向上に役立っているという。
その結果、イベント事業というコロナ禍の影響を受けやすい事業内容にもかかわらず、売上高を急回復させることができた。
社内講座とYouTubeチャンネルで従業員の満足度向上や売上拡大に貢献
奈良県にある従業員数80名のヒカリ株式会社は、長い社歴を持つワイヤ製造が専門の中小企業だ。
2018年に「ヒカリものづくり大学」という社内講座を開講し、ものづくりの基礎やエクセル技術など、15の講座を提供している。テーマは社員からアンケートを取って決めており、将来的には講座の受講を人事考課に反映させていく予定だ。
講座を開いたことで、社員から「自分のやっている仕事の意味がようやく分かった」といったポジティブな感想も得られたという。さらに、2020年からはYouTubeチャンネルも開始し、YouTubeからの新規問い合わせも増えてきており、売上拡大にもつながった。
人材育成を考える中小企業が活用したい助成金
続いては、人材育成を考える中小企業が活用できる助成金や補助金を紹介する。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用の労働者の処遇改善を行った際に受け取れる助成金だ。たとえば、中小企業が有期雇用労働者を正社員化し、要件を満たすと1人あたり57万円が支給される。正社員化のほかにも、賃金規定の改定、賞与退職金制度導入、労働時間延長などいくつかのコースがある。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金とは、職務に関連する知識や技能を習得させる取り組みにかかる費用が助成される仕組みだ。特定訓練、一般訓練、育成訓練休暇等付与、障害者職業能力開発など9つのコースが用意されている。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金とは、中小企業の業務効率化等の取り組みにかかる経費を助成する仕組みだ。通常枠を含む5つの枠が用意されており、たとえば賃金引上げ枠なら補助上限は200万円だ。
次世代の人材を育成して会社を存続させよう
人材育成は正解がないからこそ、どのように取り組めばいいか悩み、一歩を踏み出せない経営者は多い。しかし、事業活動を継続するには、業務を担う従業員の存在は欠かせない。人材育成は、会社を存続させる上で必須の課題ともいえるだろう。
予算をかけずとも、まずは自社でできることから取り組むことで、従業員の意識が変わり、少しずつ人材育成の文化が根付いていくはずだ。
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文・木崎涼