3月7日、政府は「生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律案」を閣議決定、開催中の第211回国会で可決される見通しである。さて、この名称から法案の中身を正確にイメージ出来る人は少ないだろう。政府は新型コロナウイルス対策が後手に回った要因の一端が厚生労働省の業務過多にあるとし、業務範囲を縮小することで感染症、社会保障、雇用といった中核行政の強化を図りたい考えである。具体的には食品衛生基準行政を消費者庁に、上水道の整備を国土交通省に、水質基準の策定を環境省に移管する(施行期日は2024年4月1日)。
感染症対策で露呈した問題の本質が “所管業務の多さ” にあるとは思えないが、少なくとも上水事業に課題が山積していることに疑問の余地はない。水道は1960年代以降、急速に普及、2018年時点で総延長72万㎞、普及率は98%に達する。しかしながら、全体の2割弱、約13万㎞が既に耐用年数の40年を越えている。年間の更新率はわずかに0.7%、耐震適合率も37%に止まる。一昨年10月に発生した紀の川の水道橋崩落事故(和歌山市)の記憶はまだ新しいが、水道管の事故は年間2万件を越えるという(厚生労働省)。まさに事業存続の危機にある。
背景には人口減少に伴う使用水量の減少がある。結果、自治体単位での独立採算を基本とする水道事業の収支は悪化、体制の縮小を余儀なくされる。加えて、工事事業者の人材不足が対応の遅れに輪をかける。一方、こうした状況は受け入れ側の国土交通省が所管する下水事業も同様だ。2021年度末における下水道管渠の総延長は49万㎞、うち3万㎞が耐用年数50年を越えており、下水道に起因する道路の陥没事故は年間3千件規模に達する。処理場の設備機器の更新も喫緊の課題だ。一方、使用水量の減少に伴う収入減は避けられず、地方公共団体における担当職員も減り続けている(国土交通省)。
問題の本質は上水、下水ともに共通している。したがって、都市や道路、河川から水源地まで、水回りのインフラ全体を所管する国土交通省への事業移管は合理的である。
日本は水資源に恵まれている。しかし、1人当たり降水量でみると世界水準の1/3に過ぎず、ダムなど管理された貯水量は世界の主要都市と比較すると少ない。つまり、四季を通じての安定した降水量が私たちの生活を支えてきたということだ。しかし、昨今の異常気象は供給の不安定化への懸念を高めるとともに内水氾濫の頻発など都市防災の見直しを迫る。その意味で都市政策、防災対策と一体となった、自治体の枠を越えた “水” 行政に期待したい。
今週の“ひらめき”視点 4.9 – 4.13
代表取締役社長 水越 孝