矢野経済研究所
(画像=DragonImages/stock.adobe.com)

2023年4月
理事研究員 菅原 章

住宅リフォーム市場は堅調に成熟

国内の住宅リフォーム市場は、新型コロナウイルス感染拡大の影響をうけたものの市場規模は堅調に推移し、2022年の市場規模は、7兆円を超える規模となった(図表1 2023年2月現在の速報値)。
住宅リフォームは、過去において良くも悪くも「ブーム」が繰り返されている。2020年以降は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、行動制限による「在宅時間」が多くなり、住環境・生活環境の改善・向上に関心が高まった。これにより、住宅リフォームが再び脚光を浴びることになり、市場に変化をもたらすこととなったと考える。

<図表1 住宅リフォーム市場規模(速報値)>

矢野経済研究所
(画像=矢野経済研究所)

新型コロナウイルスが住宅リフォーム市場に与えた影響

コロナ禍の住宅リフォーム市場を月次ベースで分析した。過去10年(2009~2018年)の住宅リフォーム市場の月次平均値(市場規模)を基準線(0.0%)として、2019年1月~2021年12月までの月次実績の増減を比較した(図表2)。
まず、2020年4月は緊急事態宣言の発出により、リフォーム事業者は店舗休業や営業時間短縮等の営業自粛対策を取ることとなり、一気にリフォーム市場が落ち込んだ。特に、4月からの営業自粛の影響を受けて、5月が大きく落ち込む形となっている。9月以降になると一気にトレンドが変わった。リフォーム事業者側も、リフォームをする消費者側も、オンラインでの打ち合わせなどへの「適応」もあって、2021年第4四半期(10-12月期)の市場規模は過去徐々にコロナ禍でのリフォーム実施がコロナ禍前と遜色なく実施されるようになり、在宅時間の長時間化による住宅のインフィル(内装・設備)関連工事への支出が増加傾向となった。ただし、この頃はテレワークに関連するようなリフォームは非常にわずかだった。「家具・インテリア」といったいわゆる購入品など、セルフでできる簡易な住環境の充実リフォームの需要が拡大した。
2021年になると、新型コロナウイルス感染の再拡大などにより感染者数は拡大、度重なる緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の発出により、1年の約3分の1の期間は何かしらの外出自粛要請があった。しかしながら、2020年4月~5月のようなリフォーム市場の落ち込みはなく、むしろプラスに動いた。
「ウィズコロナ」として家族と過ごす時間の充実を図ったり、テレワークなど在宅勤務への対応をしたり等、コロナ前と比べると在宅時間の長時間化にともない「住環境」に対する関心が高まったことが、リフォームをはじめとする住宅・住環境関連への再投資が顕著になった要因と考える。10月以降は2020年秋口から続く好調な勢いはやや鈍化したが、2021年第4四半期(10-12月期)の市場規模は過去10年の市場規模を上回る水準となった。2020年とは異なり、「家具・インテリア」ではなく、工事を伴う住環境のリフォームである「設備修繕・維持」が拡大した。

<図表2 過去10年の月次市場規模と2019年~2021の月次市場規模の比較>

矢野経済研究所
(画像=矢野経済研究所)

「ウィズコロナ」から「アフターコロナ」への変化

コロナ禍(2020~2021年)のリフォーム市場はマイナス影響がありつつも、堅調に推移している。コロナ前(2010~2019年)のリフォーム市場規模平均値6.3兆円と比較して、コロナ禍(2020~2021年)のリフォーム市場規模平均値は6.7兆円と上昇している。それらの背景には、コロナ特需に加え、リフォームのベースとなるストック需要が増加していると考えられる。これは、団塊ジュニア世代の持家がリフォーム適齢期に突入していることに加え、「生活を豊かに」「自分らしい暮らし」といった思考がコロナ禍でのテレワーク普及や在宅時間の長時間化で後押しされ、住空間の価値が高まったとみられる。
2022年は、衣料品や食料品、日用品の物価高騰や建築資材費の高騰など、従来のリフォーム市場ではマイナス要因となる要素が多々発生したものの、市場が拡大した。
「ウィズコロナ」としての生活環境の中で、公私ともに居住空間で過ごす時間の充実を図ることが、コロナ禍前と比較すると大きな変化といえる。住宅・住環境関連への投資(住宅購入後のリフォーム需要への投資)やリフォーム関連消費が活発化したことによって、市場全体が拡大したものと考える。
2023年以降を「アフターコロナ」とするならば、人々の行動が活発化し、これまで控えていたリフォーム以外の消費支出(レジャー・旅行・外食等)が本格化するとみられることから、リフォーム関連市場は伸び悩んでしまう可能性が高い。
しかし、エネルギーコストの上昇や環境意識の高まりによる省エネ・創エネ(太陽光発電など)・畜エネ(蓄電池など)機器は、今後も堅調に設置率が高まっていくものと考えられる。また、在宅勤務が定着したことで、新たに働く場所の選択肢が増えたことによる間取りや個室ブースなどのリフォーム重要の高まりなどもニュースタンダードとして定着していくことを考えると、新たな住宅リフォームニーズを掘り起こすことで、市場の賑わいを維持していくことが出来る。せっかく高まった「住環境」への関心を、今後も継続して維持・向上するための情報発信が重要になり、SNSを中心としたカスタマー及び見込み客との接点を増やすことが重要になると考える。