八十二銀行 塚田啓太さん

日本全国の地域金融機関でM&Aや事業承継を担当されている行員(BANKER)に各行の取り組みや銀行のカラー、地域の事業承継事情など他行への参考になる情報をインタビュー。

今回は株式会社八十二銀行 営業渉外部 コンサルティング営業グループ 塚田啓太氏にインタビューした。

M&A大学とは
日本M&Aセンターが協業する地域金融機関に向けて行う、研修・出向制度。M&A大学入学者(地銀からの出向者)はM&Aシニアエキスパート研修(JMAC)、評価・概要書研修などの座学と日本M&AセンターとのコンサルタントによるOJTなどを経て、自ら顧客への提案からM&Aの成約、契約の締結までを完結できるM&Aコンサルタントとなることを目指す。

まず、現在までのご経歴について教えてください。

塚田:就職活動では、多くのお客さまに様々な役務を提供できる仕事をしたいという考えから八十二銀行を志望し、縁あって2013年に入行しました。最初に配属された飯田駅前支店(長野県)では融資業務や事務、個人のマネーアドバイザー業務を担当しており、次に配属された伊那市駅前支店(長野県)では法人渉外を中心に担当していました。その後三鷹支店(東京都)勤務となり、その際に行内で募集のあった事業承継・M&Aの人材公募に申し込み、日本M&Aセンターに出向することになりました。1年間の出向期間の後、2022年4月より現在の部署に配属され、M&Aを支援するチームの一員として活動しています。

支店での勤務時代に事業承継・M&A業務に携わった経験はありましたか?

塚田:事業承継について考えているお客さまは多いと思っていましたので、法人のお客さまに対してはM&Aや事業承継のお話をするように心がけていました。その甲斐あってか、伊那市駅前支店で勤務していた時にお客さまから譲渡のご相談を受けM&Aのご契約を頂きました。本件は私が三鷹支店に転勤になった後に成約しました。

普段から事業承継についてのヒアリングや提案をされていたのですね。

塚田:当行では「お客さまの事業承継の課題解決が大事である」という文化が根付いており、私自身もお客さまとの面談時には積極的にヒアリングをするようにしていました。伊那市駅前支店ではバイクで訪問できる範囲のお客さまを担当していたため、お会いできるお客さまも限られていました。様々な提案をしていく中で、次第に営業としてお客さまへ提案できることが少なくなりました。そこで、財務だけではなくビジネス面の理解を深め、抱えている課題の解決のために力になれないか考えることを心がけるようになりました。その活動の中でお客さまの抱えている課題として事業承継についてお話を聞くことがよくあり、多くの経営者が抱える課題であることを実感しました。それ以降面談時には積極的に話題にすることでその会社の実態や事業承継に対する考えを把握することができるようになりました。

日本M&Aセンターへの出向期間で学ばれたことなどお聞かせください。

塚田:様々な譲渡企業のオーナーと接する中で、オーナーの心境の変化やそれに対する寄り添い方を学ぶことができました。特に、面談に同席する機会の多かった田原 慎也さん(日本M&Aセンター 金融法人部所属)の影響が大きいです。「企業の譲渡」という一大決心をする中でセンシティブになりやすい譲渡企業のオーナーに伝えづらいことも多々ある中、伝えなければならないことをしっかり伝えた上で、どのようなお手伝いをしていくかをオーナーと共有し、寄り添いながらサポートされている姿は大変勉強になりました。

多くのディール経験を積まれた中で、特に印象に残っているディールについて教えてください。

塚田:特に印象に残っているのは養豚業のM&Aです。譲渡企業が養豚業を行っており、譲受け企業は食肉加工を行う会社でした。
M&Aの事例が少ない業種でも、シナジーのある譲受け企業とマッチングできるということを最前線で体験できました。交渉の過程では、譲渡企業の事業内容を理解して提案資料にわかりやすく落とし込むために、実際に作業着を買って養豚場を訪問したこともあります。普段はできないような様々な経験を通じて、お客さまに徹底的に寄り添う姿勢を学びました。

八十二銀行 塚田啓太さん

貴重なお話ありがとうございました。それではここからは、現在の貴行におけるM&A支援の取り組みについてお聞かせください。

塚田:事業承継・M&Aに関しては、親族承継・社内承継を担当する部署とM&Aを担当する部署に分かれており、M&Aを担当する部署には現在6名の担当者がいます。
各営業店で聴取したニーズが本部に連携され、連携された情報を基にM&A担当者が面談を行います。
当行のM&Aチームは2002年に設立され、20年以上の歴史と実績があります。また、法人担当者の約8割が「事業承継・M&Aエキスパート」資格に認定されているなど、事業承継・M&Aに対しては当行員全体でアンテナ高く活動しています。
加えて本部から営業店に対して定期的に業種ごとのM&Aの成約事例を発信することで、営業店の担当者がM&A情報に触れる機会を増やし身近に感じてもらえるよう取り組んでいます。

出向中と出向後で感じるM&A業務のギャップがありましたら教えてください。

塚田:銀行のM&Aでは、これまで経営全般のご相談をしているお客さまや融資のみのお客さまなど、お客さまとのお付き合いの期間や関係性が様々です。また、フロントに立つのは営業店の担当者である一方、実務は本部の担当者が行う仕組みであるため、銀行でM&Aを進めていくには営業店の支店長や担当者など、多くの関係者と協働する必要があり、難しさを感じています。当行でM&Aを進めるためには、譲受け企業と譲渡企業のマッチングや契約書の作成といったシステム面や、法務・会計・労務などの論点など過去のデータに基づく対応が必要になってきます。こういったM&A関連業務のサポート体制においてM&A専門会社に比べて足りていない部分を自分のスキルや人脈でカバーするようにしています。

日本M&Aセンターへ期待することがあればお聞かせください。

塚田:当行担当の日本M&Aセンターの田原 慎也さんや谷中 春夫さん(日本M&Aセンター 金融法人部所属)には、当行の内部事情や特色をよく理解いただいた上でご対応いただいておりとても感謝しています。今後も日本M&AセンターにはM&A専門会社としての豊富な事例やノウハウを共有していただくとともに、互いにリソースを活用しあうことでより多くのお客さまの事業承継・M&Aのお手伝いをしていければと思います。

最後に、塚田さんの今後の目標を教えてください。

塚田:今後は、私自身がお客さまによりよい事業承継・M&Aの提案ができるように知識と経験を積んでいきたいですね。当行全体でも事業承継課題への取り組みを活性化させるために、銀行員全体のスキルアップにも寄与していきたいと思います。