新型コロナに引き続き、ロシアのウクライナ侵略の影響によるエネルギーや原料価格の高騰などで人々の消費行動は消沈するばかり。ウクライナ情勢の影響は長引くことも予想されているため、今後の売上予測に頭を抱える経営者も多いのではないだろうか。しかし新型コロナやウクライナ情勢のほかに、実は社内に潜んでいる売上阻害要因に気づいていないケースもあるかもしれない。
中小企業にありがちな売上拡大を妨げる要因について解説する。自社にそのような要因があるかどうかチェックし、対策を講じることから始めてみてはいかがだろうか。
売上拡大の基本
売上拡大は、商品・サービスが売れないことには始まらない。当然すぎて意識しない経営者もいるかもしれないが、まずは売上を作るための基本となる「4P分析」の各要素を確認しておこう。マーケティングでも重要な構成要素とされており、それぞれの頭文字をとって「4P」と呼ばれている。
Product(製品)
商品やサービスを売るためには、顧客に選ばれなければならない。選ばれるためには、顧客のニーズに合っていたり、その製品によって顧客に価値を感じてもらえたりすることが重要だ。製品の価値は、製品そのものの品質や機能性だけでなく、顧客の満足感や優越感などといった付加価値も提供できることが大切である。ほかにもデザインやパッケージング、アフターサービスなどにも配慮したい。
Price(価格)
価格は、売上に直接的に影響するものだ。なぜなら「売れた商品数×価格」が売上となるからだ。つまり価格を上げれば売上を伸ばすことは期待できるが、かえって売れる個数が減る可能性もある。一方で多く売るために価格を下げれば売上縮小につながりかねない。
一般的に価格は、コストや利益率をもとに設定するものであるが「顧客にとって価格と商品価値が釣り合っているか」という観点は忘れないようにしよう。
Place(流通)
流通、つまり「どうやって商品を販売するか」という流通経路(流通チャネル)も売上に影響を与える要素の一つである。なぜならいくら良い製品を作っても顧客に届かなければ売れないからだ。製品の特性や対象とする顧客層、販売コンセプトなどによっても異なるが、例えば流通チャネルを考慮するうえでは、以下のようなポイントが大切である。
- 場所:(スーパー、デパートなどの)店頭、オンラインなど
- チャネルの長さ:直接取引、業者に委託など
チャネルによって販売チャンスが増えるが、同時にコストも増減するため、効果的な戦略を立てることが求められる。
Promotion(販売促進)
売上拡大のためには、製品やサービスの存在や価値を知ってもらうコミュニケーションが必要だ。それがプロモーション(販売促進)であり、いわゆる広告、宣伝、DM、口コミなどさまざまな方法がある。対象とする顧客層やブランドイメージなどによっても異なるが、例えばプロモーションを考慮するうえでは、以下のようなポイントが大切になる。
- 伝える内容:製品の特徴、価値など
- 伝える媒体:TV、ネット広告、新聞、雑誌、メルマガ、チラシ、口コミなど
企業を取り巻く経済環境
近年、企業を取り巻く経済環境は厳しさを増している。ここでは、2020~2023年3月ごろまでの経済環境を振り返っていく。
・2020年
年初から新型コロナウイルス感染症が発生・急拡大し、世界中で「行動制限」という前代未聞の事態となった。生産・営業停止を余儀なくされて売上が激減した企業は多い。
・2021年
燃料費の高騰を主要因とした原料価格や物流費、包材費などが急激に上昇。また円安の影響で原材料を輸入に依存する企業が仕入れ原価の上昇に見舞われた。消費者価格への転嫁を余儀なくされた企業も多く少しずつ消費者の購買力が低下傾向に。
・2022~2023年3月ごろ
2022年2月末からのロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギーや原料価格の高騰に拍車がかかった。また海外諸国との金融政策の違いの影響による円安傾向の継続で、人々の消費マインドも低下傾向にある。原材料費だけでなく電気代などの高騰により収益率が大きく低下した企業も少なくない。
消費者の意識や物価の見通し、消費行動などについては、内閣府が「消費動向調査」として毎月調査・公表している。直近の2023年2月の同調査によると消費者が感じる「暮らし向き」が前月から0.8ポイント低下、「耐久消費財の買い時判断」も0.5ポイント低下となった。
「耐久消費財の買い時判断」にいたっては、新型コロナウイルス感染症急拡大の影響で急激低下した2020年初期よりも現在のほうが低いのが実情だ。
企業自体が売上拡大を妨げていないか
多くの企業が厳しい環境に置かれているのは、間違いない。しかし厳しい環境にあるからこそ、あらゆる分析をするとともに売上拡大に向けた取り組みが必要といえる。まずは、自社に売上拡大を妨げている要因がないかどうか確認することから始めてみてはいかがだろうか。ここでは、中小企業にありがちな企業自身が売上拡大を阻害する可能性がある要素を5つ紹介する。
1. 経営者の高齢化
中小企業庁が公表している2021年度版「中小企業白書」によると「経営者が若い企業ほど、試行錯誤(トライアンドエラー)を許容する組織風土があると回答する割合が高い」ことがわかる。このことから経営者が高齢になるほど現状維持志向が働く傾向にあることが示唆される。自身の年齢と重ね合わせ、現状維持志向にないか見つめなおしてみることが大切だ。
2. 所有と経営の一致
多くの中小企業のなかには「オーナー社長」として所有と経営が一致している企業も少なくない。もしくは、影響力を維持する先代社長が経営に介入し、当代社長は遠慮して身動きができないケースもある。前述したように経営者が現状維持志向であったり、変革・挑戦への意欲が低かったりすると、厳しい環境のなかでの売上拡大にはつながりにくい。
3. 取引先への依存度が高い
取引先との関係維持に配慮するあまり、売上拡大につなげるための新たな取り組みができないケースもある。なぜなら新たな取り組みによって赤字が発生するのを嫌う取引先もいるからだ。中小企業のなかには、少数の得意先で売上の大部分をまかなっているところも少なくないが、新たなチャレンジができなければ売上拡大は難しい。
4. リソース(資金・人材)不足
中小企業は、大企業に比較してどうしても資金や人材などの生産性向上のためのリソースが不足しがちだ。事業内容によっても異なるが、売上を拡大するにはノウハウや能力、実行力のある中核人材が必要になる。企業の資金力は、有望人材の採用や社員教育に影響するため、資金力不足も売上阻害要因となるだろう。
5. 経営者保証(リスクをとりにくい事業環境)
中小企業では、金融機関からの融資が資金調達の主要手段となっているが、経営者による個人保証(経営者保証)を要求されるケースが多い。経営者保証をつけることで融資を受けやすくなるというメリットはあるが、それにより「前向きな投資や事業展開が抑制されてしまう」といったデメリットもある。
繰り返し述べているように、厳しい経済環境下において新たな取り組みができなければ売上拡大は難しい。そのためまずは、「自社がリスクをとりにくい事業環境に置かれていないか」確認するところから始めてみよう。
売上拡大に向けた対策
先に紹介したような売上拡大の阻害要因が自社にも思い当たる場合、早急に対策を講じることが必要だ。ここでは、主な対策法を4つ紹介する。
自社の強みの把握と活用
まずは「自社の強みは何か」洗い出しを行おう。強みが把握できれば、強みに焦点をあてながらリソースを収集させて競争力の強化を図ることができる。冒頭で見た4P分析も考慮したい。ただし強みと一口にいっても以下のように会社によって内容は多岐にわたる。
- 技術や研究開発力
- 製品やサービスのブランド力
- 価格競争力
- きめ細かなアフターサービス など
例えば、「技術・研究開発力」を強みとする企業であれば価格引き上げや、商圏拡大などで売上拡大に取り組むのも選択肢の一つだ。「きめ細かなアフターサービス」を強みとするなら地域密着型に徹底し、地元の顧客の取り込みに集中するのも良いだろう。
自社が獲得できる顧客・販路の明確化
自社がターゲットとしている顧客層を明確にしてみよう。ターゲットが明確になれば、その顧客層が購買行為を起こしやすい販路を明確にすることが可能だ。やみくもに販路を拡大させるよりも、会社のリソースを集中できる。また商品提案の仕方やメッセージなど、的を射たプロモーションを実行しやすい。
商圏・顧客のニーズに合わせた既存製品・サービスの改善
一般的に新製品を開発したり、新規顧客を開拓したりするよりも既存製品サービスを改善し、既存顧客の再購買を促すほうが資源も労力も節約できる。インタビュー調査や顧客アンケート、行動観察などで商圏・顧客のニーズの把握に努め、既存製品・サービスの改善を図ると良いだろう。
新規顧客・販路の獲得
商圏・顧客のニーズに応じた製品・サービスの改善ができれば、これまで自社製品を試したことがなかった人も新規顧客として取り込める可能性がある。売上拡大のためには、自社製品を購入してくれる顧客数も大事な要素だ。
リソースが限られていて新規顧客や販路の開拓にかける時間やノウハウがない場合は、新規顧客開拓の手法や営業プロセスを明確にしてマニュアル化し、ノウハウや成功事例を社内で共有して効率を図ろう。
売上拡大に向けて活用したい補助金・制度
ここからは、中小企業の成長に向けた補助金や政府の制度整備について紹介していく。資源の選択や集中とあわせて売上拡大のために活用してみてはいかがだろうか。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
売上拡大につなげるために活用したいのが「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」だ。中小企業・小規模事業者等が行う以下のような事業に必要な設備投資等を支援してくれる。
- 生産性向上に資する革新的なサービス開発
- 試作品開発
- 生産プロセスの改善
「一般型」「グローバル展開型」「ビジネスモデル構築型」などがあり、それぞれに補助上限額や補助率が異なる。詳しくは、「ものづくり補助金総合サイト」で確認して欲しい。
事業再構築補助金
ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化への対応として、例えば以下のような事業再構築を検討している企業は「事業再構築補助金」の活用を検討してみるといいだろう。
- 新分野展開
- 事業転換
- 業種転換
- 業態転換
- 事業再編
「成長枠」「グリーン成長枠」「物価高騰対策・回復再生応援枠」など、全部で8つの枠が設けられており、それぞれに補助の範囲が異なる。2023年3月30日~同年6月30日まで第10回目の公募が行われている。「事業再構築補助金公式サイト」で詳細を確認して欲しい。
M&A支援機関登録制度
事業承継者の不在で経営者の高齢化が進んでいる企業が活用したいのが「M&A支援機関登録制度」だ。中小企業がM&Aに関する適切な支援を受けられる環境整備として2021年8月に創設された。本制度には、M&Aの助言や仲介を行うフィナンシャルアドバイザー(FA)・仲介業者が3,117件(2023年3月17日時点)登録されている。
中小企業特有の強みも活かし、売上拡大への取り組みをしていこう
企業を取り巻く経済環境は厳しさを増している。中小企業は、大企業に比べて事業規模やリソース、市場での影響力などの面で弱めではあるが、経営判断スピードの速さやニッチな市場に参入しやすいなど中小企業ならではの強みもあるはずだ。自社の強みを分析するとともに補助金なども活用しながら売上拡大への取り組みをしてほしい。