近年、人口減少や少子高齢化が原因で地域経済の縮小が懸念されている。労働力不足や後継者不足の問題は、地方で事業を行う企業のほうが大きな影響を受けるだろう。苦しい労働市況のなかで地方企業では、課題解決の方法を見いだせず、どうすれば採用を成功させることができるのか頭を悩ませている。

地方で採用活動を行うことは、難しいイメージばかりがあるかもしれない。しかし、成功している企業も多くある。実際に地方企業でも地方の優位性を活かして発展を遂げている企業は多い。またテレワークが普及して出勤しない働き方が浸透したこともあり、大都市から地方へ拠点を移す企業が増えている。この記事では地方で採用に成功する要因は探る。

目次

  1. 地方での採用は困難なのか
    1. 地方は都市圏と比べると人口が少ない
    2. 地方の優位性を活かした企業の増加
  2. 地方で採用に成功するヒント
    1. 地方企業によく見られる3つの課題
    2. 地方採用を成功させるヒント
  3. 地方企業でも工夫次第で採用は可能
地方企業の採用は難しい? 成功するための要因を解説
(画像=ipuwadol/stock.adobe.com)

地方での採用は困難なのか

内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、2053年には日本の総人口が9,924万人と1億人を割り込むことを予想している。人口構造だけを考えると地方経済の縮小は、避けられないかもしれない。しかしこれは、地方だけに限ったことではなく全国で労働人口が減ることが予想されているのだ。

地方に移転する企業が増えていることを踏まえると地方にもビジネスチャンスは十分にあり、地方での採用が必ずしも困難とはいえないだろう。

地方は都市圏と比べると人口が少ない

東京・名古屋圏・大阪などの都市圏への人口集中により地方の人口が減少していることは、以前から危惧されていた。しかし大企業の工場が地方へ移転していることから見られるように、企業経営において地方の土地の取得価格や賃料、物価、人件費の安さは、大きなメリットとなる。

コロナ禍以降、テレワークやモバイルワークなど多様な働き方が浸透したため、「都市圏から地方に移住したい」と考える人も増加傾向だ。出勤を必要とせず、場所にこだわらない働き方は、近年定着しつつある。また定年退職後に田舎暮らしをする人も増え、地方に移住した人のなかからも、大手企業で培ったスキルの高い人材や技術力のあるエンジニアなど優秀な人材が発掘できる。

地方の優位性を活かした企業の増加

IT関係の企業は、地域の市場規模に影響されることなく全国的な事業展開ができるため、実際に地方に拠点を移す企業が増えている。2020年9月に人材派遣会社の大手企業であるパソナグループが兵庫県淡路島へ本社機能の一部移転を発表したのは有名な話だ。その後も多くの企業が地方への移転を実施している。

また都市部でも地方の特産品や食材を扱う飲食店を目にすることが多くなった。地方企業が販路拡大により都市部に積極的に進出することは、今や珍しくない。地元の資源を活かした新たなビジネスは、地域産業の活性化につながるだろう。そして地方の特色を活かした事業により地域経済が成長すれば、地方での新たな雇用創出にもつながる。

現代は、地方でもインフラが整備されていることから、都市圏との物流コストの差は縮まっている。働き方改革や地方創生などの政府の取り組みもあって、企業の働き方に対する考え方は進化しており、地方にビジネスチャンスを求める企業は増えている。

地方で採用に成功するヒント

地方で採用を成功させるには、地方企業にどのような課題があるのかを分析し、その課題を解決しなければならない。ここでは、地方の企業によく見られる課題とその解決するヒントを紹介する。

地方企業によく見られる3つの課題

地方企業に見られる課題を取り上げてみよう。

  1. 採用する人物像が明確になっていない
    「人が足りないときだけ採用する」という方針の場合、なかなか優秀な人材は集まらない。地方企業、特に中小企業では採用に関するノウハウが蓄積されていないケースが多いため、採用する人物像が明確になっていないことがある。その場合は、採用計画を作成したうえで自社が必要とする人物像を明確にし、それに合った選考基準を設けることが必要だ。

  2. 地方の人口の減少
    冒頭で記載したように、将来的な日本の人口減少は避けられない状態にある。人口減少は全国的なもので地方だけの問題ではないが、地方は人口の絶対数が少ない点は事実だ。そのため地方企業が人を呼び込むためには、地方で事業を行うメリットや自社の特性を広くアピールすることが求められる。

    知名度という点では、大手企業にかなわないかもしれないが、地方には地方の良さがあることから、それを十分に活かしてアピールしていこう。

  3. 地元採用だけで全国的な視野で募集していない
    地元採用だけでは、おのずと限界がある。ネットで商品やサービスが販売できるのと同じように、現代はリモートワークや兼業・副業が可能な時代となり、地元採用だけではなく全国に視野を向けて人材を募集することが可能だ。そのため人材採用においても、広く全国的な視野で募集する必要がある。

地方採用を成功させるヒント

地方採用を成功させるヒントは、これらの課題解決に向けた取り組みにあるといっても過言ではない。

  1. 採用課題と採用したい人物像を明確化する
    地方企業では、採用に関するノウハウが蓄積されていないことが多いため、どのようにすれば必要な人材を採用することができるのかわからないと悩む経営者は多い。有能な人材を採用するためには、採用計画を立てて、ターゲットを明確にし、人材を広く募集する施策が必要となる。また知人や取引先、従業員などの協力を得て、必要な人材をスカウトすることも検討したい。

    企業としては、「どのような人物を採用したいのか」「自社に必要な人材はどのような人物なのか」を明確にしておくことが必要だ。自社にとって必要な人物像を具体的に描いておかなければ、選考基準があいまいなものとなり、応募があったとしても採用に至らない可能性がある。自社に必要な人物像を明確にしておかなければ、人材発掘のチャンスがあっても必要な人材は採用できないだろう。

  2. 自社の長所をアピールする
    自社の長所をアピールすることは、情報発信の点で大きな武器となる。自社の特性や得意とする分野・技術などがあれば、広く情報発信することが重要だ。企業の独自性や地方ならではの魅力をアピールできれば知名度も上がり、自社に興味を持つ人が増え、採用の成功につながることが期待できる。なお企業のアピールポイントは、商品やサービスの優位性、技術力だけではない。

    「働き方改革」では、長時間労働の是正や柔軟性のある多様な働き方、働きやすい職場づくりを重視している。上述しているように現代は、テレワークを活用すれば都市圏から地方に移住することも可能な時代だ。場所にこだわらない働き方は定着しつつあり、事業所が地方にあっても大都市にあっても関係なく働くことができる。

    テレワークやモバイルワーク以外にも、ワーケーション制度の導入、休暇制度の充実など、企業努力で導入できる制度はたくさんあるだろう。企業独自の制度として、家賃補助や引っ越し費用補助の制度など、移住支援制度を設けることも一つの方法である。

  3. 副業・兼業が可能な働き方に合った職種を募集する
    テレワークだけではなく、自分に合ったスタイルで働く「フリーランス」といった働き方を選ぶ人も増えている。また定年で企業を退職した人のなかには、大手企業で培ったスキルや技術力を持つ者も多い。本業以外に副業や兼業で働く人や高齢者でも働くことを希望する人が増えていることから、副業・兼業、高齢者雇用が可能な働き方に合った職種を創出して募集するのも一つの方法である。

    フルタイムの雇用だけではなく、副業・兼業によるパート勤務、業務委託・請負などで働く人は増加している。そのため「ウィークエンドは地方で働く」「平日は出社を要さないテレワークにする」などの方法も需要があるかもしれない。多様な働き方が選べる企業であれば、地元採用だけではなく全国に視野を向けて人材を募集することで、地方企業に興味がある人材を採用できる可能性がある。

  4. オンラインによる面接など募集・採用時の環境を整える
    ネット環境を整備するだけで可能なウェブ会議も、現代は多くの企業で当たり前のように行われている。採用時の面接も同様にオンライン面接などを取り入れている企業は多い。書類提出は郵送でも可能であるが、押印廃止の流れもあり、ウェブを利用することで簡単にできる。そのため面接から採用までオンラインで行える環境を整えることも重要だ。

  5. ホームページやSNSによる情報発信を強化
    企業が自社メディアやSNSを利用して、情報発信をするのは珍しいことではない。採用においても、具体的な業務内容や働き方、企業理念や職場の声を情報発信することで、職場の雰囲気やイメージを伝えることができる。今や地方企業であってもホームページやSNSによる情報発信は必須だ。

  6. スカウト型の採用プロモーションも活用する
    従来の採用で見られるような応募者を待つオーディション型の人材採用プロモーションでは、広く募集しても応募者を待っているだけで、知名度がない企業の採用は難しいばかりである。そのため企業側から候補者に働きかけるスカウト型の人材採用プロモーションも活用して、企業が必要とする人材に積極的にアプローチすることも検討したい。

    人材採用・転職サービスを行う企業には、企業が求める人材をスカウトするサービスを実施しているところがある。また取引先や従業員から推薦や紹介してもらって採用する「リファラル採用」や人脈を利用した「縁故採用」なども採用コストを抑えることが可能であり、検討する余地があるだろう。

これらの採用方法は、人物をよく知っている従業員や取引先から事前に候補者の能力や人となりを聞き出すことができるため安心だろう。

地方企業でも工夫次第で採用は可能

地方は、都市圏に比べると人口が少なく採用に苦戦することが多い。しかし自社の長所をアピールし、しっかりとした採用計画を立てれば、工夫次第で採用は可能となる。具体的には、地方企業が抱える課題にはどのようなものがあるのかを分析したうえで、それらの課題を解決しなければならない。

地方で採用を成功させるためには、具体的なターゲットを設定し、ターゲットが魅力に感じるような情報を提供することが必要だ。現代は、働き方改革が浸透しつつあるため、多様な働き方を求める人が多くなっている。

ネット環境やインフラの整備などは、地方と大都市とで大差はなく、地方企業でも柔軟に対応すれば、採用が必ずしも困難とはいえないだろう。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
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