2025年問題、物価の上昇、コロナ禍で必ずしもモノが売れない時代の到来──。この数年で日本の中小企業を取り巻くさまざまな問題が浮き彫りになりつつある。利益を出せず、赤字倒産する地方企業は増える一方だ。また、後継者問題に直面し、第三者承継をせざるを得ないという会社も多い。

このような状況において、地方企業の衰退がそのまま地域経済の衰退にもつながっていると指摘するのは慶應義塾大学で産学連携等を支援するSFCフォーラム事務局長で、自ら投資ファンドのマネージャーを務める廣川克也氏だ。

果たして打開策はあるのだろうか。廣川氏によれば、中小企業の活性化を考える上でまず不可欠なのは、自社の「良さ」を言語化し、具現化していくことだ。価値を明確化すれば、よりブランディングやプロモーションに取り組みやすくなる。すると、人材確保や新規事業立ち上げにもつながり、ひいては地域経済にも恩恵をもたらすことになるという。

豊富な事例を紹介しつつ、地方企業の活力の源を探っていく。

一般財団法人SFCフォーラム 事務局長 SFCフォーラムファンド ファンドマネージャー 廣川克也
一般財団法人SFCフォーラム 事務局長 SFCフォーラムファンド ファンドマネージャー 廣川克也
上智大学経済学部卒業後、住友銀行入行。北海道大学知的財産本部での勤務を経て、2005年12月より慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスインキュベーションマネージャー着任。資金調達や事業計画など起業家への支援を実施。2012年、一般財団法人SFCフォーラムを設立し事務局長へ就任。2017年、SFCフォーラムファンドを設立しファンドマネージャー就任。国や地方自治体、企業、大学などと連携し、起業、地域活性、人材育成に関するセミナー等を多数手がける。

目次

  1. 自社の「良さ」を具現化する
  2. ブランディングとプロモーションの力
  3. 起業思考を持つ若手が新事業を生む
  4. ものづくりのまち・燕三条での試み
  5. 経営者と支援者間のコミュニケーションを密に
中小企業オーナー必見! 元銀行員が明かす資金調達を成功させる5つのポイント
(画像=学藤戸/stock.adobe.com)

自社の「良さ」を具現化する

山形県をはじめ北海道や新潟県、山梨県、宮崎県、神奈川県などで起業教育を担当させていただいている仕事上、多くの地方企業が衰退している現状を見てきた。衰退している背景には未曾有のパンデミックやロシアのウクライナ侵攻などの問題が複雑に絡み合っており、地方企業を元気づける単純明快なソリューションは存在しない。

その上で、困難な状況の中でも確実に一歩ずつ前へ進んでいくために、自社の強みや価値をしっかりと把握し、言語化することを企業オーナーのみなさまに意識してもらいたい。

「御社の金属加工技術は他にはない!」と顧客から言われて、なんとなく自社の良さを感じているということはあるだろう。しかし、それがどれだけ価値のある技術なのかを世間一般に伝えるために、言葉で具体的に表現できているだろうか?

いくら唯一無二の技術を持っていても、素晴らしいサービスを提供していても、それらの良さが具体化・言語化できていなければ、その価値は他人に認識されない。伝わらないし、広がらない。翻って、自社の価値が明確化され、言葉で具体的に表現できていればブランディングやプロモーションをしやすくなり、ビジネスチャンスは大きく広がっていく。

ブランディングとプロモーションの力

以前、盛岡で毎秋開催される「北のクラフト市」に足を運んだことがある。盛岡城公園のあちこちにテントが立ち並び、竹細工・ガラス細工・レザークラフト・染物などの手作り品が所狭しと並べられ、ものすごい人出だった。

ここで木製のコーヒーカップを売るとしよう。山から木を切り出して一生懸命作ったコーヒーカップです、と言うだけでは商品の価値がよくわからないし、それなら全国どこにでもありますよ、という話になってしまうかもしれない。

かわりに「世界遺産に登録されている白神山地は、本来ならば手をつけてはいけない特別な場所。その白神山地から出た間伐材で作られたコーヒーカップだから、世界中どこを探してもここにしかありません」と説明したらどうだろうか。それならば今ここでしか手に入らないことが買い手に伝わり、購入に至るケースが増えるかもしれない。

また、2022年に石川県漁協がブランド化した最高級の寒ぶり「煌(きらめき)」も好例だ。天然の寒ぶりの中でも胴回りや重量など極めて厳しい条件をクリアしたものだけを「煌」という名で販売しているのだが、基準が高くてあまり捕れないそうだ。だからこそ、煌の認定が取れれば価格が数十万円〜数百万円にまで跳ね上がる(ちなみに、第一号は1尾400万円であった)。

煌ブランドの立ち上げには、最新技術が使われたわけでもないし、大量に資金が投入されたわけでもない。地域の関係者が努力を重ねてアイディアを出し合い、ルール作りをして、地元漁業の「良さ」を具現化したまでだ。ブランド化することで石川県の漁業に活気をもたらしている。

このようなブランディングとプロモーションが不足している企業は本当にもったいない。企業価値の明確化は、まず企業オーナーが自社の持つ技術や強みを深掘りしていき、「良さ」の再認識につなげていくことから始まる。

その「良さ」を具体化し、表現していく作業は、必ずしも企業オーナーでなくとも社員や地域コーディネーター、銀行員、投資家など周囲で事業の成功を導いてくれる支援者に相談すれば、多角的な観点から「良さ」の言語化を探ることが可能になる。また、若手の起業家に相談してみるのも手だ。

起業思考を持つ若手が新事業を生む

実際に、起業思考を持っている若手を既存の中小企業に紹介し、中小企業のリソースを使いながら新規事業を立ち上げてもらう「VENTURE FOR JAPAN」という取り組みがある。

どの地域にも起業したい、あるいは働いて地元に貢献したいと思っている若者はいるはずだ。その際、自分ひとりでやり遂げるモチベーションや自信が備わっていない場合は、まずは地域の企業に入社し、その企業が持っているリソースを駆使しながら新しい事業を立ち上げていくという道があってもいいと思う。また、ビジネスチャンスを広げていくために、地方企業にもこのような取り組みが必要なのではないかと思う。

このような双方のニーズに対応しているのが、東日本大震災で津波による壊滅的な被害を受けた宮城県女川町で復興事業を行なってきた「VENTURE FOR JAPAN」だ。復興事業のためにインターンとして受け入れた首都圏の大学生が、女川町近辺で捕れたフカヒレを台湾や香港に輸出することを思い立ち、もともと海外に売り込めたらと考えていた地元の水産加工業者とタッグを組んだ。学生たちがパッケージを考え、販路を開拓した結果、年商何千万円にもなる事業の新たな柱を立ち上げるに至った。

起業したいけどできない──。こんなモヤモヤを抱えたまま就職を考えていたところに、女川町の水産加工業者と繋がった。その会社には工場があったし、地域の協力者にも恵まれていた。その両者がうまく組み合わさってこそ、新しいビジネスが立ち上がった。

女川町の事例はVENTURE FOR JAPANがうまくコーディネートした結果ではあるが、同じことは日本各地の地域で起こりうるだろう。決して簡単ではないが、うまくいけばいろいろな地域で起業家の夢が叶うと同時に会社としても新事業の柱が立ち、将来に希望が持てるようになる。

ものづくりのまち・燕三条での試み

既存の企業に新しいビジネスチャンスをもたらしてくれるのは、なにも首都圏の学生だけではない。地元の若手もその可能性を秘めている。

しかし、大学進学のためなどに早くから地元を離れる若者が多く、地方の中小企業の強みや、地域そのものの良さが十分に伝わっていないのが現状だ。地元への愛着の源泉がないまま都会での暮らしに親しみ、やがては物理的にも心理的にも地元から離れていってしまう。

そもそも触れる機会がなかったり、当たり前だと思い込んでいたりすると、地域の良さや地元企業の価値はわからない。そこで、「うちの企業はどれだけ面白いか」をちゃんと見せたり、知ってもらったりする機会をなるべく提供していくことが大事になってくる。

例えば、ものづくりで有名な新潟県の燕三条エリアでは、「工場の祭典」というイベントを毎年開催している。期間中にピンクと黄色の立て看板を掲げている工場には誰でも入っていいことになっており、学生も観光客も一様に職人さんの仕事ぶりを見学できるようになっている。工場には説明資料やパネルも用意されているので、そこで作られた部品がどのように使われているか、世界シェアの何パーセントを占めているかなどがわかるようになっているのも特徴だ。

このような機会を設けることで、いつもすれ違う近所のおじさんが実はすごい職人さんだった! という驚きや、こんなにニッチな技術を持った面白い会社が自分の身近にあるのか! という発見があるかもしれない。さらには、自分も挑戦したい、入社したいと思う若者が出てくるかもしれない。それは 100 人に 1人かもしれないが、発信し続けているうちにやがて2人になり、20人になり、徐々に人のつながりが広がっていく。

最近では首都圏の大学へ進学した学生が、やがて都心での生活に疲れてUターンするケースも増えてきている。工場の祭典のように、地方企業の良さを具体化、あるいは「見える化」してより多くの人に伝えていくことで、地方企業と地元の若者の両者の歯車がうまく噛み合い、より良い方向へ進んでいく事例が今あちこちで起こっているところだ。

経営者と支援者間のコミュニケーションを密に

自社の良さを「見える化」してより多くの人に伝えていくという点では、家族内のコミュニケーションも含まれる。

中小企業オーナーには人一倍強い責任感を持った方が多い。経営のことはすべて自分で管理していて、何が起こっているのか、どのような状況に置かれているかを家族に対して十分に伝えきれていないオーナーが多い。

家族は金庫の暗証番号も知らされていないし、通帳が何冊あって、それぞれが何のお金なのかもわからない──。このような場合、社長の身になにかあった時にどう対応していいかわからず、会社の存続に関わる事態ともなりかねない。

このような事態を防ぐためにも、身内のステークホルダー同士の対話は不可欠だ。親子間・夫婦間・兄弟間で議論が白熱し、感情的になりがちな場合には、第三者が家族会議の司会進行するサービスを利用するという手もある。

平時から対話を習慣化していれば、いずれやってくる承継時の役に立つ。それは今から 10年後か、 20年後かわからない。もしかしたら1年以内かもしれない。その日に備える準備を始めておいて損はない。

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文・山田ちとら