遺産相続,弁護士,選び方,費用相場
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

遺産相続については、遺言書の有効性、遺言の内容の有効性、誰が何をどの程度相続するかなど、トラブルや争いが起こりやすい場面です。

法律の専門家である弁護士に相談することでトラブルや紛争の解決につなげることができますが、弁護士なら誰でも良いというわけではなく、弁護士の選び方にはコツがあります。

また、弁護士に依頼した場合に発生する費用も気になるところです。

そこで今回は、遺産相続について依頼する弁護士の選び方や、費用の相場についてご紹介します。

1. 遺産相続に詳しい弁護士に相談することが大切

弁護士といえば、法律の専門家であることからあらゆる法律問題に精通していると思われるかもしれませんが、弁護士によってそれぞれの得意分野は異なります。

医療の専門家である医者が内科、外科、眼科などの専門分野に分かれているように、弁護士にも得意分野があります。

遺産相続が得意な弁護士もいれば、交通事故が得意な弁護士や、離婚問題が得意な弁護士もいます。

一方で、自分が得意とする分野以外の業務については、具体的な実務経験がないという場合もあります。

実務の経験がない、あるいは少ない弁護士に遺産相続の相談をすることは、専門分野が異なる医者に手術を依頼することに似ています。

そのため、弁護士という資格だけで相談するのではなく、過去の業務の実績などから判断し、遺産相続に精通してる弁護士に相談することが大切です。

2. 相続に関する相談の時期

遺産相続について弁護士に相談する場合、相続が発生する前と相続が発生した後の2つの時期に分けて考えるのが一般的です。

相続が発生する前か後かによって、相談する内容も変化します。

3. 相続が発生する前の主な相談内容

相続が発生する前の主な相談内容は、遺言の作成についてです。

将来的に相続が発生した場合の手続きやトラブルの防止のために、前もって遺言を作成しておくというものです。

その他、相続人廃除の申立があります。

3-1. 相続人廃除とは

相続人廃除とは、相続人から被相続人に対して著しい非行などがあった場合に、当該相続人から相続権を剥奪する制度です。

相続人廃除が一般的に認められるケースとしては、相続人が被相続人に対して虐待行為や侮辱行為をした場合や、著しい非行があった場合などです。

具体的には、暴力を振るう、ことさらに侮辱する、重大な罪を犯して刑罰を受ける、浪費や度重なる借金によって被相続人に被害を及ぼすなどです。

4. 相続が発生した後の主な相談内容

相続が発生した後の相談内容は、目的によって大きく異なります。

主な相談内容としては、相続に関する紛争の解決、相続放棄の手続、遺留分減殺請求、資産の名義変更などがあります。

弁護士に依頼する理由はさまざまですが、相続人の間で争いが生じている場合や、自分が相続した遺産が不当に少ない場合などは、相談する必要性が特に高いといえます。

4-1. 相続人の間で争いが生じている場合

遺産を遺す方である被相続人が亡くなって相続が発生した後に、遺産を受け取る側である相続人の間で争いが発生した場合についてです。

遺産の分け方やそれぞれの取り分などをめぐって、相続人同士で紛争が発生しているケースになります。

相続に関して争いが発生すると、お互いの言い分が噛み合わない、お互いに感情的になって話がまとまらない、などの泥沼に陥ることも珍しくありません。

弁護士に依頼することによる解決方法としては、弁護士を入れて裁判外で交渉を行うほか、家庭裁判所で調停の手続きを行う方法もあります。

相続人同士がそれぞれの言い分を主張した上で遺産の配分の取り決めなどを行うもので、弁護士による法的なサポートが有効です。

4-2. 相続した遺産が不当に少ない場合

相続財産については、被相続人は遺言によってある程度自由に誰に何を相続させるかを指定することができますが、被相続人の意思によっても妨げることができない最低限の取り分が遺留分として法律で規定されています。

例えば、被相続人である父親が、全ての財産を仲の良い友人に相続させるという遺言を作成した場合、それをそのまま認めれば残された妻子の生活に支障をきたす場合があります。

そのような場合に備えて遺留分の権利が認められています。

遺留分を侵害するような遺言があった場合には、遺留分を侵害された相続人から遺留分についての請求を行う必要があります。

書面等を作成することになりますが、相続などに関する法的な知識が必要になることが多いため、弁護士などに相談することが有効です。

5. 遺産相続を得意とする弁護士を探す方法

遺産相続について弁護士に相談したい場合にどのように弁護士を探せばよいか、複数の方法をご紹介します。

5-1. インターネットで弁護士を探す

知り合いの弁護士がいない場合や、弁護士を紹介してくれそうなツテがない場合などは、インターネットを利用して弁護士を探す方法があります。

インターネットで弁護士を探す方法としては、弁護士の発見につながる総合的なサービスを利用する方法と、弁護士が所属する法律事務所のホームページを参照する方法の2種類があります。

インターネットで弁護士の発見につながるようなサービスを提供している機関としては、法テラスがあります。

法テラスとは

法テラスは国民が法的なトラブルの解決に必要な情報やサービスの提供を十分に受けられるように設立された機関で、平成18年に法務省所轄の法人として設立されました。

法テラスは通称で、正式名称は日本司法支援センターです。

法テラスは法的なトラブルについての総合窓口であり、問い合わせの内容に応じて法制度、弁護士会、消費者団体などの機関の相談窓口を無料で案内する情報提供業務を行っています。

また、収入等が一定額以下であるなどの条件を満たす場合には、弁護士や司法書士による無料相談を受けることもできます。

法律事務所のホームページを参照する

ポータルサイトなどを利用せずに、弁護士が所属する法律事務所などのホームページを参照して探す方法もあります。

検索の際に有効なキーワードとしては、「相続」、「遺言」、「弁護士」、「探している地域名」などがあります。

キーワードで検索するといくつかの弁護士事務所のホームページがヒットしてくるので、複数の事務所のホームページを回覧して検討すると良いでしょう。

実際に弁護士事務所にアクセスする前にチェックすべき項目としては、相続相談に特化したホームページがあるか、相続相談についての過去の実績例が掲載されているか、発生する弁護士費用などについての詳しい記載があるか、などが重要です。

また、ホームページだけでは事件を担当する弁護士との相性などがわからないので、依頼する前に弁護士と面談してフィーリングを確かめておくことも大切です。

事件を担当する弁護士との相性が良くない場合、自分の意図が上手く伝わらないことで結果に支障をきたす可能性もあります。

しっくりこない場合には、複数の事務所で面談するのも手です。

5-2. 弁護士のツテがある場合

自分の知り合いに弁護士がいる場合、その弁護士に直接相談してみる方法もあります。

その弁護士が遺産相続の問題について詳しい場合には、直接相談したり依頼したりすることも有効です。

遺産相続に精通していない場合でも、その弁護士から知り合いの弁護士を紹介してもらえる可能性もあります。

弁護士自身が紹介してくれるので、信頼性が期待できます。

6. 弁護士費用の相場について

業務を依頼した場合に発生する弁護士に対する報酬は、法律等によって一定額には定められていません。

そのため、依頼する事務所によって発生する報酬の金額は異なってきます。

弁護士報酬が自由化される前には、報酬の基準として旧弁護士報酬規程が定められていたことがあり、今でもその規定に沿って報酬を定める事務所もありますが、一定ではありません。

もっとも、事務所によって極端に報酬が高かったり低かったりすることはあまりなく、相続手続きの種類によって報酬にはある程度の目安があります。

そこで、相続の手続きごとに報酬の目安をご紹介します。

6-1. 初回相談料について

初回相談料とは、弁護士に初めて相談した際に発生する費用のことです。

弁護士としては、相談の内容を聞いたうえで依頼を受けるかどうかを判断する機会になります。

また、依頼を受けた場合にどのような方法をとるかを説明することになります。

依頼者にとっては、実際に弁護士と面談することで弁護士や事務所の特徴を知る機会になります。

初回相談料の相場は30分で5,000円〜1万円程度です。

初回相談を無料にしている事務所や、正式に依頼した場合に無料にする事務所もあります。

6-2. 遺言書の作成について

遺言の内容を記載した書類である遺言書については、一般的な作成方法として大きく分けて3種類の作成方法、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言があります。

自筆証書遺言は民法968条に規定されている遺言の方式で、様式を満たせば被相続人自身が自分で作成できるという手軽さがあります。

一方、全文を自分自身で執筆する必要があり、子供や親族などの自分以外の人が代筆した場合には遺言書自体が無効になってしまいます。

また、本当に本人の意思によるものか判断することが難しい、偽造や変造の可能性がある、などのデメリットもあります。

秘密証書遺言は、遺言の内容を他者に知られることがない、本人によって作成されたことを証明できる、の2点についてメリットがある作成方法です。

遺言の内容を秘密にしたままで公証人に証明してもらえることが魅力ですが、遺言の内容までは公証人は確認しないため、様式を満たしていなければ遺言自体が無効になってしまうリスクもあります。

公正証書遺言は、公証役場において公証人によって作成される遺言書です。

遺言書の様式や内容について公証人がきちんとチェックするため、遺言書が無効になるおそれがないことが大きなメリットです。

その他、他者の詐欺や強迫などによって真意でない遺言書が作成されにくい、遺言書が公証役場で保管されるので紛失のおそれがない、などのメリットもあります。

一方、公証人に財産を公表しなければならない、情報収集に手間がかかる、多額の報酬や手数料が発生する、などのデメリットもあります。

遺言書の作成のサポートを弁護士に依頼した場合、一般的な報酬は10万円~20万円程度が相場になります。

公正役場を通す場合には、手数料なども別途必要になります。

6-3. 遺留分の請求について

被相続人の配偶者や子供など、一定の相続人については最低限遺産を相続できる権利として遺留分が認められています。

相続する遺産が遺留分に満たない場合は、不足分について遺留分を請求することができます。

遺留分の請求について弁護士に依頼する場合は、まず着手金として10~30万円程度の費用がかかるのが相場です。

交渉等の結果によって遺留分を取り戻すことができた場合は、報酬金としてその5~15%程度を支払うことになります。

6-4. 相続放棄について

相続放棄とは、被相続人の全ての相続財産を相続することなく、最初から相続人ではなかったように取り扱われる効果が認められる制度です。

財産を相続したくない場合や、被相続人が多額の借金をしていてそれを相続することになる場合などに有効な方法です。

相続放棄を希望する場合は、家庭裁判所に申立を行う必要があります。

被相続人が亡くなってから3ヵ月以内と期間が短いこともあり、権利関係が複雑な場合には専門家に依頼することが有効です。

相続放棄の手続きを弁護士に依頼した場合の相場は、10万円~20万円程度になります。

手続き自体は司法書士に依頼することが可能で、発生する報酬についても弁護士よりも割安になることが多いですが、は3~5万円程度と割安ですが、代行できるのは書類の作成のみです。

6-5. 遺産分割調停について

相続する遺産の種類や金額などについて相続人同士で争いがあり、話し合いだけでは解決できない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることが可能です。

調停では手続きや話し合いをすることになりますが、代行やサポートを弁護士に依頼することができます。

発生する費用や報酬は遺産の総額によって異なります。

例えば遺産総額が1億円の場合、一般的な相場でまず着手金として30万円~50万円が必要になり、調停が成功すれば報酬として100万円~200万円程度が必要になってきます。

6-6. 遺言の執行について

遺言の執行とは、被相続人の遺言に従って相続遺産を相続人に分配する手続きです。

相続人の代表が遺言の執行を行う場合が多いですが、トラブルが予想される場合や手続きが複雑な場合などは、弁護士に依頼するケースもあります。

弁護士に依頼した場合の相場としては、遺産の総額の1~3%程度になります。

7. 弁護士に依頼する前におさえておきたいポイント

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(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

遺産相続の手続きについて弁護士に依頼する前に、あらかじめ把握しておきたい重要なポイントをご紹介します。

7-1. 弁護士費用の支払いが難しい場合

依頼する手続きにもよりますが、遺産相続についての弁護士費用は時に高額になる場合があります。

特に、費用のうち着手金については基本的に遺産を得る前に支払う必要があります。

着手金等の費用の支払いが難しい場合は、法テラスの立替制度が利用できることがあります。

制度を利用するためには、収入等が一定額以下であること、勝訴の見込みがないとは言えず紛争解決の見込みがあること、民事法律扶助の趣旨に適すること、などの条件を満たす必要があります。

そのほか、弁護士事務所によっては分割払いなどの相談に応じてもらえるケースもあります。

費用に関して心配や疑問点がある場合には、初回相談などで確認しておくことがおすすめです。

7-2. 弁護士費用を相続人の誰が負担するか

遺産相続の手続きについて弁護士に仕事を依頼した場合、かかった費用について相続人のうち誰が負担するのかはトラブルになる可能性があります。

遺言の執行や遺産分割協議など、相続人の全員に利害関係のある行為について依頼した場合は、弁護士費用については相続人全員で分担するべきだと考えることができます。

もっとも、他の相続人の利害について影響のあることであっても、弁護士費用を支払う必要があるのは原則として弁護士に依頼し、弁護士と契約を締結した本人です。

弁護士に依頼していない他の相続人については、弁護士費用を負担する必要はありません。

弁護士費用の支払いについて他の相続人とのトラブルを防止するためには、費用の支払いについて書面等であらかじめ定めておく方法もありますが、元々争いがある場合には難しいところでもあります。

7-3. 弁護士費用は相続税の控除の対象にならない

相続した遺産について発生する相続税については、債務や葬式費用などを課税財産から差し引くことができます。

ところが、弁護士に支払った弁護士費用については債務に該当しないため、控除の対象にはなりません。

遺産相続に関する費用は、被相続人が亡くなった後に発生するのが通常です。

そのため、相続した遺産から差し引くべき性質のものではなく、相続人自身の負担によって支出すべきものとされます。

7-4. 弁護士保険を利用する方法も

弁護士に支払う費用について不安がある場合は、民間の弁護士保険を活用する方法もあります。

弁護士保険とは、法的なトラブルに巻き込まれた場合に、弁護士に相談する相談料や弁護士に交渉や訴訟などを依頼する着手金など、弁護士費用を補償してもらえる保険の制度です。

弁護士保険の保険料は保険の種類によって異なりますが、1月に1,000円~5,000円程度の負担が一般的です。

また、費用の負担だけでなく、電話相談や弁護士の紹介などのサービスを提供している場合が多くなっています。

注意点として、加入を検討している弁護士保険について相続が保証の対象に含まれているかどうかを確認しておきましょう。

また、加入してから一定期間は保険金が支払われない不担保期間についても注意が必要です。

8. おわりに

遺産相続でトラブルが予想される場合や、相続人の間で争いが生じている場合には、弁護士に相談することが解決の近道になります。

弁護士でも自分の専門分野や得意分野があるので、相続に強い弁護士や事務所を見つけて相談することが大切です。

また、事件を担当する弁護士との相性もあるので、初回相談等で印象をつかんでおくことも重要です。(提供:ベンチャーサポート法律事務所