2020年初からのコロナ禍によって、飲食業界は大きなダメージを受けた。立ち直りを見せている飲食店もあるが、業界全体として将来は安泰と言えるのだろうか。飲食業界ならではの課題や現状をチェックし、中小店舗が生き残るための施策を考えていこう。
目次

大企業と中小企業で明暗が分かれる飲食業界
日本フードサービス協会会員社の「外食産業市場動向調査」によると、日本の外食産業市場は30年ほど停滞している。

海外に比べると、日本食は安全面や衛生面が高く評価されている。味を評価する外国人も珍しくないが、その反面で外食産業の「売上・客数・客単価」は1990年代から伸びていない。
実際にはどのような状況なのか、ここからは大企業と中小店舗に分けて飲食業界の将来性を見ていこう。
大企業はDX化や海外出店で競争力アップを狙う
大企業については、外食産業を中心にDX化の波が広がっている。
例えば、すき家やはま寿司などをチェーン展開する「ゼンショーホールディングス」は、キャッシュレスPOSやモバイルオーダーなどを積極的に導入している。工場や物流を含めた多角的なDX化が評価され、2021年には経済産業省から「DX認定事業者」に認定された。
また、ASEANを中心に海外出店が本格化している点も、大企業における近年の傾向だ。上場企業の売上高上位10社だけでも、2019年度の海外出店は1,000店舗を上回った。
しかし、2022年から本格化した値上げラッシュは、大企業にも影響を及ぼしている。原材料の高騰に対して、多くの企業はメニューの値上げを行っているが、売上が増える代わりに集客が落ち込んだ例は少なくない。
DX化や海外出店でグローバルな競争力をつけてはいるものの、大企業でも安泰とは言えない時代に差しかかっている。
企業体力の乏しさに苦しめられる中小店舗
飲食業界における中小店舗の現状は、さらに厳しいと言わざるを得ない。
コロナ禍が本格化した2020年以降、飲食業界では中小・零細企業の倒産が相次いでいる。以下のデータには大企業も含まれるが、2020年の飲食業倒産は842件となっており、過去最多の2011年を上回った。

中小店舗が苦しめられている要因は、企業体力(資金)の乏しさだ。国や自治体による支援はあったものの、近年の飲食業界はさまざまな課題が浮き彫りとなり、赤字経営に耐えられない店舗が次々と倒産している。
○飲食業界が直面している主な課題
・コロナ禍による影響
・人材不足による人件費の高騰
・原材料の価格高騰
アルコール提供制限の緩和など、少しずつ状況は好転してきているが、中小店舗が苦しいことに変わりはない。これらの課題が解決しない限り、安泰と言えるような時代は到来しないだろう。
コロナ収束からの立ち直りがポイントに
飲食業界の中小店舗が生き残るには、「コロナ収束からの立ち直り」がキーワードになる。具体策を考える前に、まずはコロナ禍による影響を整理しておこう。
○飲食業界が受けたコロナ禍による影響
・人材不足による人件費の高騰
・感染リスクへの意識の高まりによって、予約数や来店数が減少
・営業時間短縮やアルコール提供制限などの規制
・感染対策による座席数や回転率の減少
・さまざまな業界の収入減によって、外食への出費抑制をする人が増加 など
新型コロナウイルスは飲食業界に多大な影響を及ぼし、消費者の意識までも変えてしまった。そのため、もし数年後に収束したとしても、すぐに市場環境が元通りになるわけではない。
コロナ収束からスムーズに立ち直るには、変化したニーズを踏まえて対策を練る必要がある。
飲食業界は本当に安泰?日本が抱える課題
コロナ収束後の計画を立てる際には、飲食業界ならではの課題とも向き合うことが重要だ。ここまで解説したものも含めて、今押さえたい課題を一つずつ確認していこう。
感染対策をしながらの営業
飲食業の経営戦略において、ウィズコロナとの向き合い方は欠かせないポイントだ。コロナ禍がさらに深刻化する可能性もあるため、収束しないケースも想定しなければならない。
外食産業に限らず、ほとんどの飲食業では感染対策が求められる。工場で食品を作るビジネスであっても、従業員同士の感染対策には力を入れるべきだろう。
○飲食業界で防ぐべき感染経路
・従業員から顧客への感染
・顧客から従業員への感染
・従業員同士の感染
・顧客同士の感染
ただし、感染対策のみに力を入れると、売上や顧客数の減少を招いてしまう。安心・安全な環境を作り出すことは前提だが、「回転率」や「座席数」にも注意しながら対策を考えたい。
人材不足による人件費の高騰
2020年頃に比べると、飲食店の予約状況は少しずつ回復している。しかし、その反面で深刻な人材不足が生じているため、顧客対応が難しくなっている店舗も少なくない。
飲食業で特に不足していると言われるのは、アルバイトやパートなどの非正規社員だ。営業時間短縮などで職を失った多くの人材は、すでに別の仕事を始めている。つまり、業界全体の労働力が減っているため、今後の人材獲得競争は避けられない。
競争激化によって人件費が高騰すると、資金力に乏しい中小店舗が苦境に立たされることは目に見えている。このような状況はすぐそこに迫っているため、どの店舗にも早急な対策が求められるだろう。
原材料の価格高騰
ロシアによるウクライナ侵攻やコロナ禍の影響で、近年ではさまざまな原材料が高騰している。どれくらいの店舗に影響が及んでいるのか、2022年4月に飲食店ドットコムが実施したアンケート調査の結果を紹介しよう。

上記を見ると、回答した飲食店のうち9割以上(※)が原材料高騰のダメージを受けている。安い原材料に変える、量を減らすなどの対策はあるものの、これらの方法では顧客満足度が下がってしまうだろう。
(※)「影響している」「やや影響している」の回答割合を合計した数値。
サービスの質を維持しながらコストダウンを図るには、さまざまな角度から対策を考えなければならない。
イタズラによる風評被害
飲食店へのイタズラ行為は昔から存在したが、ネット文化の発達によって拡散または可視化されやすい状況になった。「自分の店舗はされていない」と安心しているかもしれないが、一つのイタズラが業界全体にダメージをもたらす可能性もある。
例えば、サラダバーやドリンクバーに悪質なイタズラをされた場合、同じ機器を設置する全店舗のイメージが悪化するかもしれない。また、大企業が徹底したイタズラ対策を講じ、それが消費者にとって当たり前の環境になれば、中小店舗もコストをかける必要が出てくるだろう。
DX化で飲食業界は変わっている?中小店舗が考えたい施策
飲食業界は安泰とは言えないが、すでに多くの企業が課題解決に向けて動いている。前述のDX化は分かりやすい例であり、先進的なシステムの導入によって感染対策をする企業も増えてきた。
ここからは2つの方法に分けて、中小店舗が考えたい施策を紹介しよう。
DX化で「省人化」や「非接触化」を目指す
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AIやIoTなどのデジタル技術を駆使して、競争力のあるビジネスモデルを構築することだ。飲食業でもDX化は進んでおり、導入するシステムによっては省人化や非接触化を実現できる。
○省人化や非接触化につながるDXの例
・モバイルオーダーができる端末
・セルフレジ
・キャッシュレス決済
・予約管理システム
・集客販促ツール
例えば、セルフレジやキャッシュレス決済を導入すると、会計時に現金をやり取りする必要がないため、新型コロナウイルスの感染リスクを抑えられる。また、ネット予約ができる管理システムがあれば、これまで電話対応にあたっていたスタッフをほかの業務に回せるだろう。
システムと聞くと費用が気になるかもしれないが、最近では中小店舗向けのサービスも登場している。月々数万円から利用できるサービスもあるので、一つの選択肢としてDX化を検討してみよう。
付加価値の高い商品・サービスを強化する
業界全体がいくら苦しくても、付加価値のある商品・サービスには需要が生じる。
例えば、コロナ禍からも一貫して高級路線を守っている「ロイヤルホスト」は、2023年の決算で27億円の黒字を発表している。原材料高騰の影響を受けて、同チェーンも一部商品の値上げをしているが、それにも関わらず3年ぶりの黒字を達成した。
このように、商品・サービスの魅力によって形成されたブランドは、さまざまな課題を解決できる武器になる。一方で、原材料を変更してコストダウンを狙うような方法は、顧客満足度や需要の低下につながるため、あくまで一時的な対策に過ぎない。
競争が激しい市場で生き残るには、消費ニーズに中長期で応えていく必要があるため、付加価値の高い商品・サービスの強化に力を入れてみよう。
DX化を視野に入れて生き残り戦略を考えよう
1990年代からの市場動向を見ると、飲食業界は大手・中小ともに安泰とは言えない。2020年からはコロナ禍の影響も受けているため、変化するニーズに対応していく必要がある。
コスト面で難しい場合もあるが、最近では月々数万円で導入できるようなシステムも増えてきた。DX化も視野に入れながら、業界で生き残るための商品・サービスを強化していこう。
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文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)