経営者,退職金
(画像=PIXTA)

節税に興味を持っている経営者は、ぜひとも「役員退職金」に目を向けておきたい。実際の支給は数十年後になるかもしれないが、しっかりと計画を立てるだけで節税効果が大きく変わってくる。より綿密な計画を立てるために、役員退職金の基礎を学んでいこう。

目次

  1. 役員退職金とは?事前の対策が必要になる理由とメリット
  2. 基礎知識として押さえておきたい、「退職所得」の特徴
  3. 中小経営者が特に押さえておきたい、2つの公的な共済制度
    1. 1.小規模企業共済制度
    2. 2.中小企業倒産防止共済制度
  4. 共済制度以外にもチェック!経営者が退職金を準備する方法
    1. 1.預金
    2. 2.有価証券
    3. 3.不動産投資
    4. 4.法人保険への加入
  5. 「節税保険」には大きなメスが――法人保険の規制が強まる傾向に
  6. 役員退職金を不当に高く設定することは厳禁!二重課税のリスクも
  7. 最新の税制や制度を確認したうえで、慎重に計画を

役員退職金とは?事前の対策が必要になる理由とメリット

役員退職金とは、退職をした役員に対して会社が支払うお金のことだ。この役員退職金は支払われる目的によって、以下の2種類に大きく分けられている。

退職金の種類 概要
死亡退職金(弔慰金) 万が一経営者が死亡したときに、遺族の生活保障や相続対策のために支払われる退職金。
退職慰労金 経営者が勇退をする際に、これまでの功労に報いる形で支払われる退職金。

中小企業の一般的な基準で考えると、いずれの退職金であっても5,000万円以上の高額にのぼるケースは珍しくない。具体的な金額は在任年数によって変わってくるが、場合によっては1億円前後の退職金が発生することもあるだろう。

会社がその金額を負担すると考えれば、事前の対策が必要になる理由がわかるはずだ。タイミングが悪ければ会社の資金繰りが一気に悪化し、財務を圧迫することで後継者に大きな迷惑をかけてしまう。

また、役員退職金を支払うことは以下のようなメリットにもつながる。

〇役員退職金を準備するメリット
・税金の負担を軽減できる
・社会保険料の削減につながる
・経営者やその家族の生活資金として使用できる

詳しくは後述するが、役員退職金は役員報酬と比べると税制面で大きく優遇されている。また、その全額が社会保険料の対象外となるので、厚生年金や健康保険料の負担を抑えられる点も魅力的なポイントだ。

会社の財務を圧迫せず、かつ上記のメリットを享受するために、本記事で役員退職金に関する基礎知識をしっかりと身につけていこう。

基礎知識として押さえておきたい、「退職所得」の特徴

今回解説する役員退職金は、税務の世界では「退職所得(退職給与)」と呼ばれている。一方で、役員報酬・役員賞与は「給与所得」と呼ばれているが、退職所得と給与所得には税制面でさまざまな違いがある。

まずは退職所得にどのような特徴があるのかについて、以下で簡単に確認しておこう。

〇退職所得の税制面での特徴
【1】分離課税が採用されている
【2】退職所得控除が適用される
【3】「2分の1課税」が採用されている

上記【1】の「分離課税」とは、ほかの所得とは合算しない方式のことだ。つまり、退職所得に該当する役員退職金は独立して所得税を計算するため、その性質上やや税率が下がる傾向にある。

また、上記【2】の「退職所得控除」も、経営者が理解しておきたい重要なポイント。この制度によって、退職所得からは以下の金額を差し引くことが認められている。

勤続年数 退職所得控除の計算式
20年以下 40万円×勤続年数(※80万円が下限)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

さらに、実際の課税所得には上記【3】の「2分の1課税」が適用される。ここまでをまとめると、役員退職金の課税所得は以下の式で計算される仕組みになっている。

役員退職金の課税所得=(退職所得-退職所得控除)×2分の1

では、勤続年数25年の経営者が5,000万円の役員退職金を受け取ったと仮定して、実際の課税所得を計算してみよう。

役員退職金の課税所得={5,000万円-(800万円+70万円×5年)}×2分の1
=(5,000万円-1,150万円)×2分の1
=1,925万円

所得税や住民税などの税金は、上記の所得金額(1,925万円)に対して課せられる。この結果を見れば、役員退職金の支給が節税につながることが分かるだろう。

ただし、平成25年1月以降の役員退職金については、「勤続年数5年以上」が退職所得控除を受けるための条件だ。つまり、短いスパンで役員退職金を支給する場合や、頻繁に会社を設立する場合には適用されない恐れがあるので注意しておきたい。

中小経営者が特に押さえておきたい、2つの公的な共済制度

ここからは、役員退職金を用意する具体的な方法を見ていこう。役員退職金を積み立てる方法はいくつかあるが、まずは以下で紹介する2つの共済制度を押さえておきたい。

1.小規模企業共済制度

小規模企業共済制度は、中小機構が実施している小規模事業者のための共済制度だ。掛金を毎月積み立てることで、廃業時や解散時などに掛金合計額に応じた共済金を受け取れる。

ほかにもさまざまな特徴がある制度なので、以下のメリット・デメリットを交えて概要を簡単に解説していこう。

メリット デメリット
・掛金を1000円~7万円(月額)の範囲で自由に設定できる
・一定の年数を超えると、共済金が掛金合計額を上回る
・経営者個人が支払う掛金は、その全額が所得控除の対象になる
・低金利の貸付制度を利用できる
・加入条件が細かく設定されている
・加入後20年未満の状態で解約をすると、解約手当金が掛金合計額を下回る

この制度では掛金を自由に設定でき、さらに掛金の全額が所得控除の対象に含まれるため、節税を意識しながら無理のない範囲で退職金を積み立てられる。契約をしておけば低金利での即日貸付にも対応しているので、貴重な資金調達手段としても活用できるだろう。

ただし、税制面でのメリットが大きい一方で、加入条件が細かく設定されている点はしっかりと確認しておきたい。たとえば以下のように、従業員数や加入者個人に関する条件がいくつか設定されている。

〇小規模企業共済制度の加入条件の一例
・従業員数20人以下の建設業や運輸業、不動産業
・従業員数5人以下の商業やサービス業(宿泊業・娯楽業を除く)
・加入対象者の法人役員が営利目的で経営をしていること
・別の企業の会社員や学生など、兼業をしていないこと など

また、解約手当金が低めに設定されている点も、加入前にチェックしておきたいポイントだ。小規模企業共済制度は解約手当金を抑えることで、そのほかの部分を充実させた制度であるため、「長期間の契約」を前提として考える必要がある。

2.中小企業倒産防止共済制度

中小企業倒産防止共済制度は、「経営セーフティ共済」とも呼ばれている共済制度だ。この制度に加入しておくと、取引先事業者が倒産をした際に無担保・無保証人の状態で最高8,000万円までの融資を受けられる。

上記の小規模企業共済制度と似ている部分もあるが、以下のメリット・デメリットを見てわかる通り全く異なる制度なので、混同しないように注意しておこう。

メリット デメリット
・掛金を5,000円~20万円(月額)の範囲で自由に設定できる
・年間240万円、累計800万円までの掛金を損金に算入できる
・取引先事業者が倒産をした際に、低利率で融資を受けられる
・解約時に解約手当金が発生する
・いつでも解約、再加入できる
・契約期間が40ヶ月未満の場合は、掛金の全額が戻ってこない
・加入できる中小企業が限られている

この制度で役員退職金として活用できるのは、解約時に発生する「解約手当金」だ。加入期間が12ヶ月以上のケースでは掛金の8割以上、40ヶ月以上のケースでは掛金の全額を解約手当金として受け取れる。

さらに、その掛金は累計800万円まで損金として計上できるため、万が一に備えながら退職金を効果的に積み立てられる。加入や解約、再加入の手続きが容易な点も、この制度ならではの魅力と言えるだろう。

ただし、加入期間が12ヶ月に満たない場合には、掛け捨てとなってしまうので注意しておきたい。また、以下のように加入条件が細かく設定されている点も、事前に確認しておきたいポイントだ。

〇中小企業倒産防止共済制度の加入条件の一例
・製造業や建設業など、指定されている業種に該当すること
・各業種で定められている、資本金や従業員数の要件を満たしていること
・企業組合や協業組合に該当すること など

加入できる企業はある程度限られてくるが、こちらも無理のない範囲で役員退職金を積み立てられる制度なので、加入条件を満たしている場合にはぜひ加入を検討しておきたい。

共済制度以外にもチェック!経営者が退職金を準備する方法

上記で紹介した共済制度以外にも、経営者が退職金を準備する方法はいくつか存在する。より綿密な退職金計画を立てるために、以下の方法にも目を通しておこう。

1.預金

本記事で紹介する中でも、「預金」はもっともシンプルな方法だ。金融機関に預金口座を開設して、地道に退職金となる資金を貯めていく。

預金の大きなメリットは、契約期間や積立額に関するルールが存在しない点。積み立てる期間や金額を自由に決められるため、自分のペースで退職金を積み立てられる。

ただし、預金は損金に算入できる部分がなく、現在では金利も低めに設定されているため、効率的な手段とは言えないだろう。比較的金利が高いとされているネット銀行の定期預金であっても、その利率は年0.02%~0.2%ほどだ。

2.有価証券

現金を株式などの有価証券に換えて積み立てる方法でも、経営者の退職金は貯められる。仮に投資先の価値が上昇していけば、将来的に期待していた以上の金額を受け取れる。

ただし、有価証券も預金と同じく、損金として算入できる部分がない。また、投資先の価値が下落すれば、逆に資産が減ってしまうリスクもあるだろう。

確実性のある手段ではないため、リスクも覚悟したうえで慎重に投資先を選ぶことが重要だ。

3.不動産投資

不動産投資も有価証券と同じく、確実性の高い方法とは言えない。場合によっては多くのリターンを受け取れるが、購入後に借り手や買い手が見つからなければ、最終的に大きな負債が残ってしまうリスクもある。

また、多くの初期費用を必要とする点はもちろん、管理費や固定資産税などのランニングコストも軽視できないポイントだろう。

4.法人保険への加入

法人保険とは、各保険会社が企業向けに展開している保険商品のこと。一般的な法人保険では、解約時に加入期間に応じた「解約返戻金」を受け取れるため、この解約返戻金を退職金として積み立てるケースが見受けられる。

また、保険商品によってルールは異なるが、支払った保険料を損金算入できる点も大きな魅力。ただし、2019年に入ってからは損金算入についてのルールが大きく見直されているので、次の見出しでしっかりと確認しておこう。

メリット デメリット
預金 ・確実性が高い・自分のペースで積み立てられる・手間がかからない ・効率が悪い・損金に算入できる部分がない
有価証券 ・状況次第では期待以上の金額を積み立てられる・投資先によっては、配当金などのインカムゲインを受け取れる ・損失を被るリスクがある・確実性が低い・損金に算入できる部分がない
不動産投資 ・状況次第では期待以上の金額を積み立てられる ・損失を被るリスクがある・確実性が低い・初期費用、ランニングコストがかかる
法人保険 ・選択肢が多い・各商品の保障を受けられる・保険料を損金に算入できる ・昨今では規制が強化されつつある

退職金を積み立てる方法はいくつかあり、方法ごとにメリット・デメリットは大きく異なる。部分的には確実性や効率性が高い方法も見られるが、リスクを抑えつつある程度の効率も追求するのであれば、やはり共済制度が適していると言えるだろう。

また、より多くの役員退職金を積み立てたい場合には、複数の方法に取り組むことも検討しておきたい。

「節税保険」には大きなメスが――法人保険の規制が強まる傾向に

前述で紹介した法人保険の中には、節税効果に重点を置いた「節税保険」と呼ばれる商品も存在する。節税保険は損金に算入できる保険料が多く、さらに5年~10年などの短いスパンで解約返戻金を受け取れたため、多くの経営者が退職金を積み立てる方法として活用していた。

しかし、2019年に入ってから規制が強化された影響で、その状況は大きく変わってきている。これまでは解約返戻金に関わらず保険料の全額を損金算入できる商品も見られたが、令和元年7月8日以降に結ばれた契約については、以下のように「解約返戻率のピーク」を基準として損金算入できる範囲が見直された。

解約返戻率のピーク 損金算入に関するルール
50%以下 保険料の全額を損金として計上可能
50%超~70%以下 保険料の6割を損金として計上可能
70%超~85%以下 保険料の4割を損金として計上可能
85%超 「保険料×解約返戻率(ピーク時)×9割」が課税対象になる

これまでの商品に比べて法人保険の節税効果は下がったが、法人保険の魅力そのものがなくなったわけではない。本来の目的である「保障内容」に目を向ければ、安心して事業に取り組むための環境や状況を整えられる。

一定のコストは発生するが、必要な保障が充実した保険商品を選択すれば、安心できる環境・状況を整えつつある程度の解約返戻金を積み立てられるだろう。

役員退職金を不当に高く設定することは厳禁!二重課税のリスクも

役員退職金はさまざまな方法で積み立てられるが、実は損金算入に関するルールが設けられている。具体的な金額は設定されていないが、「適正額」を計算するためのルールが存在しており、この適正額を超えた部分は損金不算入となるため注意が必要だ。

一般的なケースでは、役員退職金の適正額は以下の式によって算出されている。

役員退職金の適正額=最終報酬月額×在任年数×功績倍率

上記の「功績倍率」とは、会社への貢献度の数値で表したもの。明確なルールは存在しておらず、3.0以上の功績倍率が認められた例もある一方で、2.0以下に設定しても認められないケースが存在する。これまでの貢献度を考慮して、第三者から見ても適正であることが分かる数値を設定しなければならない。

また、上記の適正額を計算する際には、ほかにも注意しておきたいポイントがいくつかある。

○役員退職金の適正額に関する注意点
【1】同業種や同規模の事例から、平均値を算出しておく必要がある
【2】退職金規定を事前に作成しておく必要がある
【3】最終報酬月額だけを高くしても適用されない

上記の中でも【1】と【2】は、税務署への説明のために押さえておきたいポイント。たとえば、同業種と比べて功績倍率が高すぎたり、退職金規定を都合の良いように作成したりすると、思わぬ指摘を受ける恐れがある。

【3】についても同じことが言えるが、第三者が確認をしたときに「役員退職金を不当に高くしている」ように映る行動は基本的にNGだ。ちなみに、役員退職金において損金算入が認められない部分に対しては、法人税・所得税が2重で課せられるため細心の注意を払っておきたい。

最新の税制や制度を確認したうえで、慎重に計画を

今回解説したように、役員退職金は税制面で大きく優遇されている。さらに社会保険料の対象外として扱われるため、単に役員報酬として支払う場合に比べると多額の税金を節約できるだろう。

ただし、2019年に入ってから節税保険が規制されたように、今後状況が一変する可能性も考えられる。適した積み立て方はその時代によって変わってくるので、常に最新の税制や制度、保険などに目を通しておくことが重要だ。

役員退職金の支給までには長い期間を要するからこそ、しっかりと情報収集をして慎重に計画を立てていこう。

文・THE OWNER編集部

まずは無料でご相談ください。
無料会員登録はこちら