経営者,必要な資質,チェックポイント
(画像=Getty Images)

経営者に必要な資質とは何であろうか。経営者のみならず現代のビジネスマンには、経営者の視点が必要だとよくいわれる。過去にも現在にもカリスマ経営者といわれる人物がいる。カリスマ経営者の言葉の中に、経営者が持つべき能力のチェックポイントが垣間見られることがある。今回はカリスマ経営者たちが語った経営者に必要な18の資質を紹介しよう。

松下幸之助氏による経営者の資質で最も大切な能力は「経営理念」

松下幸之助氏は、松下電気器具製作所(現在のパナソニック)の創業者で、日本を代表するカリスマ経営者である。松下幸之助氏は、経営者の資質で最も大切な能力は「経営理念」であると語っている。

経営者は、経営理念として「会社は何のために存在するのか」「会社はどこに向かうのか」「どのような姿にしていくのか」という企業のベースを考え、明確な答えを持っていなければならない。

経営理念は、単に立派な言葉を並べた形式的なものではなく、経営者自身の根源的な人生観、世界観、人間観からできあがったものでなければ、経営力には結びつかない。

企業経営で決断を下すのは経営者の役割である。決断は企業の運命を左右する重大な仕事だ。決断を下すとき、経営者は孤独である。孤独な経営者の決断の根拠となるのが、経営理念なのだ。

松下幸之助氏は、経営理念の他にも、経営者に必要な資質として統率力、決断力、実行力、先見性、人徳などをあげているが、それらは、経営理念があってこそ成り立つ資質であると説いている。

成功している企業に見られる「企業理念」や「ビジョン」

松下幸之助氏が経営者の資質で最も大切な能力とする「経営理念」の考え方は、成功している企業に見られる、「企業理念」や「ビジョン」の考え方と一致している。

成功している企業に見られる特徴のひとつとして、経営者(企業)が明確な企業理念やビジョンを持ち、それを内外に発信し、従業員に浸透していることがあげられる。

松下幸之助氏の経営理念はパナソニックに生き続けている

パナソニックの経営理念「A Better Life, A Better World」は、松下幸之助氏の綱領(企業理念)を今の時代に合わせて表現したものである。松下幸之助氏の経営理念はパナソニックに生き続けているのだ。

<綱領>
産業人たるの本分に徹し社会生活の改善と向上を図り
世界文化の進展に寄与せんことを期す

<経営理念>
A Better Life, A Better World

私たちパナソニックは、より良いくらしを創造し、
世界中の人々のしあわせと、社会の発展、そして
地球の未来に貢献しつづけることをお約束します。


引用元:パナソニック株式会社のウェブサイト

クロネコヤマト宅急便の創業者、小倉昌男氏による経営者に必要な3つの資質

今や企業や家庭で毎日の流通を支えるクロネコヤマトの宅急便も、カリスマ経営者小倉昌男氏の存在が発展の原動力になっている。小倉昌男氏は経営者に必要な3つの資質について著書『小倉昌男 経営学』(日経BP社)の中で述べている。

1. 論理的に考える力

小倉昌男氏は、経営者には論理的に考える力が必要であると述べている。小倉氏が宅急便ビジネスの構想を立てた時代は、広大なエリアの荷物を集荷して配達するというビジネスモデルを実行するのは、採算が取れず実現は難しいと考えられていた。

小倉氏は、今までなかった新しい宅急便のビジネスモデルを実現するために、はじめから感情的に無理だと考えてしまうのではなく、論理的な思考で、コストと利益、エリアの集荷数、車両の効率などを予測しながらプランを計画した。そして、実行した結果を考慮し、改善しながら事業を軌道に乗せていった。

経営者には、既存のビジネスモデルにとらわれず、自分のビジネスを論理的に考えられる資質が必要なのだ。

2. 戦略を練る力

小倉昌男氏は、経営者には戦略を練る力が資質として必要だと述べている。企業経営には日々の営業競争に勝利するための「戦術」と、企業本来の経営目標を達成するための長期的な「戦略」が必要だが、経営者には特に戦略を練る力が必要なのだ。

企業本来の経営目標とは企業理念やビジョンであり、経営者には、経営目標を達成するための長期的な「戦略」が必要であるという小倉昌男氏の考えは、松下幸之助の「経営理念」が必要だとする考え方と一致しているのではないだろうか。

3. ニーズを創り出す力

小倉昌男氏は、経営者にはニーズを創り出す力が資質として必要だと述べている。宅急便事業のビジネスモデルを考え出し、今までに存在しなかったニーズを創り出した小倉氏の語る真実味あふれる言葉である。

クロネコヤマト宅急便のヤマト運輸は、ニーズを創り出す力に優れた企業である。ゴルフ宅急便、スキー宅急便、クール宅急便など、新しいサービスを市場に提案し、新たなニーズを誕生させている。小倉氏の経営者としての資質はヤマト運輸の経営に生き続けているのである。以下にヤマトグループの経営理念を引用しておこう。

ヤマトグループは、社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化、より便利で快適な生活関連サービスの創造、革新的な物流システムの開発を通じて、豊かな社会の実現に貢献します。

引用元:ヤマト運輸ホームページ グループ企業理念/社訓

フロイデ会長兼シニアパートナー、坂本桂一氏による経営者に必要な11の資質

坂本桂一氏は、日本のITビジネスをけん引したカリスマ経営者だ。数百社の企業を立ち上げ、経営者としての手腕を発揮した。坂本桂一氏による経営者に必要な11の資質は、著書『年商5億円の「壁」のやぶり方』(クロスメディア・パブリッシング)で語られている。

1. 用心深さ

経営に失敗した経営者の中には、経営のアクションを起こすときにあらゆるリスクを検証することをおろそかにした状態で、社運を賭ける決断をしてしまった人がいる。いくら完璧に検証を行ったとしても事業の成功が約束されるものではないが、用心に越したことはない。

坂本桂一氏は、経営者に必要な資質として「用心深さ」をあげている。事業を始める前には、用心深く検証していく必要がある。そして、その結果一度やると決めたことはスタートを切る行動力も経営者には大切だ。

2. 決めたら、ぶれない

経営者の決断や考え方で、企業はすすむべき方向に向かう。経営者は用心深く検討した結果、「一度やると決めたことはぶれずにやりきる資質」が必要だ。人の意見によって方向性がすぐに変わる、もしくは思いつきで方向性が変わる経営者では、従業員はすすむべき方向性を見失ってしまう。

企業経営の決断は、経営者が自らの意志で決めなければならない。従業員の意見を広く聞く機会を設け、いいアイデアは積極的に取り入れるべきだが、最終的な決定は経営者が行うのだ。決定は責任を伴うものだ。経営者が決めて責任を持ってぶれずにやりきるのだ。

3. 先見性がある

坂本桂一氏は、経営者に必要な資質として「先見性」をあげている。先見性は、今までに存在しなかったニーズを創り出す意味で、クロネコヤマト宅急便の創業者 小倉昌男氏の「ニーズを創り出す力」とイコールの資質ともいえるだろう。

先見性は「考える」姿勢から生まれる。坂本桂一氏は、現代は、マスメディアの情報や専門知識は以前よりも企業経営にとって価値が薄れてきていると述べている。インターネットで検索すれば、ほとんどの知識は手に入る時代だからだ。

情報や専門知識に代わって価値を持つのが「先見性」なのである。経営者は、数年先や将来どのようになっていくかを常に考え、従業員を導いていくリーダーシップを持つことが重要となる。

4. 約束を守る

坂本桂一氏は、経営者に必要な資質として「約束を守る」ことをあげている。約束を守ることは、人として信頼を得るために最も重要な項目である。経営者とは、企業のすべての従業員と関連企業、社会から注目される役割だ。SNSが浸透する現代社会では、経営者の資質が企業のイメージや経営に大きな影響を及ぼすのである。

企業のトップである経営者が約束を守る人だと内外に認知されれば、従業員のモラルを向上させる。そして、それが企業文化として浸透し、企業の信用性が高まっていく。

5. 社員に誠実

経営者が、経営の決断を下すことと、独断的でワンマンであることは、全く異なる。坂本桂一氏は、経営者に必要な資質として「社員に誠実」であることをあげている。近年成功を勝ち取った経営者に共通している特徴として、従業員の意見や発言をよく聞き、コミュニケーションを持つ機会を作っている点がある。これらは、従業員に誠実であることを伝える行動だ。

経営者はゆるぎない経営理念を持ち、決めたらぶれない姿勢を従業員に示し、社員に誠実に接することで、求心力を得ることができるのである。

6. 競争の水準を示せる

経営者には従業員に「競争の水準を示せる」資質が必要だ。「頑張れ、頑張れ」では、具体性が欠け効果は期待できない。競合他社との競合が具体例として分かりやすい。競合他社をターゲットに具体的な数値を示すことができれば、従業員は競合他社を打ち負かす目標を得ることができ、行動目標を考えることができるのだ。

従業員にアクションのトリガーとなる論理的で正確な「競争の水準を示せる」資質は、企業経営を成功させるキーポイントなのである。

7. 自分より能力がある人を使える

企業規模が大きくなるにつれて、「自分より能力がある人を使える」資質が経営者にとって必要性が増してくる。企業において人材は大きな財産だ。人材は、各部門のリーダーとして、部門の経営管理を任せる中核的な人材と各部門のリーダーなどから指示を受けて業務を行う人材に分けられる。

経営者の「経営理念」を理解した能力がある人材を、組織のリーダーとして機能させる資質が経営者には必要なのである。

8. 自分より能力がない人を使える

企業の業務は、リーダーだけでは回っていかない。リーダーから指示を受けて業務を行う人材が必要なのだ。企業運営に必要な業務には、専門的なスキルや能力を必要としない業務も数多く存在する。そういった定型的な業務をこなしてくれる人材のモチベーションも企業運営に影響を与える。

経営者は、企業においてどのような役割を担っているかに関わらず、平等に接し、意見やアイデアをヒアリングできる環境にあることが重要だ。定型的な業務をこなしてくれる人材から、企業経営にプラスになるアイデアが出たり、リーダー候補が発掘できたりするケースが多々あるのだ。

9. 24時間仕事のことを考えられる

24時間という1日の時間は、すべての人にとって平等であり、1日の時間を増やすことはできない。坂本桂一氏は、企業経営で成功するための資質として、24時間仕事のことを考えられる点をあげている。

経営者がひたむきに仕事に取り組む様子を見て、従業員も「自分も頑張ろう」と働く意欲があがる。社内全体の雰囲気がよくなることで、目標の水準もおのずと上がるはずだ。

10. 教養がある

坂本桂一氏は、名だたる経営者に共通する資質として「教養がある」点をあげている。経営者にとって学歴は意味を持たないが、教養の有無は大きな意味を持つことが多い。クライアントがビジネスパートナーを選ぶタイミングで、経営者の教養の有無が判断基準となるケースがあるからだ。

特にグローバル化がすすむビジネスにおいては、自国の歴史や文化を語れることは経営者にとって当然のことになっている。

11. 有能な秘書を雇う

経営者は多忙である。坂本桂一氏は、優秀な秘書を雇うことも、経営者に実行してほしいことだと述べている。スケジュール管理や雑務を任せると、その空いた時間に仕事に精力的に取り組むことができる。結果、業績アップにつなげていくことができれば、支払った給料以上の成果を上げられる。

経営指導の神様、舩井幸雄氏による経営者に必要な3つの資質

舩井幸雄氏は、経営指導の神様といわれる経営コンサルタントだ。舩井氏は「組織は、トップで99%決まる」として、経営者に必要な「勉強好き」「プラス発想」「素直」3つの資質をあげている。

舩井幸雄氏は、人間にあって他の動物にないものが、頭脳、理性、良心であり、この3つの人間特性を追求することで、企業も人も自然の原理・原則に従い、業績を向上させることができると説いている。この頭脳、理性、良心にあたる経営者の資質が「勉強好き」「プラス発想」「素直」である。

1. 勉強好き(頭脳)

人間の特性として、使えば使うほど向上していく頭脳がある。経営者は常に仕事のことを考え、勉強好きであることが資質として求められる。勉強好きの資質は、松下幸之助氏の「経営理念」を目指して考える資質や、小倉昌男氏の3つの資質、坂本桂一氏の「先見性」「24時間仕事のことを考えられる」資質に共通していて興味深い。

2. プラス発想(理性)

人間が行動を起こすときには、「理性」「情動」「本能」の3つの意志のいずれかがトリガーとなるが、人間にあって他の動物にないものが、理性である。理性とは、悪いと思うことは行動に移さず、良いと思うことを行動に移す意志である。経営者に必要なプラス発想は理性に基づいたものである。

3. 素直(良心)

舩井幸雄氏は、経営者には、否定やこだわりに固執せず、ありのままを素直に受け入れ、自分の内なる声である良心に耳を傾けて行動する資質が必要だとしている。

近年のカリスマ経営者の語る経営者の資質

現代は、ITの急速な進化や、グローバル化などの変化のスピードが上がり、世界中で大きなイノベーションが起こっている。新しい時代にも時代を切り開く、多くのカリスマ経営者が出現している。今回はそんな近年のカリスマ経営者の中から、スティーブ・ジョブズ氏と三木谷浩史氏の言葉の中に見られた経営者に必要な資質を紹介する。

アップル創業者:スティーブ・ジョブズ氏

スティーブ・ジョブズ氏の発言の中から経営者の資質に関連する言葉を見てみると、今まで紹介したカリスマ経営者があげた多くの資質をスティーブ・ジョブズ氏が満たしていることが分かる。

・多くの企業はすぐれた人材を抱えている。でも最終的には、それを束ねる重力のようなものが必要になる。

・変革はトップから始めなければだめだ。

・それがマッキントッシュの大きさだ。これ以上、大きくすることは許さない。

・ただ数字を見るのではなく、覆いの下をのぞいて、アイデアと人間の質を評価する。

・大木には同じくらい大きな根がある。その根を育ててきた。

・我慢することだ。

・乗る馬を慎重に選んできた。

引用元:『スティーブ・ジョブズ全発言』(桑原晃弥 著、PHPビジネス新書)

例えば「それがマッキントッシュの大きさだ。これ以上、大きくすることは許さない」という言葉は、坂本桂一氏の「競争の水準を示せる」資質を満たしているし、「乗る馬を慎重に選んできた」という言葉は、同じく坂本桂一氏の資質の「用心深さ」にあたるだろう。

楽天創業者:三木谷浩史氏

楽天は近年の日本企業の中で、経営者の三木谷浩史氏の存在感を強く感じる企業である。楽天は、インターネットで商品を購入することが一般的には認知されていなかった時代に、インターネット・ショッピングモールを開設するなど、今までになかったビジネスモデルを成功させた企業として、クロネコヤマトの宅急便と共通している。三木谷浩史氏は、ヤマト運輸創業者の小倉昌男氏の経営者に必要な3つの資質「論理的に考える力」「戦略を練る力」「ニーズを創り出す力」を満たしているように思われる。

三木谷浩史氏の著書『成功のコンセプト』(幻冬舎)には、経営者に必要な資質がいくつか見て取れる。三木谷氏は企業がビジネスを成功させるためには、未来へのビジョンが必要だと説き、戦略を立て、実行し、改善を繰り返すことで、目標を達成できると述べている。

楽天は「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」ことをミッションとしている。イノベーションが経営理念の中心となり、経営者である三木谷氏の「ニーズを創り出す力」「先見性」といった資質が企業経営のベースとして生かされていることが分かる。

経営者の語るベーシックな資質は時代を超えて生き続ける

日本の歴史に残る4人のカリスマ経営者の言葉の中に垣間見られた、経営者に必要な18の資質は、どれもベーシックだ。近年カリスマ経営者として、時代をけん引してきたスティーブ・ジョブズ氏や三木谷浩史氏の言葉や経営にも4人のカリスマ経営者の言葉と共通する資質が多く見られた。経営者に必要な18の資質は、これからの時代を切り開き、企業を発展させていく経営者の中で、時代を超えて生き続ける能力であろう。

文・小塚信夫(ビジネスライター)