地方企業が抱える主な問題点として「人口減少による地域経済の縮小」「少子高齢化による労働力不足や後継者不足」「都市圏との格差」の3つが挙げられる。このような状況で地方企業が経営を現状維持で問題ないと考えていては、将来経営が立ち行かなくなってしまうだろう。場合によっては、廃業につながる危険性もあるため、やはり地方企業にも事業拡大の取り組みは必要だ。

新型コロナウイルス感染症の影響からテレワークも定着し、ワーケーションなどといった働き方も現れている。東京から地方へ拠点を移す企業が増えていることからも分かるように、現代は東京のような大都市部にいなければ事業が行えないわけではない。実際に地方企業でも地方の優位性を活かして発展を遂げている企業もある。

本記事では、地方企業が抱える課題を取り上げ、その解決方法について解説していく。

目次

  1. 地方企業が抱える経営課題
    1. 人口減少による地域経済の縮小
    2. 少子高齢化による労働力と後継者の不足
    3. 都市圏との格差
  2. 地方企業特有のメリットを活かす
    1. 地方企業のメリット
  3. 地方の優位性を活かしたビジネスを展開する
    1. 地方に拠点を置いても影響がない企業
    2. 地方の特色を活かした事業を行う
  4. 地方の特性や特色を生かしたビジネス展開を
地方企業にとって現状維持は危険? 地方だからできる生き残り戦略を考える
(画像=umaruchan4678/stock.adobe.com)

地方企業が抱える経営課題

人口減少や少子高齢化の問題は、地方に限ったことではない。ただし、地域経済の縮小や労働力不足、後継者不足の問題などは、都市圏にある企業よりも地方で事業を行う企業のほうが影響を受けやすい。ここでは、地方企業が抱える経営課題には、どのようなものがあるのか紹介する。

人口減少による地域経済の縮小

内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると2053年には日本の総人口が1億人を割り込み、9,924万人になると推計されている。さらにその12年後の2065年には、8,808万人にまで減少すると予想されている。人口減少の流れを止めることはできず、人口構造だけを考えると地域経済の縮小は避けられない。

人口が減少すれば、国内では日本企業の競争はますます激化していくだろう。高度経済成長期のように大量・低価格の商品の販売、画一的なサービスの提供では、企業は生き残ることができないのではないだろうか。大手企業のように、人口が増加して経済成長が見込まれる国や地域の市場に参入する方法もあるが、中小企業では資金力に限界がある。

国内市場で企業が生き残るためには、顧客ニーズに合ったオーダーメイド型のサービスや高品質・高性能な商品を求める顧客の要望に応える事業戦略が必要だ。

少子高齢化による労働力と後継者の不足

現代の日本は65歳以上の高齢者が増えている一方で新生児の数が減少している。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると高齢者が総人口に占める割合は2036年に33.3%と推計されており、国民の3人に1人が65歳以上となる計算だ。65歳以上の人口は、2042年にピークを迎え、3,935万人になると予測している。

若い世代が高齢者を支える仕組みになっている日本において労働力人口の減少は、深刻だ。日本政府は、一億総活躍社会の実現に向けて働き方改革を推進している。しかしそもそも65歳以上の人口も2042年にピークを迎えたあとに減少に転じていくため、将来の労働力不足は避けて通ることはできない。

少子高齢化により日本の総人口が減少するなかで65歳以上の人口増加やその後の高齢社会の進展、労働力不足の問題は、企業にとっては大きなリスクとなる。近年、後継者不足もあって中小企業においてもM&Aが盛んに行われている。しかし地方の中小企業経営者は、わが子のように愛着をもって自身の企業を経営しており、M&Aで会社を売却することにためらう者が多い。

また子どもが親の会社を引き継ぐことを望まないケースも多く見られ、後継者不足が原因で廃業する企業が増加している。地方でも永年営業してきた優良企業は多く存在するが、後継者不足で優良企業が廃業してしまうことは、日本経済にとって大きな痛手といえる。

都市圏との格差

そもそも地方と都市圏では、商品やサービスの需要量に大きな差がある。東京や大阪などの大都市では、ビジネスとしてターゲットとなる人口が圧倒的に多く、どのような商品・サービスを提供してもある程度商売につながる優位性があるのだ。このことは、人通りの多い通りで食堂をオープンすれば、ある程度の人数が食事に来店すると考えれば分かりやすいだろう。

地方は、競合企業が少ないといっても顧客がいなければビジネスが成り立たないことは明白だ。地方では、人口が少なく特にスタートアップ企業においては、固定客やなじみ客がいないため、事業参入が難しい。そのためスタートアップ企業と地元に根付いた業歴のある企業とでは、おのずと差が出てしまう。

地方で事業を行うためには、ターゲットとなる消費者を地方の地域に限定せず、地方にいても事業が成り立つビジネスモデルを構築しなければならない。

地方企業特有のメリットを活かす

地方には地方のよさがあり、地方で事業を行うことにもさまざまなメリットがある。地方で事業をするならば、地方企業特有のメリットを活かしたビジネスモデルの構築が必要だ。

地方企業のメリット

地方で事業を行う主なメリットは、以下の3つだ。

・1.コストが安い
土地の取得価格や賃料、物価の安さは、経営上大きなメリットとなる。低コストで事業を行うことができれば、都市圏との格差をある程度埋めることができるだろう。また土地代が安いということは、それに伴う固定資産税も安いということになる。例えば以下のように地方自治体独自で税制優遇や補助金事業を行い、積極的に企業を誘致している自治体もある。

・長野県:創業者に対する事業税課税免除(創業等応援減税)
・埼玉県:工場操業にかかる不動産取得税相当額の補助(埼玉県産業立地促進補助金)など

こういった制度を活かすことができれば、設備投資にかかるコストを抑えることが期待できるだろう。

・2.物価・人件費が安い
物価の安さは、仕入価格や材料費の削減にもつながる。最低賃金が都市圏と地方では、まだまだ格差があることも人件費の削減ができる要因となる。人件費や物価の安さは、企業のさまざまな経費に反映し、製造原価や販管費の削減につながるため、低コストによる良質な商品の販売やサービスの提供が期待できるだろう。

売上が現状維持だったとしてもコスト削減により利益が確保できれば、事業拡大と同じ効果があるのだ。

・3.地方で人材を確保できる
都市圏は、人口が多いため「優秀な人材がたくさんいる」というイメージがあるかもしれない。しかし実際のところは、人材の争奪戦も多く人件費が高くなる傾向にあり、有能な人材を確保するのは難しい傾向がある。なぜなら人口だけではなく企業の数も地方に比べれば都市圏は圧倒的に多く、有能な人材はどの企業でも欲しいと考えるからだ。

特に技術職や管理職では、その傾向が顕著に現れることが多い。働き方改革やコロナ禍の影響により、地方に有能な人材が流れていることもあって、地方にも優秀な人材は多くいるはずだ。現代は、テレワークやワーケーションなどの流れが浸透したことで都市圏から地方に移住したいと考える人も増えてきた。そのため場所にこだわらない働き方として地方で働きたいというニーズもある。

「定年退職後に田舎暮らしをしたい」という希望から地方に移住した高齢者のなかからも、優秀な人材の発掘は期待できるだろう。

地方の優位性を活かしたビジネスを展開する

現状維持だけでは、いずれ企業は衰退してしまうだろう。そのため地方企業は、地方ならではの特性を活かしたビジネス展開により、事業拡大を図る必要がある。

地方に拠点を置いても影響がない企業

低コストで会社を維持できることは、地方で事業を行う企業にとってメリットが大きい。IT産業などは、地域の市場規模に影響されることなく全国的な事業展開ができるため、実際に地方に拠点を移す企業が増えている。

また新型コロナウイルス感染症の影響や政府の働き方改革の推進もあって、テレワークによる働き方が定着しつつある。都市から地方へ移る流れは労働者にもあり、設計、企画、デザインやエンジニアなどテレワークが可能な職種は、地域に縛られないため、地方でも人材確保が期待できるだろう。働き方改革につながる企業の取り組みは、有能な人材確保・人手不足の解消につながるといわれている。

地方の特色を活かした事業を行う

なかには、道の駅に家族で出かけるなど手軽にレジャー感覚で地方に買い物に行く人もいるだろう。ネット販売を実施している地方企業が増え、消費者が地域の特産品をネットで直接購入することが一般的に行われるようになった。ふるさと納税もネット販売の一種といえるかもしれない。また都市部でも地方の特産品や食材を扱う飲食店を目にすることがある。

地方企業が販路拡大により都市部に積極的に進出する例も決して珍しくないのだ。日本政府も地方創生に力を入れており、6次産業化も地域資源と産業を結びつける新たなビジネスチャンスとなっている。1次産業から3次産業を融合し一体化した事業として農業の可能性を広げようするものを6次産業化と呼ぶ。各産業の特徴は、以下の通りだ。

・1次産業:農作物の生産をする農家や魚介類を採取する漁師など
・2次産業:収穫・採取した資源を加工した商品の製造業など
・3次産業:卸売業・小売業、観光業や民宿、レストラン、食堂など

6次産業化により成功している例がマスコミに取り上げられることも多い。地元の資源を活かした新たなビジネスモデルを創出することは、地域産業の活性化にもつながり、結果として地域経済の成長や雇用の創出を生み出すことが可能となる。現代は、地方でもインフラは整備され、物流コストは都市圏と大差がなくなっている。

地方には、その地方のよさがあり、そこに地方企業が抱える経営課題を解決するヒントがある。各地方の特色を活かした事業を行うことで都市圏の消費者を地方に取り込むことが可能な時代となっているのだ。

地方の特性や特色を生かしたビジネス展開を

人口減少により地域経済の縮小が予想されるなか、「市場規模の小さい地元で取引先が決まっているから現状維持をしよう」と考えていては、将来の企業の成長を見込むことはできない。場合によっては、廃業につながる可能性もあるだろう。物流コストは、都市圏と大きな差はなくビジネスの方法によっては、これまで大きいとされていた都市圏との格差をなくすことができる。

現代は、インフラの整備も進み、ネット販売が主流だ。近年では、バーチャルオフィスなどが話題になるほどビジネスの世界では時代が進んでいるのだ。地方にはその地方のよさがあり、そこに地方企業が抱える経営課題を解決するヒントがある。地方の中小企業は、その地方の特性や特色を活かして、さまざまな事業活動に取り組んでいるか否かが事業拡大を左右する。

労働力不足や人材不足は、地方も都市圏も同じであり、地方企業でもビジネスのやり方次第で成功が期待できるのだ。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
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