デジタル技術の進歩に伴い、最近では日本にもIT化の波が広がっている。しかし、人材不足や前例主義などの影響で、地方のIT化はスムーズに進んでいないのが現状だ。本記事では地方企業のIT化に関する実情に加えて、低コストの施策やポイントを解説する。
目次
日本のIT化は本当に遅れている?世界各国との比較
日本のIT化はさまざまなメディアで「遅れている」と指摘されるが、実際にはどうなのだろうか。以下のデータは、スイスのIMD(※)が公表した「世界デジタル競争力ランキング」をまとめたものである。
(※)国際経営開発研究所と訳される、世界トップクラスのビジネススクールを運営する機関。
同ランキングでは分野別の順位も公表されており、日本のデジタル知識(Knowledge)と将来性(Future readiness)は28位、技術面(Technology)は30位と評価された(※2022年のデータ)。いずれの分野も2018年からの数年間でランクが下がっており、日本はIT先進国とは言えない状況になっている。
人材不足や前例主義…地方企業でIT化が進まない4つの要因
日本がデジタル競争力で後れを取っている要因としては、地方企業の存在が挙げられる。都市部の企業や大企業に比べると、地方の中小企業はIT化への関心が薄く、今後の導入を予定していない企業も多い。
では、なぜ地方企業ではIT化が進まないのだろうか。
デジタル技術を必要としない業種が多い
ひとつ目の要因としては、業種における地域の偏りが挙げられる。例えば、デジタル技術との関わりが強いIT企業は東京に集中している一方で、地方には第一次産業に従事する企業が多い。
どのような業種にもIT化できる業務はあるが、IT産業と第一次産業とではその範囲に違いがある。
ペーパーレス化などを拒絶する前例主義
「契約書は紙で作るもの」といった前例主義も、地方のIT化を妨げる要因である。特に古くから同じ業務を続けている老舗企業や、デジタル分野に疎い高齢者の経営者がいる企業は、IT化による変化を牽制しがちだ。
そのほか、古い業界慣習が多い企業や、業務の進め方に制約がある業界(個人情報を取り扱う医療業界など)もIT化が進みにくい傾向にある。
初期コストを負担できない
当然だが、新たなデジタル技術を導入するにはコストがかかる。導入するシステムやツールによっては、初期投資を回収できるまで数年単位の時間を要するだろう。
資金が限られた地方企業にとって、すぐに回収できない初期コストは負担が大きい。特にキャッシュ不足に陥りやすい企業は、将来の業務効率化よりも財務改善が優先的な課題だ。
深刻なIT人材不足
以下のデータを見ると分かるように、日本では慢性的なIT人材不足が生じている。
簡単に言えば、日本はITニーズの急速な拡大により、IT人材の育成が間に合っていない状態である。それどころか、2019年以降は人材数が減少傾向にあるため、さらなる人材不足に直面することは想像に難くない。
地方にも情報教育を受けられる学校・スクールはあるが、多くの人材は高待遇や就職のしやすさを求めて都会に移住するだろう。そのため、IT人材の地方格差は今後も広がることが予想される。
そもそもIT化は必要なのか?メリット・デメリットから見る必要性
デジタル化の波が押し寄せているからと言って、そもそも地方企業にIT化は必要なのだろうか。その点を整理するために、まずはIT化を進めるメリット・デメリットを確認してみよう。
IT化の最も大きなメリットは、さまざまな業務を改善できる点にある。例えば、顧客データやアンケート結果をデータ化すると、書類を作成したり整理したりする手間を省けるため、余った労働力をほかに回せるだろう。また、検索によって必要な情報を簡単に得られる点も、IT化ならではのメリットと言える。
しかし、これらのメリットは十分な知識を備えていることが前提条件だ。導入すべきツールやシステムを誤ったり、使う側にうまく活用する知識・スキルがなかったりすると、IT化がかえって負担になることもある。
つまり、業種や業務内容、社内のリテラシーによっては、必ずしもIT化が正解になるわけではない。既存システムとの組み合わせもポイントになるため、IT化を進める範囲は慎重に考える必要があるだろう。
低コストで取り組めるIT化もある?地方企業が優先したい対策
資金や人材が限られた地方企業は、取り組みやすいところからIT化を進めることが重要だ。ここからは低コストで始められる方法に絞って、地方企業が優先したい対策を紹介する。
ペーパーレスを加速させるクラウド化
古い慣習をすべて排除する必要はないが、紙文化はスムーズに脱却しやすい分野だ。請求書や発注書、従業員からの提案書、顧客情報などをデータ化すれば、業務効率化だけではなくコスト削減(印刷代や紙代)にもつながる。
ペーパーレスを加速させる方法としては、クラウド化が有効である。クラウド化とは、ネット上のサーバーに文書データなどを保存する方法であり、近年では無料で利用できるクラウドサービスも登場している。
有料サービスでは月々のコストがかかるものの、自前でサーバーを買うよりは負担が少ない。社内でのデータ共有も容易になるため、参照する機会が多い資料や使用頻度が少ない書類については、クラウド上への保存を検討しよう。
企業文化を変えるための社内教育
今すぐにデジタル技術の必要性がなくても、将来的にはあらゆる業種でIT化が進んでいくと考えられる。その波が全国的に広がれば、IT化に取り組んでいない企業はたちまち競争力を失ってしまう。
このような状況にならないために、IT化に向けては長い目で社内教育をすることが重要だ。簡単な内容であっても、従業員がデジタル技術のメリットや有用性に気づけば、自発的に知識をとり入れるかもしれない。
また、経営陣の知識が浅いと、優秀な人材を見極められない恐れがある。したがって、IT化は現場の従業員に任せるだけではなく、企業上層部が正しい知識をつけることも必要だろう。
アウトソーシングによるIT人材の確保
IT人材の教育には限界がある。教育をする側にも高いリテラシーが求められるため、人材が限られた地方企業にとって内制化は現実的ではない。
そのため、どうしてもデジタル技術が必要になった分野については、アウトソーシングによる人材確保も検討したい。必要な業務のみを外部委託したり、社内教育だけを外注したりなど、アウトソーシングにはさまざまな活用方法がある。
コールセンターなどの簡単な業務をアウトソーシングする場合、費用の目安は初期費用で5万円程度、月額費用が5万円程度と言われる(※規模や業務内容による)。マニュアルを自社で作成する必要はあるが、委託する範囲によってはコスト削減にもつながるため、内制化とアウトソーシングの両方を視野に入れよう。
オープンイノベーションを活用する
オープンイノベーションとは、高いデジタル技術をもつ企業から技術提供などを受け、ともにイノベーションの創出を目指す方法である。ITリテラシーや人材の不足に対応できるため、パートナーさえ見つかれば現実的な手段となるだろう。
主流な方法ではないが、最近では国内でもオープンイノベーションを活用する例が増えてきた。地域によってはオープンイノベーションを促進するために、独自の支援策を実施する自治体も見受けられる。
地域との協力体制もポイントに!IT化を加速させる工夫
いくら企業側が努力しても、デジタルインフラが整っていない地域ではIT化を進められない。IT化をスムーズに進めるには、ネット環境やパートナー会社、消費者のリテラシーなども必要になるためだ。
では、デジタルインフラが整っていない地方企業は、どのような方向性で施策を進めるべきだろうか。
自治体の相談窓口を活用する
事業所があるエリアによっては、デジタル化相談センターなどの窓口が用意されている。相談窓口の担当者は、その地域ならではのIT化に詳しい可能性があるため、積極的に相談を考えたいところだ。
さらに自治体の相談窓口を活用すると、補助金・助成金の情報を教えてもらえる場合もある。基本的には無料で相談できるため、まずは自治体の公式サイトから専用窓口を探してみよう。
商工会議所やよろず支援拠点に相談する
自治体に専用窓口が見当たらない場合は、商工会議所やよろず支援拠点への相談も考えたい。これらの公的機関も、地方の中小企業をさまざまな角度から支援している。
また、経営に役立つセミナーやイベントを開催している点も、これらの公的機関を頼るメリットだろう。ITリテラシーを高めるイベントもあるので、地域のコミュニティを広げるためにも活用してほしい。
社内のリテラシーに合わせて、現実的な手段でIT化を進めよう
世の中の動向を考えると、将来的にはあらゆる業界でIT化が進むと考えられる。ただし、初期コストや費用対効果などを踏まえると、すべての分野にデジタル技術を導入する必要はない。
環境を整えることが重要だが、まずはできる範囲からIT化を進めることがポイントだ。従業員のリテラシーにも合わせながら、現実的な手段でIT化に取り組もう。