2022年も残すところあとわずか。世界の大手オークションハウスのサザビーズ、クリスティーズ、フィリップスが続々と今年のセールスを発表。全てのオークションハウスが過去最高の売上を更新する記録的な年となった。
【クリスティーズ】
総売上約1兆1121億円!「美術品市場にとって絶対的な記録」
クリスティーズは84億ドル(約1兆1121億円)の総売上高を記録。2021年と比べて17%の増加となり、過去最高を記録。最高経営責任者のギョーム・セルッティは「クリスティーズだけでなく、美術品市場にとっても絶対的な記録」と述べた。
オークションの売上は72億ドル、プライベートセールは12億ドルを占め、特に20世紀と21世紀の美術品の売上高が前年比21%増の62億ドルに昇り大きく貢献。2022年中で特にインパクトのあった記録は、5月9日に開催されたイブニングセールでアンディ・ウォーホルの《Shot Sage Blue Marilyn》がウォーホル史上最高の約1億9500万ドルで落札されたことだろう。
また、ビル・ゲイツとともにマイクロソフトを創業した故ポール・アレン氏のコレクションが紹介されたセール「Visionary」で約16億ドルという記録的な数字を達成したこともクリスティーズの売上を牽引した。最終的に、2022年に開催されたオークションでのトップ10の作品のうち7点がクリスティーズで落札されている。
鍵を握るアジアのミレニアル世代
アジア地域の売上は8億3300万ドル、前年比20%減で終了。最も収益に貢献した地域は全体の40%に当たる46億ドルを創出したアメリカだった。
アジア地域の売上はマイナスに終わったものの、クリスティーズはアジアのコレクターの重要性を言及している。2022年クリスティーズの全バイヤーのうち35%が新規、そのうちの34%がミレニアル世代で2021年の31%から上昇。また、ミレニアル世代は世界のバイヤーの21%を占めており(うち40%がアジア出身者だった)、2022年の現代美術の世界購入総額の10%(約1億7200万ドル)を生み出したのである。アジア地域の若いバイヤーが積極的に売買に参加していることが、市場をより活性化させた要因の一つといえるだろう。
【サザビーズ】
総売上高 約1兆800億円を記録!創業以来過去最高
サザビーズは、2022年の総売上高約80億ドル(約1兆800億円)を記録し、創業278年以来過去最高を記録。同じく過去最高を記録した2021年の73億ドルからは10%弱の増加となった。また、パンデミックにより市場が縮小する以前の2019年の売上高である48億ドルさえも大きく超え、市場の回復力と堅調な伸びを明確に表す結果といえる。
総売上高80億ドルのうち、64億ドルはニューヨーク、香港、ロンドン、パリ、ジュネーブで開催されたファインアートとワインや宝飾品などのラグジュアリーのオークションから創出され、前年の60億ドルから上昇。
一方で、プライベートセールの売上高は11億ドルとなり、2021年は13億ドル、2020年は15億と比べると減少傾向にある。さらに今年は初めて「不動産」(サザビーズ・コンシェルジュ・オークション)と「クラシック・カー」(RMサザビーズ)の収益源を織り込み、それらの売上を見込んでの発表となった。
アジアの売上は過去最高の昨年と横ばい。香港に新拠点も
香港を拠点とするアジア地域の2022年の売上高は、約11億ドルと2021年の過去最高に匹敵する結果に。アジア地域の入札者は全入札額の30%を占め、過去数年と同程度で推移しているという。
入札者数が過去最高を記録したサザビーズは、40歳以下の顧客による入札が急増。アジア地域の売上高のうち3人に1人が新規の入札者、全体の売上高では、新規入札者の68%がアジア地域に拠点を置いていたそう。サザビーズの調査によると、アジアのコレクターは、他のどの国のコレクターよりも一人当たりの平均消費額が多いという。そうしたアジア地域のさらなる成長を見据えて、サザビーズは2024年に香港に新拠点を設置することを発表。約2200平米のギャラリースペースでオークションと展覧会を開催する予定だ。
【フィリップス】
最高額を2連続で更新!前澤友作氏所蔵のバスキアが牽引、時計は完売
フィリップスは前年比20%増の13億ドル(約1724億円)という史上最高の売上を記録。初めて10億ドルを突破し、フィリップス過去最高額を記録した昨年から2年続けての更新となった。
そのうちオークション売上高が10億ドル以上、プライベートセールが2億5000万ドルを占め、プライベートセールは前年比+20%増となった。時計部門においても、2年連続で出品された全ロットが完売した。
フィリップスの2022年を象徴するのは、やはり前澤友作氏が所蔵していたジャン=ミシェル・バスキアの《Untitled》だろう。5月18日に開催されたイブニングセールで8500万ドルで落札され、フィリップス史上最高額を記録した。
続いて、約4164万ドルで落札されたサイ・トゥオンブリーの《Untitled》、約2000万ドルのイヴ・クラインの《Relief Éponge bleu sans titre(RE 49)》のいずれも2022年に開催されたセールで落札され、記録的な売上を牽引。
モダンアートにおいては、2022年の落札数は50パーセント増加し、平均ロットの価格も150パーセント上昇したという。特にマルク・シャガールの《Le Père》は740万ドルという、シャガール初期作品としては最高額で落札された。
リヒターが香港のセールスを牽引。若手も続々と
オークション売上高の34%がアジアに拠点を置く顧客に販売され、アジアを拠点とするバイヤーの40%はミレニアル世代だった。市場全体で見られるアジアでの需要高騰の波に乗り、フィリップスは2023年春に新本社を香港に設立する。
今年11月に中国のオークションハウス「永楽(ヨンレ)」と提携して開催したイブニングセールで、ゲルハルト・リヒターの《Abstract Bild (774-1)》が約8900万香港ドル(約15億5490万円)で落札され、今秋香港で開催されたオークションのなかで最も高額となった。
若手アーティストの輩出をリードするオークションハウスとしても評価されるフィリップスは、2022年に148人の作家がオークションデビューを果たした。特に、1994年イギリス生まれのミカエラ・イヤーウッド・ダンの《What’s the Use in Yearning》が予想落札価格の9倍の約300万香港ドル(約5210万円)で落札され、新記録を打ち立てた。40歳以下の若手アーティストを区分する「超現代美術」の成長も目を見張るものがある近年において、今後もフィリップスに登場する若手アーティストは要注目だ。
ANDARTでは、オークション速報やアートニュースをメルマガでも配信中。無料で最新のアートニュースを受け取ることができるので是非チェックしてください。
ANDART編集部(※紹介する2022年売上はプレスリリース発表時点の数字)