長引く新型コロナ禍で物流や生産活動が停滞した影響により、製造業では原材料高が常態化している。さらに、国内外の金融政策の違いから円安が進行し、原材料の調達コストがかさみ、ダブルパンチとなって各社の利益を圧迫する。

経済の先行きが見通しにくい中、自社で完結できる対策から手を付けたいところだ。そこで今回は、コスト削減の対策としての「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を紹介する。

目次

  1. 「コスト削減」=「売上アップ」!?
  2. コスト削減に有効な5S
    1. 1つ目のS:整理
    2. 2つ目のS:整頓
    3. 3つ目のS:清掃
    4. 4つ目のS:清潔
    5. 5つ目のS:しつけ
  3. コスト削減に向けたオリジナルの「5S」の工夫を
    1. 整理に関するヒント:要らないものには「不要」シール
    2. 清掃に関するヒント:5分の清掃で社内ポイント付与
  4. コスト削減に向けた5Sで大切なのは継続、そのための意識付け
「5S」に学ぶコスト削減の極意 業種問わず見習えるポイントを紹介
(画像=meepoohyaphoto/stock.adobe.com)

「コスト削減」=「売上アップ」!?

まずは、会計の基本的な事柄をおさらいしよう。売上高から原材料費などの「売上原価」を引いたものが粗利益(売上総利益)となり、ここから人件費や広告宣伝費などの「販売費および一般管理費(販管費)」を除いたものが、本業の儲けを示す営業利益だ。

原材料費は売上原価に当たり、海外から輸入した原材料を使う企業は、この売上原価が膨らんで経営状況が悪化している。

仮に、従来は100の売上高に対して50の売上原価、20の販管費がかかっていた企業で、原材料費が2割上昇すると、営業利益は30から20に低下することになる。率にして「33%減」と言えば、その大きさが伝わるだろう。

「5S」に学ぶコスト削減の極意 業種問わず見習えるポイントを紹介

この時、原材料費の高騰が自社ではどうしようもない事象だと割り切ってしまうなら、従来レベルの営業利益を確保するために採用できる方法は2通だ。1つは売上高を増やすことである。上の例で言えば、売上高を10%増の110にできれば、他の条件が変わらなくても営業利益30を確保できる。

もう1つは販管費を下げることだ。販管費を20から10にできれば、営業利益は30を確保できる。つまり、利益というものさしで見る限り、コストを下げることは実質的に売上高を増やすことと同じ効果を持つということだ。

「5S」に学ぶコスト削減の極意 業種問わず見習えるポイントを紹介

詳しくは後述するが、5Sを徹底すると職場環境がよくなり、間接的に売上高アップにつながる場合が少なくない。

ただ、売上高の増加というのは、やはり自社だけでどうにもならない、つまりコントロールできない面がある。そのため「とりあえず自社でできること」という文脈では、方法2のように、売上原価や販管費といったコストを下げる対策が現実的だ。

コスト削減に有効な5S

そこで、コスト削減の対策として「5S」の実践を推奨することになる。

5Sとは、ローマ字表記した際の頭文字が「S」となる5つの単語「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「しつけ」を示す言葉だ。これらの単語に沿った活動を行うことで、ムダを減らして生産を効率化することを目指す。

語感だけでも、それぞれの単語が意味するところを何となく想像できるだろうが、以下で詳しく解説する。

1つ目のS:整理

第1に「整理」とは、必要なものと不要なものを区別し、職場からムダをなくすことを意味する。一般家庭で言うところの「断捨離」のビジネス版のような考えで、もしかしたらこれが最も「効率化」のイメージに近いかもしれない。

例えば、あらかじめ備品や原材料などを「不要」と判断する基準を設けておき、それに合致したら廃棄したり売却したりする。

一見、もったいない気もするが、使わない物を溜めこんでしまうと、保管スペースの制約から本当なら次に必要になる物を入れられなくなったり、場合によっては追加で費用をかけて保管スペースを確保したりしなければならなくなる恐れがある。

2つ目のS:整頓

次に「整頓」は必要な物を誰もがすぐに取り出せるようにしておき、いざという時に探すムダをなくすことを意味する。

これは日常業務を効率化する意味合いが強い。「ちりも積もれば山となる」で、社員が「あれは確か…ここじゃないか…」と探し回る数分、数十分の積み重ねが、余分な人件費を生む。また、見つからないので発注することになれば、経費が重複してかかることになる。

・数万冊を探しやすく配置する図書館
このような事態を回避するには、それなりの頻度で使用する可能性のある物を素早く取り出せるよう、置く場所や保管の方法を工夫すれば良い。図書館や書店の棚を思い出してほしい。数万冊、数十万冊という蔵書は、大分類、中分類、小分類によって置く棚が決まり、さらに1冊1冊に個別の番号も振られているため、棚の前まで行っても見つけやすい。

もちろん、図書と違って多様な物品を扱う企業では、同レベルで厳格な管理は難しい。しかし、大分類、小分類で分けて置く場所を決めるぐらいなら、できないことはないだろう。これに加え、段ボール箱で保管するなら、箱を開けなくても中身が分かるように外側に品目を書いておくと、探す作業もスムーズになる。

そして何より、職場のメンバー全員がその仕組みを把握できることが重要だ。スーパーや図書館でお目当ての物を探しやすいのは、規則に従って分類され、みんなが理解できるよう表示してあるからである。職場でも、どのように分類したかを周知することで、探すムダは削減できる。

3つ目のS:清掃

3~5番目の項目は上記1、2番目の項目と比べると、生活習慣や意識付けに近いところがあり、効率化やコスト削減から程遠い印象があるかもしれない。

3番目は「清掃」。職場のゴミや汚れを取り除くことだ。誰だって、キレイな職場と汚い職場の2択なら、キレイな職場で働きたいと思うはずだ。衛生面の改善により、従業員が働く際のモチベーションを高める効果があり、もしかしたら生産性の向上につながるかもしれない。

これに加え、製造業では品質管理面で清潔さが必須になる。なぜなら、作業場にあるゴミは製造過程で混入し、製品に問題が出る可能性もあるからだ。そうなると、コストを削減するとか、効率を上げるとかいった以前の話として、自社の信用を保つためには絶対に疎かにしてはいけない項目とも言える。

大きな会社なら清掃業務を専門業者に外注することもあるだろうが、中小企業では自分たちで清掃するケースが一般的だ。せっかく社員自身がやるのなら、漫然と作業的にさせるのではなく、上記のような意味合いをしっかりと伝え、より良い製品や職場環境をつくる一環であることを意識させるべきだろう。

4つ目のS:清潔

4番目は「清潔」で、これまでに出てきた「整理」「整頓」「清掃」を徹底することを指す。

上記の話をまとめると、身の回りの物を必要か不要かで仕訳し、それらをメンバーみんなが把握しやすいように保管するほか、日ごろの掃除も抜かりなくこなすことで、職場環境の改善や業務の効率化に加え、品質を保つ意識付けまで行えるということだ。

5つ目のS:しつけ

最後は「しつけ」だ。これも4番目と同じような話だが、これまでの「整理」「整頓」「清掃」「清潔」の実践の習慣付けを目指す。

4番目の「清潔」との違いが分かりにくい。清潔では1~3番目の項目を実行し、しつけでは、それを自然に継続できる風土を社内に根付かせるということになる。

5Sを単なる心掛けではなく、コスト削減に向けた方策として捉えた場合、一過性の取り組みに終わってしまっては意味がない。この「しつけ」を掛け声に終わらせないため、例えば5Sを推進する責任者を職場ごとに決めたり、それらの責任者が部門横断的に集まって議論したりできる仕組みを設け、実効性を持たせてはいかがだろうか。

コスト削減に向けたオリジナルの「5S」の工夫を

もちろん、これまで説明してきた「5S」は、あくまで一般的な枠組みに過ぎない。しかし、一口に「製造業」と言ってもても、その幅は広い。完成品を組み立てるメーカーもあれば、その部品のメーカーもいる。作るのは機械だけではなく、食品もある。

それぞれ品目ごとに製造現場の状況は異なるはずだ。それならば、5Sを1つの固定された考え方と捉えず、自社に合わせてアレンジしたり、解釈を変えたりして柔軟に運用することが大切である。いくつかヒントを紹介する。

整理に関するヒント:要らないものには「不要」シール

整理に関しては上でも触れたが、必要なものと不要なものをバッサリと分けてしまう。

どうしても「後々また使うかも…」と考え、とっておきがちだが、そのようなケースがあまりに増えると「整理」にならない。例えば「直近1年間は使わなかったもの」といった基準を定め、該当すれば機械的に「不要」シールを貼っていくなどの方法が有効だろう。

清掃に関するヒント:5分の清掃で社内ポイント付与

元から清掃を好きな人はあまりいない。しかし、職場が雑然としていると仕事の効率も落ちてしまう。清掃を「上から言われた作業」ではなく、自分の業務の一部として当事者意識を生むことが必要だ。

「鼻先にニンジンをぶら下げて走らせる」に似た方法には賛否両論があるだろうが、当初の動機付けとしては効果があるかもしれない。例えば、自主的な清掃を5分間したら社内で使えるポイントを付与し、貯まったポイントに応じて特典を受けられるようにしてはいかがだろうか。

特典の内容は難しいが、それを「給料アップ」にしてしまうと、モチベーションとして強すぎるきらいがあり、特典がなくなった際の反作用が大きい。例えば、ポイントに応じて昼食時に弁当が支給されるとか、あくまで「自分から進んでやった結果、少しだけ得できた」程度の特典にすべきだ。

最も大切なのは職場をキレイにすることで気分が良くなったり、物を探しやすくなったりといったメリットを従業員が実感し、清掃に関するモチベーションを育てることである。過剰な特典は避けるべきだろう。

コスト削減に向けた5Sで大切なのは継続、そのための意識付け

以上、5Sの内容と導入のポイントを紹介してきた。実行にはマニュアルやノウハウに頼る部分が大きいが、単に5Sを導入するのではなく、コストの削減によって経営へのプラス効果まで生もうと考えるなら、継続することこそが重要だ。

そして、継続のために欠かすことができないのは、メンバーの意識改革である。自ら業務の効率を見直し、自発的に職場の衛生面を改善する意識が組織に根付けば、5Sの好循環に入る。マニュアルは自然と見直しの機運が生まれ、ノウハウはどんどん蓄積される。5Sの実行や継続のための具体策が新たに出てくるようになれば、当初の想像を超えたリターンが生まれることもあるだろう。

事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

THE OWNERでは、経営や事業承継・M&Aの相談も承っております。まずは経営の悩み相談からでも構いません。20万部突破の書籍『鬼速PDCA』のメソッドを持つZUUのコンサルタントが事業承継・M&Aも含めて、経営戦略設計のお手伝いをいたします。
M&Aも視野に入れることで経営戦略の幅も大きく広がります。まずはお気軽にお問い合わせください。

【経営相談にTHE OWNERが選ばれる理由】
・M&A相談だけでなく、資金調達や組織改善など、広く経営の相談だけでも可能!
・年間成約実績783件のギネス記録を持つ日本M&Aセンターの厳選担当者に会える!
・『鬼速PDCA』を用いて創業5年で上場を達成した経営戦略を知れる!

無料会員登録はこちら