(本記事は、椢原 浩一氏の著書『今と未来の利益を増やす社長のための経営戦略の本』=あさ出版、2021年6月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
利益とお金の正しい関係
利益とお金
経営戦略についてお伝えする前に、会社が生み出す利益とお金は、どのように関係しているのかを読者の方と共有しておきたいと思います。
利益には実体がありません。
誰も利益というものを見たことも、手でつかんだこともないはずです。
それでも私たち経営者は、この利益を追い求めます。
利益を手に入れることができれば、手にするお金も増えるとわかっているからです。
ところが、「利益は増えたのに、意外とお金は増えていない」という声を経営者の方からよく聞きます。
これは、利益の増え方とお金の増え方が一致していないことを意味します。
利益を計算する損益計算書(本書では、PLと呼ぶことにします)は、「発生主義」で計上され、お金の残高を表す資金繰り表は、「現金主義」で計上されます。
また、PLには減価償却という支出のない経費があり、さらに期首棚卸よりも期末棚卸が増加することで利益が増え、掛け売りや掛け支払といった入金・支払が、売上・費用の計上時期と一致していない……など、利益とお金が一致しない理由はいくつもあります。
「利益は増えたのに、意外とお金は増えていない」というときの理由は、おおよそこういう理由が多いようです。業種やビジネスモデル、顧客や仕入先との取引条件などにもよりますから一概には言えませんが、とくに損益と資金繰りに大きな出来事がなければ、おおむね6カ月や1年といった期間損益と収入支出の差異であるキャッシュ残は、近い数値になる会社も多くあります。
利益と節税
これに対し、経営で起きてはいけないのは、「利益は増えたのに、お金は減った」です。利益とお金は、比例関係にあります。
会社に残るお金は、利益が増えれば必ず増え、利益が減れば減るようになっています。
改めて聞けば誰もが当たり前のことだと思うのですが、PLや資金繰り、BSを見ると、当たり前になっていない会社が意外と多くあります。
利益は増えたのに、お金は増えるどころか減るというのは、お金の使い方がおかしくなっている証です。この場合、PLに表れないお金の動きがBS(貸借対照表のこと。本書ではBSと呼びます)に表れているはずです。
売掛債権が増えていたり、買掛債務が減っていたり、棚卸が大幅に増加していたり、貸付金や前渡金が発生していたり・・・。
さらに私たち経営者は、自らお金を減らしています。それは、節税です。
節税は、納税を回避するための手段ですが、同時にお金を減らす原因にもなります。
利益とお金は一体ですから、節税は利益だけでなく、お金も減らしてしまうのです。
節税とお金
また、節税は経営者に大きな誤解を与えています。
それは、納税を回避して節税をすれば、会社にお金は残るという勘違いを経営者に与えているということです。残念ながら、このようなタイトルで経営者の気持ちをあおっているような書籍も少なくありません。
このような書籍や節税を営業に掲げる税理士やコンサルタントの影響で、「納税は避けるべきだ」「節税して、お金を残すべき」という勘違いが起き、納税ではなく節税を選択する節税経営者が減らないのです。
こういう私自身も節税経営者の一人でした。
私が本書で事例に挙げているクライアントから学んだ事実があります。
それは、納税するとお金が貯まるという驚きの事実です。
納税を回避したい人にとって、納税することで会社にお金が貯まることは理解できないかもしれませんが、事実です。
納税額を減らしたいという気持ちから節税という言葉に負けて、私たちは、自ら会社の利益を減らすことを行ってしまいますが、節税はキャッシュアウト(支出)を伴います。利益も減る代わりに、お金も減ってしまいます。
何年か先にそのお金が戻ってくるという節税策もありますが、キャッシュアウトした額が100%以上で戻ってくる方法は、節税にはありません。あるとすればそれは投資です。
「利益を出さずに、お金を残す」
こんなことは利益とお金の法則に反しています。
利益とお金の法則は、「利益とお金は一体」です。
利益が増えれば手元キャッシュも増えるのです。
過度な節税をせずに利益を何年も積み上げてきた会社と、節税ばかりしてきた会社が残すキャッシュの差は、月日が経つほど歴然です。過度な節税はキャッシュだけではなく、自己資本も増やしてくれません。
税金の例を挙げてお金に対する考え方をお伝えしました。
「利益は増えたのに、お金は増えていない」
「棚卸の数値が正しくない」
「売上に比べて、棚卸資産が多い」
「関係会社に貸付があり、塩漬けになっている」
「焦げ付いている貸付がある」
「前渡金が塩漬けになっている」
「流動資産に不良資産が含まれている」など。
これらは、会社の体質を表しています。
よく「体質を変える」と言いますが、体質は、行動習慣の結果です。
行動習慣は、考え方によって決まります。
私たち経営者が、利益とお金に対する考え方を変えることで、お金の使い方が変わり、会社の財務体質が変わり始めるのです。
利益とお金は一体である
利益は、徹底的に増やす
お金は、正しく使う
資産科目は、正しく計上する
このような行動の結果、利益とお金は一体となり、利益と比例してお金が残るようになることを知っていただきたいと思います。
認定事業再生士(CTP)。黒字メソッド® 実践会主宰。
1964 年大阪生まれ。
指導社数1019 件、相談件数3575 件、再生件数352 件、一年黒字改善率91.3%の実績を持つ。(2021 年1 月現在)
なかでも、「黒字化」「リスケからの再建」「第二会社による事業再生・事業承継」に関しては、日本屈指のスペシャリスト。
「黒字化」は、一年で黒字にする「黒字メソッド®」を確立し、9割を超える。
「リスケからの再建」については、黒字メソッド® によるBS、PLの改善、金融機関との信頼構築を指導し、数多くのリスケ脱却を実現。
「第二会社による事業再生・事業承継」は、100%の成功率を誇り、債務ゼロ化の再生社数は、日本トップクラス。
さらに、黒字メソッド® と世界最高の経営理論を基に作り出す経営戦略は、資金繰りで悩む企業はもとより、環境変化に適応する黒字成長企業を輩出している。
著書に『会社にお金を残す経営の話』(あさ出版)他多数。
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