士業をはじめとする専門家にコンサルティングを指南している株式会社ウェイビーの伊藤健太氏と、
“コンサル士業”として活躍する士業の全3回にわたる対談で、
コンサルティングに取り組む極意に迫ります。1回目のゲストは、
採用コンサルタントとして多くの企業を支援する社会保険労務士の岩本浩一氏です。
労働集約型のビジネスモデルでは長く続かない
――まずは伊藤さんの活動内容を教えてください。
伊藤 私は23歳で行政書士事務所を立ち上げました。
事務所が成長したことで、士業向けに事務所経営のコンサルティングを開始。
その後、中小企業の支援に注力してきました。
現在は、これまで培ったノウハウを士業の方たちにお伝えしつつ、
同時にコンサルティングをサービス化するためのSaaSのシステム「スマコン」を開発・提供しています。
株式会社ウェイビー
Founder/取締役COO 伊藤健太氏
2009年慶應義塾大学卒業後、2010年に23歳で株式会社ウェイビー創業。
2011年、ウェイビー行政書士事務所開業。
これまで1,200社以上の中小企業、個人事業主の成長支援に従事。
世界経済フォーラムが選ぶ若手リーダー選抜、徳島大学客員教授、
スモールビジネス向け書籍を7冊出版。
――岩本先生は、伊藤さんと出会ったきっかけは何だったのでしょうか?
岩本 8年ほど前に、伊藤さんが士業向けに開催していた勉強会に参加したことがきっかけです。
伊藤 『イトケン塾』でしたよね。当時は、コンサルティングではなく、
事務所の経営やマーケティングなどが勉強会の主なテーマでした。
岩本 勉強会に参加して、伊藤さんの考え方は士業というより“経営者”だなと感じたことを覚えています。
行政書士という枠からはみ出していましたよね。
社会保険労務士法人あいパートナーズ
代表・社会保険労務士・採用定着士 岩本浩一氏
2006年に社会保険労務士として独立開業し、助成金を中心とした事務所経営を行う。
2019年に採用定着士の資格を取得。現在は、地元の愛媛県に限らず、
近畿や東北など全国の会社の採用・定着をサポートしている。
(2022年3月現在、43社の採用コンサル実績あり)
――岩本先生は現在、採用コンサルタントしても活躍されていますが、
伊藤さんの勉強会に参加された当時から、コンサルティングに取り組もうと考えていたのでしょうか?
岩本 そういう気持ちもありましたが、
当時、私の事務所は助成金をメインに扱っていて、
案件が増えていた時期だったこともあり、
「まだまだ助成金から離れられないな」という感じでした。
ただ、助成金は制度変更などの影響を受けやすい業務ですし、
給与計算などの手続き業務はなかなか単価を上げられない…。
そんな状況に職員が疲弊し、その後、一斉に退職してしまうという出来事がありました。
その経験から、経営には従業員の採用や定着が重要だと感じたことが、
採用コンサルティングを始めたきっかけです。
――ご自身の経験がきっかけになっているのですね。
伊藤さんは、いち早く「士業からコンサルタントへ」という道を歩まれてきて、
士業向けに塾も開いていますが、「コンサルティングに取り組みたい」という士業は増えていると感じますか?
伊藤 私が士業で独立したのは10年以上前ですが、
その頃から「コンサルタントになりたい」という士業は多かったと思います。
というのも、私たちの世代はかなり現実的です。
士業事務所としてうまくいっていたとしても、
あと20〜30年経営を続けないといけない。
でも、「今のやり方を繰り返して、人を増やすことで労働集約型のモデルを広げていく」というのは厳しい。
だから、士業事務所を維持しながらも、
新しいことにチャレンジしなければいけないという意識がある気がします。
岩本 多くの士業事務所が、「仕事が増えたら人を雇う」ということの繰り返しで、終わりがない。
でも、その人たちの給料を担保して、上げていくために、
「どうしていいかわからない」という不安がある人は多いですよね。
コンサルを始めるなら、「自社を実験台にすること」と「入り口を絞ること」が成功へのポイント
――ずばり、コンサルタントとしてやっていくために重要なことは何でしょうか?
伊藤 「自分の事務所がうまくいっていること」です。
「うまくいっている」というのは、人数ではありません。
ひとりでも年商3,000万円あればスモールビジネスとしてうまくいっていると言えますし、
拡大していきたい士業事務所であれば、
5年くらいで売上1億円に達していることが、成功体験になります。
自分が実験台になって成功体験を積み、それを言語化、パターン化、ノウハウ化していくことで、
「コンサルタントになる」というゴールに向かえます。
だから、コンサルになる手前のマイルストーンとして、
事務所の経営を成功させるという経験は不可欠なのです。
ただ、うまくいっている事務所ばかりではありませんし、
「経験はないけれどコンサルティングをやりたい」という方もいますから、
私たちのメソッドを提供して、経営計画書の作成から資料まで、完全コピーしてもらいます。
やったことがなくても、まずは自分で手を動かして、事務所を動かすことが重要です。
岩本 何もわからない状態から独学で始めるのは難しいので、
だれかを真似しながらやるほうがいい。
やっぱり、成功している人から話を聞く、
ノウハウがあるところに行くのが一番早いですね。
伊藤 「お客様にこういうスクリプトで話してください」というパターンもつくってあるので、
そのままやれば成約率が上がっていき、成功経験が重なり、自信もつきます。
――とはいえ、「何のコンサルティングをすればいいのだろう」
「お客様に提案できるだろうか」という悩みや不安もありそうです。
岩本先生は実際に、どのようにコンサルティング業務を始めたのでしょうか?
岩本 コンサルする内容を「採用だけ」に絞りました。
というのも、採用に困っている会社ってかなり多いんですね。
しかも、採用したあとに定着させるための課題や、組織化の課題も出てくる。
採用を入り口にすると、結果的に「人の課題」の川上に立つことができるのです。
だから、採用の一点突破。入り口を絞ることが大事です。
伊藤 岩本さんの事例はすごくわかりやすくて、
基本的にはセンターピンは一個しかないんです。
重要なのは、「勝ちパターンに乗せる」ということ。
採用なら、「採用しましょう」がセンターピンで、
何を言われてもそこに合わせられるようなコミュニケーションをつくることがポイントです。
岩本 たとえば、「従業員が退職してしまう」という話が出てきたら、
「退職してしまうのは、最初の採用がうまくいってなかったのかもしれませんね」と展開します。
また、「組織がうまく回らない」という話が出たら、
「それはナンバー2がいないからかもしれませんね。ナンバー2を採用しましょう」と展開するのです。
伊藤 「自分は何ができるのか」「お客様の何を変えることができるのか」ということがゴール、
つまりセンターピンです。ここの期待値コントロールが重要なので、
「自分が必ずできることで、かつお客様が喜んでくれること」に設定することがポイントです。
仮に選択肢をたくさん持っていたとしても、
お客様に提案するときにはメニューを広げないほうがいい。
ゴールを自分で決めて、何を言われてもお客様をそこに着地させることが大事です。
コンサルティングって、難しいイメージがあると思うのですが、
それは「何でもできないといけない」と思い込んでいるからなんです。
でも、実際は何でもできる人なんてほとんどいません。
選択肢を絞れば、そんなに難しいことではないのです。
岩本 そうですね。経営者の話を聞いて、伴走してあげればいいだけです。
「どこまでできていますか?」と聞いて、できていないなら
「何でできなかったのですか?」と聞いていく。
採用も同じで、
「どんな会社にしたいですか?」
「そうなるためには、〇〇な人材が必要ですね」
「どういうふうに採用していきましょうか」
と聞いていけばよいのです。
相手の課題に応じてゴール設定していくのではなく、
相手を自分の勝ちパターンにもっていくことが大切です。
“コンサル1本”でやっていける自分を目指す覚悟が重要
――コンサル業務に取り組もうと考えている士業に、アドバイスしていることはありますか?
伊藤 勉強会に参加している方たちには、
「最終的に士業をやめてください」という話をしています。
「士業事務所と別に、コンサル会社をつくっておいてください」と。
コンサル業務で売上を上げたいなら、士業の肩書きを使わず、
コンサルタントとして独立した人だと見せた方がいいのです。
中小企業は、税理士や社労士との接点はありますが、
コンサルタントとして見ているわけではありません。
だから、士業に経営の相談をしないんですね。
でも、困っている経営者はたくさんいて、提案してほしいと思っているんです。
そこに、自分の経験を言語化して届ければ、きっと刺さると思います。
岩本 私も、今は社労士とは名乗らず、
「採用コンサルタント」としてブランディングしています。
これまで40社以上のコンサルティングを受注していて、今では、
「採用に強い事務所」というイメージも浸透してきたと実感します。
―― 一方で、コンサル業務に取り組んでいるけれど、うまくいかない人というのは、
どこに原因があることが多いのでしょうか?
伊藤 「士業事務所がうまくいっているから、コンサルでそこまで売上が立たなくてもいい」
と考えているケースが多いですね。
士業事務所の経営はうまくいっているからノウハウはあるのですが、コミットメントが弱いんです。
なので、「士業をやめてください」と話します。小手先のテクニックより、
「本当にやりたい」という気持ちが一番大切です。
岩本 まずは覚悟が大事ですよね。
「コンサルがだめだったら、今の業務に戻ればいい」
くらいの人は、最初からやらないほうがいい。
あとは、片手間では難しいので、手続き業務から脱却しないといけない。
誰かに任せる体制をつくらないといけません。
私の場合は、助成金を徐々に減らして、その代わりに障害年金で売上の柱をつくり、
権限委譲しながら実務から離れて、コンサルティングに取り組む時間をつくりました。
伊藤 片手間でコンサルをやろうとしても、
士業事務所としての売上は下がるし、うまくいかないことが多いです。
事務所がうまくいっていない人は背水の陣でゼロから始められますし、
ある程度うまくいっている人であれば、
その成功体験をベースにできるからコンサルに転換しやすい。
結局、やる気さえあればどのフェーズの人でもできるんです。
あとは、うまくいかない人は、前提が間違っているんです。
野球に例えるなら、いきなり大リーグの選手をイメージしていて、なのに練習しない。
でも、そんなの不可能ですよね。
だから、3年で計画を立てて、1年目は練習。
そのプロセスを理解することも重要です。
経験を重ねることで、いろいろな場面に対応できるようになりますから。
〔コンサルティングに取り組むためのポイント〕
- まずは事務所を実験台にして成功体験を積む
- 「できること(ゴール)」を一つにして、入り口を絞り込む
- 士業をやめるくらいの覚悟を持つ
コンサル士業への道Vol.2へ続く
- プロフィール
Founder/取締役COO
1986年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。大学3年時にリクルート主催のビジネスコンテスト優勝。
23歳で株式会社ウェイビーを創業。創業以来、中小企業、個人事業主の成長支援に従事。
世界経済フォーラムが選ぶ若手リーダー選抜、徳島大学客員教授、スモールビジネス向け書籍7冊出版。
代表・社会保険労務士・採用定着士
2006年に社会保険労務士として独立開業し、助成金を中心とした事務所経営を行う。
助成金を広めていく活動だけでは『いい会社』にはならないと限界を感じていたときに、
採用定着士という資格を知り、『いい会社』をつくるために採用から定着まで支援したいと決意。
現在は採用定着士の採用システムや今までの経験、ノウハウを生かし、地元の愛媛県に限らず、
近畿や東北など全国の会社の採用・定着をサポートしている
(2022年6月現在、46社の採用コンサル実績あり)。