2022年5月19日に、社会保険労務士法人アドバンスの伴 芳夫氏を講師に迎え、
オンラインセミナー「社労士×SmartHRで実現する、新たなビジネスとは?
人事・労務DXで変わる社労士の未来」が開催されました。
DXにより、どのようなビジネスチャンスが生まれるのでしょうか?
また、伴氏が考える、未来を見据えた“これからの社労士像”とは?
セミナーのなかから、伴氏の講演、株式会社SmartHR・小杉和明氏との対談の様子をレポートします。
社労士の未来を左右する5つのキーワード
社会保険労務士法人アドバンス 代表社員・所長 伴 芳夫氏
地場大手私鉄で勤務後、2007年より現職。人事給与制度コンサルティング業務に加え、
セミナー・研修講師を多数務めるなど、多方面で活躍。
そのほか、複数の企業・団体(医療法人・学校法人・ベンチャーなど)で役員・評議員を務めている。
社労士の未来に関わるこれからの社会変化は、大きく5つあると考えています。
- スタートアップの躍進
- HRテックのさらなる進展
- 多様な就業形態の定着
- ハードローからソフトローヘ
- 人的資本経営
まず1つ目は、スタートアップの躍進。
経団連は、「10X10Xの世界をつくっていく」という提言のもと、
スタートアップ企業を10倍に増やし、かつ、ユニコーン企業
(10億ドル以上の企業価値を持つ未上場企業)を10倍に増やすというビジョンを掲げています。
その背景には、デジタルネイティブといわれる、いわゆるZ世代、
ミレニアル世代の台頭があると思います。
私たち社労士に関係することとしては、顧客の質が変わってきているということです。
いわゆる旧来的な企業よりも、デジタルの世界を前提とした働き方や
サービス展開をする企業が増えてきました。
2つ目は、HRテックのさらなる進展。
今、HRテック市場がどんどん広がっています。
そこに関わるキーワードとして、「戦略人事」という言葉も出てきました。
今までの人事は、経験と勘で対応してきましたが、
デジタルの情報を活用した分析型の対応が増えてきています。
そのなかで、人時生産性(従業員1人が1時間働く際の生産性)を
しっかり見ていくという動きも起きています。
この変化に社労士としてどう関わるかというと、コンサルティング、
いわゆる3号業務です。
私自身、これまでは自分の経験や勘でコンサルをしてきましたが、
情報の分析をもとにしたコンサルが中心になってくるということを強く感じています。
3つ目は、多様な就業形態の定着。
新たな働き方として、テレワークは完全に根付いています。
それから、パラレルワーカーという働き方も増えてきていますし、
ワークシェアリングも広がっています。
ここにも、社労士は対応していかなければいけません。
4つ目は、ハードローからソフトローへ。
ハードローというのは、罰則などで強制力をもって人を従わせるもので、
労働基準法などが最たる例です。
こういった法律をもとに展開してきた労働問題が、
今はソフトローといわれるものに置き換わってきています。
たとえば、パワーハラスメントについて法制化されましたが、
実はパワハラの条文は、労働施策総合推進法に少ししか書かれていません。
では、実際何をもってパワハラに対応しているかというと、
国から出されたガイドラインや就業規則など、
“必ずしも強制力があるわけではないけれど、遵守しなくてはいけないもの”です。
こういったものに動かされていることが、どんどん増えてきています。
つまり、これまで法律での解決を行ってきた社労士も、その他の規範やルールでの解決と、
そのプロデュースが重要なポイントになってくるのだと思います。
最後に、人的資本経営。
企業価値を人的資本で見ていくことが、非常に多くなってきたなと思います。
ISOでも、人的資本に関する情報開示ラインが出されましたし、
労務監査も非常に増えていて、IPOの際にも重要な位置づけになっています。
そのため、労働環境の見える化、
そして外部への開示が大きなトレンドになるだろうと考えています。
ビジネス拡大のポイントは
ステークホルダーとのエンゲージメント
私たちは、このような社会課題を見据えて、
「地方創生×DX×働き方改革」をテーマにした取り組みを行っています。
たとえば、DXに関する個別相談・商談の場を提供したり、
ワーケーション体験を通して地域を体験する機会を創出したり、
各地方自治体と協力して地元企業発展のためのイベントを開催しています。
こういったイベントを行うことで、
私たちのステークホルダーと強固で良好な関係を築くことができます。
社労士事務所にとってのステークホルダーというと、
まずは自社の従業員や顧問先企業があげられますが、実は想像以上に広いと思うのです。
何らかの利害関係がある、もしくは私たちの事業に関心のある人や企業をステークホルダーとすると、
人事やHRに関わる人や企業も含まれます。
実際、地域行政や地元の企業、ITベンダーなどからの、
社労士に対する期待はすごく高まっています。
ですから、ステークホルダーとのエンゲージメントを高めていくことが、
社労士のビジネスを広げると考えています。
また、私たち自身が、最高の職場環境と人が辞めない組織づくりを実践することも重要です。
それを一つの事例として、クライアントに伝えることができるからです。
当社では、オフィスを完全なフリーア
ドレスにしているほか、
職員が勉強できるブックカフェラウンジなどを設けています。
ほかにも、リモートワークを推進していて、海の目の前のコワーキングスペースや、
温泉施設を活用したコワーキングスペースをサテライトオフィスとして活用しています。
「海を見ながら仕事をする」「温泉に入りながら働く」など、まずは事務所から新たな取り組みを実践
社労士が人事・労務DXの「X」を担うことで
企業の成長をサポートする
今、DXが大きなキーワードになっています。
人事・労務DXにおいて、私たち士業がやるべきことは、
「X」、いわゆる変革の部分です。
IT化やデジタルシフトをすることではなく、組織の変革を起こすことが、
私たちの大きな仕事になると思っています。
私はこれを「究極の3号業務」と呼んでいます。
特に、経営管理が重要です。
経営管理とは、経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」に
「情報」や「デジタル」を掛け合わせて、
経済的、効果的、効率的に組織の目標を達成することです。
人事・労務DXが進むと、私たちにとっては
組織の経営改革に入り込めるということが大きなビジネスチャンスになります。
ですから、社労士はデジタルにも強くならないといけないし、
デジタルの部分を提供するベンダーともうまく付き合っていかなければいけません。
これからのHR業界において、社労士は医療業界における医師と同じような立場になっていく必要があります。
事務の代行や労務相談を受けるという従来の動きにプラスして、適切なHRテックを処方して、
定期的な労務監査で企業の健全な発達を支援していくことが求められます。
人事・労務DX支援や労務監査などの新しいジャンルに
社労士が積極的に取り組んでいくことは、多くの仕事が生まれるチャンスです。
それぞれの社労士が知恵やアイデアを持ち寄り、
ときには競い合いながら広く活躍することが、
業界の発展に寄与するものと信じています。
対談:伴 芳夫氏×小杉和明氏
HRテックにより顧問先に提示できる選択肢が増える
株式会社SmartHR 事業開発グループ 小杉和明氏(写真右)
人材派遣・紹介会社に勤務した後、大手外資系IT企業で取引先の業務効率化や事業拡大に従事。
2020年SmartHR入社。社労士をはじめとしたパートナーの業務効率化や事業拡大に取り組んでいる。
小杉:日々、社労士の先生とお会いするなかで、
「SmartHRを導入して企業が自分たちで手続きができるようになると、
社労士の仕事がなくなるのではないか」という質問を受けることがあります。
伴先生は、どのように捉えていますか?
伴:正直に言うと、私もSmartHRが出始めた頃、
「これはすごいものが出てきた。我々の仕事は取られるんじゃないか」
という恐怖感がありました。ただ、今はまったくありません。
結局のところ、企業が何を選ぶかだと思うのです。
社労士にアウトソーシングを頼みたい企業もあれば、内製化したい企業もある。
内製化したいというニーズは今までもありましたから、
そこにSmartHRを導入する提案をしても、マイナスになることはありません。
最終的には企業の選択ですから、
こちらから提示できる選択肢が一つ増えたという印象が大きいですね。
小杉:ありがとうございます。
私たちも、社労士の先生方と競合するという意識はありません。
社労士の先生と一緒に、お客様のためになる
提案手段の一つとして存在したいなと思っています。
先ほど伴先生は、これまでの業務にプラスしたビジネス展開が必要だとお話されていましたが、
どのように仕事をつくり出しているのでしょうか?
伴:要は、営業の方法が変わってきたということだと思います。
ただ顧客を獲得するだけの営業ではなくて、ベンダーや地方自治体と関係を築くこと。
すると、そこから案件が来るようになります。
多方面で営業展開することで、私たちの視野も広くなりました。
社労士がいろいろなところに顔を出すというのが、
これからの営業スタイルなのかなと考えています。
あとは、HRテックの導入をきっかけに次の仕事がやってくることが多くあります。
例えば、勤怠管理システムを導入する際に、
労働時間制度の見直しや就業規則の変更の依頼が来たり。
何かをきかっけに新しい何かが生まれるので、
クライアントといくつかのパイプでつながっていることがポイントだと思います。
小杉:HRテックが、そのパイプの一つになり得るということですね。
私たちが強みとする労務管理や人材マネジメントのほかにも、
現在は給与や勤怠などもさまざまなシステムが出ていますから、
デジタルサービスの選定というのも、
コンサルティングの一つになってくるのかもしれません。
最後に、伴先生はご事務所でもSmartHRを導入いただいていますが、
SmartHRを選んでいただいた理由は何でしょうか?
伴:人柄です。社員のみなさんに惚れたということです。
リモートが増えてきたので、人と会わない形でお付き合いすることもできますが、
SmartHRさんは顔が見える形で一緒に取り組める点がいいですね。
やっぱり、最後は人です。私たち社労士も同じだと思います。
小杉:ありがとうございます。
私たちも、伴先生をはじめとした社労士の先生方とともに、
多くの企業をサポートできればと考えていますので、一層努力していきたいと思います。
- プロフィール
代表社員・所長
地場大手私鉄で勤務後、2007年より現職。人事給与制度コンサルティング業務に加え、
セミナー・研修講師を多数務めるなど、多方面で活躍。
そのほか、複数の企業・団体(医療法人・学校法人・ベンチャーなど)で役員・評議員を務めている。
事業開発グループ
人材派遣・紹介会社に勤務した後、大手外資系IT企業で取引先の業務効率化や事業拡大に従事。
2020年SmartHR入社。社労士をはじめとしたパートナーの業務効率化や事業拡大に取り組んでいる。