M&Aコラム
講義の意義を語る神戸大学大学院経営学研究科の國部克彦研究科長 (画像=M&Aコラム)

日本M&Aセンターホールディングスは、中小M&Aの研究を推進することを目的に、2022年9月に神戸大学大学院経営学研究科と「中小M&Aに関する包括的な産学連携推進に関する協定」を締結しました。その一環として、寄附講義「中小企業のM&A」が、12月7日に神戸大学六甲台第1キャンパスで開講しました。約350人の学生を前に、三宅卓代表取締役社長が登壇して講師を務めました。

日本経済の要 中小企業の存続と発展に貢献するM&Aを学ぶ

中小企業庁の小規模企業白書によると、日本の企業数のうち、個人事業主を含めた中小企業は99.7%を占めています。日本のGDPでは約5割を創出し、従業員数も約7割となることから、日本経済の根幹を支えています。神戸大学大学院経営学研究科の國部克彦研究科長は冒頭に、「日本企業のほとんどが中小企業です。日本経済の要である中小企業を継続、成長させる経営メソッドを中小M&Aから学ぶことを目指します。社会的にも意義があるでしょう」と講義の重要性を説明しました。

廃業を救うM&Aと成長を促すM&A

「2025年問題」と呼ばれるように、2025年までに約800万人の団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「超高齢社会」を迎え、医療制度や年金など、さまざまな分野に悪影響を及ぼすことが問題視されています。帝国データバンクの調査では、2021年の社長の平均年齢は60.3歳となり、31年連続で上昇。年代別でも50代が構成比27%、60代が26%、70代が20%を占めていることから、平均年齢は今後も上昇することが確実となっています。

三宅代表取締役社長は、経営者の高齢化により、60万社の黒字企業が後継者不在で廃業の危機にあるとし、廃業を阻止するためにはM&Aが有効であると呼び掛けます。「黒字で素晴らしい技術を持つ会社なのに、後継者がいないからと廃業してしまう。これをM&Aで防ぐことは、地域の産業や雇用を守ることでもあり、結果的には日本経済の活性化につながります」と話します。

たとえ後継者に困っていない企業であっても、さらなる事業成長を求めて大手企業の傘下となったり、ファンドに事業を譲ったりする「成長戦略型M&A」や、中小企業の経営にレバレッジを掛けて成長させるPE(プライベートエクイティ)ファンドの取り組みも紹介。日本M&Aセンターホールディングスグループは、上場企業から零細企業まで幅広い企業を対象にM&Aのサービスを展開しており、国内に限らず海外でもM&Aに取り組んでいます。

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講義に登壇した日本M&Aセンターホールディングスの三宅卓代表取締役社長 (画像=M&Aコラム)

世界的にM&Aは、企業 がよりよい条件を求め交渉するFA(フィナンシャルアドバイザー)による手法が一般的です。一方で日本のM&Aは、事業承継を目的とした中小M&Aが多く、ほとんどが仲介の手法によって成立しており、日本独特のスタイルで発展してきました。当社は1991年の創業から、事業承継を解決する中小M&Aの先導役として方法論を確立してきました。しかしながら、規模の大きいM&Aしか公表されずデータを集めることが難しかったことから、教育機関等での体系的な研究は進んでいませんでした。そこで当社が持つデータを共有し、若手研究者を中心に多くの研究シードを生むことや研究を通じた成果を社会還元しつつ教育を充実させること、M&Aに係る人材のすそ野を広げることを目的に、連携協定を 締結しました。中小M&Aの研究によって、企業を成長させるモデルが体系化・一般化することで、日本経済の活性化につながることが期待されています。

脱ファミリー化で増加する第三者承継

M&Aによる第三者承継が最近、増えている理由について、心理的変化を踏まえて解説しました。事業承継は、M&Aによる第三者承継以外に、一般的には親族承継と社員承継があります。親族承継においては、子供の人生を優先させて継がせない選択が増えてきました。社会が成熟化するなかで、人口減少社会となり、これまでの企業成長を続けることが難しい社会環境の変化も根底にあります。社員承継においては、社員が自社の株式を買い取ることが難しい背景があります。三宅卓代表取締役社長は「これまで後継者がいないから『仕方なくM&A』という印象を持っている経営者が多かったが、最近は『人生の成功者』という印象を持つ経営者が増えてきた」と、M&Aをめぐる社会的な受け止め方の変化もM&Aによる第三者承継が増えている状況を学生に伝えました。

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(画像=M&Aコラム)

生産性を向上させる方法は「集約化」か「イノベーション」

三宅卓代表取締役社長は、日本のGDPが縮小する未来に対し、経済力が弱まるとこれまでの生活や文化水準を維持できなくなると危機感を隠しません。「日本経済を活性化させるためには、M&Aによる集約化で生産性向上を図るか、ベンチャー企業を支援してイノベーションによる生産性向上を図ることが求められている」とし、中小企業の経営基盤を強化する必要性を説きました。

本寄附講義は中小企業におけるM&Aの理解を深める目的で、学部生向けに全8回で構成。各回、日本M&Aセンターホールディングスの経営者や実務担当者が登壇して中小M&Aの歩みや企業価値の算定方法などノウハウを解説します。

連携協定により、中小M&A研究教育センター(MAREC) が2022年度に開設されました。中小M&A研究教育センターへの研究費を助成し、特任教授の採用や若手研究者の研究支援等で支援してまいります。当社の保有する成約データ等を提供し、中小M&Aの研究を進めてまいります。

著者

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M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
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