矢野経済研究所
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12月2日、第2次補正予算が成立した。一般会計の歳出総額は28兆9222億円、政府試算によるGDPの押上効果は実質ベースで4.6%、「世界的な物価高と景気減速懸念が高まる中、国民の生活と企業活動をしっかり支え、日本経済を一段高い成長路線に乗せるための投資」と説明された。
とは言え、およそ29兆円もの莫大な補正にどれだけ短期的かつ直接的な景気浮揚効果があるか疑問である。29兆円のうち使途が決まっていない予備費は4.7兆円、特定の政策目的のために資金を積み立てる基金への歳出が8.9兆円である。本来、補正とは、本予算の策定後に生じた “特に緊要となった経費”、つまり、一時的に必要な緊急支出に対応すべく追加的に組まれる予算である。「30兆円の経済対策」という政治的インパクトを優先させた “規模ありきの数字” との印象は拭えない。

もちろん、不測の事態に備えるための予備費や長期的視点にもとづく投資は必要だ。中小企業のイノベーションは重要施策であり、抗菌薬の国産化やキャリアップ支援も大切だ。しかし、これらは補正で組むべき予算か。既存の34基金に加えて、このタイミングで新たに16もの基金を新設する必要はあるのか。国家の長期戦略に関わるこれらの事業は “補正” という緊急的な枠組みの中ではなく、しっかりした政策のもと、検証可能な予算として投資決定されるのが筋であろう。

7日、国土交通省は北海道新幹線の延伸費用が6450億円上振れし、総額で2兆3千億円超となると発表した。果たして、この事業は回収が見込めるのか。きちんと投資効果に対する検証はなされるのか。上振れ分は誰が負担するのか。同日、デジタル田園都市国家構想交付金の受給要件が明らかになった。マイナンバーカードの申請率が53.9%以上の自治体に受給資格が与えられる。補正に計上されたこのための予算は800億円とのことであるが、そもそも国民の利益に叶うのであれば、なぜ堂々と義務化を論じないのか。

政府は防衛費に今後5年間で従来予算の1.5倍、43兆円を投じる。年間4兆円の不足財源は歳出改革、税外収入、剰余金で3兆円、残る1兆円を増税で確保する。しかしながら、歳出改革、すなわち何を削減するのかは明らかにされていないし、増税の議論もこれからだ。そもそも補正の財源も22.8兆円が国債の追加発行である。何もかも先送りだ。ある政権幹部は「増税論を統一地方選前に出すのはマイナス」と発言した。いや、そうではない。便益と負担がセットでなければ政策ではないし、そうあってはじめて未来の全体像が見えてくる。将来を見通すための政策論争を望む。

今週の“ひらめき”視点 12.4 – 12.8
代表取締役社長 水越 孝