阿波銀行 前川博文氏

日本全国の地域金融機関でM&Aや事業承継を担当されている行員(BANKER)に各行の取り組みや銀行のカラー、地域の事業承継事情など他行への参考になる情報をインタビュー

今回は阿波銀行 営業推進部 地方創生推進室 経営役 前川博文氏にインタビューした。

現在の部署に来られるまでの経歴を教えてください。

前川:1996年に阿波銀行へ入行し、徳島県内の3店舗の支店での営業を経験した後、トレーニー制度を利用してダイヤモンドプライベートオフィス株式会社(現 三菱UFJ個人財務アドバイザーズ株式会社)へ出向しました。その後、地方創生推進室の前身となる「お客さま営業部」に配属され、10年間、事業承継や相続税対策、航空機リースといったソリューション提案を行っていました。そして、再び営業店配属になり、大阪支店にて副支店長、徳島県の問屋町支店にて支店長をそれぞれ3年間務めた後、現在の地方創生推進室に配属になりました。地方創生推進室は、M&A担当及び情報コーディネーター(後述)から構成される、M&A推進を含めたお客さまの本業支援を担当する部署です。「お客さま営業部」在籍時にはお客さまにM&A・事業承継が今ほど浸透していなかったため、地方創生推進室配属時はM&Aの浸透が広がっていることやM&Aブティックの増加にとても驚きましたね。現在は私含め2名がM&A担当として活動しています。

自ら希望を出して出向されたのですか?

前川:はい。元々、営業一本だけではなく、他のスキルも用いてより付加価値の高い営業をしたいと考えており、税理士資格の勉強を行っていました。出向での現場業務を通じてスキルアップができるトレーニー制度の話を聞き、スキルアップのいい機会だと考え、トレーニー制度の利用希望を出しました。結果ご縁があって、ダイヤモンドプライベートオフィス株式会社に出向させていただき、富裕層や企業オーナー向けにコンサルティングについてのノウハウを学べたことはとてもいい経験になったと感じております。

現在の阿波銀行のM&Aに対する取り組みを教えてください。

前川:当行では営業店の担当者の他に、情報コーディネーターと呼ばれるエリア毎に配置されている営業店への法人ソリューションを多面的に支援する本部担当者10名の方々が主に情報開発を行っています。私を含めたM&A担当の2名はそれぞれの情報集約と全体の管理を行い、適宜自行もしくは提携先のリソースへの差配を行うことで案件の推進を行っております。
当行は「永代取引(世代を超えた息の永い取引を継続し、永続的な発展に寄与していく)」を伝統的な経営の礎として掲げており、お客さまの事業承継を銀行がサポートすることは必然だという考えでM&A・事業承継に取り組んでいます。

最近受託件数が増えていると聞いておりますが、その要因を是非教えてください。

前川:国内最大手のM&Aブティックである日本M&Aセンターのリソースを最大限活用させていただく戦略を実施したことだと思います。企業評価や企業レポートなどを作成する案件化、譲受け企業とのマッチングを日本M&Aセンターのリソースを活用させていただくことで、自分たちはより多くのお客さまの事業承継課題に向き合うことに注力することができています。同時に、日本M&AセンターのM&A情報ネットワーク・マッチング力を活用することで、お客さまに対してもより質の高いM&Aソリューションの提供ができていると考えております。
当行のM&A推進体制が確立できたのも要因の1つだと考えております。先ほどお話ししたように、各支店の担当者や11名の情報コーディネーターが入口のソーシングやニーズ喚起を実施しているため、幅広いお客さまに対しM&Aの提案ができており、ニーズのあるお客さまに適切な支援を実施できた結果として、受託が増加しているのかなと考えております。

これまで前川さんはかなり多くのM&A案件に携わってこられたと思いますが、その中で特に印象に残った案件について教えてください。

前川:携わった案件1件1件をよく覚えています。特に印象に残っているのはある建設会社A社の案件です。旦那さまが創業された会社を、奥さまが2代目として引継ぎ20年ほど切り盛りされておりました。奥さまが80歳を越え、体力的に社長業を続けるのが難しくなったのですが、旦那さまの守ってきた会社でもあったので、中々事業承継を考えられずにいらっしゃいました。そのような中、当行にご相談頂きました。というのも、息子さまの奥さまであるBさまが背中を押して下さったとのことでした。当行にご依頼頂き、M&Aのディールが進む中でもBさまが率先してM&Aの交渉や従業員への説明など尽力して頂き、半年ほどで成約になりました。そして、その半年後に、Bさまが亡くなられました。その後に聞いた話によると、Bさまは、体調はあまり優れない中でも、「A社の存続のためにはM&Aしかない、私が最後までやり遂げなければ」との思いから奥さまに付き添ってくれていたとのことでした。
M&Aの1件1件に、それぞれ会社に携わる色々な方の思いが詰まっていることを再認識させられ、この業務の重要性を感じるともに、より丁寧に取り組んでいかないといけないと改めて思った案件であったので、特に印象に残っています。

M&A業務に取り組む課題を教えてください。

前川:以前は、M&Aに関する評価制度が整備されておらず、営業店の担当者は数ある業務の中から収益化に時間がかかるM&Aの提案をすることが少なかったです。そこで、当行ではプロセス評価制度を導入しました。企業の簡易評価などの企業評価ツールを利用してニーズ喚起した場合、本部に売り買いのニーズのトスアップした場合、その後提携先と一緒にお客さまと面談した場合など、それぞれのフェーズで評価を行う制度を導入しました。これらの導入により、本部へのトスアップ件数が増えたのはもちろん、M&Aへの取り組み意識の高まりから、提案方法やM&A知識の勉強方法などの相談件数も増えています。
また、人的リソースが限られている中で、どこのエリアでも高品質なサービスを提供できるようにしたいという課題もあります。こちらについては、日本M&Aセンターを含め、提携先のリソースを活用させていただいて、自行でできることと提携先に依頼することとを分業し効率化することでお客さまの課題解決に取り組んでいます。
営業店の担当者ごとにサービスのばらつきが生まれてしまうのも課題です。M&Aの勉強会を継続して行うことや、帯同訪問などのOJTを積極的に行いオーナーへの提案やディスカッションを横で聞いてもらうことでM&Aへの理解を深めてもらえるようにしています。

前川さんの今後の目標を教えてください。

前川:当行の行員がM&Aを専門的な業務として捉えるのではなく、もっと当たり前に、預金や融資業務と同じように日々の業務の一環として取り組むような環境にしたいと考えております。誰もが気軽にM&Aを提案し推進できる、そのような環境作りのために各支店と提携先が直接連絡して情報交換ができるような体制構築や、誰もが気軽にM&Aの提案ができるツールの作成などを行っていくつもりです。

日本M&Aセンターに期待することを教えてください

前川:日本M&Aセンターから当行を担当いただいている方にはフットワーク軽く誠実に対応いただいているのでとても信頼しています。「その担当の方だから」と安心してお客さまにご紹介できており、結果として阿波銀行と日本M&Aセンターで役割分担ができより多くのご相談・案件の対応ができていると感じています。
今後更に、M&A業務の標準化を行い、誰もが取り組めるような状態にするためには、全てを自分たちだけで解決しようとするのでは難しいと考えています。そこで、日本M&Aセンターのノウハウや情報、全国ネットワークなどを活用し、効率的な提案活動を行っていきたいです。

最後に、全国へ発信したい徳島の魅力を教えてください。

前川:徳島の魅力はバランスのいい街であることです。自然に囲まれてゆったりとした生活を送りながらも、京阪神といった大都市へのアクセスがよく、都市と郊外の魅力どちらも併せ持った街だと思います。
おススメスポットは、大塚国際美術館、美馬市脇町のうだつの町並み、三好市西祖谷のかずら橋、山城大歩危、剣山の紅葉などです。他にも徳島中央公園の徳島城跡やひょうたん島クルーズ、眉山の夜景などもおススメです。
おすすめのお土産は、半田そうめん、鳴門金時、鳴門わかめやすだちです。徳島に来られた際はぜひお買い求めください!