後継者育成,具体例,中小企業
(写真=Jirsak/Shutterstock.com)

日本の中小企業の後継者不在は深刻だ。中小企業が力を失うことは、地域の経済や雇用にダイレクトに影響するため、国や都道府県、金融機関が積極的に後継者育成を支援している。今回は中小企業後継者不在の現状を確認した上で、後継者育成のための5つの具体例を紹介する。

中小企業後継者不在の深刻な状況

帝国データバンクの2019年度「全国・後継者不在企業動向調査」の結果を見ると、中小企業の後継者不在の深刻な状況がわかる。日本の中小企業の後継者不在率は60%台(全国平均)で推移しており、2019年は65.2%だった。実に6割以上の中小企業で後継者が不在なのだ。

経営者の年齢による後継者育成意識の違い

経営者の年齢によって、後継者不在率は大きく変化する。年齢が高くなるほど事業承継の時期が近くなるので、後継者不在率は必然的に低くなる。一方30代の若い経営者は、まだ後継者など考えていないだろう。

年代別の後継者不在率を見ると、経営者の後継者育成意識の変化が見て取れる。2019年のデータによると、経営者の年代別後継者不在率は以下のとおりだ。

30代未満:91.9%
30代:91.2%
40代:85.8%
50代:71.6%
60代:49.5%
70代:39.9%
80代以上:31.8%

経営者の年齢が30代・40代の企業では、後継者不在が8~9割だ。不在率が急速に低下するのが50代から60代にかけてで、2割以上低下している。

50代・60代は、企業の従業員が早期退職・定年退職をする年齢だ。経営者もこの年齢になると本格的に後継者を探し始め、決めるのだろう。ここで注目したいのは、経営者の年齢が60代でも後継者不在率は49.5%で、約5割の企業ではまだ後継者が決まっていないことだ。

従業員の定年は60歳で、それ以降は再雇用で65歳まで勤務するケースが多いが、経営者の事業継承年齢はそれよりもずっと高いと考えられる。

業種によって差がある後継者不在率

帝国データバンクの2019年度「全国・後継者不在企業動向調査」の結果を見ると、業種によって後継者不在率に差があることがわかる。不在率が高い業種から順に並べると、以下のようになる。

建設:70.6%
サービス:70.2%
不動産:68.0%
小売:66.0%
卸売:63.3%
運輸・通信:62.3%
製造:57.9%

全国平均の65.2%と比べると、建設、サービス、不動産、小売は後継者不在率が高いことがわかる。

誰が後継者になっているのか

誰が企業の後継者になったのかを見てみると、「同族承継」が最も多く34.9%、「内部昇格」33.4%、「外部招聘」8.5%、「創業者」4.8%と続く。

2017年、2018年、2019年の推移を見てみると、同族継承は減少傾向にあるが、内部昇格は増加している。日本企業の事業継承は親族などの同族間で行われることが多かったが、ここ数年は同族以外の幹部職員などを内部昇格させるケースが増えていることがわかる。

「創業者」が後継者になることもある。過去に事業を後継者に継承し、代表権のない会長職などに退いた創業者が、再び代表権を持つ経営者に復帰するケースだ。

後継者育成が進まないと企業はどうなるのか

後継者育成が進まないと、黒字であっても廃業を選ばざるを得ない。日本政策金融公庫によると、60歳以上の経営者の50%超が廃業を見込んでおり、そのうち「後継者が見つからない」ことを理由とする企業は約30%だ。

経済産業省の試算によると、このまま後継者育成が進まないことで廃業する企業が相次ぐと、2025年頃には最大650万人の雇用と約22兆円分のGDPが失われるという。

後継者育成は経営者になった経緯や年齢によって違いが出る

後継者育成では、候補者の選定が最も重要だ。帝国データバンクの2019年度「全国・後継者不在企業動向調査」の結果では、後継者候補は子ども40.1%、非同族33.2%、親族19.8%、配偶者6.8%だった。

後継者候補の選び方は、先代経営者が経営者になった経緯によって違いが出ている。子どもを後継者育成候補に挙げるのは、創業者と同族継承が行われた企業が多く、非同族である従業員など社内外の人材を後継者育成候補に挙げるのは、内部昇格と外部招聘によって事業継承が行われた企業が多かった。

経営者の年齢によっても、後継者育成候補の選び方は変わる。子どもを後継者育成候補としている経営者は30代で2.8%、40代で8.8%、50代で29.1%、60代で44.4%、70代で64.2%、80代以上で64.4%と、高齢になるほど子どもを後継者育成候補にする傾向が強くなる。

親族を後継者育成候補に挙げるのは、30代48.9%、40代49.4%、50代29.1%、60代16.2%、70代15.5%、80代以上17.9%と年齢とともに減少していく。非同族を後継者育成候補に挙げる経営者は、30代から60代までは3割~4割弱だが、70代16.9%、80代12.2%と急激に減少する。

中小企業経営者の後継者候補とは?

中小企業が事業継承を考える際は、当然ながら後継者候補を選ばなければならない。後継者候補を選ぶ時期は、経営者が退任を予定している時期や後継者育成期間などを考慮する必要がある。事業継承には、少なくとも4~5年、長く見積もって10年以上の時間がかかると考えておかなければならない。中小企業の後継者候補として、息子や娘などの子どもや親族をはじめ、役員や社員、社外の第三者(M&Aなど)が選ばれることもある。

息子、娘などの家族

中小企業経営者が引退する年齢は、60代後半から70歳までが多い。経営者が高齢の場合は、息子や娘などに事業が継承されることが多い。オーナー企業や同族企業でも、子どもを後継者候補とするケースが多い。

息子や娘などを後継者候補にする場合に重要なのは、本人の意志を確認し、後継者候補であることを伝え、自覚させることだ。事業継承を進める際は、後継者候補の育成とともに、後継者を支えるブレーンの育成も同時に行わなければならない。また、従業員や取引先に自分の子どもが後継者候補であることを認知させることも重要だ。

役員や社員

割合だけを見ると息子や娘などの家族を後継者候補にするケースが多いが、経営者が子どもの意志を尊重する風潮や、自社の経営の難しさなどから、子どもや親族への同族承継は減少傾向にある。

同族継承が減少する一方で、役員や社員の中から後継者候補を見つける内部昇格の割合が増えている。役員や社員の中から後継者候補を探す場合は、経営者としての資質のある人物を選ぶ必要がある。

選別基準としては、経営ビジョン、意欲・覚悟、実務能力などがあるだろう。近年は企業を取り巻く環境の変化が激しいので、スピード感があり、イノベーションをもって企業を継続的に成長させることができる人物を後継者候補とするべきだろう。

複数の後継者候補が想定されるケースでは、選別基準を明確化することで、後継者争いなどの社内トラブルを避けることも考えておかなければならない。

社外の第三者(M&Aなど)

後継者候補が親族や役員・社員の中で見つからなかった場合は、社外の第三者へM&Aなどによって引継ぎ、事業を存続させる方法がある。近年M&Aのマイナスイメージは弱まり、事業の維持や新たな事業との融合などのプラスイメージが注目され、事業継承方法の一つとして認識されつつある。

M&Aで良い買い手を見つけ、譲渡価格を上げるためには、事業の競争力を高め、内部統制を構築・整備して、企業価値を高めておく必要がある。

社内での後継者育成の具体例

後継者を選定したら、事業継承の成功に向けて準備を始めることになる。事業継承の準備で最も重要なことの一つが、後継者育成だ。経営者の間でも、後継者育成は特に関心が高い。後継者教育では、企業独自の知的財産である「企業理念や経営方針」、環境の変化に対応し事業を経営していく「経営実務」などをしっかりと引き継いでいく必要がある。

後継者教育では、後継者自身が意欲を持って、事業継承のための知識や経験を習得することが大切だ。また教育を施す側も後継者と密にコミュニケーションを取り、思い込みや想像で引継ぎが進んでいると過信せず、相互にチェックしながら計画的に育成を進めることが重要だ。

後継者教育では、従業員や社外の関係者から、後継者に事業を継承することに対する理解を得ていくことも重要である。関係者に後継者が認められないまま事業継承が進んでいくと、その後後継者が主導権を持って経営を行うことが困難になる。後継者教育では、同時に後継者をサポートするブレーンも育てるようにしたい。

後継者育成においては、業務が多忙で後継者育成の時間が足りないという企業も少なくない。一方で、計画的にじっくり時間をかけて後継者を育成している企業もある。

後継者教育は、社内教育と社外教育に分けられる。まずは、社内で行う後継者教育の具体例を3つ紹介しよう。

社内の各部門の仕事を経験させる

後継者に社内の主要部門の実務を経験させることは、後継者教育で最も重視されている。中小企業の経営者が後継者に不足を感じる能力に、「財務・会計の知識」「自社の事業内容の精通」がある。社内の実務を知らなければ、経営を進めていくことは難しい。主要な部門で勤務させることは、将来次の後継者をサポートしていく各部門のブレーンを育てることにもつながる。具体的には、後継者を財務、人事、営業などの各部門をローテーションさせて経験と知識を習得させるといいだろう。

ここでは、後継者に社内の各部門をローテーションさせることで事業継承を成功させたA社の事例を紹介する。A社の現経営者は、40歳で創業者から事業を継承した。創業者は早期に事業継承を計画し、それを経営計画に盛り込んで事業継承を成功させた。

現経営者も創業者に習い、長男を自社に入社させ、事業継承を計画的に行っている。入社以来、長男を主要部門でローテーションさせ、OJTによって経営者に必要な経験と知識を身につけさせた。長男への事業継承は、現経営者の時と同じく40歳を予定している。

責任のある役職につける

後継者を社内で責任ある役職につけて権限を持たせ、経営者として重要な意思決定やリーダーシップを発揮する機会を与え、経営者としての責任と自覚を醸成する。後継者を重要な役職につけることは、従業員や取引先に後継者候補であることを認知させることにもつながり、事業継承に向けての基盤づくりにも役立つ。

現経営者が直接指導する

後継者の教育では、教育担当者に任せるだけではなく、現経営者が直接指導することも重要だ。特に企業理念や経営方針は企業経営の根幹であり、現経営者の事業への思いを継承するためには不可欠な要素である。

事業継承は、現経営者から後継者への引継ぎである。それを成功させるためには、相互のコミュニケーションが必要だ。経営者は後継者をサポートしながら経験を積ませ、自分の知識やノウハウをしっかりと伝えていかなければならない。

社外での後継者育成の具体例

後継者育成で後継者に習得させるべき実務的なスキルには、決算書の見方などの財務に関する知識、企業経営に必要な税金の知識、企業法務の知識、人事・労務の知識、コンプライアンスなどがある。

経営者に必要なのは、知識だけではない。経営環境分析、経営戦略、マーケティング分析、イノベーション、利益・資金計画、リスクマネジメントなどの分析・判断能力も養う必要がある。

社内でのローテーションや、責任ある役職での実務、現経営者からの直接指導などで、スキルや分析判断能力を養うことも必要だが、体系的な学習を効率よく行うためには、外部機関のセミナーなども有効だ。ここでは、社外での後継者育成の具体例を2つ紹介する。

他社で勤務させる

自社の企業経営に役立つ人脈づくりや、視点の異なる新しい経営手法を習得できるのが、後継者を他社で勤務させる方法だ。自社を離れて他社から自社を見ることで視野が広がり、客観的に自社の経営を考えられるようになる。

子会社・関連会社の経営を任せる

後継者育成の一環として、子会社や関連会社の経営を任せることで、後継者としての自覚や責任感をさらに醸成することができる。子会社や関連会社を任せるのは、後継者の知識や経験が経営者として一定の基準を満たしたと判断できた時期に行い、現段階の能力や資質のチェックをしていくイメージだ。

中小企業の後継者育成に適した外部機関のセミナー

後継者が企業経営に必要なスキルや分析判断能力を効率的に学ぶには、外部機関のセミナーを活用するといいだろう。ここでは、後継者向けのセミナーを2つ紹介する。

経営革新塾(全国の商工会議所・商工会実施)

経営革新塾は、全国の商工会議所や商工会で実施される若手後継者向けのセミナーだ。地域の商工会議所や商工会がそれぞれテーマを決めて実施する。組織マネジメントなどの知識やノウハウ、事業戦略など経営に関わる講座や、決算書の見方などの財務に関わる講座などが、中小企業診断士、経営コンサルタントなどの専門家を招いて行われている。

経営後継者研修(中小企業大学校)

経営後継者研修は、中小企業基盤整備機構が運営する中小企業大学校による研修カリキュラムだ。後継者に必要な基本的なスキルや知識を習得できる。40年の実績がある研修だ。

経営後継者研修は、全日制で10ヵ月間実施される。経営者としてのスキルや知識を総合的に学ぶことができ、経営に活かせる実践的な能力を身につけることを目的としている。後継者が集まり、ディスカッションや実習を行うことでコミュニケーション能力が高まり、理論的に考えて相手に伝える力が向上する。

業界・業種を超えた後継者たちが10ヵ月間研修を受けるため、研修終了後も付き合いが続く仲間になる。OBは800名以上で、現役で活躍する経営者とのネットワークを持つことができるのも魅力だ。

将来も続く企業を考え後継者育成を行う

経営者が自分の代だけではなく、将来も続く企業の経営を考えるのであれば、後継者育成を企業経営の一環として行う必要がある。後継者の育成においては、現経営者と後継者がコミュニケーションを取るとともに、後継者を支えるブレーンの育成や、従業員や取引先に後継者候補であることを認知させることも必要になる。このように、事業承継に向けての基盤づくりも同時に進めていく必要があるのだ。

文・小塚信夫(ビジネスライター)