岸田康雄
岸田 康雄(きしだ・やすお)
国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定アナリスト)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、公認会計士、税理士、中小企業診断士。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、金融機関に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と財産承継の実務に従事した。平成29年経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン改訂小委員会」委員、日本公認会計士協会中小企業施策調査会「事業承継専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。

IPOとは、証券取引所において、設立してから初めて株式の売出しを行うことをいう。上場(IPO)するためには、さまざまな準備が必要で、主幹事証券会社からの指導、公認会計士・監査法人による会計監査なども含まれる。それぞれに相当の期間も必要となるため、IPOを検討する際には、準備プロセスやスケジュールを理解し、計画的に進めていくことが大切だ。

本記事でIPO準備のために何が必要で、何から、どう準備していけばいいのか解説するので参考にして欲しい。

目次

  1. IPOとは?設立してから初めて株式を売出すこと
  2. IPO にはさまざまな準備が必要
    1. IPOまでのプロセスとスケジュール
  3. プロジェクト・チームの編成
  4. IPO準備のための監査法人の選定
    1. 監査法人によるさまざまな指導と助言
    2. 会計監査を受ける際の事前準備ポイント
  5. 主幹事証券の選定
  6. コンプライアンス体制の整備
  7. IPO準備のための資本政策
  8. IPOへの成功は入念な準備から
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(写真=zaozaa19/Shutterstock.com)

IPOとは?設立してから初めて株式を売出すこと

IPOとは、Initial Public Offering(イニシャル・パブリック・オファリング)のことであり、日本語では一般的に「新規公開株式」と呼ばれている。

これまで非上場であった会社が、株式を初めて証券取引所に上場し、広く一般の投資家に向けて自社株式を売り出す(公開する)。通常、非上場会社の株式、つまり未公開株式は創業者やその一族など限られた人しか所有者できないが、IPOによって上場・公開することで要件を満たすと誰もが購入・所有できるようになる。

企業にとっては、資金調達や社会的信用、知名度向上などさまざまなメリットを期待できる。

IPO にはさまざまな準備が必要

IPO(証券取引所に上場を申請)をする際には、直前2期における財務諸表が適切に表示されているかを証明するための監査証明が求められる。また監査の受け入れ体制を整える準備から、上場審査に通り上場に至るまでの間には、さまざまな準備が必要だ。標準的なスケジュールでも事前準備の段階で3年以上の期間を要するとされている。

IPOまでのプロセスとスケジュール

【N-3期(直前々々期)以前】
株式の上場(IPO)の方向性で、創業者の意向が固まったならば、監査法人による「ショート・レビュー」を受けることになる。これは、予備調査または短期調査と呼ばれるものであり、監査法人が、対象企業の現状を把握し、株式上場(IPO)を達成するために解決すべき課題を検出するとともに、対象企業にとって最適なスケジュールを決める作業のことをいう。そのための主な準備は、以下のとおりだ。

・事業計画と資本政策の策定
・監査法人の選定
・プロジェクト・チームの結成
・ショート・レビューの実施

最終的に、ショート・レビューの報告書が書面で報告されるため、対象企業のオーナーは、その内容を検討したうえで、株式を上場(IPO)すべきかどうか判断することとなる。

【N-2期(直前々期】
直前2期に入ると財務諸表が適切に表示されているかを証明するための監査対象期間となる。ショート・レビュー報告書で指摘されているIPOに向けた課題解決に向け、経営管理体制の整備を進めることが必要だ。そのための主な準備としては、以下のようなものがある。

・利益管理制度・業務管理制度・組織運営体制・会計管理体制の整備
・特別利害関係者等との取引解消
・子会社や関連会社の整理
・内部統制報告制度(J-SOX)への対応

【N-1期(直前期)】
引き続き監査対象期間であるため、前期初頭に整備した経営管理体制を実際に運用する。それと同時に、上場(IPO)するための準備作業としては、主幹事証券会社、監査法人その他必要となる外部業者の選定も行う。選定すべき主な外部業者は、以下のとおりだ。

・有価証券届出書の印刷会社
・株式事務委託をする証券代行会社
・リーガルチェックする弁護士など

それと並行して、ベンチャーキャピタルなども交えて、最適な株主構成や資本政策を検討する。

【N期(申請期)】
最後に、上場(IPO)の申請書類を公認会計士に作成してもらい、証券取引所における審査を受ける。上場(IPO)が決まれば、IR(投資家向け広報)活動を開始し、一般投資家を募ることになる。

これらの準備作業は範囲が広く、オーナーや対象企業と専門家との緊密な連携が必要となるため、担当者の間の調整が多くなり、相当の時間が必要となる。したがって、スムーズに株式の上場(IPO)準備を行うためには、上場(IPO)をアドバイスした経験豊富な専門家が主導するプロジェクト・チームを強固に編成したほうがよい。

なお、ここでは準備項目を時系列で簡単に説明したが、このなかでも特に重要な項目を以下より解説していく

プロジェクト・チームの編成

プロジェクト・チームは、その対象企業の状況によって異なるが、一般的には、IPOを検討する段階で社内外の人材でプロジェクト・チームを編成するのが望ましい。上場申請の直前々期には、内部統制組織が有効に整備され、運用開始されていることが必要である。

特に内部統制に問題の多い会社は、内部統制組織の整備の準備期間に長めに確保するためにも、IPOする方針が決まったら、可能なかぎり早い時期にプロジェクト・チームを編成し、その整備に着手すべきであろう。

プロジェクト・チームは、オーナー社長または中心的役割を果たす取締役が最高責任者となり、チームを編成する。リーダーは、主幹事証券会社や監査法人との対応窓口となり、チームの各メンバーを指揮命令し、上場準備の進捗管理を行う責任者となる。

会社の事業内容を熟知していることはもちろん、経理に精通した優秀な人材を選任しなければいけない。通常は、経営企画部長や経理部長が兼任することが多い傾向だが、外部から公認会計士を雇入れ、上場(IPO)準備の専任担当者として配置するケースもある。

上場(IPO)準備のプロジェクト・チームのメンバーは、上場申請書類の作成など実務作業を担当するため、パソコン操作など事務処理能力の高い人材を選任することが必要だ。

IPO準備のための監査法人の選定

株式を上場(IPO)させるためには、証券取引所の規則に従って、上場申請書類に含まれる財務諸表等について、金融商品取引法に準ずる公認会計士監査を受けなければならない。それゆえ、監査対象となる期間、すなわち、上場申請直前期以前の2年間よりも前に、監査法人と監査契約を締結する必要がある。

なお、監査法人は大手や準大手に限られず、中小規模の監査法人もIPO準備会社の監査を実施可能である。しかし、証券取引所の上場規程で「日本公認会計士協会の上場会社監査事務所名簿に登録されている」などの要件が定められているため注意したい。同協会の上場会社監査事務所名簿をウェブサイトなどでチェックし、選定しよう。

準備プロセスの部分で説明したとおり、IPO準備は監査法人による現状把握と解決すべき課題を検出した「ショート・レビュー」を受けることから始まる。株式上場(IPO)させようと考えたならば、早い段階から監査法人の公認会計士に相談すべきである。株式上場(IPO)させた実績とアドバイス経験が豊富な監査法人を慎重に選択すべきであろう。

監査法人によるさまざまな指導と助言

監査法人の役割は、会計監査を実施することである。監査対象となる財務諸表等の作成において、最新の企業会計基準の適用と、適正な会計報告が求められるが、対象企業がそのように適正な財務諸表等を作成することができる人員と組織を設置することについて指導・助言を実施することも監査法人の役割となる。

加えて、内部統制報告制度(J-SOX)に係る内部統制組織の整備が必要になるため、内部統制組織の整備はもちろん、その適切な運用方法について指導・助言を実施することも監査法人の役割となる。

会計監査を受ける際の事前準備ポイント

上場審査に向けた会計監査の対象となる財務諸表等は、投資家の投資意思決定に有用な情報を提供することが目的である。財務諸表等は、企業会計基準、連結財務諸表規則及び財務諸表等規則に準拠して作成および報告することが必要だ。

日本公認会計士協会は「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」のなかで会計監査を受ける前に準備しておきたいポイントとして、初めてショート・レビューや会計監査を受ける際にありがちな指摘を例示している。

・会計データ・裏付け証憑の整理
・発生主義会計及び収益認識会計基準への対応
・棚卸資産管理
・原価計算体制
・資産・負債の管理
・連結決算
・関連当事者取引の把握・整理
・内部管理体制の構築
・労務管理
・情報システムの内部統制
・不正への対応
・会計上の見積もり
・会計基準の選択

なかには、どの企業でも当然にして整備されているべきといえる項目もあるが、あらためて自社の状況を見直し事前準備を進めていこう。

主幹事証券の選定

主幹事証券会社とは、上場支援を行う幹事証券会社のうちIPO準備全般や進捗管理などで中心的な役割を担う証券会社のことである。上場の準備の開始するときから、上場に成功した後まで、対象企業の資金調達に係るアドバイスを行うなど、主幹事証券会社の役割は大きい。

また、証券取引所の審査に通るように客観的・中立的な立場から、対象企業の新株発行を指導することもあり、IPOにおいて最も重要な役割を果たすといっても過言ではない。上場(IPO)の準備に着手すると、主幹事証券会社の営業担当者から、上場までのスケジュール感、中期経営計画・事業計画の立案、資本政策の策定、内部統制組織の整備に係る指導を受けることになる。

そのなかでも、事業計画は、将来収益力を評価する材料となる重要なものだ。上場時(IPO)の公募価格の決定に影響するため、公認会計士等の専門家も交えて、上場(IPO)の決定する前から指導を受けておく必要がある。

内部統制組織が整備され、上場(IPO)の申請書類が完成する時期になると、主幹事証券会社の公開引受部門から、証券取引所による審査に通るための方法について指導を受けることになる。これら主幹事証券会社による指導に関して、対象企業はコンサルティング契約を締結し、約2年間を費やして、上場(IPO)の準備を進めることになる。

公開引受部門の指導が完了すると、証券取引所の上場審査を受ける直前に、主幹事証券会社の審査部門が最終的なチェックを行う。主幹事証券会社のアドバイスなしで上場することは不可能といえるだろう。

その役割が重大であるだけに、上場後に株式をどれだけ販売することができるか、主幹事証券会社のリテール営業力とともに、上場準備をアドバイスする経験と実績を考慮して、主幹事証券会社を選択すべきだ。

コンプライアンス体制の整備

IPOでは会計監査に加え、上場審査の段階で主幹事証券会社や証券取引所の審査が行われる。また上場後も、上場会社として各種法令を遵守していく必要があることは言うまでもない。オーナーは上場企業の経営者としての責任、対象企業そのものは、社会的責任を負担することになるため、経営者自ら率先してコンプライアンス体制を整備・運用することが必要だ。

これらの組織体制の整備は、専門人材の確保など管理コストの増大を招くことになるが、このような内部統制組織の強化を、単にコスト増加要因として捉えるのではなく、企業経営のレベルアップ、組織を強固なものにする絶好のチャンスであると捉えるべきであろう。

IPO準備のための資本政策

資本政策とは、誰に・どれだけの株式を渡す必要があるか、株主比率のバランスを検討、計画することである。IPOによって不特定多数の投資家から資金を調達できるのはいいが、上場前と上場後では株主構成が変わり、経営の意思決定や買収による企業存続などの面でこれまでとは異なるリスクも生じかねない。

株式上場(IPO)を目指す会社の資本政策は、上場後の株式の流動性を考えながら、低コストの資金調達と、最適な株主構成を実現するために、適正な株式発行価額や株式数を決定することが重要になる。IPO準備のなかでも重大な項目であるため慎重に検討が必要だ。

資本政策を決めるには、上場時の望ましい株主構成にするための募集株式(発行株式)の割当や、株式移動の方法、その実施時期を検討する。

資本政策の立案のために検討すべき事項は、以下のように、事業計画と安定株主対策である。

第一に、事業計画と必要資金である。事業計画を実現するために、どれだけの資金が必要となるかを考え、会社の運転資金や設備投資資金などを調達する方法を検討する。また、創業者である大株主の相続対策、福利厚生に役に立つ役員・従業員の持株会を決定する。

第二に、 安定株主対策を検討する。資本政策は、外部株主からの資金調達を行うことであるから、既存株主の議決権割合にどのような影響を与えるかを検討しなければならない。オーナーの議決権割合が低下することになっても、その支配権を維持するための安定株主比率を、いかに維持していくかがポイントとなる。

資本政策を立案する時点における株主は、以下の人たちであろう。

  • オーナー(創業家)およびその親族
  • 役員
  • 従業員および従業員持株会
  • 金融機関
  • 取引先
  • ベンチャーキャピタル

オーナーとその親族に加えて役員・従業員を含めた株主の議決権割合が過半数であることが、支配権を維持するために必要となる。

IPOへの成功は入念な準備から

非上場会社がIPOをすることは、株式市場で広く資金調達ができるようになるだけでなく、社会的信用や知名度の向上など経営上のさまざまなメリットを期待できる。しかし、IPOを実行するためには、証券取引所の規則に従い、監査法人による会計監査、主幹事証券会社による中間審査・引受審査、証券取引所による上場審査を受ける必要があり、そのための数々の準備が必要だ。

上場会社となった後のことを想定し、コンプライアンス体制の整備・運営、資本政策も重要な準備の一つである。一般的に3年以上の長期プロセスとなるが、入念な計画、各専門家のサポートのもと成功に向け準備を進めていこう。

文・岸田康雄(税理士)

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