SDGsへの取り組みが一般的になる中で、「ソーシャルグッド」が注目を浴びている。ソーシャルグッドは、社会問題や環境問題の解決など社会貢献につながる取り組み全般を指し、ソーシャルグッドを意識した取り組みを行う企業も増えている。本記事では、ソーシャルグッドの意味や代表的な事例、企業が取り組むメリットなどについて解説する。
目次
ソーシャルグッドとは
「ソーシャルグッド:Social Good」とは、自社を取り巻く身近な地域コミュニティだけでなく、地球環境などの幅広い定義においての「社会」に対して良い影響を与え、社会貢献につながる活動や商品、サービスなどの展開を指す言葉である。
ソーシャルグッドの取り組みには明確な基準や評価項目があるわけではなく、地域社会のボランティア活動への参加や植林活動、難民問題に取り組む団体への寄付、フェアトレード商品の販売などさまざまだ。
ソーシャルグッドの取り組みは、SNSなどのソーシャルメディアを通して拡散されることもあり、SNSの投稿者が仲介役となって広く認知されるようになっている。
ソーシャルグッド・サミットにUNDPがパートナーとして参加
ソーシャルグッドへの取り組みは世界的に意識されるようになっており、定期的にカンファレンスも開催されている。
ソーシャルグッドについての議論が行われる「ソーシャルグッド・サミット」の東京イベントでは、国連開発計画(UNDP)がパートナーとして参加するなど、SDGsが意識されている世の中でソーシャルグッドへの注目が高まっている。
ソーシャルグッドとSDGsの関連性
「SDGs」とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことであり、2015年の国連サミットで世界共通の目標として採択された。
SDGsでは、2030年までに達成すべき17の目標と169の具体的なターゲットが定めている。17の目標の中には、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「住み続けられるまちづくりを」「気候変動に具体的な対策を」など、社会問題や環境問題に関わるテーマも掲げられている。
ソーシャルグッドは、SDGsで掲げられている開発目標の達成につながる活動の一つであるのと同時に、SDGsへの取り組み自体がソーシャルグッド活動につながるとも言えるだろう。
ソーシャルグッドと似た概念「CSV」
「CSV:Creating Shared Value」は、日本語で「共通価値の創造」という意味の経営戦略に関する概念だ。CSVは、社会的な課題やニーズに取り組むことで社会的価値を創造し、それによって企業価値を高めて利益を得るという考え方である。
事業として社会的な課題に取り組むという点と、ソーシャルグッドの社会に良いインパクトを与えるための活動という点が類似している。
CSVと類似した概念に「CSR:Corporate Social Responsibility」がある。これは企業が社会的責任を果たすことを重要視する概念であり、社会的な課題への対応という責任は果たすとしても、経済的な利益を得るわけではない。
ソーシャルグッドに対する共感意識の現状
電通と電通総研による日本を含めた5ヵ国(英、米、中、印)を対象とした『ソーシャルグッド意識調査』によると、日本はソーシャルグッドに対する共感意識が最も低いという結果が出ている。
意識調査の項目の中でも、特に「環境負荷が低い商品や、フェアトレードの商品は多少高くても選ぶ」では、他国が60%〜80%という中で39%の共感率であった。
日本では、まだソーシャルグッドに対する意識が低いということがわかる。
ソーシャルグッドはなぜ注目されているのか?
ソーシャルグッドが注目されているのは、SDGsが世界的な共通目標となって企業活動の指針になっているのが最大の理由である。
環境問題などの課題解決に個人レベルでも取り組める
特に地球環境については、地球温暖化やマイクロプラスチックによる海洋汚染など、さまざまな問題を抱えている。SDGsへの取り組みとして、カーボンニュートラルやクリーンエネルギーの開発などの大きな技術革新テーマが掲げられてはいるが、それだけでは問題の根本解決は難しい。
地球規模の問題解決には、地域社会や個人などの小さな組織の貢献が不可欠だ。そのため、どんな小さなことであっても、社会に良い影響を与えるために行動するソーシャルグッドが注目されている。
ソーシャルグッドの有名な取り組み例
ソーシャルグッドの取り組み例として有名な事例がある。それは、「アイスバケツチャレンジ」と「ゴミ諸島を本当の国に」という2つのキャンペーンだ。
アイスバケツチャレンジ:難病の認知度を世界的に高めるキャンペーン
アイスバケツチャレンジは、指定難病2に該当する「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を世界中の人に広く認知してもらうために行われたキャンペーンである。バケツに入った氷と水を浴びる動画をSNSで拡散するか100ドルを寄付するかを選ぶというもので、2014年にFacebookを中心として広まり、3週間で1,330万ドルの寄付が集まったという。
アイスバケツチャレンジで集まった寄付金や助成金を原資として開発されたALSの治療薬である「AMX0035」は、アメリカ食品医薬品局(FDA)に認可されることとなった。ソーシャルグッドへの個人の取り組みが、治療薬の開発という社会問題解決の糸口となった代表的な事例である。
ゴミ諸島を本当の国に:環境問題への関心を高めるキャンペーン
「ゴミ諸島を本当の国に」キャンペーンは、ゴミによる海洋汚染の問題への関心を高めるために行われたものである。
太平洋上に集積されたプラスチックゴミの面積が、フランスの国土と同じレベルまで積み上がっている。それにもかかわらず、海洋ゴミの増加という環境問題解決に取り組む国がいないという状況に一石を投じるために企画された。
2017年6月8日の「ワールドオーシャンズデイ」に、海洋保護団体がゴミの島を本当の国として認めてもらおうと、国旗や通貨などを準備した上で国民の募集まで行った。
結果的に22万人もの人が国民として立候補する事態となった。そして、キャンペーン動画は世界中で拡散され、「いいね!」の数は70万に上った。
世界的な社会問題に目を向けてもらうために、広告とはいえ国まで作ろうとしたソーシャルグッドの取り組みとして影響力の高いキャンペーン事例である。
ソーシャルグッドのメリット5つ
企業がソーシャルグッドに取り組むことで、大きく5つのメリットがある。
- 企業のブランドイメージ向上につながる
- 企業の認知度が向上する
- 従業員のモチベーションが高まる
- 新しいビジネスモデルに挑戦できる
- 環境や社会の問題解決に直接関わることができる
1.企業のブランドイメージ向上につながる
ソーシャルグッドへの取り組みによって、社会に貢献できるのはもちろんのこと、SDGsを重視する企業であると知られれば、ブランドイメージの向上につながる。
企業イメージが向上すれば、ステークホルダーや投資家からの評価が高まるのはもちろん、競合他社との差別化に寄与し、収益の向上が期待できるだろう。
2.企業の認知度が向上する
自社のソーシャルグッド活動や製品が地域コミュニティで評価されたり、SNSなどによって情報が拡散されたりすれば、認知度の向上につながる。
認知度が向上すれば潜在顧客へのアプローチが可能になり、新規顧客の獲得による収益アップや資金調達の選択肢の増加、ソーシャルグッドの取り組みに共感する優秀な人材の獲得なども期待できる。
3.従業員のモチベーションが高まる
ソーシャルグッドの活動自体に共感する従業員にとっては、社会貢献できる企業で働けることに喜びを感じ、モチベーションの向上が期待できるだろう。
また、自社のソーシャルグッドへの取り組みが家族や友人などはもちろん、これまで自社に対して興味を持っていなかった層にまで広まって評価されれば、社員のエンゲージメントが向上し、仕事へのやりがいを感じやすくなる。
エンゲージメントが向上すれば、さらに社会や自社事業への貢献意欲が増し、従業員満足度の向上による定着率のアップなどにつながる可能性がある。
4.新しいビジネスモデルに挑戦できる
ソーシャルグッドの取り組みを行うには、地球規模での環境問題はもちろん自社が身近に関わっている地域コミュニティが抱えている問題に向き合うことが必要だ。
社会的な課題の調査過程では、新しいビジネスモデルにつながるような社会的なニーズを見つけられるかもしれない。また、ソーシャルグッドに取り組んでいる他の企業とのコラボレーションなど、自社のみの経験やノウハウだけではチャレンジできなかったようなビジネスモデルの構築も不可能ではない。
5.環境や社会の問題解決に直接関わることができる
ソーシャルグッドの最大の目的は社会に対して良い影響を与えることであり、その取り組みは少なからず環境問題や社会問題などの解決に貢献するものである。
自社事業では社会貢献が難しい場合でも、ゴミ拾いや子どもの教育といったボランティア活動への参加、ソーシャルグッドに取り組んでいる組織への寄付など、さまざまな形で直接社会貢献ができることは大きなメリットの一つだろう。
ソーシャルグッドの注意点
ソーシャルグッドは社会貢献という目的がある以上、認知度アップやブランド力向上などの副次的な効果を追い求めすぎると、逆に企業イメージダウンとなるケースもある。
ソーシャルグッドの取り組みが炎上につながることもある
ソーシャルグッドの取り組みはSNSなどで自然に拡散されることもあれば、「アイスバケツチャレンジ」などのようにSNSを社会問題解決のために活用することもある。ソーシャルグッドへの取り組みについて注意すべきなのは、まさにSNSや各種メディアを利用したキャンペーンを行う時だ。
・ペプシの社会問題を取り上げたCMが炎上
自社としては社会問題の解決に貢献することを目的として善意の広告キャンペーンを行ったとしても、実際に広告を見る側の受け止め方によっては炎上騒動につながる恐れもある。
2017年のペプシの炎上騒動のように、平和へのメッセージという一見ソーシャルグッドを意識づける構成のCMであっても、伝え方によっては軽率に社会問題を取り上げていると批判されるかもしれない。
自社にとっては善意のソーシャルグッドキャンペーンであっても、第三者の視点を取り入れた上で、多様な意見を参考にして取り組む姿勢が大切だ。
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ソーシャルグッドの企業の取り組み事例
ソーシャルグッドには、すでにさまざまな企業が取り組んでいる。ここでは、特に有名なソーシャルグッドの事例を紹介する。実際に、ソーシャルグッドにつながる製品を開発、販売している企業があるのはもちろん、CMを通して社会貢献を行う企業など、取り組み方も各社さまざまである。
トヨタ
トヨタでのソーシャルグッドにつながる取り組みとして有名なのが、環境汚染に配慮した水素を利用した燃料電池自動車(FCEV)、「MIRAI」の開発だ。水素と酸素の化学反応によって電気を生み出すため、究極のクリーンエネルギーともいえる自動車である。
無印良品
無印良品は2018年2月に、ソーシャルグッド事業部を立ち上げて、地域貢献による資金循環を通した持続的な成長を目指して活動している。
2018年には「里のMUJI みんなみの里」をオープンした。ここでは、農産物の直売や地元の米を使った日本酒の製造などを行い、地域の特産品を専門に販売する「なおえつ良品市場」などもスタートさせて地域との結びつきを深めている。
また、高齢化やコロナ禍によって店舗での日用品購入が難しい地域では、移動販売「MJI to GO」をスタートさせ、積極的な社会貢献を行っている。
パタゴニア
パタゴニアは、以前からペットボトルをリサイクルした原料でのフリース製造を行うなど、環境に配慮した製品開発を行ってきた。
パタゴニアは「Worn Wear」という自社衣料品のリサイクル販売店を作り、商品を修繕している。製品寿命を伸ばすことで廃棄物や炭素排出量を削減し、地球環境保護に取り組んでいる。
NIKE
NIKEのソーシャルグッドの活動例として有名なのが、「Dream Crazy」というキャンペーンCMだ。
当時アメリカで問題となっていた黒人射殺事件などの人種差別問題に対して抗議をする行動をとったコリン・キャパニック選手を起用する内容であった。取り扱ったテーマがセンシティブなこともあり賛否両論だったが、NIKEとして効果的にメッセージを伝え、社会問題に一石を投じている。
スターバックス
スターバックスはサステナブルな未来実現のために、使い捨てのプラスチックストローの廃止を2018年7月に宣言し、2020年1月からFSC®認証紙を原料とした紙ストローに段階的に切り替えることを決めた。ストローの素材を紙に変更することによって、年間で約2億本のプラスチックストローの削減を実現できるという。
2020年には「リソースポジティブ」の実現を宣言し、2030年までにカーボンニュートラルによるグリーンコーヒーの生産と加工工程で使う水量を半減させることを掲げた。
ソーシャルグッドについてのQ&A
ソーシャルグッドの意味は?
ソーシャルグッドとは、社会問題の解決への取り組みや環境改善を目的とした製品の販売など、社会に貢献する取り組み全般を指す。また、社会貢献活動を促進するソーシャルサービス自体を、ソーシャルグッドと呼ぶこともある。
ソーシャルグッドは、SDGsの広がりとともに注目されるようになり、SDGsで定められた17の開発目標の達成につながる活動だ。同時に、SDGsへの組織や個人としての取り組み自体がソーシャルグッドにつながっている。
ソーシャルグッドの例は?
ソーシャルグッドの有名な事例には、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の認知度を世界的に高めるために行われた「アイスバケツチャレンジ」や、プラスチックゴミによる海洋汚染問題への関心を高める「ゴミ諸島を本当の国に」するキャンペーンがある。
個人でもできる具体的なソーシャルグッドの取り組み例としては、ゴミ拾いや植林など地域のボランティア活動への参加や、フェアトレード商品の購入、国連の期間を通しての難民支援活動への寄付などが挙げられる。
ソーシャルグッドは期待効果を意識し過ぎずに社会貢献を優先しよう
ソーシャルグッドは、社会的な課題の改善などにつながる活動や商品の展開など、社会に貢献する活動全般を指す言葉だ。企業などの組織レベルでの活動はもちろんだが、個人でもフェアトレード商品を購入するなどして貢献できるという特徴がある。
ソーシャルグッドは企業のイメージアップになるなどのメリットがあるが、あまり期待効果を意識し過ぎずに取り組むのがいいだろう。まずは、ボランティアに参加したり寄付をしたりして、社会貢献への参加意識を醸成することが肝要だ。
ソーシャルグッドは善意によって行われるものだが、受け止める側によっては炎上につながることもある。事業活動としてソーシャルグッドに取り組む際には、SNSやメディアの利用に特に注意してほしい。
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隈本稔(キャリアコンサルタント)