電気やガスなどのエネルギーは、日常生活や企業活動に欠かせないものである。しかし、化石燃料の枯渇や温暖化など、近年では多くの問題が多方面から指摘されている。ここでは日本・世界のエネルギー問題や、中小企業が考えたい対策などを紹介する。
目次
日本と世界のエネルギー事情
ほかの先進国や欧米諸国に比べると、日本のエネルギー事情は厳しい局面に立たされている。実際にはどのような状況なのか、まずは日本と世界のエネルギー事情を整理していこう。
日本のエネルギー自給率は12.1%
日本のエネルギー自給率は、OECD(経済協力開発機構)諸国の中では低い水準にある。
一次エネルギーとは、石油や石炭、天然ガスなどの加工されていないエネルギーだ。2019年時点の自給率が12.1%であることから、日本はエネルギーの大半を輸入に頼っていることが分かる。
次は、2020年9月に資源エネルギー庁が公表した、発電電力量の構成比率を見てみよう。
2011~2018年度にかけて再生可能エネルギーが増えているものの、日本は発電エネルギーの7割以上を天然ガス・石炭・石油などに頼っている。また、2011年3月に発生した東日本大震災の影響で、原子力発電の比率が減少している点も押さえておきたい。
エネルギー自給率のトップはノルウェー
次はエネルギー自給率の世界ランキングと、原油生産量・天然ガス生産量の上位5ヵ国を紹介しよう。
エネルギー自給率でトップを誇るノルウェーは、国内エネルギーの6~7倍にあたる量を輸出している。原油生産量・天然ガス生産量ではランク外だが、いずれのエネルギーも輸出量では世界トップレベルだ。
生産量ではアメリカ・ロシアが上位につけているものの、これらの国は自国での消費量が多いため、エネルギー自給率はやや低い傾向にある。石炭生産量で世界トップを走る中国も、同様の理由でエネルギー自給率は第12位に留まっている。
一方で、日本はエネルギー資源が限られており、さらに自国での消費量も多いため、いずれのランキングでも下位に沈んでいる。
エネルギー問題はなぜ深刻?事業活動との関係性
上記の通り、日本は自国だけで発電に必要なエネルギーを賄えていない状況にある。仮に海外からの供給がストップすれば、経済的に大きなダメージを受けることは明白だろう。
実際に、2021年からは新型コロナウイルスの影響で原油価格が高騰しており、さまざまな業界に影響を及ぼしている。運輸業はもちろん、石油を使用する製造業やエネルギー業界、灯油をつかう農家などもコスト増に直面している。
また、SDGsやESG投資が広まった影響で、再生可能エネルギーへの転換などが求められている点も企業は軽視できない。環境・社会に配慮したビジネスが注目されているため、利益だけを追求するとステークホルダー(投資家や消費者など)からの評価を下げてしまう恐れがある。
日本が抱える5つのエネルギー問題
ここからは、日本が抱えるエネルギー問題をさらに深掘りしていこう。
1.化石燃料への依存
資源エネルギー庁の資料によると、日本における2021年度の電源構成は以下の通りである。
新エネルギーによる発電量も増えてはいるものの、現状では75%以上を化石燃料(LNG・石炭・石油等)に頼っている。特に中東からの輸入が多いため、サウジアラビアやUAEなどで政変や紛争が起こると、さまざまな関連業界が大きなダメージを受けてしまう。
2022年から本格化したロシア・ウクライナ危機のように、政変や紛争はいつ起こるのか分からないため、化石燃料への依存は深刻なリスクと言えるだろう。
2.エネルギー自給率の低さ
日本のエネルギー自給率は、OECD加盟国(35ヵ国)の中で第34位である。日本より自給率が低い国も多く存在するが、同じアジア圏の中国・韓国に遅れを取っている点は軽視できない。
日本の周辺海域にはメタンハイドレートが見つかっているものの、2023年~2027年にかけての商業化が目指されているため、実用化はまだ先の話だろう。つまり、今後少なくとも数年間は、エネルギー自給率の大幅改善はないと考えられる。
3.原子力発電所の稼働問題
2011年に東日本大震災が発生して以降、多くの原子力発電所は稼働を停止している。その影響は大きく、2010年に20%強を記録した日本のエネルギー自給率は、9年間で10%強にまで下がってしまった。
原子力発電所はエネルギー不足の解決策となり得るが、安全を確保しない限りは全面的な再稼働は難しい。現在では新たに新規制基準が設けられており、複数の審査を通過しないと稼働できない仕組みになっている。
4.電気系統の障害
山岳地帯や海洋など、国内で多くの再生可能エネルギーを生み出せる場所は限られている。北海道や東北地方はその代表エリアとして知られるが、現状では生み出したエネルギーを供給するためのシステムが整っていない。
従来の電気系統は、あくまで大規模な発電所(主に火力発電や原子力発電)から需要地へと電力を運ぶために構築されたものである。つまり、再生可能エネルギーの供給には特化していないため、新たな電力網を整備しなければならない。
そのコストや手間を考えると、再生可能エネルギーへの完全転換は難しい状況と言えるだろう。
5.環境問題への対応
ベルステルマン財団の「Sustainable Development Report 2022」によると、日本のSDGs達成度は第19位であった。経済大国であるアメリカや中国よりも上位につけているが、以下の目標については「進捗が停滞(必要なペースの50%以下)」と評価されている。
○SDGsの評価が低い目標(日本)
【13】気候変動に具体的な対策を
【14】海の豊かさをまもろう
【15】陸の豊かさもまもろう
(※【13】の目標については、2022年のレポートで評価が上昇)
つまり、日本は環境問題への対策を迫られており、早急に化石燃料からの脱却を図る必要がある。しかし、現状では大きなエネルギー転換ができないため、日本がSDGs先進国を目指すのは厳しい状況である。
さらなる省エネルギーに向けた課題や取り組み
ここまで解説したように、日本が今すぐ化石燃料から脱却することは現実的ではない。そのため、以下のような取り組みを通してさらなる省エネルギーを実現する必要がある。
一般家庭や企業のエネルギー効率化
以下の表は、1973年から2017年にかけての最終エネルギー消費量の倍率を表したものである。
全体の最終エネルギー消費量はそこまで変わっていないが、家庭部門・業務部門では2倍以上に増えている。つまり、一般家庭や飲食店、オフィス、商業施設などのエネルギー効率が悪いと分析できるだろう。
政府はこの課題を解決するために、革新的な省エネルギー技術の開発促進事業を実施している。ただし、イノベーションは必ずしも生まれるとは限らないので、各家庭や企業による努力もポイントになる。
建築物の省エネ効果をアップさせる
世界のエネルギー消費量のうち約3割は、オフィスビルや商業施設などの建築物が占めると言われている。そのため、各企業が以下のような施策を実施すれば、ある程度の省エネ効果を実現できる。
○建築物の省エネ対策
・断熱性能の高い建築材を使用する
・定期的な換気で空調の負荷を減らす
・屋根やひさしで日光をしっかりと遮る
・太陽光発電用のパネルを設置する など
地味な努力に見えるかもしれないが、日本全国の企業が足並みをそろえて対策をすれば、大きな省エネ効果を期待できるだろう。
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中小企業が考えたいエネルギー対策
経営資源が限られた中小企業にとって、大規模な設備・システムなどの導入は難しい。では、中小企業が貢献できるエネルギー対策にはどのようなものがあるだろうか。
エネルギー問題による自社への影響を考える
まずは前提として、エネルギー問題による影響を細分化する必要がある。日本の現状を踏まえて「自社にどのような影響があるか?」を理解しなければ、効果的な対策は立てられない。
例えば、東日本大震災以降は多くの原子力発電所が稼働停止したものの、電力の供給不足に陥った企業は少ないはずだ。しかし、化石燃料や再生可能エネルギーによる発電が中心となれば、エネルギー価格は割高になると考えられる。
特に利益率の低い企業は、経営状態がエネルギーコストに左右されやすい。実際に2021年からは原油価格が高騰しており、多くの中小企業が苦境に立たされている。
この状況が長引くと、体力のない企業は倒産するリスクがあるため、早急に事業構造やサプライチェーンなどを見直す必要がある。
再生可能エネルギー分野への参入を検討する
北海道や東北をはじめ、再生可能エネルギーを生み出すエリアは地方に分散している。一つひとつの規模は小さいが、所在地によっては再生可能エネルギー分野に参入しやすい企業もあるだろう。
再生可能エネルギー分野は市場が拡大しており、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)と国際労働機関(ILO)の共同報告書によると、2021年からの12ヶ月間で70万人の雇用が生み出された。また、再生可能エネルギー分野にもさまざまな関連事業があるため、最新技術を有していない企業にも参入のチャンスはある。
○再生可能エネルギー分野の関連事業
・廃棄物の処理や有効活用に関する事業
・自然環境の保全事業
・クリーンエネルギー事業
・省エネ化に関する事業
・排出権の取引 など
直接的に関係するものはクリーンエネルギー事業のみだが、近年ではカーボンニュートラルが注目されている影響で多くの環境事業が注目されている。再生可能エネルギー事業に取り組む企業を顧客にするようなビジネスも含めれば、さまざまな関連事業が対象になるだろう。
国や自治体のエネルギー対策を注視する
国や自治体のエネルギー対策に目を向けることも、中小経営者が意識したいポイントだ。資金が限られた中小企業であっても、支援策を活用すれば新事業を始められる可能性がある。
例えば、経済産業省は日本政策金融公庫を通して、非化石エネルギーの導入を促進するための融資制度(環境・エネルギー対策資金)を実施している。中小企業でも最大7.2億円の資金を低金利で借りられるため、さまざまな設備を導入できるはずだ。
ほかにも税制優遇や補助金など、エネルギー事業の関連施策は多く実施されている。自治体による支援も含めれば、中小企業でも多くの資金を調達できるかもしれない。
ただし、ほとんどの制度には要件や期間が設けられているため、資金計画を立てる前に詳細をチェックしておこう。
エネルギー問題のよくある質問集
エネルギー問題を解決するには、現状を理解した上で対策を立てる必要がある。ここからはエネルギー問題のよくある質問をまとめたので、気になるポイントをしっかりと押さえていこう。
Q1.エネルギー問題とは?どんな弊害が起こる?
世界中で人口が増えた現代では、化石燃料の消費量増加によってエネルギー枯渇が懸念されている。また、化石燃料はCO2の排出を伴うため、温室効果ガスの増加による温暖化も問題となっている。
特にエネルギー自給率が低い日本は、海外からの輸入に大きく依存しているので、早急に解決策を打ち出さなければならない。
Q2.エネルギー問題の例を知りたい
エネルギー資源に乏しい日本は、以下のようなエネルギー問題を抱えている。
・世界の国々とのエネルギー獲得競争
・化石燃料による温室効果ガスの排出
・再生可能エネルギー導入による電気料金の高騰
新型コロナウイルスが蔓延した2020年以降は、石油価格が高騰した影響で多くの家庭が経済的に苦しめられている。慢性的にエネルギーの供給が不足すると、企業活動にも大きな影響を及ぼす恐れがある。
Q3.日本のエネルギーの現状や課題は?
コロナ禍や脱炭素化の影響により、2015年以降の日本ではエネルギーの供給不足が顕在化している。原油価格は2020年中頃から上昇を続けているが、それでも日本はエネルギーの大部分を輸入に頼るほかない。
このような流れを受けて、経済産業省は独自の資料として「エネルギー白書2022」をまとめており、カーボンニュートラルなどの政策を打ち出している。
Q4.日本はなぜエネルギーが不足している?
日本のエネルギー不足は、国内の資源の少なさが要因である。
日本は一次エネルギー国内供給のうち80%を化石燃料で賄っているが、そのほとんどを海外から輸入している。そのため、オーストラリアや中東などからの供給が停滞すると、短期間で深刻なエネルギー不足につながるリスクがある。
Q5.国内の原油埋蔵量、ガス埋蔵量は?
日本国内で確認されているエネルギー埋蔵量は、原油が約545万㎥、天然ガスが282億㎥と言われている(※2020年8月時点)。石灰石やヨードをはじめ、世界トップクラスの埋蔵量を誇る地下資源もあるが、これらはエネルギー問題を解決できる資源ではない。
つまり、現状ではエネルギーの大部分を輸入に頼るほかないため、日本は原油価格またはガス価格高騰の影響を大きく受けてしまう。
エネルギー対策への中長期的なプランが必須
日本は化石燃料に依存している影響で、世界的に見るとエネルギー自給率が低い。エネルギー資源の大半を輸入に頼っているため、供給が停滞した場合の対策を用意しておく必要がある。
深刻なエネルギー問題はすでに顕在化しているため、本格的なエネルギー不足へと陥る前に中長期的なプランを考えていこう。