2022年の国内養液栽培システム市場は前年比96.5%の89億2,800万円の見込
~エネルギーコスト上昇の影響により施設園芸生産者の投資意欲が落ち込み、前年割れで推移~
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内の施設園芸を調査し、分野別の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。ここでは養液栽培システムを取り上げる。
方式別の養液栽培システム市場規模推移
1.市場概況
国内の農業は担い手や後継者不足、農家の安定収入の難しさが言われて久しいが、これに加え、昨今では食に対する安心や安全への意識の高まりから、消費者が減農薬作物を求めることによるコスト高などといった多くの課題を抱えている。
こうしたなか、解決策の一つとして現在、養液栽培が注目されている。養液栽培は天候や病害などによる連作障害を回避できることで、地理的環境等による栽培不適地域における栽培を可能にしたり、装置化・機械化により耕起(土を耕すこと)、除草、土壌消毒などの作業が不要となるため、労働の省力化につながる。また周年栽培が可能になることで、単位面積あたりの生産効率が上がり、栽培される農作物の鮮度の高さを維持した出荷も可能になる。
2021年の国内養液栽培システム市場規模はシステムメーカー出荷金額ベースで、前年比97.5%の92億5,100万円であった。2022年は前年比96.5%の89億2,800万円の見込みである。
2.注目トピック
再生可能エネルギーを活用した施設園芸の必要性
施設園芸生産者にとっては、ランニングコスト削減を図らなければ安定した生産ができない状況にある。特に重油や電気代等のエネルギーコストは、現状価格が高騰しており、施設園芸経営にとって安定的、且つ安価なエネルギー供給は喫緊の課題となっている。
施設園芸生産者が抱える課題を解決するために、再生可能エネルギー(太陽光・工場廃熱・木質バイオマス・温泉熱・地中熱)を利活用した循環型施設園芸の推進が必要となっている。既に木質バイオマスを利用した事例や清掃工場などが排出する廃熱などを施設園芸栽培に活用する取組み事例が増えつつある。
施設園芸をはじめとした農業分野に再生可能エネルギーを普及させるためには、農業資材メーカー、プラントメーカー、生産者などと連携しながら、自治体が主導し再生可能エネルギーを使用した循環型エネルギー供給システムを構築することが重要であるものと考える。
3.将来展望
今後の養液栽培システム市場は、2022年から2023年にかけて、施設園芸生産コスト上昇の影響より前年割れで推移し、2024年以降は微増で推移すると予測する。化学肥料の価格高騰や、2050年までに化学肥料の使用量を30%低減する農林水産省の政策「みどりの食料システム戦略」により、今後も化学肥料を減らす傾向は一段と高まるとみられる。こうしたなか、化学肥料の施肥量を低減する技術として養液栽培システムが注目され、普及拡大すると考える。
一方、今まで市場を牽引していきた固形培地耕栽培は、新規就農者を中心にトマト類などの果菜類を中心に導入を増やしてきたが、参入システムメーカーでは新たな用途開拓として、レタスなどの葉菜類に注力するとみられることから、今後はレタス類などの葉菜類での栽培が増えるとみる。
調査要綱
1.調査期間: 2022年4月~9月 2.調査対象: 施設園芸関連資材メーカー(農業用ハウス、養液栽培システム、複合環境制御装置、施設園芸用ヒートポンプ、植物育成用光源、被覆資材(農業用フィルム)、農業ICT、液体肥料)、関連団体・官公庁等 3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談、電話・e-mail等によるヒアリングおよび文献調査併用 |
<養液栽培システムとは> 養液栽培とは、肥料を水に溶かした液(培養液)によって作物を栽培する栽培法である。養液栽培方式のうち、「水耕」とは培地を使わずに培養液の中や表面で根が育つ栽培方式であり、「固形培地耕」とは、土の替わりとなる様々な培地に作物を定植する栽培方式で、「養液土耕」とは、培地には土を使い、元肥(基肥)を施用せず、灌水と同時に液肥を供給する栽培方法である(出所:NPO法人 日本養液栽培研究会)。 本調査における養液栽培システム市場とは、養液栽培を行うための必要な機器類を含み、いずれの養液栽培方式においても、栽培品目は果菜類、葉菜類、根菜類、花卉類を対象とする。市場規模は養液栽培システムのメーカー出荷金額ベースで算出している。 |
<市場に含まれる商品・サービス> 養液栽培システム |
出典資料について
資料名 | 2022年版 拡大する施設園芸の市場実態と将来展望 |
発刊日 | 2022年09月29日 |
体裁 | A4 556ページ |
価格(税込) | 363,000円 (本体価格 330,000円) |
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