美術品の価格および索引データバンクのArtprice.comが2021/22年度(2021年7月1日〜2022年6月30日)の世界現代美術市場のレポート「The 2022 Ultra Contemporary Art Market Report」を発表した。
今回は「超現代美術(40歳以下のアーティストによる作品)」に焦点を当てながら、現代美術(1945年以降に生まれたアーティスト)市場全体のデータを分析している。そのレポートからいくつか抜粋して紹介。
※記事内の数値・価格はドル(1USD=133円 / 2022年6月月中平均)で計算。前年の数値・価格は2021年6月月中平均110円で計算し、「当時」と表記する。
![Chiffres-cles-2022](https://cdn.the-owner.jp/600/400/QUTAZNaDHDLVgbXlaYRcAggOZZcKRZeR/89b35f77-c048-49b7-9d6c-6d8607f610ef.png)
出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
目次
【現代美術(1945年以降に生まれたアーティスト)】
売上:約27億ドル(前年比−1.1%)
年別:世界の現代美術オークション売上高(単位:10億ドル)
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出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
2021/22年度の世界の現代美術オークション売上高は、約27億ドル(約3591億円)だった。前年の27億3000万ドル(当時約3003億円)に対し、−1.1%とわずかに減少。アート市場全体の売上の18%を占める結果で終了した。
作品数は、1年間で合計11万9400点(2020/21年度は10万2000点)が取引され、前年に比べて12%増、21年前の10倍となった。取引数が増加しているのにも関わらず、売れ残り率は33%に留まり、安定した状態を維持した。
地域別売上:ゼロコロナ政策で中国が減少、好調はアメリカと韓国
この−1.1%の減少は、主に中国の「ゼロコロナ政策」によるもので、中国の現代美術のオークションの売上高は前年に対し−33%と打撃を受けた。仮にゼロコロナ政策がなかった場合、中国の現代美術市場の過去5年間のデータに基づくと、世界の現代美術市場は+9%成長したことになるという。
国別:現代美術オークション売上高(2021年7月1日~2022年6月30日)(単位:10億ドル)
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出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
躍進したのは、アメリカと韓国。アメリカの中でも特にニューヨークは、ニューヨークだけで世界の現代美術オークション売上高の38%を記録し、前年比で20%増加した。日本(約6525万ドル/約86億8000万円)と僅差につけた韓国は、売上約6555万ドル(約87億2000万円)、+344%増加という目覚ましい上昇を見せた。これはヨーロッパを牽引するフランスの売上(6800万ドル/約90億4400万円)に迫る勢いである。
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Artpticeを元に作成
出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
NFT売上:6000万ドル(前年比−46%)
NFT元年と呼ばれた2021年から2年目を迎えたNFTのセカンダリー市場は、売上約6000万ドル(約79億8000万円)を記録。前年の1億1,050万ドル(当時約122億円)に対し、約−46%と大幅に縮小した。
2021年上半期に出品されたNFTは平均価格約52万ドル(当時約5720万円)、落札率も86%と高い記録を残したのに対し、2022年上半期にオークションに出品された277点のNFTのうち、65%が平均落札価格4万7,000ドル(約625万円)に止まった。
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Artpriceは、NFT市場が一旦落ち着きを取り戻すのは自然な流れだと見ている。2022年の不振の主な原因は暗号通貨のボラティリティ(価格の変動性)が高いところにあるとし、特にイーサは年初から価値が半減したことから、コレクターたちは慎重を期していると分析した。
現代美術アーティストTOP20
2021/22年度の現代美術オークション売上トップ3のアーティストは、ジャン=ミシェル・バスキア(約356億5000万円)、バンクシー(約170億円)、奈良美智(約141億5000万円)が飾った。他の日本人アーティストは14位にロッカクアヤコ(約39億5000万円)、29位に村上隆(約1億6944万ドル/約22億5300万円)がランクインした。
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Artprice「現代美術オークション売上トップ50アーティスト(2021年7月1日~2022年6月30日)」から上位20を抜粋して作成
出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
【超現代美術(40歳以下のアーティスト)】
売上:約4億1900万ドル(前年比+28%)
2021/22年度の超現代美術の作品の売り上げは、約4億1900万ドル(約557億円)、前年比+28%だった。現代美術市場の15.5%を超現代美術が占め、これは世界のファインアートのオークション売上全体の2.7%に相当する。
一年間で9640点の超現代美術の作品が販売され、オークションに出品されたのは20年前の543点から約5倍の2670点、取引件数は約7倍に増加した。
また、40歳以下のアーティストによる2022年の上半期の総売上高が約2億90万ドル(約267億円)にのぼり、過去最高を記録した。Artpriceは、この年齢層のアーティストがこれほどまでに求められていることは、かつてなかったことだと伝えている。
40歳以下のアーティスト:2000年以降のオークション総売上高(青:上半期、赤:下半期)(単位:100万ドル)
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出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
オークション落札価格TOP5作品
なぜ、超現代美術がこのように急激に伸びているのかは、全体的な需要の増加はもちろん、一部の若いアーティストが高値をつけていることが大きい。オークションで最も高い評価を受けた(高値がついた)20人の40歳以下のアーティストは、超現代美術のなかの出品点数のわずか20%を占めるだけで、超現代美術全体の売上高の70%を生み出した。つまり、過去最高を記録した2022年上半期売上約2億90万ドル(約267億円)のうち、約1億4000万ドル(約186億円)を占めたことになる。
2022年上半期で40歳以下のアーティストの落札価格の上位2作品を占めたのは、1984年カナダ生まれ、2019年に35歳の若さで亡くなったマシュー・ウォンだった。
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Artpticeを元に作成
出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
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1位の作品 / マシュー・ウォン《The Night Watcher》(2018) (当時約6億5000万円で落札)
出典:https://www.sothebys.com/
急成長続く注目の「香港」
昨年、香港は現代美術の分野においてニューヨークに次ぐ世界で2番目の市場となり、サザビーズ、クリスティーズ、フィリップスの香港支店も急成長の最中にある。
クリスティーズは超現代美術の売上高の30%(2022年上半期1630万ドル)、サザビーズは18%(1110万ドル)を香港で創出。フィリップスにおいては48%と、超現代美術部門のほぼ半分を香港で売り上げた。Artpriceは超現代美術作品の販売において、世界をリードするロンドンやニューヨークより香港の方が良い結果を残すという、3〜4年前には想像もできなかった逆転現象が起きていると特筆した。特にフィリップス香港が叩き出した売上1530万ドルは、2019年上半期の超現代美術の売上高の15倍という並外れた成長である。
クリスティーズ香港(1630万ドル) vs. クリスティーズロンドン(1270万ドル)
フィリップス香港(1530万ドル)vs フィリップスニューヨーク(1330万ドル)
オークションハウス地域別:超現代美術売上(NFT含む)(2022年上半期)
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Artpticeを元に作成
出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
香港では、スイス人のニコラス・パーティー、パキスタン人のサルマン・トゥール、ガーナ人のアモアコ・ボアフォなどアジア人以外のアーティストが香港で記録を生み出し、アメリカ人のロイ・ホロウェルやイギリス人のミスター・ドゥードゥルは、オークション総額の半分以上を香港の売上で占めている。
これは、「新世代アーティスト」は香港ではなく、ニューヨークやロンドンで価格を確立してきた従来の流れが変化しているということだ。今後、香港の超現代美術市場は欧米に匹敵する存在として高い注目が集まる。
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Artprice「40歳以下のアーティスト売上トップ20(2022年上半期/NFT含む)から上位15を抜粋して作成
出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
女性アーティストが躍進!
新世代の女性アーティストの才能や活躍にスポットライトを当てる大手オークションハウスの販促は意図的な戦略にもなっている。2022年上半期、40歳以下のアーティストオークション売上高トップ10に7人の女性アーティスト(表ハイライト部分)が名を連ね、コレクターたちは以前よりも、有望な新進気鋭の「レッド・チップアーティスト」の作品に積極的な入札を行うようになった。
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Artpticeを元に作成
出典:https://www.artprice.com/artprice-reports/the-contemporary-art-market-report-2022
2位:ロッカクアヤコ
日本人アーティストのロッカクアヤコ(1982-)が2位にランクイン。Artpriceは、既に一定オークション出品歴もあり、アジアを中心に高い人気を誇るロッカクアヤコが2位に入るのは驚くことではないと述べている。2022年7月15〜16日に開催されたSBIアートオーションにて、《Untitled》が約1億8,400万円で落札されオークションレコードを更新した。
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ロッカクアヤコ《Untitled》(2017)
出典:https://www.artprice.com/
3位:フローラ・ユクノヴィッチ
3位のフローラ・ユクノヴィッチ(イギリス/1990-)は、2021年1月にロンドンのヴィクトリア・ミロ・ギャラリーに所属後、同年10月のサザビーズで8万ドル〜11万ドルの予想落札価格に対し、約308万ドルで落札。2022年3月には、それを上回る約360万ドル(当時約4億1400万円)で《Warm, Wet ‘N’ Wild》が落札された。
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フローラ・ユクノヴィッチ《Warm, Wet ‘N’ Wild》(2020)
出典:https://www.sothebys.com/
5位:エイヴリー・シンガー
5位のエイヴリー・シンガー(アメリカ/1987-)は当時30歳だった2017年に、キャンバス作品が3万6000ドルで落札されてオークションデビュー。翌年には約73万5000ドル、2021年に約300万ドル、2022年5月には《Happening》が525万3000ドル(約6億6700万円)で落札され、シンガーのオークションレコードを更新した。
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エイヴリー・シンガー《Happening》(2014)
出典:https://www.sothebys.com/
【まとめ】
Artpriceはまとめとして、超現代美術の成長は、アメリカ、イギリス、中国(香港)のみならず世界的に広がっているとし、なかでも日本、韓国、フランスに言及した。
日本の2021/22年度の超現代美術のオークションの売上高は、前年と販売ロット数はあまり変わらないにも関わらず55%増加した。取引件数が伸びない状況で価格水準が上がったのは、入札者の競争心が反映された結果、つまり需要の高さを表している。韓国は、2022年上半期の超現代美術の売上高が617%増(約710万ドル/約9億4430万円)と驚くべき結果を残し、世界で5番目に重要な市場へと成長した。
フランスは、2022年上半期の超現代美術の売上高は320万ドル(約4億2560万円)、前年比94%増の結果だった。この傾向は、アメリカやイギリスのように国内の新しい世代アーティストに基づく結果ではなく、アブディア・アブドゥバイ・デアソラバ(アメリカ/コートジボワール)、エディ・カムアンガ・イルンガ(コンゴ民主共和国)、ロッカクアヤコ(日本)などの海外のアーティストによって収めた結果だった。
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文:ANDART編集部