かつて、空飛ぶ車はSFの世界で描かれた夢物語だった。しかし2022年時点、世界中で空飛ぶ車の研究が進み実証実験も行われている。本記事では、現段階での実用化における問題点や実用化した場合のメリット・デメリット、日本の取り組み状況をまとめた。あわせて世界と日本における空飛ぶ車のプロジェクトや開発企業も紹介する。

2025年の関西万博での実現化など空飛ぶ車の開発は、さらに進展を見せている。特に注目されているのが、トヨタをはじめとするメーカーによる取り組みや購入価格だ。本記事では、空飛ぶ車の仕組みや2024年時点での日本での取組状況・現在の購入価格、空飛ぶ車とヘリコプターの違いや、いつ公道を飛べるようになるのかといった疑問について触れていく。

目次

  1. 空飛ぶ車とは
    1. 空飛ぶ車の仕組み・種類
    2. ヘリコプターや飛行機との違い
  2. 空飛ぶ車の最新情報
    1. 世界では2024年パリオリンピックで商用運航開始
    2. 日本では2025年の大阪万博が初の商用運航となる見込み
    3. 被災地支援目的の開発も
  3. 空飛ぶ車の市場予測と価格
  4. 空飛ぶ車実用化への課題
    1. 技術的課題
    2. 法整備
    3. インフラ整備
    4. 研究開発支援
    5. 社会的受容性
  5. 空飛ぶ車実現のメリット
    1. 都市部の渋滞や環境負荷の低減
    2. 過疎地域や離島への輸送手段・交通手段の確保
    3. 航行距離や所要時間を短縮
    4. 緊急車両・救急医療への活用(フライトドクター)
    5. 新たな観光資源化
  6. 空飛ぶ車が実現したときに考えられるデメリット
    1. 安全性への懸念
    2. 騒音問題
    3. 操作性の問題
  7. 空飛ぶ車実用化へ向けた日本政府のロードマップ
    1. 自治体の取り組み
  8. 海外における空飛ぶ車のプロジェクトや開発企業
    1. アウディらがエアタクシーの試験運用に着手
    2. Uber AIR
    3. Volante Vision Concept:アストンマーティン社製 SF映画のようなデザイン
    4. EHang:中国国内で商用パイロット取得 実用化へ大きく前進
    5. Bell Helicopter(ヤマトホールディングス株式会社や住友商事株式会社とパートナーシップ)
  9. 国内における空飛ぶ車のプロジェクトや開発企業
    1. トヨタ自動車株式会社
    2. CARTIVATOR(カーティベーター)&株式会社SkyDrive
    3. テトラ・アビエーション株式会社
  10. 空飛ぶ車の開発における日本の巻き返しに注目
  11. 空飛ぶ車に関するQ&A
    1. Q.空飛ぶ車の特徴は?
    2. Q.空飛ぶ車の意義は?
    3. Q.空飛ぶクルマの課題は?
    4. Q.空飛ぶ車の分類は?
    5. Q.空飛ぶ車の実用化はいつ?
    6. Q.空飛ぶ車の高度は?
    7. Q.空飛ぶ車のメーカーは?
空飛ぶ車の仕組みや実用化への課題・メリット・デメリット・最新情報を徹底解説
(画像=3Dmotion/stock.adobe.com)

空飛ぶ車とは

経済産業省が公表している「“空飛ぶクルマ”の実現のための航空機電動化技術」によると空飛ぶ車の定義は、「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」としている。簡単にいえば電動かつ滑走路なしで垂直離着陸でき自動運転可能な特徴を持つ航空機のことを指す。これらは、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)技術をベースとしている。

基本的に空と陸の両方で運転できる航空機を空飛ぶ車と呼ぶ。しかしなかには、陸路の走行はできないタイプのeVTOLも開発されている。垂直で離着陸できるため、道路がなくても離発着できる広場があれば十分だ。都市部では、空飛ぶ車により渋滞や環境負荷の問題が軽減でき、過疎地域や離島では現在よりもきめ細やかな輸送や交通手段として期待できる。

空飛ぶ車の仕組み・種類

空飛ぶ車は、ドローンを大きくしたようなプロペラタイプか、翼を持つタイプに大別できる。各タイプの特徴は以下の通りだ。

  • プロペラタイプ
    大型のドローンで人間が乗車できる。電動で簡単に操作でき、タイヤを搭載して道路の走行も可能とするタイプだ。プロペラやタイヤの位置・格納方法などにはさまざまなバリエーションがある。

  • 翼を持つタイプ
    地上を走行する際は、翼を格納して走行の邪魔にならないようにできる。イメージとしては、翼を格納できるセスナ機のようなタイプだ。

ヘリコプターや飛行機との違い

空飛ぶ車は、ヘリコプターと比較していくつかの革新的なメリットを有している。これらの特徴を「電動」「自動操縦」「垂直離着陸」の3点に焦点を当てながらメリットを見ていこう。

  • 1.電動
    「電動」の面では、ヘリコプターがジェット燃料を用いるのに対し、空飛ぶ車は電池で駆動する。これにより、騒音が大幅に低減し環境への配慮も可能になる。また整備費用の削減も期待でき、運用コストが大幅に下がることは間違いない。

  • 2.自動操縦
    現在では、空飛ぶ車はパイロットによる操縦が欠かせない。しかし将来的には、完全自動での操縦が実現される見込みだ。パイロット不要で運航できるようになれば人件費の削減につながり、利用者側にとっては、運賃が安価になるというメリットを享受できる可能性が高い。

  • 3.垂直離着陸
    空飛ぶ車は「垂直離着陸」という特徴があり、滑走路が不要だ。そのため飛行機よりも少ないスペースでの離着陸が可能。都市部や離島、山間部などの限定されたスペースでも活用できる。山間部や都会など、離着陸のためのスペースが確保しにくい場所でも運航できる柔軟な移動手段としての価値が高まる見込みだ。

これらのメリットを背景に国土交通省は、都市部の送迎サービス、離島や山間部での移動手段、観光客輸送、災害時の救急搬送など多様な用途への応用を期待している。

空飛ぶ車の最新情報

2024年に入ってから空飛ぶ車関連の最新情報が増えている。ここでは、空飛ぶ車の最新情報をまとめて紹介していく。

世界では2024年パリオリンピックで商用運航開始

2024年には、パリで五輪が開催される。そのタイミングに向けて空飛ぶ車の商用運航が開始される予定だ。Volocopter(ドイツ)とJoby Aviation(アメリカ)が手がけるこのプロジェクトでは、持続可能な電動垂直離着陸機(eVTOL)を使用し、パリ市内での空中交通サービスを提供するという。

この空中交通サービスでは、パリの5空港で離発着し、接続ルート(3パターン)と観光用の往復ルート(2パターン)を用意する。このサービスが実現するとパリは、欧州初の電動垂直離着陸機サービスを提供する都市となる。もちろん、このサービスはパリ地方の公共交通システムに追加され、一般市民も利用可能だ。

日本では2025年の大阪万博が初の商用運航となる見込み

一方、日本では2025年の大阪・関西万博に向けて空飛ぶ車の商用運航が現実味を帯びている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、安全な運航管理システムの開発を推進しており、Volocopterが製造した試験機「2X(ツーエックス)」(2人乗り)による飛行実験が成功した。

この飛行実験では、電池とモーターでプロペラを駆動させ、離着陸にかかった時間や外部との交信状況などのデータを収集した。またJoby Aviationは、トヨタ自動車が3億9,400万米ドルを出資しているが、大阪万博で空飛ぶ車を運航予定のANAホールディングスは、Joby Aviationの機体を使用するという。

さらに兵庫県は、万博会場(夢洲)と尼崎市南部の「フェニックス事業用地」を結ぶルートが候補に選ばれたと発表している。これらの取り組みは、空飛ぶ車の商用運航が現実のものとなるための一歩となるだろう。

被災地支援目的の開発も

2024年元日に発生した能登半島地震は、石川県能登地方で最大震度7を記録し、被災地では厳しい避難生活が続いている。残念ながら2024年1月時点で、すぐに運用できる空飛ぶ車は日本に存在しない。しかしこのような状況にも対応できる空飛ぶ車の開発を進めるベンチャー企業がスカイリンクテクノロジーズだ。

スカイリンクテクノロジーズは、VTOLの開発を行っている航空系ベンチャーである。2019年9月に経済産業省から空飛ぶクルマ開発のベンチャー企業としては初となる「航空機、無人航空機の製造事業許可」を得た。また2022年6月には経済産業省の「成長型中小企業等研究開発支援事業」に採択されてもいる。

スカイリンクテクノロジーズの開発する空飛ぶ車は、被災地での物資輸送や救助活動など、さまざまな場面での活用が期待されている。特に道路が寸断されたり、陸路が困難であったりする場合でも空から迅速にアクセスできるため、災害時の救援活動に大きな貢献が期待できる。スカイリンクテクノロジーズの取り組みは、技術の進歩だけでなく社会への貢献にもつながる重要な一歩ともいえるだろう。

空飛ぶ車の市場予測と価格

空飛ぶ車の研究開発に携わる組織は世界で100以上あり、激しい開発競争が繰り広げられている。矢野経済研究所の調査では、空飛ぶ車の市場規模は、2050年に約180兆円に達するという。同レポートによると2025年前後には、空飛ぶ車の事業が世界的にスタートしていく見込みで2025年の空飛ぶクルマ世界市場規模(メーカー販売金額ベース)は約608億円になると予測している。

2040年時点での最大市場は中国。世界の自動車業界の業界規模は、2020~2021年で57兆22億円だった。

自動車業界と比較してもかなり大きな市場規模になることが予測されている。空飛ぶ車の車体価格は、まだ開発途上という状況もあり高価だ。例えば2021年10月26日、日本のスタートアップ企業「株式会社A.L.I.Technologies」が空飛ぶホバーバイク「XTURISMO」を7,770万円(税込み)で2022年に売り出すと発表した。

XTURISMOは、エンジンと電動モーターの両方を搭載し、1回の充電で航続時間は最大40分だという。一般向けモデルは2025年に発売予定だが手が届く価格となるには、技術向上や量産化による低価格化を待つ必要がある。

空飛ぶ車実用化への課題

空飛ぶ車を実用化するにあたっては、技術的課題や法整備など、解決するべきいくつかの課題も多い。現在多く言及されている空飛ぶ車実用化への5つの課題を解説する。

技術的課題

空飛ぶ車の技術的課題は、安全性とエネルギーの2つだ。空飛ぶ車は、ドローンや自動運転車よりもさらに高い安全性が求められる。電動化が前提となるため、バッテリー切れの場合でも安全に着陸する機能なども必要だ。エネルギー面では、より少ない電力で多く稼働できるようにバッテリーの高容量化・軽量化が求められる。もちろん本体のさらなる軽量化も必要だ。

法整備

2022年現在の法体系で空飛ぶ車は、航空法の管轄となる可能性が高い。航空法では、機体に対し安全性や信頼性を確保するため、耐空証明が求められる。しかし現在の航空法が対象とする航空機やヘリコプターは、非常に高いレベルの安全性の確保が必要だ。そのため空飛ぶ車にも航空機やヘリコプターと同じレベルで耐空証明が求められると空飛ぶ車の研究開発に大きな重しとなりかねない。

例えば安全性を確保しつつ規制を適正レベルに調整するなどの法整備が必要となるだろう。さらに空飛ぶ車は、飛行機よりも低空飛行となるため、地上権の問題が発生するなど現行の航空法ではカバーしきれない問題が出てくる可能性もある。他国の動向を常にウォッチしつつ日本で快適・安全に空飛ぶ車を運用できる法律を整えていくことが必要だ。

インフラ整備

空飛ぶ車には、従来の乗り物と異なるタイプのインフラ整備が必要だ。例えば離発着時に必要となる離発着場やバッテリーを充電するための設備は、最低限整備が求められる。特に充電設備は、1回の飛行ごとに必要となるため、多くの設置が求められる設備だ。現状では、航空機の安全性を確保する航空管制塔が運用されている。

しかし空飛ぶ車は、従来の航空機などに比べて数が多いため、管制塔の運用では間に合わない。そのため空飛ぶ車には、管制塔に代わる自律的な制御による安全性確保のシステムが必要となる。空飛ぶ車用の安全性確保システムとしては、各機体に障害物や地上の情報を送受信するセンサーを搭載し、AIなどを使って自律制御するITシステムなどが考えられる。

研究開発支援

新しい技術の集合体となる空飛ぶ車の開発には、数百億円規模の研究開発費が必要だ。研究開発を支援するためにさまざまな形で資金調達する手段を用意しなければ開発はなかなか進まないだろう。民間での投資・出資だけでなく公的な研究開発支援の制度を整えるなど、よりスピーディな研究開発が進められるよう、国を挙げての支援体制が求められる。

社会的受容性

世間では、従来見られない新しい技術が導入されると反発する人も少なくない。そのため空飛ぶ車に対しても「バッテリーが切れると落下しないのか」「空中で衝突しないのか」といった心配をする人もいるだろう。

こういった不安を解消するためにも実証実験を通じて安全性をどのように高めているかを周知することは大切だ。どういう面でメリットがあるかを丁寧に何度も発信していく必要がある。

空飛ぶ車実現のメリット

空飛ぶ車は、さまざまな方面での活躍が期待されている。空飛ぶ車を実現することで得られる主な5つのメリットを活躍が期待される場面とともに解説していく。

都市部の渋滞や環境負荷の低減

現代社会は、インターネット通販が主流となり宅配便の取り扱いが飛躍的に増加している。そのため都市部の道路は、渋滞しがちだ。渋滞が起これば大気汚染の問題や二酸化炭素排出による環境負荷も発生する。そこで空飛ぶ車を交通量の多い都市部で活用すれば、渋滞や環境負荷の問題の解消が期待できるだろう。

空飛ぶ車は、道路にとらわれず立体的な移動ができるため、交通量の多い都市部でも渋滞に巻き込まれることなく高速移動が可能だ。道路が空いていれば陸路を移動し、混みそうなら空路を選ぶこともできるようになる。

過疎地域や離島への輸送手段・交通手段の確保

過疎地域や離島への輸送・交通手段として陸路を選ぶ場合、どうしても輸送コストがかかる。離島地域のみ運送料がかかるケースも多く、公共交通機関の本数も少なく不便だ。また新たに過疎地域への陸路を開拓する場合、道路や橋などが必要になるがその建設費用は莫大になってしまう。しかし空飛ぶ車なら地形に関係なく移動できるため、費用をかけずに過疎地域や離島への輸送・交通手段を提供できる。

少人数での移動もしやすくなるため、住民や観光客の需要にもよりきめ細かく対応できる点もメリットのだ。

航行距離や所要時間を短縮

陸路で移動する場合、電車やバスの乗り継ぎなど移動距離や所要時間がかかる。山間部など地形の影響を受けて蛇行して移動せざるを得ないコースもあるだろう。しかし空飛ぶ車であれば点と点を結ぶ形で移動できるため、航行距離や所要時間を短縮でき、よりスピーディで快適な移動が実現できる。

緊急車両・救急医療への活用(フライトドクター)

空飛ぶ車は、緊急車両や救急医療方面での活躍も期待できる。都市部での交通事故などでは、どうしても渋滞が発生し救急車両の到着も遅れがちだ。空飛ぶ車を救急車両として活用すれば事故発生から到着までの時間を大幅に短縮できる。海難事故や山岳遭難救助の場面でも空飛ぶ車が活躍できる場面は多々あるだろう。

また大規模災害発生の場合、道路が破壊、遮断されるケースも少なくない。しかし空飛ぶ車を活用すれば地上の状況に左右されるような場所でも、より迅速に目的地まで行き被害状況の調査や救急活動・支援物資運搬などが期待できる。

新たな観光資源化

2022年時点でも小型飛行機やヘリコプターを使った観光は見られるが、空飛ぶ車が導入されれば、より一層手軽に空の移動を楽しめるようになる。船上からの夜景観光も空から眺められれば、また違った感動が味わえるだろう。空からなら従来とは違った角度で絶景を楽しんだり、優雅な移動を味わったりできるため、新たな観光資源としても期待できる。

空飛ぶ車が実現したときに考えられるデメリット

メリットの多い空飛ぶ車だが、実現後に考えられるデメリットもある。以降では、空飛ぶ車の3つのデメリットについて解説していく。

安全性への懸念

まずは、法律や体制の未整備による安全性への懸念である。空飛ぶ車を安全に運用するためには、早急な法整備や体制構築が必要だ。しかし日本は、最新技術に対応した法整備や体制構築に多大な時間がかかりがちである。そのため空飛ぶ車の技術が確立したタイミングでは、安全性を確保できるだけの体制が整わず導入が遅れることも予想されるだろう。

騒音問題

空飛ぶ車は、大気汚染や二酸化炭素排出量の面で従来の車や航空機に比べて優れている。しかし2022年時点で開発されている空飛ぶ車は、かなり音が大きく空の交通量が増えると騒音問題も発生しかねない。空飛ぶ車が多く飛行する都市部では、より静かに運行できる機体の開発が求められる。

操作性の問題

空飛ぶ車の操作性は、現在の自動車に比べて難易度が高い。少なくとも現在の自動車並みの難易度で運転でき一般人でも手軽に操作できるようにならなければ、なかなか一般に普及しないと思われる。運転しやすくするには、自動運転技術のさらなる向上など技術的なブレイクスルーが必要だ。

空飛ぶ車実用化へ向けた日本政府のロードマップ

日本は、空飛ぶ車の研究開発で数年遅れている状況だ。しかし2018年には、官民協議会「空の移動革命に向けた官民協議会」が設立され官民を挙げて空の移動革命に取り組む体制は整備された。官民協議会のメンバーは、国土交通省と経済産業省、大学関係者などの専門家、日本航空やBoeing Japanなど民間の航空関連企業、空飛ぶ車の開発を手がける株式会社SkyDriveなどの企業で構成される。

国が制定した「空の移動革命に向けたロードマップ」では、2019年より試験飛行・実証実験を実施する計画だ。実証結果や事業者の提案するビジネスモデルを参考に各種制度や体制を整備する。2020年半ばより2023年にかけて事業をスタートするとともに、モノの移動から実用化を目指す予定だ。2030年代には、実用化の拡大を予定している。

自治体の取り組み

空飛ぶ車の研究開発や実証実験に力を入れている自治体も少なくない。例えば福島県では、2020年3月、南相馬市に空飛ぶ車などの開発拠点として「福島ロボットテストフィールド」を開所した。敷地内には、空飛ぶ車の試験飛行に必要なヘリポートなどの設備が整えられている。愛知県も空飛ぶ車やドローンの実証実験の支援に力を入れており、支援実績は60社400回以上だという。

愛知県豊田市は、2019年5月に空飛ぶ車を開発する株式会社SkyDriveと開発に関する連携協定を締結した。また大阪府は、2025年の大阪・関西万博で空飛ぶ車を飛行させる計画を立てている。その他にも都市よりも豊かな地方を目指す三重県や自動運転技術などの支援に熱心な東京都も空飛ぶ車の研究開発などに熱心な自治体だ。

海外における空飛ぶ車のプロジェクトや開発企業

海外における空飛ぶ車の研究開発は、どのような状況だろうか。ここでは、海外における空飛ぶ車の代表的なプロジェクトや開発企業を紹介する。

アウディらがエアタクシーの試験運用に着手

2018年6月、ドイツの大手自動車メーカー「アウディ」は、エアタクシーの試験運用に向けたプロジェクトを発表した。民間企業だけでなく、ドイツ政府やフランスの航空宇宙機器開発製造会社「エアバス」も協力し、ドイツのインゴルシュタット地域で試験運用を開始するとした。

2018年11月、アウディはドローンEV自動運転コンセプトカー「Pop.Up Next(ポップ・アップ・ネクスト)」のプロトタイプを初公開した。このプロトタイプは、空路・陸路両方の運行が可能な空飛ぶ車の基本機能を備えている。

Uber AIR

ライドシェアやフードデリバリーで有名な米国のUber社も空飛ぶタクシー「Uber AIR」の実現を目指して開発を進めている。2017年には、NASA(米国航空宇宙局)と提携し、低空飛行で高い安全性を保つ車両を開発。2018年5月には、垂直離陸が可能で時速約240~320キロメートル、最高飛行高度約600メートルまで可能な4人乗りのコンセプト機を発表している。

Uber AIRは、2023年にも空飛ぶタクシーをローンチする予定だ。

Volante Vision Concept:アストンマーティン社製 SF映画のようなデザイン

英国の高級スポーツ車メーカー「アストンマーティン」は、2018年7月にSF映画のようなデザインの車体が魅力的な「Volante Vision Concept(ヴォランテ・ビジョン・コンセプト)」を発表。アストンマーティンは、高級自動車メーカー・ロールスロイスや英クランフィールド大学などと提携し高級モビリティソリューションとしてヴォランテのコンセプト機を開発した。

ヴォランテは、垂直離着陸が可能で3人まで乗車できる機能性とデザイン性の高い外観が大きな特徴だ。

EHang:中国国内で商用パイロット取得 実用化へ大きく前進

中国では、空飛ぶ車を開発している「EHang(イーハン)」が研究開発から実用化へ大きく前進している。EHangの開発した「EHang AAV」は、1回の充電で最高時速約130キロメートル、約30キロメートルもの距離を移動できる。2020年5月には、eVTOL(空飛ぶ車)の商用パイロット運用の許可を取得し実用化へ大きく駒を進めた。

またEHangは、航空ロジスティクスサービスの試験運用にも着手している。

Bell Helicopter(ヤマトホールディングス株式会社や住友商事株式会社とパートナーシップ)

米国の大手ヘリコプター会社「Bell Helicopter」は、日本勢とも関係の深い空飛ぶ車の開発企業だ。2019年には、eVTOL「Bell Nexus」を発表している。日本のヤマトホールディングス株式会社(2018年)や住友商事株式会社(2019年)ともパートナーシップを締結し、2020年代半ばまでの実用化を目指す。

ヤマトホールディングス株式会社とは、物流に関するノウハウを活かした空の物流分野で、住友商事株式会社とは無人ドローンや空飛ぶタクシーを活用した新規サービスを開拓し実用化する予定だ。

国内における空飛ぶ車のプロジェクトや開発企業

日本国内でも空飛ぶ車のプロジェクトや開発企業が増加中だ。ここでは、国内における空飛ぶ車のプロジェクトや開発企業を紹介する。

トヨタ自動車株式会社

日本の最大手自動車メーカー「トヨタ自動車株式会社」も空飛ぶ車の分野へ本格参入している。2020年1月には、空飛ぶタクシーを開発する米国のJoby Aviationに3億9,400万米ドル(当時のレート1米ドル109円換算で約430億円)を出資すると発表した。Joby Aviationには、トヨタの生産技術や電動化のノウハウを供与している。

トヨタの技術供与により高品質かつ低コストの空飛ぶ車を開発し車体の量産体制を目指す。

CARTIVATOR(カーティベーター)&株式会社SkyDrive

CARTIVATORは、自動車業界・航空業界およびスタートアップ企業などの若手メンバーを中心とした業務外の有志団体だ。エンジニアやデザイナーを中心としたメンバーによって空飛ぶ車の研究開発や事業活動を進めている。本団体は、2019年より東京海上日動火災保険など多くの企業からスポンサー契約を取り付けた。

すでにCARTIVATORでは、試作機も制作している。試作機のサイズは、世界最小レベルで全長3.6メートル、走行時の全幅1.7メートル、全高1.1メートルだ。株式会社SkyDriveは、2018年7月設立の会社でCARTIVATORの活動と並行して事業活動を進めている。株式会社SkyDriveは、2050年までにインフラ不要の自由な移動を実現し誰もがいつでも空飛ぶ車で移動できる時代を目指している。

目標達成のため、滑走路や道路を必要としない垂直離発着型でコンパクトな空飛ぶ車の開発を進めている。また株式会社SkyDriveは、国土交通省に「空飛ぶ車の型式証明」を申請し2021年10月に日本で初めて受理された。2022年3月には、審査適用基準方針について国土交通省と合意し、事業を開始する予定の2025年までに最終的な型式証明取得を目指す。

テトラ・アビエーション株式会社

「テトラ・アビエーション株式会社」は、2018年6月東京大学より誕生したスタートアップ企業だ。航空力学やデザイン、ソフトウェアなどさまざまな専門分野のメンバーが集まり、東京大学や民間企業の援助を受けつつ開発を進めている。テトラ・アビエーション株式会社の開発した「teTra」は、1人乗りの空飛ぶ車で世界大会「GoFly」の設計段階(2018年6月)で世界の「Disruptor Award」を受賞。

このとき賞金を獲得した日本チームは、テトラ・アビエーション株式会社だけだったという。さらに2019年3月には、フェーズ2も通過。最終選考に進み2020年2月の最終飛行審査では、プラット・アンド・ホイットニー・ディスラプター賞を獲得した。他の各賞は、受賞チームが出なかったため、テトラ・アビエーション株式会社は唯一の受賞チームとなる快挙を成し遂げた。

2020年8月には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)その共同研究も開始している。

空飛ぶ車の開発における日本の巻き返しに注目

空飛ぶ車は「電動化」「垂直離発着可能」「無操縦者(自動運転)」の特徴を持つ航空機のことでeVTOL(電動型垂直離着陸機)とも呼ばれる。2025年には、空飛ぶ車は大阪万博での展示や飛行が期待されており、実用段階に入っている。空飛ぶ車の研究開発に後手を踏んでいた日本も2022年現在では、官民一体となって空飛ぶ車の実用化を目指している。

2023年に空飛ぶ車を使った事業がどれだけ開始されるか、これまでの遅れをどこまで巻き返せるかに注目しつつ最新動向をチェックしていきたい。

空飛ぶ車に関するQ&A

Q.空飛ぶ車の特徴は?

A.空飛ぶ車の特徴は「電動化」「垂直離発着可能」「無操縦者(自動運転)」の3つ。空と陸の両方で運転できるものを「空飛ぶ車」と呼ぶ。しかしなかには、地上での走行はできないタイプもある。空飛ぶ車は、航空機やヘリコプターよりも少ない部品でメンテナンスや操作も簡単、操縦士不要のため整備や運航の費用も安く抑えられる点なども特徴に挙げられる。

Q.空飛ぶ車の意義は?

A.代表的な空飛ぶ車の意義は、都市部の渋滞・環境負荷解消や過疎地域や離島の物流・交通手段の確保だ。その他大規模災害の救助活動支援や救急医療・より多量となる物流への対応にも役立つと考えられている。

Q.空飛ぶクルマの課題は?

A.最も大きな課題は、技術面・法律面での安全性確保。また騒音問題や社会の受容性などの問題もある。安全性確保と騒音問題では、今後技術のさらなる進歩が必要だ。また新しい技術に対する反発や不安も予想される課題である。空飛ぶ車に対する社会の受容性を高めるため、実証実験の結果公開や空飛ぶ車の社会的役割についての定期的なアナウンスが必要となるだろう。

Q.空飛ぶ車の分類は?

A.空飛ぶ車は、大きく「ドローンを大きくしたプロペラタイプ」「飛行機のように翼を持つタイプ」の2つに分けられる。

  • プロペラタイプ:垂直離発着のため4対以上のプロペラを持つものが多い
  • 翼を持つタイプ:地上走行時に邪魔にならないよう翼を格納できる機能を備えているケースが多い

Q.空飛ぶ車の実用化はいつ?

A.日本では、2023年より空飛ぶ車を活用したビジネスを展開できるように、国が「空の移動革命に向けたロードマップ」を策定している。2022年時点は、さまざまな実証実験を進めつつ官民で協議をしながら法整備・体制構築など実現に必要な諸問題に対応している状況だ。まずは、モノの輸送からスタートし有人移動の分野にも空飛ぶ車を導入する予定である。

Q.空飛ぶ車の高度は?

A.空飛ぶ車の試験飛行ガイドラインでは、巡航時における最低安全高度は原則150メートルと定められている。Uber AIRのように最高飛行高度が600メートルまで可能な機種もあるが、基本的に航空機やヘリコプターよりは低高度での飛行となるのが特徴だ。

Q.空飛ぶ車のメーカーは?

A.日本国内では、以下のような企業が空飛ぶ車を開発している。

  • 株式会社SkyDrive(愛知県豊田市と連携)
  • テトラ・アビエーション株式会社(東京大学発のベンチャー企業)
  • 株式会社SUBARU(大手自動車メーカー)
  • 株式会社デンソー(大手自動車部品メーカー)など

海外では、以下のような企業が挙げられる。

  • アストンマーティン(英国の高級スポーツ車メーカー)
  • Uber社(米国のライドシェア大手)
  • アウディ(ドイツ大手自動車メーカー)
  • エアバス社(ヨーロッパの大手航空・宇宙企業) など
文・藤森 みすず
食品衛生管理者、情報処理のアプリケーションエンジニア。21年ほどメーカー系SIerにてプログラマー、システムエンジニアを経験。退職後、Webライターとして様々な分野の執筆を行う。一時期、飲食業開業について学んだことがあり、起業関連の情報にも精通。FXなど投資関連も得意とする。

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