矢野経済研究所
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第210回国会の所信表明演説、岸田首相は「原発の再稼働と次世代原発の開発・建設の議論を加速させる」と明言した。今夏、政府は7年ぶりに企業と家庭に対して節電要請を発した。円安、資源高、そして、長期化するロシアの軍事侵攻の中、電力の安定供給に不安は残る。
とは言え、電力供給の安定化に向けてなすべき施策は “東日本大震災” が提示してくれたはずだ。2011年7月、国土交通省は電力供給の安定に向けて、地域間連系線の増強、周波数変換所の増設、自立分散型ネットワークの必要性を指摘している。そして、そこから11年、政府の検討会では未だにこれらが “検討課題” のままである※1。

なぜ提言は実現していないのか。もちろん、安全基準の強化は前提であろうが、そもそも行政や産業界の中に “電力行政の根幹は変わらないだろう” との暗黙の前提があったのだろう。原子力に関する政策判断が中途半端なまま、結果、電力供給の脆弱性は変わらず、かつ、洋上風力、水素、電池など日本が優位とされた技術領域における国際競争力は相対的に低下した。とりわけ、洋上風力の世界シェアは中国の47%に対してわずかに0.1%である※2。

所信表明で首相は繰り返し「安全保障」について言及した。経済安全保障、食料安全保障、エネルギー安全保障、、、国際情勢の緊張が高まる中、「安心」「安全」への不安は募る。そして、ロシアの暴挙はまさにエネルギー危機を身近な問題として顕在化させた。と同時に、ウクライナのザポリージャ原発は、「原発は侵略者に核兵器を与えることと同等のリスクを孕んでいる」ことをあらためて世界に示した。いかなる独裁者であっても原発は攻撃対象としないだろう、などというお花畑な安全神話はあてにならないということだ。

さて、成長力を取り戻す近道は基幹産業のイノベーションである。自動車と同様に電力はその筆頭候補だ。大きな歯車が回るほど波及効果は大きく、スタートアップのチャンスも広がる。その意味で原子力というテクノロジーも選択肢の一つである。ただ、“福島” は、原発に内在するリスクとコストは、電力会社はもちろん、私たちの世代だけでは負いきれない事実を突き付けた。
成長戦略の基軸をどこに置くのか、国民の安全をどう担保するのか、費用は、そしてリスクを誰が負うのか、脱炭素に向けての数値目標も重要課題だ。私たちは将来世代に何を残すのか、電力需給の問題を越えた次元において正面から原子力を議論する必要がある。

※1 今週の“ひらめき”視点 2022.6.12 – 6.16
※2 今週の“ひらめき”視点 2022.7.31 – 8.4

今週の“ひらめき”視点 10.2 – 10.6
代表取締役社長 水越 孝