新卒社員を戦力に変えるマネジメントの肝

皆さんの会社に入社した新卒社員たちは期待通りに成長しているでしょうか。一人採用するのに60万円とも70万円とも言われる新卒採用ゆえ、当然ながら順調に育ってほしいものです。

ところが、

「育てる以前に退職してしまった」
「入ったときのような勢いがすぐになくなってしまう」
「何度やってもうまくいかないので、そもそも期待しなくなった」

といった声を毎年耳にします。

今回は、どうすれば新卒採用者を早期に戦力化できるかについて考察していきたいと思います。

目次

  1. 新卒社員の戦力化の現状
  2. まずは採用
  3. 必要以上に歓迎しない
  4. ルールを守らせる
  5. 早期に明確な目標設定を

新卒社員の戦力化の現状

厚生労働省のデータを見ると、大学を卒業した新卒社員の3年未満での離職率は、ここ1030%台の前半で推移しています※。これでも十分高いですが、このデータは職種や企業の規模を考慮しない平均値ですから、「当社の離職率はもっと高い」と感じる人も多いのではないでしょうか。

ただ、社員が辞めさえしなければ問題がないわけではありません。最悪なのは、新卒社員を獲得してはみたものの全く戦力にならず、それでいて辞めることもないという状況でしょう。このような「社員のお荷物化」も、特に大手企業では珍しくないはずです。理想は新卒社員を早期に戦力化することにほかなりません。

そのために、まずは新卒採用がうまくいかない理由を知ることから始めましょう。早期離職の原因の上位には、常に「会社や仕事が想像と違った」「福利厚生が不満足」などが挙がります。

ここで、気を付けなければならないことがあります。それは、この理由をそのまま鵜呑みにしてはいけないということです。これを鵜呑みにしてしまうと、会社として行う施策は、例えば、「会社説明をより細かく」「インターンシップ制度の拡充」「福利厚生の可能な限りの充実」ということになるわけですが、残念ながらこれでは問題は解決されません。もしこんなに簡単に解決しているのであれば、新卒者の離職率が10年以上も30%台で高止まりするわけがないのです。

まずは採用

重要なことは採用の仕方です。売り手市場の昨今、採用担当者は「新卒を採らなければならない」というミッションを背負い、とにかく頭数をそろえにいくというだけの採用になってしまっているケースが多いです。

企業からすれば莫大な経費を投じて募集をしているわけですから、その期待を一身に背負っている採用担当者が「計画通りに採用ができた」という体裁を整えたくなる気持ちはよく分かります。求職者に対し、「働きやすい職場で、仕事は楽である」と必要以上に見せようとしたくなることは容易に想像がつきます。

しかし、これでは結局入社後お互いにとってよい結果にはなりません。採用では伝えなければならない事実はしっかりと伝えましょう。つまり、新人には成長を求めていること、そして戦力になって欲しいことです。

本当に求めていることをぼかして数合わせに走ってはいけません。なぜ採用活動を行っているのか、どうなって欲しいのかを理解させる必要があります。

私は採用のプロではありませんので、それをどのタイミングで、どのような演出を付加して話すべきかは分かりませんが、いずれにせよ、どこかでしっかり説明しなければならないということです。採用担当者の方はそれを念頭に置いて採用のフローを作成してほしいと思います。

必要以上に歓迎しない

無事採用が終わっても、そこからがようやくスタートラインです。4月1日に入社式を行い、配属先へ向かわせることになるでしょう。ここでの注意点は、必要以上に歓迎しないことです。

経営者の方のSNSなどを見ていると、4月1日の入社式の写真をアップしている方が多くいます。そこに「今年の新入社員です!当社を選んでくれてありがとう」のようなメッセージが書かれているのを目にします。予定通り採用できるか不安ななか、数ある企業から入社してくれたわけですから、うれしい気持ちは非常によく分かります。私も経営者だったときは同じことをやっていました。

ただ、そうやって迎えられた新卒メンバーがどうなってしまうかを考えてみてください。「選んでやった」「来てやった」となるかもしれません。自らが評価を受ける立場であるという意識は相当薄くなってしまうはずです。さらに、その入社式で社長に「会社の未来は君たちにかかっている」と言われ、社長と固い握手でもしようものなら、「自分は社長から直々に勅命を受けている」と、ただただ現場で扱いにくい新人になってしまいかねません。

うれしい気持ちや期待感はあるでしょうが、現状はまだ何も成し遂げていない新人であるということが事実です。厳かに式を行い、社長からのメッセージはむしろ、

「昨日までは内定者として会社を評価する立場だったが、今日からはそれが180°逆転し、会社から評価される立場になった。それをどれだけしっかり受け止められるかが、今後の諸君の成長には重要だ」

とすることで、社会人の先輩として教えてあげてください。

ルールを守らせる

新人は組織のなかでの自分の存在が不安定です。組織の一員として、部下として、同僚として、社会人として、どう立ち回ってよいか分からず落ち着かないのです。

ここで、「新人だからまずは慣れてくれればよいです」や「多少何かあっても先輩たちも大目に見てくれます」などと甘い言葉を口にし、この状態のまま新人を組織のなかに置いておくと、会社側が知らないところで新人は苦しむことになります。先輩たちがよかれと思って言う「社会人になったんだから」「挨拶はしっかり」「普通はね」「わかるよね」などに遭遇して、疲弊していくのです。

そういったことから彼らを守るために、ルールを作り守らせるということを早期に行いましょう。実は、ルールを守っていると、人間はその組織の一員になったのだという認識を強く持つようになりますので、帰属意識の醸成に役立ちます。

その結果、離職率の低減や成長意欲の増加も期待できます。

早期に明確な目標設定を

ルールを設定して守らせることと同時に必要なのが、明確な目標設定です。「まだ数字目標は追えないだろうから、姿勢を評価してあげる態勢を」という形で新卒社員を迎え入れてしまっている企業が非常に多いです。というより、ほぼ全ての企業でそうなってしまっていると言っても過言ではないでしょう。

これも実は間違っています。会社のなかで求められている役割が最も不明確な人、もしくは不明確であっても平気な人は誰でしょうか。

そうです。社長です。社長は会社のなかに、自分に求められていることを教えてくれる人はいません。社長が求められていることを把握しにいく場所は市場になります。

とはいえ、市場に「何をすればよいですか」と聞いても答えてはくれません。ですから、必死に探しに行きます。それでも完全に明確にしてもらえることは絶対にありません。その状況で考え、ひねり出し、決定して組織を動かしていくのです。社長にはその力が求められますし、それができるからこそ社長なのです。

そう考えていくと、会社で求められていることを最も明確にしてあげるべき存在は、新卒の社員たちです。彼らは会社で最も力のない人たちです。求められていることを知ろうとするにもその経験がないためできませんし、仮に本人ができたと思っても、経験の浅い彼らですからその内容が会社や上司から求められていることと合致している確率は低いでしょう。

それなのに、「積極的に」「主体的に」「精力的に」と言われてしまうと、もう迷うしかありません。結果、本人が「こうすれば会社のためになる」と思って行動したことが評価されないものなら、そこでもまた精神がすり減っていきます。それが「こんなに頑張っているのに」となり、離職に至るのです。

加えて、彼らへの要求事項が曖昧であることが、彼らの成長を妨げることもまた問題です。定性的な目標に対する結果のフィードバックを受ける際、「もう少し積極性が欲しい」と不足を指摘されても、新卒社員は何をどう改善すればよいかが明確になりませんので、成長できません。

逆に「積極性がよかった」と取り組む姿勢を評価されてしまうと、アピールや取り繕い方を磨いていくべきだと勘違いしてしまうことになり、会社が望む姿とは違う方向への成長を目指すようになってしまいます。力がないからこそ、始めたばかりだからこそ、成すべきことは明確に、定量的に示してあげる必要があります。

ここまで、新卒採用とその後のマネジメントについてお話ししてきました。前述の通り、離職率が高止まりしているということは、どの企業も明確にこの問題に対処ができていないということです。ということは歓迎し、優しくし、居心地のよい環境をつくってあげることは、新卒社員が望む環境ではないということにほかならないのではないでしょうか。

本記事で紹介した内容を実践すれば、会社に劇的な変化が起こるはずです。何が本当に新卒社員のためになるかを考え、勇気を持ってその環境をつくり出してあげてください。

※「新規学卒就職者の離職状況を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00004.html
最終閲覧日:2022年6月27日