アート作品と聞いて最初に思いつくのは一体何でしょうか?油絵具でキャンバスに描かれた絵画、木彫りや石膏などで造られた彫刻、NFTなどのデジタルアート、陶器など様々な種類があります。なかでも、版画は多くのアーティストが制作していることもあって選択肢が広い上に手が届きやすく、初めてのコレクションにもぴったりのメディアです。そこで今回は版画の6つの基本的な知識と、最もメジャーな4つの版画技法を有名な作品と一緒にご紹介します。

【Q&A】版画のきほん

Q1:版画ってなんですか?
木版、銅版、石版などを使って刷った絵のことです。
Q2:版画は原画をコピーしたものですか?
A2:美術品の版画は、単に原画をコピーするものではありません。作家と版画工房の密接な共同作業によって制作されるため、アーティストにとっては、ドローイングなどの紙で制作される作品と同様に非常に重要なメディアであり、紛れもなく芸術作品です。
Q3:エディションってなんですか?
A3:版画は、商業的な販売のみを目的とした大量生産は行われません。限られた数のみを制作し、販売します。これを「エディション」と呼びます。作品一枚ずつにエディションナンバーが振られ、完成後はアーティスト、あるいはギャラリーや出版社などを通して販売されます。
Q4:エディションナンバーが若い方が高くなるのですか?
A4:版画は全てが均質に制作されます。そのため、エディション300枚の作品は300枚すべて同じ価値ということになり、番号が若いと価値が高くなるということはありません。エディションナンバーは、作品の裏面や枠に「1/300」といった具合に振られ、この分子の番号はあくまでも通し番号です。
Q5:版画には全てアーティストのサインが書かれているのですか?
A5:そのエディションによります。例えば、バンクシーは同じイメージの版画作品でサインありを150枚とサインなしを600枚制作することもあれば、過去にはサインありのみを299枚制作することもありました。エディションの構成は同じアーティストによってもばらつきがあり、当然サインがあるのとないのとでは価値が変わってくるので、注意したい点です。
Q6:A/P、T/Pって何ですか?
A6:A/P(またはA.P.、AP)は「アーティストプルーフ」といって、作家が権利として保有する一定枚数のことを呼びます。慣例としてエディションの5%〜10%程度に収められていて、E.A(フランス語のÉpreuve d’artisteの略)と記入されることもあります。ここでも「A/P 1/5」などのようにナンバーが振られることが多いです。

T/P(またはT.P.、TP)は「トライアルプルーフ」といい、色や構図、紙の種類やサイズを変更するために刷られた版画のことです。A/Pと同様に数量的にも希少なため、熱心なコレクターから人気があります。特にアンディ・ウォーホルは、トライアルプルーフを通常のエディションとは別に独自の色の組み合わせで販売し始め、ウォーホルの版画市場のなかでも最も人気のある作品の一つになっています。

最もメジャーな4つの技法

1:エッチング

版画
(画像=版画)

出典:https://news.cgtn.com/

防蝕剤(さびどめ)を塗布して乾燥させた金属板(一般に銅板)をニードルで引っ掻いて描画する技法です。手の動きに制約がないため、デッサンと同様に自由に描くことができるのが大きな特徴。16世紀初頭のドイツに始まったとされていて、17世紀に最盛期を迎えました。エッチングで有名なアーティストではオランダのバロック期を代表する画家レンブラント・ファン・レイン、世界で最も多作な画家のパブロ・ピカソなどが挙げられます。

レンブラントのエッチング作品《The Three Trees》(1643)
(画像=レンブラントのエッチング作品《The Three Trees》(1643))

出典:https://en.wikipedia.org/

ピカソのエッチング作品《LE REPAS FRUGAL》(1904)
(画像=ピカソのエッチング作品《LE REPAS FRUGAL》(1904))

出典:https://www.sothebys.com/

2:リトグラフ

tools
(画像=tools)

出典:https://www.metmuseum.org/

水と油の反発作用を利用した技法です。石版やアルミ版に油絵具で絵柄を描いて乾かした後に水で濡らし、化学的な処理で油性インクを引き付ける部分とインクを弾く部分に分離させて、プレス機で刷るというもの。版面に描いた絵をほぼそのまま紙に刷るのが特徴です。

リトグラフは、19世紀にフランスの画家、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックによって有名になり、雑誌や新聞などでも広く使われました。ピカソをはじめ、20世紀のスペイン画家のジョアン・ミロ、デイヴィッド・ホックニー、ジャスパー・ジョーンズなど、戦後の多くの主要アーティストにも受け入れられました。

ロートレックの最も有名なリトグラフ作品《Elles》(1896)
(画像=ロートレックの最も有名なリトグラフ作品《Elles》(1896))

出典:https://www.sothebys.com/

ホックニーの代表作モチーフ「スイミングプール」をリトグラフで制作した作品
(画像=ホックニーの代表作モチーフ「スイミングプール」をリトグラフで制作した作品)

《Pool Made with Paper and Blue Ink for Book, from Paper Pools (M.C.A.T. 234)》(1980)
出典:https://www.sothebys.com/

3:シルクスクリーン(スクリーンプリント)

シルクスクリーン(スクリーンプリント)
(画像=シルクスクリーン(スクリーンプリント))

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木枠や金属枠に絵具の通る部分と通らない部分を作った版をはめて、その上から絵具をこするようにして押し出し、下の紙やキャンバスなどに絵具を定着させる技法です。「スクリーンプリント」とも呼ばれています。

シルクスクリーンで代表されるアーティストがアンディ・ウォーホルです。ポップアート世代にとってシルクスクリーンは非常に重要な技術革新であり、商業写真や大衆的なイメージを大量生産という表現形式をとることで美術品へと昇華させました。現代では、バンクシーも多くのシルクスクリーン作品を制作しています。

ウォーホルのシルクスクリーン作品《Marilyn (F. & S. II.31)》(1967)
(画像=ウォーホルのシルクスクリーン作品《Marilyn (F. & S. II.31)》(1967))

出典:https://www.myartbroker.com/

バンクシーのシルクスクリーン作品《Girl with Balloon》(2004)
(画像=バンクシーのシルクスクリーン作品《Girl with Balloon》(2004))

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4:木版画

woodcut
(画像=woodcut)

出典:https://thecolor.blog/

日本人にも馴染み深い木版画は最も古い版画技法です(英語では「woodcut」といいます)。彫刻刀などを使用して版面に作り出した凸部にインク(絵具)をのせ、バレンなどで圧力をかけてインクを版から紙に転写します。

木版画で有名な「浮世絵」は、誕生した当初「肉筆画」と呼ばれる一点物の作品で、庶民には手が届かない高級美術品でしたが、木版画の普及により、多くの人に向けて安く売り出されるようになりました。国外では、20世紀前期のドイツ人画家エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーなどのドイツ表現主義者が特に興味を示し、現在ではダミアン・ハーストなどのアーティストが木版画の作品を制作しています。

ルートヴィヒの木版画作品《Fünf Kokotten, Berrlin》 (1914)
(画像=ルートヴィヒの木版画作品《Fünf Kokotten, Berrlin》 (1914))

出典:https://www.artprice.com/

ハーストの木版画作品《Methyl Phenysulfoxide, from Woodcut Spots》(2010)
(画像=ハーストの木版画作品《Methyl Phenysulfoxide, from Woodcut Spots》(2010))

出典:https://www.phillips.com/

いかがでしたか?アート作品というと、一点物の絵画のイメージが強いかもしれませんが、版画も高い技術力を要したれっきとしたアートです。アーティストによって取り組んできた技法や得意とする技法は変わるため、好きなアーティストがどんな技法で作品を制作しているかを知るのもアートをより楽しむ方法の一つです。

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文:ANDART編集部